魔法少女リリカルなのはStrikerS00(仮)−−15 見えざる敵−−
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本編七話目。

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−−見えざる敵−−

 

山岳リニアレールへの初出動後の翌日早朝から((FW|フォワード))の訓練が再開された。

これまで同様チーム戦の訓練は勿論だが、個人訓練にも入った。

ティアナには、なのは。

スバルには、ヴィータ。

エリオとキャロにはフェイト。

それぞれが、指導に当たっていた。

訓練場から離れた場所で、空間モニターを通してシグナムとヴァイスがその様子を見ていた。

「シグナム姉さんは参加しなくていいんですかい?」

「セイエイと同じで、私は人に物を教える柄ではないしな。剣を振るうことしか出来ない

私には、近づいて斬れ、としか言えない」

「あ〜。シグナム姉さんの戦闘スタイルだとそうなりますねぇ」

「お前なら、ティアナには教えられるのではないか?」

モニターからヴァイスへ視線を移す。

その目には、何かしらのメッセージが籠められていた。

「よしてくださいよ。俺はヘリパイロットですよ?」

シグナムの言葉に少しおどけた様に、肩を竦めて答える。

「……まぁ、私がとやかく言うことではないか」

モニターに視線を戻して、ヴァイスに聞こえないように呟く。

 

FWや前線隊長陣が訓練に励んでいる間、刹那はデバイスルームに篭っていた。

デバイスルームには刹那以外の人間は居らず、薄暗い部屋の一角がモニターとコンソールパネルの光により少し明るかった。

「その話は本当なのか?」

《はい》

「……」

《申し訳ありません。上手くいく保障はありませんし、下手をするとマスターが……》

「……とりあえず、可能性は0ではないのだな?」

《はい》

「ならば、それに賭けるか」

《よろしいのですか? 失敗すれば……》

「死……か?」

《ええ》

「ガンダムと共に朽ち果てるのであれば、それでも構わん。無論、まだ死ぬ気はないがな」

刹那のその言葉に、エクシアがため息をついた。

《ロックオン・ストラトスではありませんが、マスターは本当にガンダム馬鹿ですね》

「お前の((主人|マスター))と思ったことは一度もないが、仮にも主人に向かって馬鹿というのは……というか、何故、お前がそれを知っている?」

《秘密です》

「聞くのは野暮か?」

《そうですね》

「ならば、俺から言う事は一つだ。((それ|・・))は、最高の褒め言葉だ」

普段はポーカーフェイスの刹那だが、この時ばかりは口元が綻んでいた。

「さて。まずは、材料集めか」

《そうですね。((私|デバイス))の事ですから、シャーリーさんかリインフォースさんに頼むのがいいと思います》

「そうだな」

エクシアとの会話に一区切りついたところで一度時計を見る。

「もう昼か」

モニターを消し、パネルの電源を落とす。

《この時間なら、食堂にシャーリーさんが居るかもしれません。お食事をしながら頼んでみてはどうですか?》

「ああ」

エクシアを手に取りデバイスルームを出る。

 

