ナイト・イン・ザ・ラッツ? 《完全版》
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第1話

 

 

 

昼休み、俺は廊下を我が物顔で歩く。

 

今は夏。七月十日だ。もうすぐ夏休み。

 

春の騎士団との死闘以来、騎士団は妙に静かで、その姿を見かけることも少なくなった。

 

嵐の前の静けさ、なんて言葉がぴったり当てはまりそうだ。

 

だがその前に、困ったことがもう一つあったんだ……。

 

それは先月から始まったことなんだ……。

 

「和也コラ! コラ和也!」

 

噂をすれば……。背後からヤツの声が聞こえる!

 

俺はあえてダルそうにゆっくり振り向く。

 

すると背後にヤツの姿はなかった。

 

「どこみてんの? こっちこっち!」

 

背後、つまり、俺が元々向いてた方から声がする。

 

振り返ればヤツがいた。

 

「一日ぶり! 和也! 今日はなんで待っててくれなかったの? ちょっと酷くない? 何で? 何? 何を企んでるの? あの美園ってヤツのせい?」

 

流暢に喋るツインテール、つり目の女子生徒は、東京 都(とうきょう みやこ)。あだ名は「ロンドン」。

 

いじられキャラの強がりキャラだ。

 

俺は「ローマ」と呼んでいる。

 

「ねえ和也!」

 

「悪い。今日はお前の声が聞こえない日なんだ」

 

「昨日は私の声があんたには理解できない言語に聞こえる日、一昨日は日本語を使っちゃいけない日……。それってどう思う?」

 

腕を組ながら見下した態度で俺にそう問うローマ。

 

もちろん答えなど出さずに俺はその場から立ち去る。

 

「どこ行く気? 生徒会室? みんながあそこを何て呼んでるか知ってる? 不毛地帯よ。美園、コケ娘、ストーカー女、裏切り者の風紀委員長、あれはぜーんぶ偽物の幻なんだからっ!」

 

何か叫んでるが、気にせず俺は突き当たりを曲がる。

 

 

アイツと出会ったのはさっきも言ったが六月の初旬。

 

無理矢理参加させられた町内を清掃するという名目のボランティアでの話だ。

 

俺が誰から見てもダルそうな様子で茂みでゴミを漁っていたら、ゴミ袋を持った一人の女子が俺を見つけるやいなや、猛スピードで走り寄ってきた。それがアイツ、都だった。

 

アイツはいきなり「アンタ、私ん家の玄関の前にある岩に似てるわね。私あの岩って大嫌いなの。そのダルそうな顔どうにかしてくれない?」と俺の胸に指を押し当てて睨んできた。

 

入学当初に会長と出会った時以来の衝撃だった。

 

 

俺は都に「御晩でございます」とふざけた感じで言ってその場を立ち去ろうとした。

 

だけど、都にまんまと足を引っ掛けられて転んでしまった。

 

起き上がろうとしたらアイツは立ち去った。

 

その次の日、彰造が二年A組の転校生がヤバイと騒いでいた。

 

俺は別に興味は無かったが、無理矢理連れていかれた。

 

A組の人だかりの中心にいた退屈そうに腕を組んだ人物、そいつが都だった。

 

都は俺を見つけるやいなや、「おはようニューヨーク!」とパッと笑顔になって俺に歩み寄ってきた――。

 

気が付けばアイツが俺の友人リストに勝手に名前を書いたんだ。

 

何がきっかけかもわからない。

 

だけど、会長は絶対に何がどうなってるのか分かってるはず。

 

でも、この一ヶ月、ずっと口を閉ざして話そうとしない。

 

 

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第2話

 

 

 

「会長! ちょっと聞きたいことがあるんですが」

 

ソファで寛ぐ会長に単刀直入に聞く。

 

「ロンドンのことならノーコメントよ」

 

相変わらずの即答。

 

「いいえ、会長のことです」

 

「何よ」

 

「都とは一体どういう関係なんですか?」

 

「しつこい奴ね。くうちゃんが待ってるわよ。さっさと寝ちゃいなさいよ」

 

今日は、俺も引き下がる分けにはいかない。

 

もうアイツには耐えられない!

