真・恋姫†無双異聞〜皇龍剣風譚〜 第二十七話 夏のヒーロー祭り! 華蝶連者 対 仮面白馬・倍功夫! 二幕 |
真・恋姫†無双異聞〜皇龍剣風譚〜
第二十七話 夏のヒーロー祭り! 華蝶連者 対 仮面白馬・倍功夫! 二幕
壱
「むむむ……」
「…………」
「むむむ!」
「…………」
「む・む・む!!」
「……はぁ……何なんですか、星さん?」
爽やかな風が吹き込む執務室で竹簡に目を通していた諸葛亮こと朱里は、来賓用に備え付けられた卓の上に酒瓶を置いてワザとらしい唸り声を上げている趙雲こと星に、溜め息混じりに問い掛けた。
「おぉ、軍師殿!気を散らせてっしまった様で済まぬな!」
「ワザとらしいのを隠しもしないんですから……」
朱里は、半ば諦めた様に微苦笑を浮かべ、自分の茶を入れる為に立ち上がった。どの道、今日の仕事は一段落したし、星と言う人物は、話を聞くまでは帰りはすまい。
「いや、実はな、主の事なのだが……」
「また、ご主人様の寝室やら執務室やらに、仮面を置いて勧誘しているらしいですね……」
朱里は、茶を入れた愛用の湯呑みを両手で持って席に着きながら、言葉を継いだ。
「そうなのだ!主の通りそうな場所、ありとあらゆる所に仮面を置いているのだが、主は箱を見るなり、全力投球で放り投げてしまわれる……まったく、((番度|ばんたび))取りに行く私の身にもなってもらいたい!」
自前の杯を煽りながら愚痴を零す星に対して、朱里は目頭を揉む位しか出来なかった。
「そんなの、直接お渡しすれば良いじゃないですか……」
「軍師殿の言とは思えぬな。そんな事をすれば、主に警戒をさせてしまうではないか」
「もう十分、されてますって……」
「な……なんだと……!?」
朱里は、心底驚いた様子の星を見て溜め息を吐くと、卓の上の焼き菓子に手を伸ばした。甘い物でも食べなければ、長々とこの(色々な意味で)猛者の相手などしていられない。
特に、話題が“華蝶仮面”ともなれば尚の事だ。
「あんな事するの、星さん位しか居ないじゃないですか……」
「いやいや、恋や白蓮殿だって、するかも知れんではないか?」
「恋ちゃんは、そんな回りくどい事しませんよ。直接、ご主人様にお願いに行くならありえると思いますけど。それに、白蓮さんが、ご主人様に一切、((気取|けど))られずに、行く先々に先回りして仮面を置いておくなんて事をして顔に出さないなんて、出来ないと思いますよ?消去法で考えれば、自ずと星さんに辿り着きます」
「むむむ……」
朱里は、どうやら今度は本気で唸っているらしい星を尻目に焼き菓子を食べ終えると、上品に茶を啜ってから、再び口を開いた。
「最も、そんなに理論的に考えなくたって、直感で星さんだって分かると思いますけどね。華蝶仮面の正体を知っている人は」
「そうなのか!?」
「そうですよ……もう、諦めたら良いじゃないですか。ご主人様もお忙しいんですし、何より、ご本人が嫌がっておいでなんでしょう?」
「いやしかし、話に聞いた主の暴れ振り、このままにして置くには余りに惜しい……確か、今日は主は、河川整備の視察に赴かれておいでであったな?」
星が、寄せていた眉を緩めてそう尋ねると、朱里は、新たに手に取っていた焼き菓子を一齧りしてから頷いた。
「はい。蓮華さんと、呉の軍師の方々とご一緒に」
「また、ご公務が増えて来たな……」
「……えぇ。ご主人様ご自身が立案された計画も沢山ありますし、そう言った案件は、ご主人様に随時ご指示頂かないと、分からない箇所も多いですからね……」
