仮面ライダークロス 第二十四話 神の座を求める者、S/降臨!!片翼の天使 |
闇が支配する漆黒の空間。その空間に存在する玉座に、彼はいた。
彼の名はセフィロス。生きながらにして伝説となった戦士であり、英雄と呼ばれた男。
こことは違う世界から訪れた彼は、仲間とともにある計画を実行すべく、動いている。
そんな彼の元に、一人の女性が現れた。
「…ラプスか。」
ラプスと呼ばれた女性は、セフィロスに報告する。
「セフィロス様。指定のロストロギアを入手して参りました」
「よくやった。では次だ」
「はい。」
セフィロスはラプスに、次のロストロギア集めを命じていく。そこへ、のっぺらぼうのような仮面をつけた男、スサノウが来た。
『セフィロス様。』
「スサノウ。首尾はどうだ?」
『は、全て順調でございます。』
「よし。」
「セフィロス様。」
と、今度は白いタキシードに身を包んだ男が現れる。
「カリグか。奴の様子はどうなっている?」
「はい、依然としてこちらに気付いた様子はありません。」
セフィロスにカリグと呼ばれた男はにこやかに報告した。
「よし。では引き続き、ラプスとスサノウにはロストロギアを集めてもらう。カリグは…わかっているな?」
「「『は。』」」
返事をする三人。
この空間に、来訪者は現れた。
「君がセフィロス君だね?」
突如かかった声に驚き、三人は振り返る。セフィロスはその声が聞こえた方向、正面へと、視線を向けた。
「誰だテメェ!!どっから入りやがった!?」
言ったのはカリグ。普段は温厚な優男だが、本性はこんな感じである。ラプス、スサノウも警戒した。なぜなら、今現れた『男』は、彼らに何の気配も悟らせなかったからだ。セフィロスですら気付けなかった。
男は、非礼を詫びる。
「ああ、すまない。私は鳴滝という者だ」
『知らん名だな…貴様、何者だ?』
「答えないと、少し頭を冷やすことになるよ?」
スサノウとラプスは尋ねた。すると鳴滝は、
「それは勘弁してくれ。平行世界のエースオブエース」
と言った。ラプスは驚く。
「何で私の事を…」
「私の正体についてはどうでもいい。それより…」
鳴滝はセフィロスを見る。
「セフィロス君、君に頼みがあるんだ。」
「…頼み?」
セフィロスは聞き返す。
「ああ。君には、ある仮面ライダーを倒してもらいたい」
セフィロス達は、仮面ライダーという言葉に聞き覚えがあった。彼らは計画を実行するために様々な異世界を回ってロストロギアを集めており、その過程でライダーには何度か接触している。
だが、
「断る。我々も忙しくてな、貴様の都合など知らん」
セフィロスは断った。彼としてはライダーの存在など興味はなかったし、今かかりきりになっている計画の方が重要だからだ。
「そういうことだ。さっさと帰んな。目障りなんだよ!」
それに便乗し、カリグは鳴滝を追い帰そうとする。
しかし、鳴滝はある言葉を発した。
「そのライダーが、神に等しい存在だと言ってもかね?」
セフィロスの顔つきが、変わった。
鳴滝はセフィロスを刺激するべく、さらなる言葉で後押しする。
「神を目指している君にとって、神との戦いは避けられないものだと思うが…」
「…」
セフィロスは黙る。考えているようだ。
「ダメですよセフィロス様!!」
言ったのはラプス。スサノウも続く。
『ラプスの言う通り。そのような素性も知れぬ男の言うことなど、聞く必要はありません!!』
「…」
だが、セフィロスは黙っている。
「罠ですよセフィロス様!!こいつはうまいことセフィロス様を言いくるめて、騙し討ちするつもりだ!!」
「…」
カリグに言われても、セフィロスは黙っている。
そのうち、セフィロスは鳴滝に尋ねた。
「そのライダーは、我々の邪魔になる存在か?」
その問いを聞き、鳴滝は心中黒い笑みを浮かべながら答える。
「ああ。生かしておけば必ず君達の脅威となる」
セフィロスはニヤリと笑った。
「詳しく聞かせてもらおうか、そのライダーの事を…」
セフィロスは、鳴滝が言うライダーを倒す気になっている。
「セフィロス様!!」
ラプスはなおもセフィロスを止めようとするが、セフィロスは笑って言った。
「良い」
と。
「セフィロス様…」
セフィロスを心配するラプス。セフィロスはラプスのみならず、スサノウやカリグにも聞こえるよう、告げた。
「これも座興だ。」
そして、セフィロスは尋ねる。
「それで、何という仮面ライダーだ?」
鳴滝は答えた。
「クロス。仮面ライダークロス」
「っ!!」
僕は目覚めた。
「…」
ベッドから起き上がって荒い息を整える僕。
「…何だったんだ…今の夢は…」
すごく、リアルな夢だった。まるで一真が来る時見た予知夢のような………予知夢?
