緋弾のアリア 白銀の夜叉 |
第五話 綴との会談 キンジの調査
俺が教務科(マスターズ)に入るとすぐに嫌な臭いがしてきた。 そもそも教務科自体行きたくなかった。 何せ、ここは強襲科(アサルト)、地下倉庫(ジャンクション)と並ぶ武偵高の三大危険区域の一つだからな。 何故かって?
そりゃヤバイ奴がずらりと先公として連なってるからに決まってるだろ。
前職が各国の特殊部隊、傭兵をはじめ、中には暗殺者だったって奴もいるくらいだからな。 探偵科(インケスタ)や通信科(コネクト)の先公はちょっと感じは良いが数が少ない。
そして俺は嫌いな先公の部類に入れてる尋問科(ダキュラ)の教諭の綴梅子(つづりうめこ)と向かい合ってる。 何故嫌いな部類に入れてるかと言うと、あいつが吸ってるタバコは日本で吸ってはいけない麻薬って感じがする嫌な臭いがするんだよな。 そしてあいつは尋問においては日本でも五本の指に入るほどすごいらしい。 何をされるのかは考えたくねえが、どんなに口の堅い犯罪者に洗いざらい何でも白状させ、その後狂ったかのようにあいつを女神だとか女王とか呼ぶようになるらしい。 狂わされるのはまっぴらご免だから気をつけねーと・・・
「天草ぁー・・・ おまえの刀、蘭豹が持ってた時はなんとも無かったのにぃ、SSRに持ってって調べようとしたらぁ、計器が弾け飛んだりぃ生徒が持てなかったりしたんだよ。 これはどーいう事ぉ?」
ラリったような据わった目をしながら俺に煙をぶつけてきやがった。
「ゲホッ、ゲホッ。 やめてくれよ、臭いが・・・ 分かった。 全部話しますよ。 その代わり条件があります。 一つはこのまま俺を強襲科に残すこと、二つ目はこのことを決して他言しない事です」
計器が弾け飛んだりSSRの生徒が刀を持てなかったのは俺以外の超能力者を拒絶する結界のためであること、超能力は大阪武偵高時代に自由履修でSSRの授業も受けた事で身につけ、G(グレード)は21であることを話した。
「ふーん、すごいねえ。 んじゃあ、SSRの奴らと模擬戦をさせて実力を見てみたいけどぉ、今全員恐山なんだよなぁ。 また今度なぁ」
俺は教務科を出ると救護科で手当てを終えたアリアに出くわした。 これで後はキンジを入れるだけだとアリアは息巻いている。 だが、俺は初めてあった日の事とあいつの過去を知った事で入れるのは酷だと思った。
「アリア、キンジをパーティに入れるのはやめとけ。 俺はあいつの事情を調べたし、何よりあいつは本当に強いかどうかも怪しいからな」
「キンジの事情なんて大した事じゃないに決まってる! それにあいつは入学時はSランクだった! だからあたしはあいつを入れる! 口出しするな!」
「アリア! 自分の基準で物事を決めんじゃねえよ! あいつにとっては大きい事情かもしれねえだろが!」
「うるさいうるさい!! あんたなら知ってるでしょ! あたしにはもう時間が無いの! 勝手にもなるわよ!」アリアは涙目で俺にガバメントを向ける。
「それがどうした」
俺の言葉にぎぃー!というような面をしたアリアがとにかく絶対入れてみせると言い残して去っていった。 アリア、焦るのは分かる。 だが、入れる相手のこともよく考えろよ。 世界は自分を中心に回ってると思った方が楽しいってテレビで言ってたが現実ではそんな事はありえないだろうが。 何でもかんでも自分の意のままになると思ったら大間違いだぜ。 この先どうなる事やら・・・
キンジSIDE
俺は今温室に来ている。 何故か? 秘密の打ち合わせをするからだ。
「キーくぅーん!」
バラ園の奥で理子がくるっと振り返る。
こいつはアリアと同じくらいチビだがキラキラした大きなふたえの目に緩いウェーブをかけたツーサイドアップにふんわり背中に流した長い髪に加えてツインテールを増設した欲張りな髪型をした美少女だ。
「相変わらずの改造制服だな。 なんだよその白いフワフワは」
「これは武偵高の女子制服・白ロリ風アレンジだよ! キー君、いいかげんロリータの種類ぐらい覚えようよぉ」
「キッパリと断る。 ったく、お前は一体何着制服を持ってるんだ」
そう言われて指を折り折り改造制服の種類を数え始めた理子をスルーして俺は理子に依頼した情報の報酬を渡す。
それはいわゆるギャルゲーだ。 十五歳以上なので理子も買えるのだが、ゲームショップで売ってもらえなかったとぶちぶち言っていた。 身長から中学生だと判断されたらしい。 死ぬほど恥ずかしかったがこれもアリア対策のためだ。
−−−アリアは何故俺なんかを奴隷にしたがるのか?