「むぅ、このままでは、主を華蝶連者に引き込む暇が無くなってしまう……!!」
「心配するのはそこなんですね……」
朱里が、薄紅色の羽扇で口元を隠しながら苦笑いを浮かべると、星は杯をぐいと飲み干してから立ち上がった。
「こうなれば、街に出て新たな策を考えねばならん!朱里、失礼するぞ!」
「―――もう、星さんてば。どうせ、良い天気だから外で呑みたくなっただけのクセに……」
朱里はそう呟いて、星の出て行った扉を微笑みながら見詰めて席を立ち、窓辺に歩み寄って、初夏の空を仰ぐのだった―――。
弐
「中々、良い具合に進展してる様で、安心したよ」
北郷一刀は、愛馬“龍風”の背の上で、轡を並べる周瑜こと冥琳を見遣り、満足そうに言った。冥琳は、穏やかに微笑んで頷きながら、一刀の方に顔を向ける。
「あぁ。お前がもたらしてくれた、((蛇籠|じゃかご))のお陰だ。造るのも破損箇所の修繕も簡単で、尚且つ早い。これならば、小さい規模でより多くの用水路を同時に引く事が出来きて、田畑も潤うだろう」
「しかも安価ですから、定期的に点検しながら脆い部分を随時、取り換えれば、大規模な修繕工事も殆ど必要ない。素晴らしい発明です〜♪」
冥琳の横で馬に揺られていた陸遜こと穏が冥琳に続いてそう言うと、その隣で手綱を握る呂蒙こと亞莎も、興奮気味に、何度も大きく頷いた。
「そうですね!しかも、近場にある岩や石を砕いて中詰めにするから、周辺の環境を大きく変えてしまう危険もありませんし、凄いです!」
蛇籠とは、河川工事に於ける日本古来の護岸に使用される工法の事である。竹を用いた円筒上の編み籠の中に、砕いた岩や石を詰め込み、積み上げて使用する。
その名の由来は、川には蛇や龍の伝承が多い事と、編み上げた籠の網目の形が蛇の鱗を連想させる所から来ていると言うのが一般的だ。
「ふふ、皆に褒めて貰って良かったわね、一刀」
冥琳とは、一刀を挟む様に反対側で馬に乗っていた蓮華が、自分の事の様に嬉しそうな顔でそう言うと、一刀は照れ臭そうに頬を掻いた。
「いや、なに……別に、俺が考えた物って訳じゃないしな……ともあれ、蛇籠と“聖牛”を併用すれば、沢山の用水路や河が引ける様になるし、氾濫も減るだろ。そうなれば、人の住める所も、開墾出来る場所も増える……良い事だよ」
「聖牛……確か、木を組み合わせるだけで造れる装置だと言ったな?」
蓮華の護衛として付いてきた甘寧こと思春が、珍しく自分から一刀に水を向けた。江族の出身であり、水を知り尽くす思春にしても、一刀の持ち帰った治水の知識は、興味の引かれるものであるらしい。
「そうだよ。俺の生まれた国で昔活躍した武将が造った物でね。急流の河川の水衝部に幾つか設置すれば、水を堰き止める事無く減勢、導流効果を期待出来るんだ」
「確かに、あの形は、牛さんの角にも見えますね」
一刀の答えに、亞莎が微笑んで相槌を打つ。
「あぁ。それに、今、軍師の皆や真桜に協力して貰ってる、更に蛇籠に適した材質の網が完成すれば、もっと治水が楽になると思うよ……少し、楽観的過ぎるかも知れないけどさ」
「ふふ、これだけの要素を提供して貰ったのだ。此処からは、我等が奮起して見せる番さ。些事は任せておけ、北郷」
「あぁ。勿論、信頼してるさ、冥琳」
一刀が冥琳の言葉に頷いて目を合わせると、何処となく穏やかな空気が、二人の間に流れる。その様子を見ていた蓮華が、ワザとらしい咳払いをすると、場を仕切り直すような口調で話題を変えた。