もし今見た夢が予知夢だったとしたら?
「……こうしちゃいられない…!」
僕は身支度を始める。
「どうしたんだ光輝?今日出かける予定なんかあったっけ?」
一真が起きてきた。
「一真。お願いがある」
「何?」
「今日は何があっても、僕について来ないで。」
「えっ?」
「危ないんだ。今僕の側にいると」
「…もしかして、また予知夢?」
さすが一真。よく気付いてくれたね。
「かもしれない。だから…」
「…わかった。気を付けて…」
「うん。」
僕は身支度を済ませ、家を出た。行くあてなんてないけど、とりあえず風都の西の郊外へ行こう。あそこはたしか、無人で建物もない荒野があったはず…。
光輝が走っているのを、一人の男が見ていた。
「…フッ」
男は軽く笑うと、光輝を追った。
風都の西郊外。
光輝はどうにかこの場所にたどり着いた。
「よし、ここなら…」
その時、
「クックックッ…」
どこからともなく、笑い声が聞こえてきたのだ。
そして、光輝を追っていた男が、彼の前に現れる。夢に現れた男と瓜二つである。
「人気のない場所に、か?殊勝なことだ。私がこの場に現れる事は、わかっていたらしいな。」
男は淡々と言った。
光輝は男を見て思う。
この男は危険だ、と。
男の顔立ちはかなり整っており、長く伸びた銀の髪、着用している黒いコートがとても印象的な、普通に見るだけなら何の問題もない、いわゆるイケメンなのだが、それは普通に見るならの話。
問題なのは、彼が放っている殺気である。
この殺気は、あまりにも強すぎた。それこそ、人間が持つには手に余るほどだ。いや、人間とは思えないくらいに強い。
しかも、戦いを重ね、戦士としての勘を手に入れた光輝には、見ただけでわかる。殺気だけじゃない、実力の方も相当あると。
ゆえに、
(この人は…本当に人間なのか!?)