あいつを追い払うためにはそれをまず解き明かさなければいけない。 何か明確な理由があるならそれを一刻も早く取り除かねばならない。
で、その理由をあいつが教えない以上、こっちであいつの事を多角的に調べ、推測して対処するしかない。
それに竜也。 あいつの普通じゃない戦闘能力も奴隷という言葉を取り消せばすぐにパーティに入る動機も少し気になるからな・・・
『2』や『3』を個個の作品に対する蔑称とか訳の分からない事を言って俺にゲームの一部を突き帰したがアリアと竜也に関する情報を話させる。
理子はまごうことなき馬鹿だがネット中毒でノゾキ・盗聴盗撮・ハッキングといったまことに武偵向きな趣味を持つ情報収集のプロ、言うなれば現代の情報怪盗だ。 おかげで武偵ランクはAだとか。
とっとと話してもらわねえとな。 アリアに捕捉されて捕まるのは時間の問題だしな・・・
更に理子はアリアのプロフィールぐらい彼女なんだから聞けとありえない事を言い、俺が想像さえもしたくないこともしたのかと聞いてきた。
「・・・・・お前はいつもそっち方向に話を飛躍させる。 悪い癖だぞ」
ちぇーとか理子は言ってきたが無視してアリアと竜也の事を話させた。
「んと・・・まずランクだけど二人ともSだったね。 二年でSって片手で数えられるくらいしかいないんだよ。 ちなみにたっ君は一番Rランクに近い武偵だって大阪武偵高で言われてたんだって」
理子の話に、俺は特別驚きはしなかった。 アリアも竜也もあの身のこなしはどう見ても常人のレベルじゃなかったからな。
Rランクについて聞くと小国を一日もあれば潰せるレベルだとのこと。 これには驚いた。 国を潰せるほどの力を持つ奴が近くにいるなんて・・・ 頭が痛くなる。
「二人とも徒手格闘も得意みたいだよ。 特にアリアは理子よりちびっこなのにね。 たっ君は柔道や空手、キックボクシングなど・・・うーん、得意な格闘技の数は数え切れない! アリアはボクシングから関節技まで何でもありの・・・えっと・・バーリ、バーリゥ・・・」
「バーリ・トゥードか」
「そうそう、それそれ。 それを使えるの。 イギリスでは縮めてバリツって呼ぶんだって」
俺は体育倉庫でアリアにぶん投げられた時の事を思い出す。 ヒステリアモードなのに受け身を取るのが精一杯だった。
「二人とも拳銃とナイフはもう天才の領域。 アリアは二刀流でたっ君は拳銃二つに一刀流プラスロッドだね。 アリアは両利きなんだよ。 ロッドを使う武偵って珍しいみたい」
「アリアのことは知ってる」
竜也はロッドを武器にしてるのか・・・ 確かに珍しい・・・
「じゃあ二つ名も知ってる?」
二つ名ーーー豊富な実績を持っていたり、恐ろしいほど腕の立つ武偵には、自然と二つ名がつく。 二人とも弱冠十六歳にして二つ名を持っているのか。
知らない、という顔をすると理子はニヤリと笑う。
「アリアは『双剣双銃(カドラ)のアリア』、たっ君は『白銀の夜叉』」
−−−双剣双銃。 武偵用語では二丁拳銃や二刀流をダブラと呼ぶ。 これはダブルから来ているのだが、そこから類推すると四つの武器を持つという意味の二つ名なのだろう。
「笑っちゃうよね。 双剣双銃ってさ」
「笑いどころが分からん。 ところで、竜也の『白銀の夜叉』って二つ名はどういう意味なんだ?」
「ああそうだった。 銀の美しい長髪を靡かせて、狙った犯罪者をえっと100mを4.2秒で走り、一跳びで30mもジャンプする化け物のような身体能力で追い詰める様子から取られたみたいだよ」
確かに化け物じみた身体能力だな。 関わりあいはアリアと同じように避けた方がいいな。
俺は更にアリアと竜也の武偵としての活動を聞いてみた。
「あ、そこは特にアリアにはスゴイ情報があるよ。 今は休職しているみたいなんだけど、アリアは十四歳からロンドン武偵局の武偵としてヨーロッパ各地で活動しててね・・・その間犯罪者を一度も逃がした事がないんだって。 たっ君は大阪武偵高付属中出身なんだけど一度も犯罪者を逃がさなかったのは同じだね」
