三人の御使い 獣と呼ばれし者達 EP11 呉軍集結
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一刀達が黄巾党の一部隊を壊滅させたことをきっかけに黄巾党全体の動きは活発化した

 

 

村を襲い

 

 

人を殺し

 

 

財を奪い

 

 

あらゆる暴虐の限りを尽くす黄巾党の悪行が

 

 

 

皮肉にも

 

 

孫策達−−−呉軍集結を促し

 

 

 

『国戦』の中で最も『恐れられた男』−−−巽兵衛の本能を呼び起こす

 

 

 

 

きっかけとなってしまった……

 

 

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ある日のことだった―――

 

 

 

兵衛はいつもと同じように城の中をぶらぶらとしていた

 

 

 

しかし、それは別に仕事がないからではない

 

 

 

むしろその反対で、ここ最近は賊の動きが活発化しているために孫策たちは戦に軍議に大忙しだった

 

 

 

その証拠に―――最初の内は兵衛も孫策たちに連れられて戦に軍議に駆り出されていたのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦に出ても戦わず

 

 

 

 

軍議に出ても寝てばかり

 

 

 

 

そのあまりの怠け者っぷりに遂に兵衛は暇を出されてしまったというわけだ

 

 

 

 

そんな理由でかなり暇になった兵衛は城の中を徘徊するしかやることがなかった

 

 

 

そんなときだった―――

 

 

 

孫策「あ〜〜〜〜〜、むかつく〜〜!!!!」

 

 

 

兵衛は孫策の部屋の前を通ると彼女が怒りながら酒を飲んでいる光景を目にした

 

 

 

兵衛「……何してんだ、あいつ?」

 

 

兵衛が孫策の様子に首を傾げていると―――

 

 

 

周瑜「ああ、それは私が説明しよう」

 

 

後ろから周瑜が兵衛に話しかけてきた

 

 

兵衛「……周瑜か。なあ、周瑜?あいつ一体どうしたの?やけに機嫌が悪いけど……」

 

 

周瑜「ああ……それはな、今朝の事なんだがいきなり袁術に呼び出されてな」

 

 

兵衛「……袁術に?」

 

 

周瑜「ああ、お前も話には聞いてると思うが……ここ最近、『黄巾党』という賊の動きが活発化しているだろう?」

 

 

兵衛「ああ、それは聞いてるけど……それが?」

 

 

周瑜「実はその黄巾党の一部隊がどうやらこの近くの城を占拠したらしくてな……その討伐を袁術に命じられたそうなんだ」

 

 

兵衛「そんな命令最近はしょっちゅうだろ?今更あんなに不機嫌になることでもないだろう?」

 

 

周瑜「今までの小規模の賊なら良いのだが……偵察に向かわせた兵の報告によるとどうやら敵の数は我らの軍の五倍以上らしい。流石にそんな数の敵を相手にしてはこちらの被害が大き過ぎてな……」

 

 

兵衛「……なるほど、それで悩み過ぎてあんな状況になってるわけだ」

 

 

周瑜「そういうことだ」

 

 

兵衛「ふ〜ん……そりゃあ難儀なもんだな」

 

 

兵衛は関心なさげに呟いた

 

 

周瑜「まったく、お前と言うやつは−−−」

 

 

そして、そんな兵衛の様子に周瑜が呆れていると−−−

 

 

 

 

 

 

???「めいりんさま〜、私の存在をすっかりと忘れていませんか〜?」

 

 

 

周瑜の後ろから兵衛の知らない女性がひょっこりと顔を出した

 

 

 

周瑜「ん?おお、隠か。すまない、話に夢中でお前の紹介を忘れていた」

 

 

 

周瑜はその女性の存在に気が付くと彼女の真名と思われる名を口にする

 

 

隠「む〜、そうはっきりと言われると怒るに怒れないじゃないですか〜」

 

 

周瑜のあっさりとした謝罪に隠と呼ばれた女性は膨れながら呟いた

 

 

周瑜「悪かった、悪かった。ああ、巽……紹介しよう。私の部下で我が呉の軍師である陸遜だ」

 

 

隠「初めまして〜、陸遜と申します〜。真名は隠です。兵衛さんのことは冥琳様達から聞いています。どうぞ宜しくお願いします〜」

 

