武装神姫 生まれ来るわたしへ 4
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「ラビィ、着いたよ」オーナーの声でわたしは目を開けた。高い天井と柔らかい光を放ついくつもの光源が見えた。ケースの中で身を起こす。ケースは白い丸テーブルの上に置かれていた。辺りを見回すと、同じ丸テーブルがいくつも置かれており、そのうちのいくつかには、神姫や、その装備をテーブル上に置いたオーナーたちが席についていた。

 何人かで談笑するもの、自分の神姫のメンテナンスををするもの、神姫の武装を吟味するもの、さまざまな人々がいた。どうやら神姫センターのティールームのようだった。それまで見ていた景観とはまるで違う光景、遥かに広い空間に圧倒された。普段のわたしはクレイドルのある机の上のみで活動していた。わたしが目にするものは、決った視点から見るオーナーの居室のみだった。それ以外の景色はこれが初めてだった。

 初めて見る他の神姫たちや、オーナー以外の人間たちにわたしは少し興奮を覚え、立ち上がってケースから出ると、体ごと向きを変えながら辺りを眺めまわした。様ざまな格好の神姫、様ざまな年齢性別の人間たちが視界に飛び込んでくる。初めて見るものの驚きに、くるくると回りながら何度もその光景を見回していた。爪先立ちでピルエットのようにそのままくるくると辺りを見回すわたしを、オーナーは笑みを浮かべながら見ていた。

 不思議に思い、体を回すのを止め、オーナーを見上げた。

 「どうしたのですか、オーナー。口元が笑っていますが」そう問いかけた。

 「いや、かわいらしいと思ってさ」返ってきたのは、思いも寄らない言葉だった。

 「かわいらしい、このわたしがですか。」戸惑いを覚え、言葉を返した。「かわらいらしいというのは、マオチャオ型や、ハウリン型のことをいうのです。アーンヴァル型やストラーフ型もそうでしょう。わたしのようなヴァッフェバニー型を指す形容詞ではありません。」 

 わたしたちヴァッフェバニー型は愛玩用途に向くような設計はされていない。なぜ、わたしを見てかわいらしいと思ったか、理解できなかった。

 「子供を遊園地につれてきたみたいだよ。珍しそうにくるくる見回してさ。かわいいじゃないか」

 やはり、理解できなかった。

 「そういうものなのでしょうか。」

 「そうだよ。」オーナーは笑みを浮かべたまま答えた。「で、どうだい。神姫センターは」

 「素晴らしいです。連れてきて下さりありがとうございます」オーナーは満足そうに。ゆっくりと頷いた。

 素晴らしかった。目に映るもの、耳に入る音、すべてが新鮮で、興味深かった。特にわたしの興味を引いたのはその場にいる神姫たちの格好だった。そこにいるのは皆、武装神姫であるはずだが、これから戦闘に赴くとはとても思えない格好の神姫たちがかなりいた。人間の女性たちが身に着けているようなジャケットやスカート、ワンピース、丈の短いショートパンツ、そういった格好だ。下がスカートの水兵服を身に着けているものもいた。データベースを参照すると、皆、武装神姫のようだが、ただの神姫なのだろうか、それならば理解できたが、なぜここにいるのかは分からなかった。

 「オーナー、お尋ねしたいのですが。」オーナーに聞いてみた。

 「なんだい」

 「この場には、戦闘に不向きと思える姿の神姫たちが多くいますが、何故でしょう。武装神姫ではないのでしょうか」

 「武装神姫だと思うよ。そういった格好が好きなオーナーも結構いるみたいだね。まあ、バトルロンドのときは普通の装備に付け替えると思うよ。普段着って感じなんじゃないかな」

 オーナーの好み、それならば理解できる。わたしたち神姫はオーナーの指示に忠実なのだ。すると、別の疑問が浮かんだ。

 「オーナーも、ああいった格好が好みなのでしょうか」

 「え、」少し驚いたような顔をした。「シンプルなデザインが好きだから、それは無いかなぁ。兎型を買ったのも、デザインがシンプルだったからだし」

 少し安堵した。バッフェバニー型にはああいった格好は相応しくないと思えたからだ。

 神姫センターに着いたばかりだというのに初めての経験が多すぎた。このときオーナーと交わした会話もそうだ。雑談めいた会話を交わしたことは、それまで一度も無かった。出来うるなら、また、こういった会話をしたいと思った。

 「お願いがあります。また、このような雑談をしてもよろしいでしょうか。」

 「ああ、いいよ。」オーナーは微笑みながら頷いた。

 

説明
日付跨ぎましたが、本日もアップ。今後も毎日更新を続けたいと思います。読んでくださっている皆様、ゆっくりとした展開ですが、お付き合いください。
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