理子は少し声をシリアスにさせながら言ってきた。
「狙った相手を全員二人とも捕まえてるんだよ。 アリアは99回、たっ君は95回、それぞれ連続でしかも全部たった一度の強襲でね」
信じられない。 犯罪者の逮捕などという仕事が武偵に降りてくるときは、大抵警察の手には負えない奴を押し付けられるのが常だ。 通常はしつこく何度も追って、やっと逮捕にこぎつけるものだ。 それを90回以上も一発逮捕とは・・・
・・・・気が滅入ってきそうだったので話題を変えることにしよう。
「あー・・・他には。 そうだな、体質とか」
「うーんとね。 アリアって、お父さんがイギリス人とのハーフなんだよ」
「てことはクォーターか」
道理で髪も目も赤いし、日本人離れしたぱっちりした二重まぶたなわけだ。
そもそも名前も、『神崎・H・アリア』だしな。
「そう。 で、イギリスの方の家がミドルネームの『H』家なんだよね。 すっごく高名な一族らしいよ。 おばあちゃんはDame(ディム)の称号を持ってるんだって」
「ディム?」
「イギリスの王家が授与する称号だよ。 叙勲された男性はSir(サー)、女性はDame(ディム)なの」
「おいおい。 ってことはあいつ貴族じゃねーか」
「そうだよ。 リアル貴族。 でも、アリアは『H』家の人たちとは上手くいってないらしいんだよね。 だから家の名前を言いたがらないんだよ」
「竜也の家などについてはどうなんだ」
「そうだった。 えーっと、たっ君の実家は山口県を中心とした西日本の経済界で大きな力を持つ企業なんだよ」
「ってことはあいつはもしかして社長一族か?」
「そう。 彼は社長一族だよ。 でも、あそこの一族は宗家や分家とかって厳しくてねぇー、たっ君は分家出身だから肩身の狭い思いをしてきたんだって。 あと、社長さんたちは島原の乱で死んだはずの天草四郎の末裔とされる人々なんだって。 あとは・・・日本人なのに銀髪やそれに近い髪の色をした人間が宗家だけじゃなく、分家の人にも多いそうだよ」
へえ、それは変わっているな。 日本人なのに銀髪が多い家系とか。 それにあの天草四郎の子孫ってのも驚きだな。
「さらに大阪時代、たっ君は超能力も身につけていたそうだよ。 そしてそこのSSRの女の子の一人と、最強のタッグ兼誰もがうらやむラブラブカップルになってたんだって! 今はその女の子は死んじゃってんだけど」
理子は序盤は明るく、後半はシリアスかつ辛そうに話した。
あいつが恋愛していたとは・・・ ま、俺にはどうでもいいことだが。
「どうしてその女は死んだんだ?」
「最初はたっ君が襲ったとされてたんだけど、同時刻にたっ君も襲われてたみたいで、誰かがたっ君とその女の子との仲を妬んで引き裂こうとして勢い余って殺しちゃったってことが正論になってるみたい。 その犯人はまだ捕まってないみたいだよ」
俺はその話を聞くと理子と別れた。 勢い余って理子が俺の時計を落とし、修理させてと言い、胸の中に押し入れたことはおいといてだ。
理子から何気なく聞いた竜也の過去。 それがあいつにとってどれほど辛いものだったのか、今の俺には思ってもいなかった。
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恋人を失い、誰も信じられなくなった主人公がアリアとのふれあいで他者との絆本当の強さを得ていく | ||
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犬夜叉(技・主人公の容姿・境遇) 緋弾のアリア | ||
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