 

「わかったわよ! あの子は私の義妹。あの子が実の子で私は里子。これで満足?」

 

さっすが会長。でも疑問が……。

 

「都は何で転校して来たんですか?」

 

「お嬢様学校に飽き飽きしたのよ。私とおんなじ」

 

会長も転校生なんだ……。

 

それはさておき……。

 

「――つまり、都は会長の弱点ってわけですよね?」

 

会長にしては詰めが甘い。弱点をポロリするなんて。

 

「何でそうなるのよ」

 

「だって、会長は俺と同じ孤児院出身。ということは、都はあそこの実の子なんじゃないですか? 会長も都には頭が上がらなかったりして〜……」

 

「和也ってホントバカ。あの子が私の顔を殴ったら、私はあの子の顎を蹴り上げるわ。ただの姉妹喧嘩として処理されるだけよ」

 

そう言うと会長は立ち上がり、そそくさと生徒会室を後にした。

 

あれは図星と見ていいのか?

 

俺は一つ溜め息を吐いて、枕研の部屋へ向かう。

 

ドアを開けると、くうちゃんがやはり部屋の真ん中に布団を敷いて熟睡していた。

 

壁にはやはり小泉さんが本を読みながら寄りかかっている。

 

放課後はこの光景がもう当たり前になった。

 

「ねえ小泉さん。会長の弱味、知りたくないですか?」

 

俺が話しかけると、いつもみたく本を読みながら返事するのかと思えば、今日は本を置いて俺に注目した。

 

どうやら気になるらしい。

 

だから俺は続ける。「あの付け入る隙もない軍艦女にも、東京 都(とうきょう みやこ)という名の弱点があるんです!」

 

「あんた死にたいの?」

 

とんだ返事だ。

 

「それって」

 

「美園は都のことが大好き。これ常識」

 

「そうですか? そんな風には見えないけど……」

 

「先輩に口答えしないの。先輩がそうって言ったらそうなの」

 

予想外の反応だ。

 

なんかテンション下がる。

 

「あんたも都とは仲良くしといた方が良いよ。後々良いことあるかもね」

 

「それは難しいです」

 

俺は適当に返事をし、部屋の隅に畳んであった布団をくうちゃんの横まで持ってきて、制服のまま広げた布団に横になり寝る体勢に入る。

 

「あ、そうだ忘れてた。図書委員長が呼んでたよ。図書室で待ってるってさ」

 

「なんで寝ようとした時に言うんですか……」

 

「聞こえたでしょ? 忘れてたの」

 

図書委員長が俺に一体何の用だ。

 

俺は起き上がり、図書室へ向かうべく、枕研の部屋を出る。

 

生徒会室では、ソファで栗山さんと浜田さんと広瀬さんが談笑していた。

 

この三人は仲が良い。

 

俺は「どうも」とだけ挨拶して通り過ぎ、生徒会室を出る。

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第3話

 

 

 

俺は図書室のドアを開ける。

 

室内には生徒の姿はなく。

 

居たのは部屋の隅で本を立ち読みしている髪の長い女子生徒。図書委員長だ。

 

「あの〜」

 

恐る恐る声を掛けると、図書委員長は「あ、和也くん」と反応して本を閉じて俺を見る。

 

「小泉さんに言われて来たんですけど」

 

「そうそう。浜田さんが生徒会室で待ってるそうよ」

 

「え?」

 

「さっさと来て。だって」

 

何だそれ。

 

半ば追い出されるようなかたちで、俺は図書室を出た。

 

少しイライラしながら俺は生徒会室に戻る。

 

室内のソファで相変わらず三人が談笑していた。

 

その内の一人、そう、浜田さんにターゲットを絞り、話しかける。

 

「あの〜浜田さん」

 

「あぁ、桐生くん。美園が呼んでたわよ。新聞部で待ってるって」

 

おい、嘘だろ。

 

なんだそれ。

 

「ど、どうも……」

 

悪いのは浜田さんじゃない。きっと会長だ。

 

そう自分に言い聞かせながら、俺は生徒会室を後にし、怒りを抑えながら部室棟にある新聞部室へ向かう。

 

 

部室棟の一階にある、元枕研部室と元生徒会室は先の死闘で崩壊し、立ち入りを禁止されている。

 

この学校は案外貧乏なのか、『キケン! 立ち入り禁止!』と書かれた粗末な規制線で仕切られていて、修復工事をする気配がまるで無い。

 

まるで記念にのこしてるみたいだ。忌々しい。

 

 

新聞部室のドアを開けると、会長と小泉さんが呑気にテーブルでお茶を飲んでいた。

 

テーブルを引っくり返してやろうと思ったが、会長のことだ、何か裏があっての三度手間なんだろう……。

 

「会長!」

 

俺が叫ぶと会長はお茶を引っくり返しながら大慌てで俺まで駆け寄り、俺の口を抑えて強引に室内に引き込んだ。

 

これはきっと、騎士団絡み……だな。

 

「あんたってホント――どうしようもない尻穴野郎ね」

 

「会長がちゃんと説明しないからですよ! 今回は何なんですか!」

 