 

兵衛「あ……こ、こちらこそ宜しくお願いします」

 

 

隠が挨拶で頭を下げるとそれに釣られて兵衛も慌ててお辞儀をした

 

 

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お互いの自己紹介を終えた兵衛たちはそのまま孫策の部屋に集まって今後のことについて話し合っていた

 

 

孫策「−−−と言うわけなのよ!もう、本当むかつくったらないわよ!」

 

 

兵衛「それはもう周瑜から聞いてるよ……それについて今話してんだから、いい加減機嫌直せよ孫策」

 

 

孫策「だって〜」

 

 

周瑜「そうだぞ、雪蓮、巽の言うとおりだ。いつまでも不貞腐れていないで、どうしたら黄巾党を殲滅出来るか考えなければ……」

 

 

隠「そうですよ〜、今回の相手は今までの小規模の賊とは違うんですから、それなりの方法で望まないと勝ち目はありませんよ」

 

 

孫策「そんなことはわかってるわよ……だけど、今の私の戦力ではどうやっても埋められない差は存在するのよ。呉の再建のために今以上に兵を無駄に浪費するわけにはいかないわ」

 

 

隠「それはそうなんですけどね〜」

 

 

周瑜「……どうしたものか」

 

 

 

そして三人は頭を抱え始めた

 

そんな中、今まで−−−何の案も出さずに傍観していた兵衛が遂に一つの案を提案した

 

 

 

 

 

 

兵衛「……なあ、だったら呉の仲間たちを呼び戻せばいいんじゃねーの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

三人「「「…………………え?」」」

 

 

 

三人は兵衛の案に自身の耳を疑った

 

 

 

周瑜「いやいや、それはいくらなんでも無理だろう?」

 

 

隠「そうですよ〜、相手はドケチな袁術さんなんですから…こちらの頼みを聞いてもらえるとは思えませんねえ」

 

 

兵衛「どうしてだ?だって今回の戦は袁術直々の命令なんだろ?言ってみれば依頼主と商人の関係みたいなもんだ。だったら戦を確実に勝つためなら依頼主が軍資金や兵数を補填するなんて当たり前の事だろうが?」

 

 

周瑜「そ……それは、確かにそうかもしれんが……」

 

 

隠「でも〜、相手は『あの』袁術さんですからね〜」

 

 

兵衛「その発想自体がすでに間違いなんだよ。俺はお前らと違って袁術って奴がどんな奴かは知らないが……お前らの話を聞いてると、その袁術って奴は相当な馬鹿だと俺は思うね」

 

 

孫策「へ〜、それは一体どういった根拠?」

 

 

兵衛「そんなん簡単だろ?……だってよ、今までの弱小勢ならいざ知らず−−−今回のような大規模の敵が相手ですら孫策達に丸投げするような君主だぞ?普通の神経をしてるやつならまずそんなことはしないはずだ。まず間違いなく勝てるだけの兵力を整えさせてから向かわせるのが常識さ。それをしないで無茶ぶりの討伐命令だけするような奴は−−−俺の経験上、大抵、戦に対する関心がない奴か、ただの馬鹿って決まってんだよ」

 

 

周瑜「………」

 

 

兵衛「つまり何が言いたいかっていうと……要するにこれは交渉するにはおいしい条件なんだよ」

 

 

隠「ほえ?それは一体どういう意味ですか?」

 

 

兵衛「いいか、簡単に説明するぞ?まず、袁術は俺たちに面倒な黄巾党の討伐へ向かわせたい。でも戦力差が大きい俺たちは勝てる可能性が少ない。それは袁術たちにとってもおもしろくないんだ」

 

 

孫策「どういうこと?」

 

 

兵衛「考えてもみろ?今までの戦はほとんどが孫策達だけで勝ってきたものだ。言ってしまえば、袁術軍には全くと言っていいほど被害はないんだ。それはつまり袁術たちにとって孫策たちはとても『都合のいい駒』だということを意味している」

 

 

三人は兵衛の話を黙って聞いていた

 

 