「そう言えば一刀。最近、お酒造りも始めたと雪蓮姉さまに聞いたけど、本当なの?」
「ん?あぁ、酒に含まれている成分を医療用に使う為に、蒸留装置を造ってもらったからね。元々、酒飲み連中には、装飾具なんかよりそっちの方が良いだろうと思って、造り方を覚えて来たんだよ。で、良い機会だから、言い方は悪いけど、ついでに造ってみようかな、ってね」
「ふふっ、姉さまと祭が、嬉しそうに話してたわよ?『天の国の酒がしこたま呑める』って」
「確かに上手く行けば、それこそ色んな物から酒が出来るからな。各種焼酎に、ブランデーにコニャック、ウイスキーにラム、アクアビット……あ、林檎があるから、カルヴァドスも出来るか」
一刀が指を折って酒の名前を上げて行くと、冥琳が困った様な顔で溜め息を吐いた。
「やれやれ……これはまた、二人の酒量が劇的に増えそうだな」
「はは。心配ないよ、冥琳。殆どの種類の酒は、何年も樽の中で熟成させないと美味しくならないから。それに、今回造った蒸留器の殆どは医療用の酒の為の物だから、俺が皆の分の酒造りに使うのは、極一部だしな」
「良かったです〜。もしもそんなに沢山の種類のお酒が一気に市場に出回る様な事にでもなったら、呉の国庫が空っぽになっちゃうかも知れませんからね〜♪」
穏の、冗談とも本気とも取れないそんな言葉に、亞莎が至極真面目な顔で頷いた。
「はい。正直、祭様は兎も角、雪蓮様は、ご自分が使える分のお金は全部つぎ込む―――位の事はなさりそうですもんね……」
「亞莎、冗談でもやめて……考えただけで頭が痛くなってきたわ……」
「も、申し訳ありません、蓮華様!私、そんなつもりは……!」
あたふたと謝る亞莎に、蓮華が微苦笑を浮かべながら手を振る様子を見ていた冥琳が、愉快そうに笑って言った。
「ご心配は無用です、蓮華様。万が一そうなったら、私がこってりと二人を絞り上げて、使った金の分はきちんと働かせますから」
「うぅ……その前に思い止まらせる、と言う選択肢は無いの?冥琳……」
「さて……祭殿ならば、良くも悪くも剛毅な御方ですから、事前に察知出来るかも知れませぬが―――雪蓮の奴は、事、酒と馬鹿騒ぎ絡みともなると、途端に尻尾を見せなくなりますからなぁ……」
「馬鹿騒ぎ―――か」
「ん?どうした、北郷」
思春が、唐突に黙り込んだ一刀に向かって、怪訝そうに片眉を上げながらそう尋ねると、一刀は微笑みを浮かべて、首を振った。
「いや、何でもないよ。思春。そう言えばさ、最近、明命と一緒のとこを見ないけど、何か別の任務で動いてるのか?」
「いや、そう言う訳ではないが……何やら、個人的な用事があるそうでな。暫くの間、遠出と長期の任務からは外して欲しいと頼まれたので、そうしているだけだ。明命は今まで一度のそんな事を言った試しが無いし、ちょうど、後輩達に経験を積ませる良い機会だと思ってな」
「ふ〜ん、そうか……なぁ、蓮華」
「え、何、一刀?」
「シャオも最近、あんまり見かけないけど、どうしてるんだ?」
一刀に突然、水を向けられた蓮華は、少しだけ困惑した表情を見せながらも、一刀の問いに答える。
「小蓮も、ここのところ、よく出掛けている様よ。元々、何も言わずに遊びに行ってしまう事も多いから詳しくは分からないけど、最近は、ちゃんと日暮れまでには屋敷に帰って来ているし、勉強もキチンとしている見たい。ね、穏?」
「はい〜♪小蓮様、最近は何だか気持ちが悪い位、ちゃんとお勉強会に来てくれますし、お話も聞いてくれるんですよ〜」