光輝はそう思ってしまった。
しかし、このまま睨み合っていても、何も始まらない。光輝は、この男が何者なのかを聞き出すために、質問した。
「あなたは?」
「私はセフィロス。こことは別の世界から来た者だ」
セフィロス。夢に現れた男と同じ名前である。
光輝はさらに質問した。
「あなたの目的は何なんですか?わざわざ別の世界から来るんですから、それなりの理由があると思いますが…」
セフィロスは答える。
「私の目的はお前だよ、白宮光輝。」
「…僕?」
耳を疑う光輝に対し、セフィロスはさらに続けた。
「私はある存在から、お前が神と同等の力をもつ者だと聞いた。私は神となる者。だからお前を倒しに来たのさ」
光輝はセフィロスの目的を理解する。
「つまり、あなたは自分が神になりたいから、僕を倒したくて来たんですか?」
「そうだ。」
「…馬鹿馬鹿しい…」
思わず嘆息する光輝。
「お前にとってはそうでも、私にとっては大切な事なんだよ。」
セフィロスは至って真面目な顔だ。その言葉と増した殺気に、光輝はセフィロスを凝視してしまう。首筋には冷や汗が流れる。
と、次の瞬間、
「さぁ、話は終わりだ。お前には…」
地面から何かが飛び出した。
それは長い…いや、長い、長すぎる日本刀。
セフィロスがその日本刀、正宗を手に取った時、
彼の殺気がさらに強まった。
「消えてもらおう。」
そして告げられたのは死刑宣告。
「私が神となるために…」
重い…凄まじい重みが乗せられた言葉。光輝はセフィロスの考えを馬鹿馬鹿しいと言ってしまったが、すぐに考え直す。
(この人は…本気だ!!)
〈CROSS!〉
気付いた時にはクロスメモリを起動していた光輝。さらに気付けば、クロスドライバーも装着されている。あの男、セフィロスから感じたものが、無意識のうちに光輝をそうさせたのだ。
セフィロスから感じたもの、それは恐怖。圧倒的なまでの死の恐怖。
「変身」
光輝はその恐怖を振り払うべく、メモリをドライバーに挿し込んだ。
〈CROSS!〉
光輝はクロスに変身し、レクイエムサーベルを構える。
「僕は………まだ死ねない!!」
鳴滝は向かい合うクロスとセフィロスを見ながら呟いた。
「セフィロス君。本来なら君は、自分のいた世界で、与えられた最期を迎えるはずだった。だが君はそれに抗い、別世界に行くことによって物語を狂わせ、イレギュラーとなった。様々な世界が融合して誕生した、このイレギュラーな世界のライダーであるクロスを倒すのに、君ほどの適任はいない。」
それこそ、鳴滝がセフィロスに目をつけた理由である。
「ライダーでもない君にライダーを倒させるのは、はっきり言ってあまり気が進まんがね。うまくやってくれよ?その後は、ディケイドを倒してもらわなければならないからな。」
ディケイドを倒すことも忘れていない鳴滝は、ひとまずこの戦いの行方を見届けようと口を閉じた。
「はああああっ!!」
レクイエムサーベル振り下ろすクロス。
「フッ…」
それを正宗で弾いてクロスを斬りつけるセフィロス。
「がっ…!!」
クロスは脇腹を斬られた。
「…まだだ!!」
言って、クロスは再び斬りかかる。今度はレクイエムサーベルを横薙ぎに振った。
しかし、セフィロスは跳躍して回避し、クロスの頭を力強く踏みつけてから、クロスの後ろに着地する。
「くっ…はっ!!」
クロスはよろめくも、すぐに持ち直し、左手からエネルギー弾を放つ。セフィロスは振り向きざまに正宗でエネルギー弾を両断、さらに一度、正宗を縦に振る。
と、剣圧が発生し、空間を斬り裂く一筋の斬撃となってクロスに襲いかかった。
クロスは剣圧をレクイエムサーベルで叩き斬る。だが次の瞬間、再びセフィロスが正宗を振った。凄まじい速度で、何度も。変身していなければ、一度しか振っているようにしか見えないほどの速度だ。その結果発生した何十もの剣圧が、クロスを肉塊にせんと向かってくる。
〈REQUIEM! ALLEGRO〉
クロスは剣圧が自分に届くまでの、ほんのわずかな時間にレクイエムサーベルにレクイエムメモリを装填。高速移動で剣圧の嵐を回避し、セフィロスに向かう。通常の千倍もの速度で移動できる今の自分なら、セフィロスを簡単に倒せる。クロスはそう思っていた。
だが、クロスはすぐにその考えを改めることになる。
(もらった!)