兵衛「そんな都合のいい駒を今回のたった一回の戦で切り捨てるにはあまりに勿体ないと思わないか?俺だったら絶対にそんなことはしないね。袁術たちだって同じ考えのはずだ。ならば、どうするか?そうなってしまうとあいつらに選べる選択肢は三つしかない……一つは孫策達を諦めて切り捨てるか……二つ目は自軍の兵を孫策に預けるか……そして三つ目は孫策達に自力で戦力を調達してもらうかだけだ」

 

 

周瑜「……だが、それは」

 

 

兵衛「お?周瑜はどうやら気付いたみたいだな。……そう、一つ目の選択肢はまずありえねぇ。さっき説明した通り、孫策達みたいな都合のいい駒を切り捨てるのはこの先を考えると悪手でしかない。ならば、残り二つのどちらかになるが……二つ目の選択肢も恐らくはない。孫策達に今回の戦を丸投げするような馬鹿だからな。勝敗云々以前にまず自軍の兵を減らす危険なんか冒したいとは思わないだろう……そうすると残った選択肢は一つだけだ−−−」

 

 

そこまで言って兵衛は妖しく微笑んだ

 

 

その兵衛の様子を見て孫策は静かに語りだす

 

 

孫策「……要するにその二つを交渉材料に仲間たちを呼び戻せ−−−つまりはそういうことね、兵衛?」

 

 

そして兵衛同様に妖しく微笑む孫策

 

 

その孫策の反応を見て兵衛は悪戯っ子の顔をしながら−−−

 

 

 

 

兵衛「そういうこと〜」

 

 

 

愉快そうに答えた

 

 

 

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数日後−−−

 

 

 

兵衛達は戦場に立っていた

 

 

孫策「まっさか、本当にあんな交渉でみんなを呼び戻せるとは思わなかったわね〜」

 

 

周瑜「まぁ、そう言うな。むしろ袁術に感謝しようではないか」

 

 

隠「そうですよ〜、あんな交渉で了承してくれるんですから袁術さんたちの馬鹿さ加減に感謝しなきゃですよ〜」

 

 

黄蓋「……隠、お前はさらっと毒を吐くのう」

 

 

四人は嬉しそうに、愉快そうに現状に話し合う

 

 

兵衛「……ふぁ〜〜〜、ねみぃ」

 

 

そして、そんな彼女達から離れたところで兵衛は暇そうに馬の上で横になっていた

そこにはこれから戦に臨もうという者としてはあまりにも不釣り合いな光景だった

 

 

孫策「相も変わらず、兵衛はいつもと同じように寝てばかりね?」

 

 

そんな怠慢な獅子に対し、江東の小覇王は静かに問い―――

 

 

兵衛「……んあ?」

 

 

孫策「……今回ばかりは流石の貴方も手を貸してくれる……なんて、そんな甘い考えを抱いていたんだけど……その様子を見るとどうやら今回も―――戦ってはくれないのね?」

 

 

そう悲しげに、自嘲気に呟いた

 

 

兵衛「……それは悪かったな。でも、いいだろう?仲間を呼び戻すきっかけを作ったんだ。俺の今回の仕事としては十分すぎるほどに十分だと思わないか?」

 

 

孫策「……そうね」

 

 

兵衛「だったら……もう何も言うな。お前の妹達が来たらそれなりにしっかり挨拶くらいはしてやるよ」

 

 

言いながら、兵衛は己の態度に呆れかえる

それは孫策がどんな気持ちで自分に聞いたのか―――その真意が兵衛には分かっていたからだ

彼女は―――孫策は兵衛の今後の立場について案じていたのだ

天の御遣いという虚名があるにしても今の彼は……兵士達の間で『何もしない御使い』として認識されていた

最初は孫策も兵士達に何度も彼の存在価値を説いてきたがそれも……もう限界だった

どんなに価値を述べようと―――現実的に何もしない彼では……誰も救おうとしない彼では、どうしようもなく説得力に欠けてしまうから

彼女にはこれ以上兵衛を庇うことは出来なくなっていた

だから彼女は少しでも今回の戦で兵衛を活躍させ、汚名を雪ぐ機会を与えようとしていたのだ

しかし―――

 

 

 

そんな彼女の真意が分かっていても、兵衛にはどうしようも出来なかった

どんなに彼女達を好こうとも−−−どんなに彼女達の力になりたいと願っても―――

兵衛はそれを実行するわけにはいかなかった

 