「まぁ座んなさいよ」

 

そう言われて俺が席につくと、会長は向かいの席に座った。

 

お茶はどうやら小泉さんが拭いてくれてたみたいだ。

 

「あんたって、ニューヨークのこと、好き?」

 

「ニューヨークって」

 

「都のことよ」

 

あぁ、アイツか。

 

「ニューヨークって、俺が都から呼ばれてるあだ名なんですよね。俺は都をローマって呼んでますが」

 

「うるさい野郎ね。私の質問聞いてた?」

 

「はい、大嫌いです」

 

「何で?」

 

何で? 何でって言われてもなぁ〜……。

 

「まぁ答えなくて良いわ。それより、今後何があっても、あの子のこと、好きにならないって誓って」

 

会長はいつも急だ。

 

「何があっても?」

 

「だからそう言ってるじゃない」

 

会長からの電話は、ワンコールで出ないと、ちょっと不機嫌そうになる、って最近気づいた。

 

「『何があっても』、の『何』が気になるんですよ!」

 

「口答えする気?」

 

会長は立ち上がって俺を指差す

 

「そう言ってるつもりですが?」

 

「はぁ〜……」

 

会長は崩れ落ちるように椅子に座り溜め息をつく。

 

会長の弱点って、都じゃなくって、口答えだったりするのかな。

 

「和也くん。私がさっき言ったこと、覚えてる?」

 

俺と会長の不毛な言い合いを見かねたのか小泉さんが割って入る。

 

「すみません、覚えてないです……」

 

「じゃあ、もう一回言うからよ〜く聞いてよ。美園は、都のことが大好きなの」

 

「つまり……レズってことですか?」

 

「そういうことじゃないわよ!」

 

会長がテーブルを叩く。

 

それにしても、この二人にしては随分回りくどいな……。

 

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第4話

 

 

 

 

翌日。

 

昼休み俺が廊下を我が物顔で歩いていると、背後から「和也コラ! コラ和也!」と都の声がする。

 

いつもは無視するが、今日は振り向いてやった。

 

「あら、珍しいわね」

 

都が驚いた顔をする。

 

「都は知らないだろうけど俺は――」

 

「それより私は今日、あんたに言いたいことがあって呼び止めたのよ!」

 

ジョークぐらい最後まで言わせてくれよ……。

 

「言いたいこと?」

 

「これを読みなさい!」

 

そう言って都はスカートのポケットから手紙を取り出すと、俺の胸に押し付ける。

 

そして「いい? 絶対に読むのよ! じゃないと退学よ! それどころか国外追放よ!」と念をおす。

 

俺が手紙を受けとるやいなや、都は颯爽とその場を立ち去った。

 

アイツは確か、言いたいことがある、と言っていた。

 

まさか、この手紙のことか?

 

なんて滅茶苦茶な女なんだ。

 

俺がこいつと付き合わなきゃいけない?

 

会長のために?

 

 

 

俺はその場で手紙を開けた。

 

『放かご、体く館うらで待ってまふ』

 

なんて稚拙な文字なんだ。誤字も酷い。

 

他人に見せる字じゃない。

 

記者が手帳に自分だけが分かるような字で書く奴だよこれじゃ。

 

でも、これはいい素材だ。

 

これを皮肉って、会長が言ったように都から嫌われてやろう。

 

 

放課後、俺は彰造の誘いを振り切って、俺は体育館裏へ向かった。

 

どんな用件かはもちろん知ってる。めんどくさいことも。

 

体育館裏をそっと覗いてみると、珍しく緊張してるのか浮かない顔の都がいた。

 

ここは俺も芝居をしておいた方がいいのかな?

 

俺はわざとらしいぐらいおずおずと都の前に出てる。

 

俺が、何か用? と尋ねるより前に、俺を見つけるなり都は「来たわね!」と俺を指差す。

 

会長の奴、決闘と告白を間違えたんじゃないだろうな……。

 

「せっかくの女子からの呼び出しなんで」

 

「よく言うわ!」

 

うるさい女だな。

 

「あんなバカみたいな字で書いた手紙で俺をこんな所に呼び出して、一体何の用?」

 

小泉さんの話だと、体育館裏は学校でも随一の危険地帯らしい。

 

理由はいつもの感じで教えてくれなかったけど。

 

「私はタイピングは得意でもペンは苦手なの!」

 

「それより早く用件を言ってよ」

 

俺がそう言うと、都は一瞬だけ下を向いた。

 

顔を上げ、キリッと俺の目を見て、そして指をさす。

 

「あんた、騎士団に入りなさい!」

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第5話(終)

 

 

 

「さぁ! どうなの!」

 

都が叫んだ途端、背後から物音がして振り返ろうとしたが、都の背後の茂みから何者かが飛び出した。

 

あれは、松田さん!?