流石にお昼時のせいか、食堂はかなり賑わっていた。

視線を走らせ、目的の人物が居るか探す。

シャーリーは丸い大きなテーブルにFW4人と一緒に食事をしていた。

《みなさんと一緒にお食事中ですね》

「ああ。邪魔をしては悪い、少しだけ話しておくか」

歩みを進めると、ティアナが刹那に気がついた。

「刹那さん」

「食事中に済まないな。少しシャリオに用があってな」

「私にですか?」

「ああ」

手に持っていたコップをテーブルに置いて、刹那の方に向く。

「実は……」

「刹那さん」

「ん?」

シャリオが刹那の言葉を遮った。

「どうした?」

「折角ですから、一緒にお食事どうですか?」

隣の空いているテーブルから椅子を一脚寄せて、刹那に座る様に促す。

「いや、俺は……」

「いいじゃないですか。ね? みんな」

「「はい!」」

「私もいいですよ」

「私も」

エリオとキャロが元気よく返事をし、ティアナとスバルも快諾する。

軽く息を吐いて、「わかった」と返す。

すると、エリオとキャロが席を立った。

「僕、小皿とサラダを取ってきますね」

「私は、ジュースを取ってきます」

「それくらい自分で……」

刹那が言い終える前に、エリオとキャロは行ってしまった。

「まあまあ、刹那さん。座って待っていましょう?」

「仕方ない」

シャリオとキャロの間に置かれた椅子に腰を下ろす。

暫くすると、エリオとキャロが戻って来た。

「どうぞ!」

エリオが小皿とフォーク、サラダを。

キャロがオレンジジュースの入ったコップを刹那の前に置いた。

「ああ。ありがとう、二人とも」

「いえ」

二人が席に戻り、食事を再開する。

「刹那さん。取り分けましょうか?」

「いや、自分でやる」

と、ずっと気になっていたことを言ってみた。

「これ……量が多過ぎないか?」

刹那が言っているのは、テーブルの真ん中に山盛りになっているスパゲティ。

スパゲティを食べたことはあっても、これだけの量は見たことがない。

明らかに5人で食べきれる量ではない。

というよりも、スパゲティは山盛りにする食べ物ではないと思うのだが……。

「そうですか?」

刹那の疑問にスバルが首を傾げて答えた。

「多いと思うが……」

自分の小皿に取り分けてから、ふと気がついた。

スバルとエリオの小皿にも山盛りのスパゲティ。

スバルの隣でエリオが、上手にスパゲティをフォークに絡ませ、次々と口に運んでいた。

「……いや。何でもない」

刹那の言葉にティアナが苦笑していた。

 