そう思って振り下ろしたレクイエムサーベルの一撃が、音速の領域に達する一撃が、
かわされたのだ。
「なっ!?ぐあっ!!」
驚く暇もなく、クロスは斬られた。見ると、そこには嘲笑を浮かべるセフィロスが…。
「ぐうっ!!」
焦ったクロスは、セフィロスに斬りかかる。今度はかわす暇などないほど、連続で。
しかし、クロスの放つ袈裟斬りが、逆袈裟斬りが、突きが、無茶苦茶な斬撃が、全てかわされた。クロスは悟る。この男は自分の速度に、完全に追いついていると。
そこでクロスは、セフィロスの呟きを耳にした。
「遅いな…」
「!!」
セフィロスは確かに、確かにそう呟いた。今の自分の速度が、遅いと。
「音速を超える程度、か…そんなものでは足りない。足りなすぎる」
その時、クロスは全方向から攻撃を受けた。クロスが視認できないほどの速度で、セフィロスが攻撃しているのだ。もはや光速とも言える速度である。しかし、実際セフィロスが仕掛けている速度は、光速すら超えた神速だ。
「ぐああああっ!!」
ついに膝をついてしまうクロス。
肩で息をするクロスを見て、セフィロスは笑っている。否、嘲笑っていると言った方が正しいだろうか。
「もう終わりか?もう少し足掻いてくれると思っていたがな。」
「ぐっ…!!」
クロスは仮面の下からセフィロスを睨み付けた。セフィロスはさらに嘲笑を浮かべる。
「ならば終わらせよう。この座興を」
言って、セフィロスは唱えた。
「我に仇なす者に、一時の儚き『夢』を与えよーーーーー夢幻泡影(むげんほうえい)」
次の瞬間、クロスの周囲に大量の刀が出現した。まるで、彼を閉じ込めるための檻のように。刀の切っ先は全てクロスに向けられている。
「こ、これは!?」
驚くクロス。しかし、セフィロスは答えてなどくれない。
「さらばだ。」
と、一言だけ言った。
その言葉を合図に、周囲の刀が銃弾にも勝る速度で、クロスに向けて一斉に発射される。
この技、夢幻泡影は、相手を魔力で生み出した刀の檻で閉じ込め、その刀で相手を串刺しにする技だ。しかもこの刀は、発射されても再び補充され、発射される。セフィロスの魔力が尽きるか、セフィロスが止めない限り、攻撃は永遠に終わらないのだ。
これから逃れるには、セフィロスの魔力が尽きるまで刀を防ぐか、一撃で全ての刀を消滅させるか、そのどちらかしかない。
少なくとも、セフィロスはそう思っていた。
だが、セフィロスは知ることになる。
この技からの、もう一つの抜け方を…。
ドガァッ!!
「ぐはっ!!」
セフィロスは突然吹き飛ばされた。地を転がりながらも立ち上がり、セフィロスは何が起こったのかを確かめるために、今自分がいた場所を見る。
そこにはクロスがいた。セフィロスは、クロスによって蹴り飛ばされたのだ。
セフィロスは驚く。
「馬鹿な!!どうやって抜け出した!?」
セフィロスは、今度は夢幻泡影が発動されている場所を見た。刀の発射と補充は、まだ続いている。その事から見て、自分の魔力が枯渇していないのは確かだ。刀を全て消滅させたわけでもない。ならばどうやって…。とりあえず夢幻泡影を止めるセフィロス。
そこでセフィロスは、自分ですら視野に入れていなかったもう一つの脱出法を認識する。
(…そうか。そういうことか…いや、逆にそれしかありえんな…)
クロスがどうやって夢幻泡影から脱出したのか、それは、彼の無限の使徒としての能力に秘密がある。
そう、瞬間移動を使ったのだ。
瞬間移動は、夢幻泡影のように相手を閉じ込めるといった感じの技に対して、絶大な効果を発揮する。また、瞬間移動を超える速度はない。いかにセフィロスが神速の領域の存在だとしても、瞬間移動には追いつけないのだ。
(今度こそ終わりだ!!)