 

 

 

彼女が王で―――

 

 

 

国の上に立つ者である以上、両者にはどうやっても越えられない壁が確実に存在する

その変えられない事実がある限り、自身が力を貸すことなど……万に一つもありないのだから

 

 

 

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数刻後―――

 

 

 

一人の伝令が孫策達の下に歩み寄り、膝を着く

 

 

伝令「報告です。たった今、孫権様達が御到着いたしました。お目通りしてもよろしいでしょうか?」

 

孫策「そう、わかったわ。お願いできるかしら?」

 

 

伝令「御意」

 

 

そして伝令は静かに下がり、孫権達を呼びに行った

 

孫策は伝令を見送ると後ろにいる兵衛に振り返り

 

孫策「―――と、言うことだから兵衛もそのつもりで宜しくね?」

 

再度、兵衛に釘を刺した

 

兵衛「……はいはい」

 

 

そんな孫策の言葉に兵衛はただ、ただ素っ気ない返答で答えた

 

 

 

 

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そしてしばらくして孫権達と思わしき一団が孫策達に向かって歩いてきた

一団の中から先頭を歩いていた将と思しき女性が孫策達に一歩近づくと

二人は一斉に膝をつき、臣下の礼を口にする

 

 

甘寧「……孫策様、甘寧興覇―――」

 

 

周泰「―――周泰」

 

 

二人「「―――ただ今、到着いたしました」」

 

 

孫策「……久しぶりね、思春、明命。腕は鈍ってない?」

 

 

二人「「はい」」

 

 

孫策「そう、ならばこれからの活躍に期待させてもらうわね」

 

 

二人「「御意」」

 

 

そう言うと孫策は後ろにいる兵衛に声を掛ける

 

 

孫策「―――ということだから、兵衛も二人と仲良くしてね?」

 

 

声を掛けられた兵衛はため息交じりに無言のまま孫策の近くに歩み寄る

 

 

兵衛「……程々には仲良くすっから、そう何度も釘を刺すなよ」

 

 

そこで初めて思春と明命は兵衛の存在に気付く

二人は初めて見る顔に驚起きの表情を浮かべ、目の前の男について孫策に説明を求めた

 

 

思春「孫策様、この男は……?」

 

 

孫策「ああ、紹介するわね……彼は巽兵衛。話には聞いてると思うけど彼が我ら呉の『天の御遣い』となる男よ」

 

 

明命「はうぁ!?この御方があの……」

 

 

孫策「そういうことだから二人とも宜しくしてあげてね♪ほら、兵衛もぼさっとしてないで自己紹介、自己紹介!」

 

 

突くように兵衛を急かす孫策

それに応えるように一歩前に出る兵衛は自身の自己紹介をした

 

 

兵衛「―――と、まぁ……俺が今孫策から紹介に預かった巽兵衛だ。一応、ここでは『天の御遣い』とか呼ばれてる。力になれるかわからんが宜しく頼む」

 

 

明命「よ、宜しくお願いします!!」

 

 

思春「…………」

 

 

二人は兵衛の挨拶に各々違った反応を見せる

明命は恐縮そうに兵衛に頭を下げ、思春は如何にも疑わしそうに兵衛を見る

 

兵衛「……ははは、宜しくな。それじゃ、孫策……俺はこれで」

 

兵衛は二人の相反する反応に苦笑いを浮かべながら、その場を後にしようとした―――その時だった

 

 

 

???「その男が姉様からの話にあった『天の御遣い』ですか?……ふん、如何にも胡散臭い男ですね」

 

 

凛とした声がその場を貫く

 

兵衛以外の全員がその声の主に一斉に視線を向ける

そこには孫策と同じ桃色の髪と切れ長の目をした女性が立っていた

その女性が登場したことでその場に居る将達は嬉々として彼女に話しかける

 

 

孫策「あら、蓮華。久しぶりね♪」

 

 

蓮華「ええ、姉様こそ……お元気そうで何よりです。冥琳も祭も隠も久しぶりね。姉様と一緒に居てくれてありがとう」

 

 

周瑜「勿体ない御言葉です、蓮華様」

 