「そう言えば、私にどのようなご用だったんですか?」

食事をしながら、シャリオが思い出したかのように刹那に問いかけた。

「ああ、エクシアのことでな」

「エクシア?」

「少し考えがあってな」

「詳しく聞かせてもらっても?」

「それは、デバイスルームで話す。手が空く時間はあるか?」

「今日は午後からフェイトさんと地上本部へ行きまから……そんなに時間は取れませんね」

「5分もあれば十分だ」

「それでしたら、食事が終わったらデバイスルームでどうでしょう? 出掛ける前にお話しを聞いておいた方がよさそうですし」

「そうしてもらえると助かる」

「では、食後に」

「ああ」

「あの……刹那さん」

シャーリーとの会話が終わるのを待っていたかの様に、今度はティアナが刹那に話しかけた。

「どうした?」

「さっき、なのはさん達の出身世界のことを少し話していたんですけど……その、刹那さんは……」

手を止めて、フォークを小皿に置く。

「エリオとキャロはフェイトから聞いているか?」

「確か……なのはさんと同じ地球出身だと聞いた覚えがあります」

「私もです」

エリオの答えにキャロも肯く。

「なのはとはやては地球の日本という極東地域。俺は中東地域だ」

「どんな所なんですか?」

スバルが興味津々といった感じで、やや体を乗り出す。

「乾燥地帯でな。砂漠が広がっていて周辺に緑は少ない……ほぼ無いと言ってもいい」

「……」

「一年を通して気温は高い。場合によっては50度にもなる」

「ご、50度!?」

刹那の話にシャーリーが驚きの声を上げる。

ミッドチルダは地球の日本に近い気候だ。

ミッド出身のシャーリーにとっては想像できないだろう。

「昼と夜の温度差も激しい。昼は40度を超えるのに対して、夜は10度前後まで下がる」

「そ、そんなに……」

シャーリーほどの声は出していないものの内心はかなり驚いている様子で、ティアナが呟いた。

「強い日差しや外の気温を防ぐために、家はレンガで作られ壁も厚い。人の服装も露出を控えるものになる」

「どうしてですか? 暑いんですから薄着の方が……」

エリオの質問も尤もかもしれないが、それは気候について良く知らないからの質問とも言える。

「強い日差しから肌を守る為だ。頭にターバンを巻いたりもする」

「凄い汗をかきそう」

服を着ている想像でもしたのか、キャロがやや顔を歪めた。

「乾燥地帯だ。湿度が高くないから蒸れない。逆にこっちでその格好をしたら、脱水症状になるかもな」

以前、なのは達にも同じ話をしたなと刹那は思い出した。

それと同時に少し懐かしさを感じていた。

故郷――クルジス。

「フェイトさん」

と、キャロの声に現実に引き戻された。

キャロの視線の先を見ると、陸士隊の服を着たフェイトとなのはがテーブルに歩み寄って来る姿が見えた。

「今から昼か?」

「うん。刹那君、今日は訓練場に来てなかったでしょ? お昼一緒に食べようと思って探したんだけど、見つからなかったから……」

「それはすまなかったな。午前中はデバイスルームに居た」

「デバイスルーム?」

「ああ」

なのはとフェイトが、昼食が乗ったトレイを隣のテーブルに置いて椅子に座る。

自分が使用している物と同じ小皿とフォーク。

オレンジジュースにパン。

そして、山盛りではないスパゲティ。

「それが普通だな」

「え?」

刹那の呟きに、フェイトが首を傾げた。

「独り言だ。気にするな」

自分達のテーブルに視線を移すと、先程まで山になっていたスパゲティは、ほとんど無くなっていた。

その大半が、スバルとエリオのお腹に収まったわけだが、二人の食欲に刹那が少なからず驚いていた。

「でも、大抵独りで食事をしている刹那が、FWやシャーリーと一緒に食事なんて……珍しいね」

「成り行きでな」

「楽しそうだったけど、何の話をしていたの?」

「あ、刹那さんの出身世界とその場所について」

なのはの質問にスバルが答えた。

そのことになのはとフェイトが一瞬顔を見合わせたが、二人とも直ぐに笑顔を見せた。

「すごい暑いところで、その気温に驚いた……とか」

「なのに、それ程薄着じゃないから汗をかきそう……とか、思った?」

なのはとフェイトが、先程シャーリー達が口にした感想を繰り返した。

「ど、どうしてそれを……」

「私達も刹那から聞かされた時に、同じことを思ったからだよ」

キャロの驚きに、フェイトが微笑みながら答えた。

「あ、そうか。なのはさんとフェイトさんは、刹那さんと十年来のお知り合いでしたもんね。知っていて当然ですよね」

「まぁ……ね」

ティアナの言葉にフェイトが肯くが、この場で刹那が平行世界の地球出身であることを知っているのは、なのはとフェイトだけである。

更に、本来は知り合ってから一年程しか経っていない。

だから、フェイトもなのはもティアナの言葉に微妙な笑顔を見せていた。

このまま自分の話題が続くのは、あまり良くないと判断したのか、刹那がおもむろに立ち上がった。

「食事は済んだ。俺はもう行く」

「あ……」

「どうした?」

エリオの小さな呟きに刹那が問いかけた。

「いえ、もう少し……お話しを聞きたかったなと」

「すまないな。少しやることがある」

本当は、何も無いのだが……。

「刹那。今度時間が出来たら、一緒に食事をしよう?」

「ああ」

「きっとだよ?」

フェイトとなのはの言葉に肯き、自分が使用した食器を持って歩き出すが、思い出したかのように振り返る。

「シャリオ。後で頼む」

「あ、はい」

そして、返却棚へ食器を置いて食堂から出て行った。

 

「シャーリー。刹那がどうかしたの?」

「ちょっと、頼まれたことがありまして……」

刹那の言葉が気になったのか、自分の副官に聞くフェイト。

「頼まれごと?」

「はい……詳しい事はあとで話すって言ってました」

「そう」

そこまで言って、シャーリーも立ち上がる。

「私も食事を終えたので行きますね。本部に行く準備もしなきゃいけませんし」

「それじゃあ、私達も」

シャーリーに続いてスバル達も立ち上がる。

「時間通りにロビーで待ってて、私が車を出すから」

「はい」

シャーリー達も食器を持って席を外した。

 

「刹那がシャーリーに用事って何かな?」

「さぁ?」

取り分けたスパゲティをフォークでクルクル回しながらフェイトは考えていた。

「もしかして……」

フェイトの表情がやや曇る。

が……。

「フェイトちゃんが考えているような事じゃないと思うな〜」

なのはは、少し意地悪な顔をフェイトに向けた。

「な、なのは? 私は別に……」

フェイトが慌てて取り繕うが、逆にその態度で何を考えていたのか、なのはにはバレバレだった。

十年越しの想いだしね。

とは言え、自分も似たようなものだけど……。

フェイトは勿論、自分も刹那を少なからず異性として意識している。

「でも、あの刹那君がそういう話をするために呼び出すとは思えないなぁ」

何気に酷い事を言っているが、なのはの言葉はあながち間違ってはいない。

刹那は人の心――こと、恋愛感情に関して……というより、それのみかもしれないがかなり疎い。

それ以外の事には、超人的なのに……。

「シャーリーに用事だから、デバイスのことじゃない?」

「デバイス?」

「うん。もしかしたら、シャーリーじゃなくてリインでも良かったのかもよ? どっちかを探していたら、シャーリーが居たから頼んだのかも」

「……確かに、そう考えるとしっくり来るかも」

「うん」

そこまで言って、なのははパンを一口サイズに千切って口に運んだ。

 