 

松田さんが、物凄い形相で俺に向かってくる!

 

「和也くん!」

 

背後から小泉さんの声がした。

 

振り返ると、小泉さんも猛スピードで突進してくる。

 

だけど松田さんも小泉さんも、俺に向かってきてるわけではないようだ。

 

路線が合ってない。

 

と思った次の瞬間、松田さんが小泉さんを蹴り飛ばした!

 

小泉さんは当然のように「きゃあ!」と女々しい声を上げて吹っ飛ぶ。

 

それを見届ける猶予も与えず、俺は何者かに押さえつけられた!

 

首を捻って確認すると、俺を押さえていたのは都だった!

 

まさか、俺はまた、騙されて生徒会(レジスタンス)と騎士団の対決に巻き込まれていたのか!?

 

「気分はどう?」

 

松田さんが嫌味をタレる。

 

「ワクワクしてますよ……会長が助けに来て、お前らを一蹴するのを想像すると!」

 

「口だけは達者なんだね」

 

「……俺を捕まえて、どうしようってんだ!」

 

「もう、簡単な話。あんたが騎士団に入ればいいの!」

 

松田さんは不適に笑いながら俺を指差す。

 

俺は昨日のことを思い返す。

 

あの三度手間は、恐らく騎士団のスパイを遠ざけるための手段だったんだろうけど、こうなったってことは、完全にアレは意味無かったよね?

 

会長は完全に騙されていたんだ。

 

都は、元々騎士団と手を組んでた。

 

俺は知ってたのに! アイツは反生徒会だってことは。

 

何故、会長にはその情報が行き渡ってなかったんだ!

 

アイツは会長の奥の奥にある良心を利用した最低な奴だ!

 

「騎士団には入りませんよ」

 

「入った方が良いことあるのに……」

 

都が俺を押さえつけながら言う。

 

「俺は反騎士団だ! 無理矢理入れたって、すぐに反逆して中から壊してやる!」

 

俺が叫ぶと、松田さんはしゃがみこんで俺を見下ろす。

 

「あんた一人の力で何が出来るの?」

 

「ネコパンチをお見舞いしてやるっ!」

 

俺は叫ぶと同時に、都を振り払って立ち上がる。

 

すると、何を思ったのか、二人とも俺から離れる。

 

「俺が怖いか!」

 

調子に乗って叫んだ直後だった!

 

上から大量の水が降ってきた。

 

水が止んだと思ったら、頭に衝撃を感じる。

 

頭に何かが落ちてきた。

 

俺は跪いて、頭をおさえて、落ちてきたものを確認する。

 

これは……タライ?

 

「はいOK〜」

 

この声は……会長?

 

俺が顔を上げると、目の前にはムカつく笑顔の会長がいた。

 

「和也にしてはよくやったわね」

 

「会長……何なんですかこれ」

 

「決まってるじゃない。ドッキリよ」

 

ドッキリ?

 

 

「松田さんは、騎士団の人なんじゃ……」

 

「全く、彼女の顔、ちゃんとじっくり見た?」

 

「え?」

 

俺は松田さんの顔をよーく確認する。

 

「ひ、広瀬さん!?」

 

「あったり〜」

 

松田さん風広瀬さんが小さく手を振る。

 

「特殊メイクよ。普通に体育館裏に呼んだんじゃ、つまらないから、あえて色々手段を踏んだのよ。あんたに無駄な想像をさせるためにね」

 

会長は俺を指差す。

 

畜生。

 

会長は一体、俺をどうしたいんだ!

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あとがき

 

 

タイトル「ナイト・イン・ザ・ラッツ?」は、アメリカのロックバンド、エアロスミスのアルバム「ナイト・イン・ザ・ラッツ」からそのまま持ってきたものです。

 

「小説家になろう」で低迷期真っ只中だった頃に書いたのが、ちょうどこの章でした。

 

 

 

説明
生徒会長は美少女! ……でも、頑固で口汚くて悪賢い。そのせいで学校中は敵だらけ。

平凡な高校生・桐生和也が主人公の座を脅かされながらも、会長に捨てられないために偽生徒会役員として大奮闘!(活躍はしないけどね)

いつかアイツの口に石鹸を突っ込むんだ──!

いつも寝てる呑気な娘や、センスの無い偽名で学校生活を送ってる娘、火星からの留学生などなど、様々な刺客が彼の前に立ちはだかる!


「オアシスがかれるほど騒ぎたい!」の第3章まとめ。
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