 

黄蓋「まったくじゃ」

 

 

隠「お久しぶりです〜、蓮華様」

 

 

そして五人は久々の邂逅を喜んだ

孫策は嬉しそうに彼女を抱きしめ、彼女はそれに静かに微笑みながら応える

姉妹の喜ばしい再会だった

それを祝福する様に周りの将も嬉しそうに微笑みを浮かべる

 

 

 

 

 

 

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そして久々の再会に喜びを終え、二人は静かに離れ、孫策は蓮華に兵衛を紹介する

 

 

孫策「蓮華、あなたにはまだ紹介していなかったわね。彼が―――」

 

 

そこまで言おうとした瞬間、蓮華に片手で遮られる

孫策の言葉を遮った蓮華はその言葉の続きを侮蔑を込めて口にする

 

 

蓮華「……ええ、話は聞き及んでいます。あの男が―――兵達の間で『何もしない御使い』と言われている者でしょう?」

 

 

孫策「……れ、蓮華?」

 

 

孫策は不安げに蓮華の顔を覗き込む

しかし、彼女はそんな姉の様子すら意に介さず、尚も侮蔑の言葉を口にする

 

 

蓮華「姉様があの男をどんな意図があって呼び込んだかは知りませんが……私はあの男と親しくなるつもりは毛頭ありません」

 

 

孫策「でも、蓮華?彼は私達の知らない知識も知ってるし、手紙にも書いたと思うけど……彼って意外と強いのよ?それこそ私達なんか足元にも及ばないんじゃないかってくらいに―――」

 

蓮華「どれだけ未知の知識を有していようと、どれだけ腕が立とうとも……それを呉のために使わず、毎日をだらだらと惰眠を貪る穀潰しでは話になりません!奴は『天の御遣い』などと大層な名を冠しているくせに……その立場に胡坐をかいて我々の足を引っ張っているのです!姉様もそれくらいわかっているのでしょう!?」

 

 

孫策「そ、それは……で、でもね―――」

 

 

孫策が必死に兵衛の弁護をしようとした時―――蓮華に散々罵られた兵衛が遂に口を挟んだ

 

 

 

 

 

兵衛「もういいよ……孫策」

 

 

 

 

 

 

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兵衛が口を挟んだことで場は静まり返った

 

 

兵衛は背中を孫策達に向けたまま、静かに語りだす

 

 

兵衛「あんた……確か孫策の妹の孫権だっけ?話に聞いていただけあって大した堅物具合だな、おい?」

 

 

蓮華「き、貴様……」

 

 

兵衛「俺ぁ確かに穀潰しさ……それは否定しようもない事実だな。だけどな、そんなことは孫策達も了承している。そういう契約だからな」

 

 

蓮華「契約……だと?」

 

 

兵衛「そう、契約だ。俺は孫策達に力を貸す代わりにいくつかの約束事を取り決めた。その約束が有効な限り、本当に困ったときは力を貸す……そういう契約さ」

 

 

蓮華「ならば!今がその時ではないのか!?今は呉の再建のために大事な戦……これを『困った時』と言わず、なんと言う!?貴様も呉に身を置くものなら……強いという貴様の力を呉のために使うべきではないのか!?」

 

 

蓮華は悲痛な叫びを兵衛に向ける

今まで袁術に軟禁され、呉のためにとひたすら耐えてきた彼女のそれが限界だった

しかし、そんな悲痛な叫びを向けられても兵衛の態度は変わらない

背中を向けたまま、一目も蓮華に目を向けず、まるで駄々っ子をあやすように淡々と言葉を続ける

 

 

兵衛「……はぁ、だからさ〜。その『呉のために』っていう考え方がそもそもの間違いなんだよ。俺は確かにあんたらの世話にはなってるが、俺は別に呉の将じゃないの―――つまりお前らの部下じゃないんだから命令される筋合いはないわけよ?……俺の力は俺の判断で行使する。誰の指図も受けねーよ。俺に命令する権利がある奴は後にも先にもただ一人のみだ」

 

 

蓮華「……それが貴様の考えか?」

 

 

兵衛「悪いか、三下?俺に命令したいなら器を磨いてから出直してこい」

 

 