《珍しいですね。マスターがご自分の故郷の話をするなんて》

「聞かれたから答えただけだ。逆に答えないと余計な疑惑を抱かせる事になる」

《平行世界である事は、言わなくて宜しかったのですか?》

「いずれ話す時が来るさ」

デバイスルームに再び入り、コンソールパネルを叩く。

「シャリオが来る前にリストを作成しておくか」

《そうですね》

エクシアの指示に従い、材料リストを作成する。

【エクシア】の強化。

上手くいけば、強力な戦力となる。

例えガジェット以上の敵が現れたとしても、十分に渡り合えるだろう。

だが、エクシアを強化するだけでは駄目だ。

自分も今まで以上に鍛えなければ、エクシアの力を十分に発揮できない。

リストを作成しながら、午後は訓練場に行くことを刹那は決めていた。

10分程経っただろうか、デバイスルームの扉が開いた。

「お待たせしました」

小型の携帯端末を持ったシャリオだった。

「それで、どのようなお話でしょうか?」

早速、聞いてきたシャリオに椅子に座る様に促しモニターを見せる。

「エクシアを強化するために材料が必要だ」

「強化ですか?」

「ああ。ここに載っている物が必要だ。どうしたら手に入る?」

「ちょっと、見せてください」

少し、身を乗り出してモニターを眺める。

「……これは、本部か本局に発注すれば手に入りますよ」

「本当か?」

「はい。私が発注しておきましょうか?」

「いいのか?」

「はい。これくらい問題ありませんよ」

シャリオが笑って、携帯端末を操作し始めた。

「リストを頂いてもよろしいですか?」

「ああ。少し待ってくれ」

コンソールパネルを叩いて、データを携帯端末に送る。

「……はい。確かに頂きました」

「よろしく頼む」

「はい。任せてください」

「この事で金が必要になったら言ってくれ、俺が出す」

「お金のことは問題ありませんよ。刹那さんは六課メンバーですから、六課の支出として処理できます」

「そうか。……それと、このことは他の連中には話さないでくれ」

「え? 秘密にしておくってことですか?」

「ああ」

「……わかりました」

刹那の真剣な表情にシャーリーは肯く事しか出来なかった。

「すまないな」

「いえ。それでは」

「ああ」

シャリオを見送って、訓練場へと向かった。

 

《まだ誰も来ていませんね》

「なのはもフェイトもまだ食べている頃だろう。FWの4人も午後の訓練の為に体を休めているだろうし」

《ところで、何をするつもりなのですか?》

「((TRANS−AM|トランザム))を使う」

《TRANS−AMですか?》

「ああ。少し試してみたい」

何を、とエクシアは聞かなかった。

何となく刹那がこれから行うことが分ったから。

《ところでマスター》

「何だ?」

《歯を磨いていないでしょう。どうせ暫く待つことになるんですから、歯を磨いてきたらどうですか?》

「……」

エクシアの言う事は尤もだが……。

俺のガンダムは……いつからこうなってしまったのだろうか……。

他のガンダムもこっちの世界に来たら、こうなるのだろうか?

そんな事を考えながら、刹那は一旦寮に戻った。

 

訓練を開始する前に少し俺に使わせてくれ。

刹那に言われ、FW4人とヴィータと一緒に海沿いの道路で訓練場の設定を行うなのは。

「相手はガジェットU型。出せるか?」

「一応。まだデータが完璧じゃないから、I型ほどの設定は出来ないけど」

「構わない。出来る範囲で頼む」

「うん。数とかは?」

「73機。時間は100秒。時間がきたらガジェットを消してくれ」

「「ええ!?」」

「はぁ!?」

刹那の言葉にFWのみならず、なのはとヴィータも流石に驚きの声を上げた。

無茶苦茶だ。

誰もが思った。

だが、刹那にはやっておかなければならないことがあった。

「ちょっと、刹那君!?」

「いくらなんでも無茶苦茶過ぎるぞ!」

だが、なのはとヴィータの言葉など気にもせず、刹那は続ける。

「訓練場は……何でも構わない。どうせ、空で戦うからな」

背を向けて歩き出した刹那に、ヴィータが回り込んで立ち塞がる。

「ちゃんと説明しろよ!」

「……トランザムを使った訓練だ」

「「トラン……ザム?」」

聞いたことのない言葉に、その場の全員が揃って口にする。

「俺の……俺とエクシアの切り札」

 

