頭が蕩ける話 |
甘くてしょっぱい水を飲まされた。
それは言ってみればケーキのようで、ラーメンのようで、そんな素敵なものではないけれど、
私は慌ててしまってコップを割ってしまった。ばらばら。
ガラスでできていると思ったのはてっきり。よく見ると粘土だった。否鉄か。芋虫がそれを食べた。
キノコがある、それを食べるのは老人。肌が赤褐色の子どもを抱いている。
老人の肌は黒い。洗濯物が飛ぶ。それは真っ白だったけれど、子どもに触れて赤くなる。
母親は怒る。どうしてそんなことするの。やめて。やめなさい。いい子。僕は吐いた。
飛ぶのは鴉。よく見ると鵺だ。見た事がある。あれはムクゲ。ああ。そうではない。陰摩羅鬼だ。そうだ。
天地は逆転する、杞憂ではなくて。男が笑っている。名前は知らない。聞いた事がある、私は盲目だったけれど。
女。男の胎から出てきた。これは夢だ。赤子が読経している、それは独逸語。古い。爺様は泣いている。
嘘だ、結局凡て嘘。平らに均した地べたにポッカリと穴が開いている、マンホール。
丸かと思ったら四角だったので私は落ちてしまった。ヒュウウン。靴下が片方脱げた。靴は烏が履いているから安心。
金の草が音を奏でる。なんて耳障り。どすん、でも地面じゃない。木の上だ。枝。葉。白い。川獺。
頼豪。食べてはいけないよ。子どもが見ている。泣くな。ああ、わらっているのか。嗤っているのだ。
黙れ。口を縫い付けてしまうぞ。キノコが笑った。踏みつけると赤黒い液体が流れ出す。茄子に似ていた。
鍋の中。消しゴムを使えば大丈夫だよと云われた。そうだ。カーテン。あれは皮膚だ。
なんと悍ましい。哀れだ愚かだ惨めだいいや馬鹿にしている訳ではない見下してはいない。泣け。
コップに飲み物が入っている。よく見てよ。あれは蛆虫じゃないか。いっぱいに詰まって。
ごくごく。やっぱり苦いだろう。いいや、とても美味しいよ。なんだあれは水だったのか。僕にもおくれ。
カブトムシがいる。ゾウに乗って移動する。そうしないと食われてしまうからだ。
ふらふらと出歩く女はきっとこれから警察へ向かうのだろう。僕は女を蹴飛ばした。
僕は狂ってなんかいない。女の胎には男がいるのだ。その高笑いがうるさかったのだ。虫のようだ。
女は喜んだだろうか。歯形がついていた。全身に。そう。僕のせいだ。
なんでだ。違うだろう。僕は女を蹴った。あれは蛆だ。逃げるがいい。手足はないのだ。
翅はあるのか。僕にもある。それは私と同じものだ。男はわたしを切り刻んだ。小さな私は逃げ出した。
それはある種の物語。誰にも聞かれないストォリィ。赤いワンピィス。伸ばし棒が消えてしまった。
あああ。叫べなくなった。なんと静かだ。平和だ。僕は星を見ていた。そろそろ家に帰らなければ。
母はどこにいるのだろう。僕は急に心細くなる。おかあさあん。叫べないので聞こえないのだ。
私は一人だ。僕だったか。孤独が背後に迫っている。持っていたペンでそれを刺した。透明な液。
これは血だ。次々溢れてくる。血だ。膝までいっぱいに溢れる。血血血。僕は無意識に手を動かしている。
頭の天辺まで血に浸ってしまったのでもう目を開けるしかなくなってしまった。痛いよ痛い痛い痛い。
髪が抜ける。目が溶け出す。厭だ助けて。あのマンホォルはどこだろう。溺れて仕舞う。
ああここだ。僕は自分の眼窩に飛び込んだ。
どすん。
目を開けると、そこはいつものベッドの上だった。
僕は安心してまた眠りに就いた。
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