蓮華「……そうか―――思春!!!!」

 

 

 

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彼女の叫びと同時に一人の武人が兵衛に向かって疾走する

 

 

 

 

自身の主を侮辱した男の背中に得物を携えた思春は疾走する

 

 

 

 

思春(……死ね)

 

 

一足飛びに近づいた思春は背中を向ける兵衛の首筋に刃を突き立てようと振り下ろす

 

一部の情けも

 

一部の容赦もなく

 

自身の主を貶めた敵を全力で屠りさるために

 

 

彼女は刃を突き立てた

 

 

 

 

 

 

しかし―――

 

 

 

思春「……!?」

 

 

 

 

しかし、刃を振り下ろした先には何もなかった

 

 

敵を仕留めた手応えも

 

 

敵の姿も

 

 

何もかもが存在しなかった

 

 

 

そして、同時に悟ったのだ

 

 

自身は今―――とんでもない男に剣を振り下ろしたという事実に……

 

 

 

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その場に居た孫呉の将が気付いた時には事はすでに終わっていた

 

 

思春が兵衛に刃を振り下ろすと同時に彼はその場で高々と跳躍し、思春が反応するよりも遥かに速く、彼女をあっさりと組み伏せていた

兵衛はうつ伏せに倒れる彼女の上にどかりと座り、空いている両足で彼女の両手を抑えることで動きを封じ、まるで何事もなかったかのようにつまらなそうにあくびをする

 

 

兵衛「ふぁ〜、だから三下だって言ってんだよ馬鹿たれが。相手の実力も知らずに闇雲に突っ込んで来ればこうなることくらいわからんのかね?」

 

 

そう言うと兵衛は両足で抑えている彼女の両手を踏みつぶす

 

 

思春「ぐああぁああああ!!」

 

 

自身の両手を踏み潰されたことで思春は有らん限りの悲鳴を上げる

 

その声を聴いて、ようやく周りにいた呉の将達は兵衛を止めるために動き出す

 

 

周瑜「やめろ、巽!やりすぎだ!!」

 

 

黄蓋「そうじゃぞ、巽!それ以上は思春の両手が折れてしまう!」

 

 

隠「そうですよ〜、それ以上は思春ちゃんが可哀そうですよ〜」

 

 

各々が精一杯の説得を試みる

しかし、そんな説得に兵衛は微塵も反応を示さない

まるで誰の言葉に従うつもりもないと―――周りに示すかのような態度

 

厚顔にして不遜

 

 

そんな言葉が似つかわしい程に今の兵衛は冷淡だった

 

その冷淡過ぎる程に冷淡な兵衛の姿に周りの将はもちろんのこと遠目から見ていた兵達ですら萎縮した

 

 

しかし―――そんな中、孫策だけがゆっくりと静かに兵衛に近づき、彼の肩に手を乗せた

 

 

孫策「……お願い、兵衛。もう……やめて」

 

 

たった一言……そう呟いた

 

その一言はあまりに悲しげで、あまりに弱々しくて、これ以上兵衛が思春に何かしたら壊れてしまうんじゃないかと危惧してしまうほどに儚げな一言だった

 

 

兵衛「…………」

 

 

 

そんな彼女の様子に気づいた兵衛は黙って思春の上から体を退けた

思春は痛々しげに青くなった自身の両手を抑えながら兵衛を睨み付ける

孫策はそんな彼女を片手で制しながら兵衛に語りかける

 

 

孫策「ふぅ……ありがとう、兵衛。妹と部下が失礼をしたわね」

 

 

兵衛「別に……お前が謝ることじゃねーよ。俺も少しやり過ぎたと思うしな……」

 

 

孫策「それでもよ……部下がしたことは私の責任でもあるからね」

 

 

そう言って再度兵衛に頭を下げる孫策

 

蓮華「ね、姉様!?何故そのような奴に頭など……孫呉の王がそのような行為をしてはいけません!!」

 

 

孫策「あなたは黙ってなさい!!!!」

 

 

蓮華「!!!」

 

慌てて止めようとする孫権に孫策は激しい言葉で一喝する

孫権は姉からの厳しい一言に足を止める

孫策は妹が止まるのを確認すると下げていた頭を上げ、兵衛に対して向き直る

 