木々が並び立つその遥か上空で、エクシアを纏った刹那が佇む。

刹那の周りでは、シミュレーターとして出現したガジェットU型が旋回していた。

先日のリニアレールでの戦いと同じ数。

だが、シミュレーターであるためガジェットの行動範囲は訓練場の上空内のみ。

それほど、自由に動くことは出来ない。

ともすれば、刹那の方が有利に思えるが、刹那も訓練場の上空から出る事はできない。

その狭い中で刹那は73機のガジェットU型と戦わなくてはならない。

刹那の方が不利だと言える。

それでも、刹那は戦わなくてはならない。

先日は、敵に見られていた可能性を考慮して、切り札であるTRANS−AMは使わなかった。

もし、TRANS−AMを使った場合。

ガジェットを抑えることが出来たのか……それを試しておきたかった。

『始めるよ?』

「ああ。やってくれ」

なのはからの通信に答えて、ビームサーベルを両手に持つ。

光の刃が出現し、構える。

『レディー……ゴー!』

なのはの合図と同時に、ガジェットU型が刹那に向けて光線を放つ。

「トランザム!」

《TRANS−AM始動》

微動だにせず、刹那は発現のキーワードを口にした。

 

開始直後にガジェットからの攻撃により、刹那が巨大な爆煙に包まれる。

「「ああっ!?」」

FW4人が悲鳴にも似た声を上げる。

しかし、その直後。

爆煙から刹那が現れ、次々にガジェットを切り裂いていく。

赤く輝く刹那の姿を見て4人が絶句する。

だが、驚いているのは赤く輝いているからではなく、刹那の移動速度が速すぎるためだった。

ガジェットの攻撃を余裕で避ける刹那。

刹那に攻撃が当たると思った瞬間、ガジェットの光線は刹那を通り抜ける。

余りにも刹那が速いため残像が現れており、ガジェットの攻撃は全て残像を貫いているだけで、刹那自身に当てるどころか掠りもしていない。

「あ、あれが……刹那君の切り札」

「何だよ……あれ」

十年前。

刹那がU−Dと戦った際に見たが、それは遠目だった。

しかし、今回はモニターで刹那が戦う姿を見ていた。

FW4人は勿論。なのはもヴィータも刹那の切り札――TARAS−AMをきちんと目にするのは今回が初めてだった。

圧倒的な【力】。

その【力】でガジェットを破壊していく。

――破壊は俺に任せておけばいい。

なのははモニターを見つめながら、刹那の言葉の意味を考えていた。

 

《TRANS―AM終了》

100秒に設定していたTRANS−AMの終了をエクシアが告げる。

それと同時に破壊出来なかったガジェットが消えていく。

「……ふぅ。やはり、無理だったか」

流石の刹那も疲れたのか、額に浮かんだ汗を手で拭った。

《大丈夫ですか?》

「ああ。流石に疲れるな」

《本来のTRANS−AMは粒子消費ですが、こちらではマスターの体力をも著しく奪います》

本来はガンダムの機体性能を3倍にするシステム。

機体性能が3倍になるということは移動速度も上がる。

それは、Gの負担も増えるということ。

さらには、機体性能に振り回されない精密な操縦と集中力が必要になる。

しかし、こちらの世界では自分の身体能力が上昇する。

筋力、速度、魔力。

そして、戦うために動かすのは自分の身体全体。

Gの負担は((防護服|バリアジャケット))を纏っていることで、膜状バリアが軽減してくれているが、全てを打ち消してくれるわけではない。

Gの負担、集中力、消耗する体力。

「正直、ガンダムの操縦の方が楽だな」

軽く息を吐いて呟いてから、なのは達の元へ向かった。

 

