三題噺『狼』『ミステリアス』『ガン』
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 医者が私の症状に匙を投げて暫く後、一匹の狼に会った。

 私が収容されている施設はもう末期の患者ばかりで、皆思い思いに日々を過ごしていた。

 編み物をするもの。読書をするもの。病に抗おうとするもの。病に従おうとするもの。そんな中に、その狼は堂々と入ってきた。おおかた近くの森からやってきたのであろう。

 不思議なことに彼女は人を襲うことも無く、多くの患者がそうであったように彼女もまた、施設の中で思い思いに過ごしていた。

 私は病のせいで耳が聞こえないが、彼女が近づいてくるとなぜかそれが判るようになった。

 そういう時、彼女はじっとこちらを見つめている。敵意は無いが、何を考えているのか良くわからない表情で。

 彼女は末期の、それも特に症状の重いものに好かれていた。理由は不明だが、彼女は人の死期を敏感に感じ取っていたのだろう。そういった患者の所へは足繁く通っていた。

 もう歩くことも出来ない患者たちは、彼女の爪が立てる独特の足音を聞くと笑顔になった。ただこれは死神の足音だと言う者も少なからずいた。

 私はどうして彼女がここにいるのかいまいち理解することが出来なかった。本来なら野生動物、それも大型の獣は排除されるべきである。それもこのような施設では尚の事だ。

 しかし医者たちは特に何も言わず、彼女を放置していた。何人か、動物嫌いが抗議に行ったそうだが無駄だったらしい。

 そんな事は知らないとばかりに彼女は悠々自適に施設を歩き、患者たちのそばに寄り添った。

 その中には私も含まれる。私はこうして文章を打つのを趣味としているが、私がパソコンに向かっていると足元に寄り添ってくるのだ。まるでそこが昔から自分の定位置のように。

 つくづく奇妙な生き物だと思う。だが同時に私はそんな彼女に興味を抱いてもいた。

 ここではやる事もないし、暫くは彼女を観察してみるのもいいかも知れない。

 

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いい物を教えてもらったので、物書きのリハビリにでも
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