クロスはそう思って、セフィロスの背後に瞬間移動。そのまま、レクイエムサーベルを振り下ろす。
ギィィィィンッ!!
響いたのは金属音。
クロスの目の前では、信じられない現象が起きていた。
セフィロスが、
レクイエムサーベルを、
振り向かずに正宗で止めていたのだ。
(攻撃を読まれた!?)
再び焦るクロス。そんなクロスへと、セフィロスは言葉を投げかける。
「そうだったな。お前には神と同等の力がある。ならば瞬間移動くらい、できて当然だ。確かに私でも瞬間移動には追いつけない。だが…」
次の瞬間、セフィロスはクロスを斬った。
「うあっ!!」
距離を離されるクロス。
しかし、セフィロスは構わず告げた。
「そんなものでは、私に勝つための要因にはならない。私なら、お前が瞬間移動で現れた事を認識してから斬れる。今やってみせたようにな」
クロスはその言葉を聞いて驚いた。もしセフィロスの言っていることが本当なら、セフィロスの反応速度は、既に人間を超えている。
「もはやお前の攻撃が私に届くことはない。あの一撃で私をしとめるべきだったな」
「…まだだ!!」
〈REQUIEM・MAXIMUM DRIVE!〉
「デスティニーグレイブ!!」
クロスは空間を十字に斬り、光の刃を飛ばす。セフィロスはそれを正宗で受け止めた。だが、まだ終わらない。
「フィニッシュ!!」
〈CROSS・MAXIMUM DRIVE!〉
「クロスインプレッション!!」
クロスは跳躍し、デスティニーグレイブの斬撃の中心に両足蹴りを叩き込んだ。
「クッ…」
セフィロスは二つのマキシマムの攻撃力に押し込まれる。
だが、そこまでだった。
「ハッ!」
セフィロスはクロスの攻撃を押し返したのだ。
「うわあああっ!!」
クロスは転がる。セフィロスはニヤリと笑った。
「この程度とは…拍子抜けだ。神も案外大したことはないものだな?」
「くっ…」
クロスは立ち上がる。
彼はまだ全力を出していない。今まで彼がアンリミテッドを使わなかったのは、あまり使ってはいけないと思っていたからだ。
(使うしかないか…)
エターナルメモリとインフィニティーメモリの使用決意し、手を伸ばすクロス。
その時、セフィロスが言った。
「だが、私はまだお前に贈り物をしていない。」
クロスの手が、止まる。
「…贈り物?」
「そうだ。絶望という贈り物だ」
「!?」
セフィロスはさらに続けた。
「今からお前に、私の母と私の、そして私の眷属達にとっての理想郷を見せてやろう。そしてその理想郷こそが、お前に与える絶望だ。」
言ってセフィロスは唱え始める。
『ーーI am a person who lives in the cage.ーー』
(ーー私は檻に生きる者ーー)
『ーーI had alredy desrted the person,ーー』
(ーー私は既に人を捨てーー)
『and lost the dream and hope.』
(ーー夢も希望も失ったーー)
『ーーWhat can such I do?ーー』
(ーーそんな私に何ができる?ーー)
『ーーIt is nothing but one.ーー』
(ーーそれはただ一つーー)
『ーーThing to realize hope for 'Mother'ーー』
(ーー『母(ジェノバ)』の望みを叶える事ーー)
『ーーThen,be spirited of power as for me.ーー』
(ーーならば私は力を振るおうーー)
『ーーTo realize hopeーー』
(ーー望みを叶えるためにーー)
『ーーMother and I hope for everything…
(ーー全ては私と母が望む…ーー
'Paradise Lost'.』
『失楽園』のために)
セフィロスが全ての詠唱を終えた時、二人はこの世界から消えた。
「何だ…これ……」
クロスの第一声はこれだった。無理もない。なぜなら、今彼が見ている光景は悪夢そのものだからだ。