様々な感情が籠った視線が刹那に向けられていた。

「刹那君」

「言いたいことは分るが、質問には答えられない。機密事項だ」

「「……」」

「まぁ、お前達もそれで納得はしないだろう」

「当たり前だろ」

ヴィータが険しい顔つきで間髪入れずに刹那に詰め寄った。

「ヴィータちゃん」

そんなヴィータを抑える様に、なのはがヴィータの肩に手を置いた。

「TRANS−AMは……身体能力を3倍に引き上げる」

「「さ、3倍!?」」

「ああ。ただ、負担がかなりかかる。よって、制限時間もある」

「だから、100秒にしたの?」

「ああ」

「……先日、どうして使わなかったのですか?」

ティアナがやや声を震わせて、刹那に問いかけた。

拳を強く握り締めていたが、刹那は気づかない振りをした。

「さっきも言ったが、身体への負担が大きい。使わずに済ませられるのでは、それに越したことはない」

敵云々のことを話すべきか迷ったが、負担が大きいのも事実だった為、それを答えた。

「でも、トランザムというのを使えば、一人でガジェットを全滅させることも可能だったんですよね!?」

「ティア? どうしたの?」

ティアナの変貌にスバルが慌てる。

「どうかな。さっきの訓練は失敗したからな」

「で、でも!」

「ティアナ。俺達の戦いは一人で行うものではない」

「……っ!」

「状況的に一人戦わなくてはならない場合もあるかもしれないが、あの時、なのはやフェイトは勿論、お前達も居た。だからこそ、お前達に任せた。それが最善だと判断した」

「……」

「お前達はヘリとレリックを守った。その結果では不満なのか?」

ティアナが肩の力を抜き俯く。

「人一人で出来ることは限られている。だからこそ、俺達は力を合わせる必要がある」

「……すみませんでした」

ティアナが頭を下げたため「気にするな」と刹那が答えた。

「TRANS−AMの事はもういいな。聞かれても言える事はもう無いが……」

「……うん。わかった」

「おい、なのは!」

「ヴィータちゃん。言いたいことは分るけど、しょうがないよ」

ヴィータは声を荒げるが、なのはがそれを宥める。

「それよりも!」

パンっと、なのはが手を叩く。

「さ、午後の訓練を始めよう?」

「「は、はい」」

FWの4人が訓練場に走っていく。

なのはも4人のあとに続いて歩いていく。

「……おい、刹那」

「ん?」

ヴィータがグラーフアイゼンを刹那に向けた。

「なのはが聞かないからアタシも聞かない」

「……」

「けどな! なのはやはやてを裏切る事は許さねぇかんな」

「ああ」

「アタシが言いたいことはそれだけだ」

ヴィータを見送って暫くしてから、刹那も訓練場の方へ足を運んだ。

 

FW達の訓練を見届けて、自室で休んでいると備え付けられている通信器が鳴った。

『お休み中に失礼』

「はやてか。どうかしたのか?」

『急いで隊長室に来てもらいたいんよ。緊急会議や』

「……わかった」

通信を切って、足早に隊長室へ向かう。

【TRANS−AM】の事でも聞かれるのかと思ったが、会議内容はガジェットの製造者のことだった。

ソファーにはやてがに座り、その背後にグリフィスが立つ。

なのはをはじめ、前線の隊長副隊長がはやての対面に座っていた。

刹那はなのは達の後ろに立った。

「本部でガジェットの残骸データを見ていたフェイトちゃんが、その残骸の中から見つけたんやけど」

ピッと小さな機械音が鳴って、モニターに男性の顔が映し出される。

 

ドクター【ジェイル・スカリエッティ】。

肩まで伸びた紫の髪。

切れ長く細い目に、金色の瞳。

画像であるため無表情だが、逆にそれが危険な感じを際立させていた。

「広域次元犯罪者で私が数年前から追っている人物です」

フェイトが皆の顔を見ながら説明を始める。

「ガジェットの内部に彼の名前が書かれたプレートが発見されました。ブラフの線も捨てきれませんが、彼ならばガジェットを製造することも可能。高確率で彼と思って間違いないでしょう」