「ふぅん……シャオがねぇ……明命と一緒じゃないんだ?」
「えぇ……護衛を頼んだ時以外は、余り一緒に居るところは見掛けないけれど……亞莎、あなたは、明命とは仲が良いわよね?どうだった?」
「え!?えぇと、私が見掛けた時には、一人で出掛けて行ったみたいですけど……でも、一刀様、そんなにお二人の事が気になるんですか?」
「ん?いや……まぁ、そんな訳でもないけどさ―――って、思春さん!!?」
一刀は、突如、自分の馬の背から龍風に飛び乗り、後ろから首筋に愛刀、((鈴音|りんいん))の刃を添わせる思春の名を、冷や汗を掻きながら呼んだ。
「北郷、何か思うところがあるなら言ってみろ。貴様が隠し立てしていたせいで小蓮様と明命にもしもの事があったら―――分かるな?」
「嫌だなぁ、思春さん。俺が、二人の命に関わる様な事を黙ってる訳ないじゃないかぁ……ははは……」
一刀が、恐る恐る、背中から回されている刃を親指と人差し指で摘まんで、僅かばかりの抵抗をしていると、蓮華が、困った様に笑った。
「ふふっ、ご免なさいね、一刀。思春、貴方に中々逢えないものだから、構って欲しいのよ」
「な!?蓮華様、違います!私は、“これ”などに……!!」
「いや、“これ”ってお前……」
「照れるな、思春。そんなに真っ赤な顔をして、満更でもないのだろう?」
「冥琳様まで!?」
「うわ!?思春、やめろ!力入れるなって!切れる!切れるッ!!」
思春は、両手の四本の指だけで鋭い刃を支えている一刀の襟首を引っ掴むと、肩越しに低い声で囁いた。
「良いか、北郷。私は、決してお前に構って欲しいなどとは思っていないからな!」
「はい!十分に承知してますです!!」
「よし、私は、決して顔を赤くしてなどいない……良いな!」
「どうせ、後ろに居るんじゃ見えないでしょうが!!」
「……良いだろう」
思春は、漸く平静を取り戻した声でそう呟くと、一刀の首から鈴音を遠ざけ、鞘に収めた。
「あぁ……死ぬかと思った……」
「ふん、軟弱者め」
「いや、硬かろうが柔らかかろうが、首筋に刃物突き付けられたら怖いでしょうよ……で、思春さん」
「なんだ」
「あの……何時まで、こちらに乗っていらっしゃるので?」
「貴様……迷惑だとでも?」
「いやいやいや、滅相もない!!ただ、その……乗ってるなら、前に来ません?」
「なっ!?何故、私が貴様に抱き抱えられながら馬に乗らねばならん!!」
「だって、ほら……この体勢だと、その……当たるって言うか、何て言うか……」
「はぁ?」
「いや、ほら―――」
一刀が、言いたい事を察してくれない思春に溜まりかねて、少し強めに背中を後ろに押すと、肩甲骨の下辺りに、“ふにっ”と、なんとも言えない素敵過ぎる感触が伝わってきた。
「〜〜〜〜〜〜!!?」
「ね?」
「ほ、ほ、ほんご!!き、き、き、貴様!!」
「だから、前に来て貰った方が、俺の精神衛生上とてもありがたいと―――ってぐ、苦しい!?思春さん、苦しいよ!?」
思春は、一刀の首にガッチリとチョークスリーパーをキメながら、大声を上げた。
「やかましい!このド変態の色情魔めが!!貴様なんぞ、締め落としてやる!!」
「なんでよ!?俺が本当に色情魔だったら、黙ってニヤニヤしてるつーの!!親切に教えてやったろ!?……あ、今度は後頭部が天国♪」
「な〜〜〜〜!?北郷!おーまーえーはー!!」
「うぉ!?思春、それ以上はホントに((厄場|ヤバ))い!落ちる―――マ……ジで……落ちるか……ら!」