 

孫策「ごめんなさい……兵衛。あの通りまだまだ未熟な妹なの。どうか許してやって」

 

 

兵衛「……別にいいよ」

 

 

孫策「ありがとう。でも一体どうしたの?チンピラにからかわれても怒らなかった貴方がこんなことで怒るなんて……」

 

そして、礼と同時にそんな疑問を投げかける

孫策は聞かずにはいられなかったのだ

今までの彼ならばさっき言ったようにどんな奴にどんな罵声を浴びせられようと決して怒ることだけはしなかった

しかし、今目の前にいる彼はそうではない

いつもの優しさは影を潜め、呆れるほどに明るかった雰囲気はどこにも見当たらない

どこか余裕のないその表情は孫策に底知れない不安を募らせた

 

 

兵衛「わかんねえよ、俺にも。ただ……孫権の声を聞いてると言い得ぬ怒りがふつふつ湧いてしまうんだ……理由はわからないけど、あいつの声は俺にとってどうしようもなく耳障りなんだ」

 

不安を募らせていると当の兵衛はそんな曖昧な答えを口にした

孫策は兵衛の言葉に耳を疑い、再度聞き直す

 

孫策「蓮華の……声が?」

 

聞きながら孫策は思考した

 

何故、妹の声が不快なのか

 

別段、おかしい声質ではないと思う

 

むしろ綺麗な

 

それこそ女性としての魅力を兼ね備えた声だと思う

 

 

 

 

なのに彼はその声が耳障りだと言う

 

 

意味が分からなかった

 

 

しかし、彼の様子を見ると言ってることは嘘ではないようだった

 

だが、何かがおかしい

 

彼の様子をよく見ると

 

 

それは蓮華の声を聞きたくないのではなく、

 

まるで―――

 

 

 

 

 

まるで、その声によって『何かを思い出す』ことを嫌がっているような―――そんな印象が見て取れた

 

 

 

 

 

 

 

孫策「ま、まぁ、兵衛が何で蓮華の声を嫌がるのかわからないけど、折角これから仲間になるんだからいつまでも不仲ってわけにはいかないんだから改めて自己紹介しよ?……ね?」

 

 

しかし、孫策はそんな自身の感じた違和感を払拭するように再度、兵衛と蓮華に自己紹介を促した

 

兵衛「ああ……そうだな」

 

 

蓮華「……姉様がそう言うなら」

 

 

そして二人は渋々と言った感じで了承する

 

二人は俯きながら向き合うとお互いの手を差し出した

 

 

蓮華「私は……孫策伯符の妹の孫権だ。……よろしく」

 

 

そう言って最初に蓮華が顔を上げて自己紹介をする

 

 

兵衛「ああ……よろしく。俺の名は巽兵―――」

 

 

 

 

 

それに釣られるように兵衛も顔を上げて自己紹介をしようとした時―――

 

 

 

兵衛の顔は

 

 

 

 

驚きも

 

 

 

喜びも

 

 

 

怒りも

 

 

 

悲しみも

 

 

 

何もかもが入り混じった−−−歪んだものに形を変えた

 

 

 

そして、それに続くように醜く顔を歪ませた兵衛は静かに呟く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵衛「…んで……何で……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かに呟く兵衛を見て周りの将達は困惑する

目の前にいる孫権もまた、皆と同様に戸惑った

 

 

そんな困惑する周囲を無視するかのように差し出した手を引っ込める兵衛

 

 

そして先ほどまでの消え入るような声とは打って変わった―――どこまでも悲しげな―――どこまでも痛々しげな―――絶望に染まった悲痛な叫びを木霊させる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵衛「何で……何でお前がここにいる!?何でお前が生きてるんだ、『師匠』―――いや……『葵』!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして彼は気づいたのだ−−−自身が感じた不快感

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この女……孫権が

 

 

 

 

声も

 

 

 

顔も

 

 

 

 

何もかもが

 

 

 

 

 

かつて自身が尊敬し、どうしようもないほどに愛し抜いた一人の女性

 

 

 

 

 

 

 

『村雨 葵』と

 

 

 

 

 

 

あまりにも瓜二つだと事実に

 

 

 

 

 

 

 

 