空は紅に染まり、地には多数の十字架が立てられている。そして、その十字架全てに、人間が架けられていた。男女老人子供関係なく、とにかく人間が架けられていた。
そしてその人間達の腕には釘が刺さり、胸は槍に貫かれている。絶命しているのは間違いない。
「一体、何がどうなって…!?」
混乱するクロス。とりあえず、ここがさっきまでいた世界とは違う世界だということはわかった。こんな異常な眺め、元の世界ではありえないからだ。絶対ないと断言してもいい。
その時、
「固有結界『失楽園』」
セフィロスの声が聞こえて、クロスは振り向く。
「それがこの理想郷の名だ。」
そこには、右肩から漆黒の翼を生やして宙に浮いている、セフィロスがいた。
何も知らない者から見れば、セフィロスの姿は片方の翼しかない天使、もしくは堕天使に見えたろう。
しかし、クロスにはセフィロスの姿が悪魔に見えた。ダンテともバージルとも違う、魔界に生きるどの悪魔よりも悪魔らしい悪魔だと。なにせこの光景を理想郷だと言ったのだ。まともな思考の持ち主ではない。
「理想郷…?こんな恐ろしいものが理想郷だと!?」
「そう。これが私の理想郷であり、私の『幻想(ファンタジー)』でもあり、お前に与える絶望でもある。」
セフィロスはニヤニヤと、実に楽しそうに言った。
「そして私は、いずれこの理想郷を作り上げるのだ。固有結界としてではなく、本物としてな…」
クロスは悟った。セフィロスの言っていることが本当なら、この男は今ここで、確実に倒さなければならない。この失楽園とかいう世界を実現させることだけは、絶対に避けなければならない、と。
「そうだ、お前を倒し、私の計画が成就した暁には、この世界も失楽園に変えてやろう。」
セフィロスは恐ろしいことを口走った。クロスが負けたら、彼の世界も失楽園にされてしまうというのだ。
「…させない。」
気付けば、クロスは呟いていた。
「そんなことは、絶対にやらせない!!!」
クロスはエターナルメモリとインフィニティーメモリを取り出す。
〈ETERNAL!〉
〈INFINITY!〉
二本のメモリを起動させたクロスは、両腰のスロットに、メモリを挿し込む。
〈CROSS/ETERNAL/INFINITY!〉
クロスは様々な色の光に包まれ、
〈UNLINITED!〉
クロスアンリミテッドに強化変身した。
「ほう、まだ力を隠していたのか。それで、何ができる?」
セフィロスはクロスが何をするか、嘲笑しながら見ている。
だが、セフィロスの余裕は一瞬で消し飛ぶこととなった。
「まずはいらないものを片付けよう。」
「…何?」
セフィロスは聞き返すが、クロスはそれを無視して、指を鳴らす。
すると、大地にあった十字架が、架けられている人間もろとも消失した。
「!?」
目を見張るセフィロス。
「じゃあ、この空間を華やかにしようか。」
しかし、クロスはまたもセフィロスを無視し、再び指を鳴らす。
すると、紅に染まっていた空は青く澄み渡り、大地には色鮮やかな花畑が生まれた。
「私の理想郷が…!?」
驚くセフィロスに、クロスは告げる。
「あなたの理想郷は殺風景すぎだ。こっちの方がずっといい」
「…」
セフィロスは黙っていた。その顔は、怒りを噛み殺しているようにも見える。
と、セフィロスの顔が先ほどまでの余裕を取り戻した。
「なるほど、その姿がお前の力の本領というわけか。だが…」
しかし、
「少しやりすぎたな…!!」
その顔は一瞬で憤怒に変わり、神速の速さでクロスへと襲いかかる。一気に距離を詰めたセフィロスは正宗を振り下ろす。
だが、その凶刃がクロスを両断することはなかった。
クロスは正宗をノーガードで受けたが、そのスーツには傷一つ付いていない。アンリミテッドフォースでスーツの防御力を強化したのだ。
「何!?がっ!!」
セフィロスはアッパーカットを食らい、真上に吹き飛ぶ。
(この私が反応できなかっただと!?)