フェイトの説明に耳を傾けていた刹那が「やはりな」と呟いた。

「え?」

その呟きに、全員が刹那を見た。

「やはりなって、刹那……まさか、スカリエッティがガジェットの製造者だって当たりを付けていたとか?」

もし、そうなら一体いつの間に調べたのか。

どうしてスカリエッティだと思ったのか。

最早、刹那を『凄い人間』という評価だけでは済まなくなる。

しかし、刹那の言葉でそれは否定された。

「違う。そういう意味ではない」

《マスターは、初めてガジェットと戦った時から製造者が居ることに気がついていました》

エクシアが刹那の言葉を補足するかの様に話す。

「ほんまに?」

「ああ」

「どうしてそう思ったのか、聞かせてもらえる?」

「簡単な話だ」

はやての質問に腕を組みながら刹那が話し始める。

「ガジェットは機械。自然発生する物ではない。ガジェットを自ら造るにしても、ガジェットを製造する機械があるにしても、必ずどこかで人の手が入る。それと、レリックだ。機械が特定の物を狙うということは、そう設定されているということだ。そして、それを出来るのも人間だ。だから、ガジェットには製造者が居ると判断しただけだ」

刹那の考えを聞いて、はやて達は感心していた。

はやて達も気がついていたが、それは管理局での勤務歴が長いからこそとも言えた。

子供の頃から、((古代遺失物|ロストロギア))やそれらに絡んだ事件をいくつも経験したからこそ。

だが、刹那は違う。

元の世界でどんな事をしているのか定かではないが、少なくとも自分達と同じ経験をしている筈がない。

それでも、自分達と同じ結論をすぐさま出したのだ。

「やっぱり、刹那君は凄いなー」

はやてがソファーの背もたれに体を預けた。

しかし、はやての考えは間違えていた。

刹那は機械が特定のものを狙う経験をしている。

それは、物ではなく人。

最悪の設定。

人を人とも思わぬ所業。

その惨状を目の当たりにしている。

【オートマトン】。

ガジェットよりも遥かに性質の悪い兵器。

 

暫くは、フェイトがスカリエッティを調査していくことになり、FW達には後日、改めて

話をすることになった。

今夜の緊急会議は終わったと誰もが思っていたが、刹那はある画像を見ていた。

それは、青い宝石――ジュエルシードが映っている画像。

ジュエルシードは、フェイトの母であるプレシア・テスタロッサと共に虚数空間へ消えたものを除けば、全て管理局が厳重に保管している。

持ち出すことは不可能に近い。

だとすると、管理局内に内通者が居る。

それも、かなり地位が高い人間。

ジェイル・スカリエッティに対して協力や援助を行う者が居る。

そして、こちらの情報が渡されている可能性もある。

内通者が居るとなると、かなり厄介な事になりそうだ。

「……刹那?」

考え事をしていた刹那に、フェイトが心配そうに見上げていた。

「もう、会議は終わりだよ」

「ああ」

資料として渡されたモニターを消し、ドアへ向かう。

部屋を出る直前、刹那が急に立ち止まった。

「気をつけることだ」

「「え?」」

刹那以外の人間が小さく声を上げた。

「敵は……思っている以上に巨大だ」

振り返ることなく、それだけ言い残して刹那は隊長室を出た。

-3ページ-

読了おつかれさまでした。

途中区切ることが出来ず、過去最長になってしまいました。

気候や服飾について間違っていたら、教えてください(><)

では、また次回に。

説明
再び魔法少女の世界へ降り立ったガンダムマイスター刹那・F・セイエイ。はやてが部隊長を務める機動六課がついに活動を開始する。魔法少女リリカルなのはA's00〜とある日常〜(仮)の設定を踏まえたクロスオーバー作品です。読みづらい、誤字脱字等の至らないところが多々あると思います。作者の原作知識は、それほど高くありません。また、オリジナル設定が含まれておりますので、原作を大切にされている方はご注意ください。
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コメント
>ゼロ・スパークさん。刹那の(金色の)瞳については、どこかでやるつもりでいますので、その時までお待ちいただきたいと思います。(ケイ)
個人的な要望なのですが、なのは達の前で一瞬だけでもいいから刹那の瞳がイノベイター化する描写をつけ、なのは達が驚く場面があったらいいと思います。(ゼロ・スパーク)
>量産型第一次強化式骸骨さん。誤字脱字報告ありがとうございます。修正いたしました。ティアナの無茶は……まぁ、アレですね(^^; (ケイ)
トランザムを知ったティアナが真似しようとして無茶しそうですね。2p「シャリーリー達も」→「シャーリー達も」、「彼と思って間違いでしょう」→「彼と思って間違いないでしょう」、「居ることに気がついていまいした」→「居ることに気がついていました」では?(量産型第一次強化式骸骨)
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