悲しいほどに……気づいてしまったのだ

 

 

 

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あとがき

 

 

 

どうも勇心です

 

 

相も変わらず文章下手ですいません。

 

 

 

それでも頑張って書いたので少しでも喜んでもらえたらうれしいです

 

 

 

しかし、今回は思春の扱いがひどすぎましたね・・・自分は思春大好きなので書いててかなり悲しくなりました。

 

 

それにしても相変わらずのオリジナル要素てんこ盛り過ぎてそろそろ皆様に本格的に飽きられるんじゃないかと不安でしょうがありません。

 

 

ですが、自分で決めたことなのでこれからもこの内容で貫き通します

 

 

それでも読んでいただける方たちはこれからもよろしくお願いします

 

 

 

そして次回予告

 

 

次回は今回の続きです。

 

 

兵衛が最後に口にした人についてを触り程度に孫策に説明します。

 

 

そして、ついに黄巾党と戦います。

 

 

果たして城に籠城する敵をどのような手段で倒すのか

 

果たして兵衛は戦うのか

 

そのあたりに注目していただけると嬉しいです

 

 

PS.たぶん兵衛ルートがあと2話くらい続くかもしれません。兵衛嫌いな方にはすいません

説明
今回は兵衛の話です。
文章が相変わらず下手ですが、それでも良い方はよろしくお願いします
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コメント
ヒトヤングドグマ様申し訳ありません!間違えてあなた様の貴重なコメントを消してしまいました!大変申し訳ありませんでした!(勇心)
デーモン赤ペン様 コメントありがとうございます! デーモン赤ペン様のご慧眼には頭が下がります。おっしゃる通り国戦には序列というランキングが存在します。その辺りも含めて待っていただけると嬉しいです!(勇心)
ヒトヤングドグマ様 コメントありがとうございます! そう言って頂けると助かりますw(勇心)
そういえば気になっていたことが一つ 7人もいる国家特別戦力(これから縮めて国戦)ですが、強さとか、所属の上下、とかあったりするんですか?たとえば 1、?  2タイ、一刀・烈矢・兵衛  5、?  6、?  7、?みたいな・・・ これからでてくるならそれを考えながら、じめじめと、続きを待ってます。(デーモン赤ペン)
rain 様 コメントありがとうございます! 期待に応えられるように頑張ります(勇心)
一気に読ませて頂きました。今後の展開が気になります。(rain)
デーモン赤ペン 様 コメントありがとうございます! ワンチャン……あるかもですよ?兵衛の過去に一体何があつたのか……それの断片を次回の話で明かしたいと思います。(勇心)
本郷 刃 様 コメントありがとうございます! 今回の話は兵衛の能天気な一面が少しも現れていないシリアスな回にしたいと思っていました。彼が今回の辛さをバネに更なる成長を期待したいですね。(勇心)
★REN★ 様 コメントありがとうございます! ★REN★ 様の作品の足元にも及ばない私のssですが、これからもアドバイス等ありましたらよろしくお願いします(勇心)
ロドリゲス 様 コメントありがとうございます! 今後の展開は少しでも期待に添えられる内容に出来るよう頑張りたいと思うので、これからもよろしくお願いします(勇心)
西湘カモメ 様 コメントありがとうございます! 正直批判のコメがあると思ってびくびくしていましたが、そう言っていただき少し安心しました。(勇心)
まさかの 蓮華≒師匠 これはワンチャンあるでぇ・・・ とうとう兵衛の過去について触れられるんですね気になるわぁ・・・ いまから反薫卓連合での三人の再開が楽しみで仕方がありません(デーモン赤ペン)
兵衛は相当辛いでしょうね…。でも、これを乗り越えて彼はさらに強くなれるでしょうね。御使い三人組は色々とたいへんだなあ。(本郷 刃)
今後に期待!!!マジ次回が気になる!((o(´∀`)o))ワクワク(リンドウ)
面白すぎですよ。今後の展開に期待大です。(ロドリゲス)
いや、結構面白いよ。兵衛の過去がどの様なモノか気になるしね。あと、勇心さんには悪いけど、俺は思春が嫌いだからもう少し痛めつけても良かったんじゃ?と思う。(西湘カモメ)
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