心中驚くセフィロス。だがすぐに体勢を立て直し、再びクロスへ斬りかかる。今度は連続で。
しかし、クロスはセフィロスの放つ連撃をことごとくかわし、セフィロスを殴り飛ばした。またしてもセフィロスが反応できない速度で。
クロスはセフィロスの神速を遥かに超える速度、超神速をモノにしていたのだ。例えハイパークロックアップだろうと、今のクロスには触れることすらできないだろう。
「ぐっ…ようやくその気になったというわけか…面白い!!そうでなくてはつまらんからな…!!」
言うと、セフィロスは正宗の刀身に炎を宿す。
「神罰『破斬業火』!!」
セフィロスは正宗を振って衝撃波を飛ばした。すると、衝撃波の中に炎が混ざり、炎の衝撃波がクロスを焼き尽くそうとする。しかし、クロスが手をかざすと、衝撃波はクロスの目の前で止まった。さらに、クロスはわずかに手を引いて、それから押し込む。
すると、衝撃波はそのままセフィロスの元へと飛んでいった。
「!!」
思わぬ形で自分の攻撃を返されたセフィロスは、一瞬焦りながらも衝撃波を正宗で吹き飛ばし、クロスに接近。
「八刀一閃!!」
正宗で八回連続の斬撃を食らわせる技、八刀一閃を放った。
だがクロスはこれをノーガードで受け、セフィロスが七回目を放つと同時に右腰のスロットを軽く叩く。
〈ETERNAL・MAXIMUM DRIVE!〉
その後、セフィロスが渾身の力を込めて放った八回目を左手で防ぎ、
「エターナルブロウクン!!」
セフィロスの顔面に必殺の右拳を叩き込んだ。
「ごぉあああっ!!!」
吹き飛んで激しく地を転がるセフィロス。
だが、セフィロスはすぐに立ち上がり、クロスに手をかざす。すると、クロスを光が包んでいく。
そして、
「塵と化せ!!波動衝撃波(ショックウェーブパルサー)!!!」
光は大爆発を引き起こし、クロスはそれに巻き込まれた。
しかし、クロスは立っている。
「ッシャドウフレア!!」
今度は漆黒の魔力砲撃を放つセフィロス。
対するクロスは左腰のスロットを軽く叩き、
〈INFINITY・MAXIMUM DRIVE!〉
「インフィニティーブレス!!」
左手から光線を放って迎え討つ。
光線は砲撃を破り、セフィロスへと直撃した。
「ぐがっ!!」
吹き飛ぶセフィロス。
「おのれ…調子に乗るな…!!」
セフィロスは天空に手を掲げる。すると、上空にセフィロトの樹を模した巨大な魔法陣が現れた。
「消え去れ、神よ!!」
セフィロスが手を振り下ろした瞬間、魔法陣から巨大な光線が発射され、クロスを呑み込んだ。
今度こそ勝ったと邪悪な笑みを浮かべるセフィロス。
しかし、それでもクロスは立っていた。
あまりの結果に絶句するセフィロス。
同時に彼は痛感した。
これが、神。
自分の目指す領域。
目の前にいる存在は、既にその域に達している。勝てるわけがない、と。
(…何?)
セフィロスは、今自分がありえない感情を抱いていた事に気付いた。
(今…私は絶望したのか…?)
そう、今セフィロスは、勝てるわけがないと絶望したのだ。
(ありえない…この私が絶望するなど…!!)