「うふふ〜♪何だか、あの光景を見てると、漸く日常が戻って来たな〜って思えますね〜」
穏が、龍風の上でじゃれ合っている(?)二人を見詰めながら、ほのぼのとした口調でそう言うと、冥琳と蓮華も、頷きながら同意した。
「そうだな。あれでこそ、孫呉の日常―――だな」
「えぇ。何だか、懐かしい感じすらするわね」
「ちょ、皆さん!お止しなくていいんですか!?このままじゃ、一刀様が本当に落とされてしまいます!!」
蓮華は、一人慌てる亞莎に優しく笑いかける。
「心配いらないわ、亞莎。思春だって、流石に命までは取りはしない―――あ、落ちた」
「おぉ、見事に落ちたな」
「ホントだ〜。気持ち良さそうに逝ってらっしゃいますね〜♪」
「えぇ!?皆さん、何でマッタリ眺めてるんですか!か、一刀様〜!お気を確かに〜ッ!!」
参
「うぅ……酷い目に―――って、何だか((慨視感|デジャヴ))を感じるのは何故だろう?」
「一刀、大丈夫?」
蓮華が笑いを堪えながらそう言うと、一刀はムッツリとした顔で頷いた。
「大丈夫じゃなかったら死んでるよ……皆も、止めてくれれば良かったのにさぁ……」
「御免ね。だっておもしろ……ゲフンゲフン、一刀だって悪いのよ?あんな風に、思春を怒らせるから―――」
「今、面白かったって言ったな!?」
「い、い、い、言ってないわ!気のせいよ、きっと!!」
「嘘だぁ!絶対にい―――」
「北郷……衆目のある所で痴話喧嘩などよせ―――蓮華様も、お声が大き過ぎます」
「うぅ……御免なさい」
「……ごめん……なさい……」
冥琳に窘められた一刀と蓮華は、揃って項垂れながら小さな詫びの言葉を口にした。何故か、謝った蓮華の顔が嬉しそうだったのは、『痴話喧嘩』と言うキーワード故であろう。
三人は今、都に戻り、東地区の繁華街にある飯店の一室で、遅めの昼食を摂っている所だった。穏と亞莎は、興奮状態の思春を(無理矢理)連れて、視察の成果を纏める為に先に城に戻って行ったのである。
丁度、時間帯的に空いていたお陰で、仕切りのあるBOX席の様な卓を取れたのだが、流石に仕切り程度では、声を完全に遮る事など出来る筈もない。一刀は、改めて声の大きさに注意して口を開いた。
「でもさ、こう言っちゃ悪いけど、穏と亞莎が思春を連れ帰ってくれて良かったよ。この前、春蘭にも追い回されたけど、最近、何故か当たりがキツいんだよなぁ……俺、何か悪い事したかなぁ……」
「ふッ……それは仕方がなかろう。元々、武官連中は口より先に手が出る様な奴等が多いのだ。構って欲しい時は、腹を見せたりせずに、飛び掛かって甘噛みをするに決まっている」
冥琳が、当たり前の様にそう言うと、蓮華も面白そうに笑って頷いた。
「そうよ、一刀。愛情表現なんだから、頑張って受け止めなさい。三国一の種馬なんでしょ?」
「うぅッ……愛って耐える事なのねッ!!」
「……北郷、気持ちが悪いぞ……っと!?」
冥琳が、何故か女言葉で泣き崩れる一刀に冷ややかなツッコミをいれるのと同時に、((俄|にわか))に地面が振動し、卓の上の茶器が、カタカタと小刻みに震え出した。
「地震!?他の客を避難させた方が良いかしら?」
「いや―――待て、蓮華。この規模の地震にしては、揺れが長過ぎる。それに……何か、聴こえないか?」
一刀は、席を立とうと中腰になった蓮華を片手で制すると、耳を飯店の入り口に向けて押し黙った。蓮華と冥琳は、一瞬、怪訝な表情を浮かべて目を合わせるものの、一刀の真剣な様子を見て、同様に耳を((欹|そばだ))てた。