しかし、クロスは待たない。
〈ETERNAL/INFINITY・MAXIMUM DRIVE!〉
「アンリミテッドスマッシュ!!」
腕を交差させ、エネルギーの刃を放った。
セフィロスはこれを叩き斬らんとするが、受け切れず吹き飛ばされてしまう。
「こんなことが…こんなことがあってたまるものか…私が負けるなど…!!」
セフィロスは立ち上がった後、クロスを倒すべく、全魔力を集中させた。クロスもこの激闘に終止符を打つべく、音声入力する。
「グランドフィナーレ」
〈CROSS/ETERNAL/INFINITY・MAXIMUM DRIVE!〉
クロスの両足に、メモリの力が収束していく。
「さぁ、暗黒に沈め。」
そしてクロスは天空高く跳躍した。そのまま両足蹴りを繰り出す。セフィロスもまた跳躍し、全魔力を込めた一撃を放つ。
「エンドレスレジェンド!!!」
「天照!!!」
二つの技が、激突した。
しばらく拮抗していた両者だが、セフィロス側に変化が現れる。
ピシッ
正宗に、ひびが入ったのだ。あらゆる敵を斬り捨ててきた不破の魔剣に、ひびが…。
そして、
「はああああああああああああーっ!!!!」
バキィィィィッ!!!
ついに、正宗が折れた。
「馬鹿な…」
小さく呟くセフィロスは、阻むもののなくなった両足蹴りを受け、戦いの余波で荒れ地となっている大地に叩き込まれた。
大爆発が巻き起こる大地。
クロスはセフィロスを踏み台にして跳躍。一回転してから着地する。
「う……おお……!!」
セフィロスはクレーターとなった大地から立ち上がるが、その身はもはや満身創痍。クロスはそんなセフィロスへと、言葉を投げかける。
「眠れ。深淵の底で」
突然スパークを発するセフィロス。
そして、
「う…ぐ……ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
セフィロスの爆発とともに、失楽園は消滅した。
通常空間へと復帰したクロス。そして、
「がっ…ああ……!!」
セフィロス。
「まだだ…私を殺せるのは…私を殺していいのは!!クラウド・ストライフただ一人だ!!それが…貴様のような存在に…!!」
言う間に、セフィロスの傷が回復してきている。
その時、
「セフィロス様!!」
スサノウがやって来た。
「スサノウ!?なぜここに…」
スサノウは無言で、ある方向を見る。
そこには、鳴滝がいた。
「貴様…!!」
「もう充分だよセフィロス君。君の力で彼は倒せない」
「何だと…!?」
「帰って、君の計画を続けるといい。」
鳴滝がそう言うと、セフィロスのすぐ側に、世界の架け橋が出現する。
セフィロスは折れた正宗で身体を支えながら、憎悪の瞳でクロスを睨みつけた。
「覚えておけ。私はいずれ、必ず再び貴様の前に現れる。その時こそ、貴様の最期だ…!!」
対するクロスは、セフィロスに向けて言い放つ。
「受けて立つ。何度来ようと、僕は負けない。」
「…」
セフィロスはスサノウとともに世界の架け橋をくぐって、この世界を去った。同時に世界の架け橋も消える。
鳴滝はクロスに言う。
「仮面ライダークロス!!君には、いずれ必ず消えてもらう!!君の力は危険すぎるからな!!」
鳴滝は別の世界の架け橋を出現させ、セフィロス達同様、この世界から去った。
「…」
クロスは変身を解いて呟く。
「…大きい力を持つのは、いいことばかりとは…限らないんだな……。」
************************************************
次回、
仮面ライダークロス!!
?「本物じゃぞ…」
クロス「こんなやつが…」
?「クロスの世界、か…」
?「ここはどこだ?」
第二十五話
来訪のD&E/世界の崩壊
説明 | ||
今回はU, T先生の作品、『魔法少女リリカルなのはA' S〜片翼の天使が望む幻想〜』とのコラボです。 始めに謝っておきます。U, T先生。すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! |
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