『お〜っほっほっほ!お〜っほっほ!!さぁ、派手にやっておしまいなさい!!』
『うわぁ!むねむね団だ!むねむね団が出たぞぉ〜!!』
『あいつら、成都にしか出ないんじゃなかったのか〜!!』
『華蝶仮面はここにも来てくれるのかよ!?』
「…………」
「…………」
「…………」
「……なぁ、北郷よ……」
「……南大門?冥琳」
「お前、よりにもよって、何故、一番放って置くと厄介なのを放って置いたのだ?」
「あいつらの場合、放って置こうが置くまいが、やらかす時にはやらかすからさぁ……」
「むぅ……」
「ちょっと二人とも、何を冷静に話しているの!?早く行って、状況を把握しないと!!」
蓮華が両手で卓を叩いて席を立つと、冥琳も眼鏡を押し上げながら、小さく頷いた。
「致し方ありませんね。さぁ、行こう、ほんご―――」
「やだ」
「は?」
「え?」
蓮華と冥琳は、それぞれが席を立とうとした格好のまま動きを止めて、驚きの表情で一刀を見詰めた。北郷一刀と言う男は、本来なら、真っ先に飛び出して行って、事態を収拾しようと行動する筈だからである。
「何を小蓮みたいな事を言ってるの、一刀!?」
「だって、嫌なんだもん!」
「お前は、この街の治安維持の責任者だろう?」
「い・や・だ・ね!!」
「一体どうしたと言うの、一刀?」
「訳があるなら、話してみろ」
蓮華と冥琳は、野次馬をする為か、続々と表に出て行く他の客を気にしながら、卓に((齧|かじ))り付いて動かない一刀に、そう問い掛けた。
「だって、フラグがビンビンに立ってんじゃん!このまま行ったら、絶対、後戻り出来なくなるし!華蝶連者に任せとけば大丈夫だって!!」
「また、訳の分からん事を……」
「……一刀!」
「だからいや―――ひぇえ!?」
一刀は、蓮華の鋭い声に言い返そうとして顔を上げ、慌てて卓から身を引いた。蓮華の腰から抜き放たれた“南海覇王”が、一刀の鼻先を一閃したからである。
「王たる者、国を混乱に陥れる者には、先頭に立って、断固たる態度で臨まなくてはならないわ―――行くの?行かないの?」
「い……行きます!行かせて頂きます!……うぅ……会計してくる……」
一刀が、真っ二つになった卓を恨めしげに見遣ってから会計に向かうと、その背中を見ていた冥琳は、苦笑いを浮かべて、南海覇王を鞘に納めている蓮華を見遣った。
「お見事でした、蓮華様」
「止してよ、冥琳。でも一刀、どうしてしまったのかしら?らしくないわ……」
「さぁ……それは、行けば分かるでしょう。それから―――」
「何かしら?」
「その卓の修理代は、蓮華様がお支払になって下さいね?」
「へ?……あ……」
蓮華は、冥琳の黒手袋に包まれた細い指が指した、ものの見事み真っ二つになった卓を見て、顔を蒼くした。
「あの……こ、これは、一刀を奮起させる為に仕方なくやった事だし―――」
「蓮華様……」
「だからほら!一刀に払って貰うのが筋じゃない!?」
「れ・ん・ふ・ぁ・さ・ま」
「……はい……」
「王たるもの、自分の為した事の責任は、必ず取らねばなりませぬ」
「はい……うぅ……」
蓮華は、冥琳の言葉に渋々と頷くと、悲壮な覚悟を秘めた背中を冥琳に向けて、既に一刀が清算を始めている会計所に、トボトボと歩き出すのだった―――。
あとがき
はい!今回のお話、如何でしたか?
今回は、クライマックスに向けて場を整える為と、出来るだけ全勢力の恋姫をバランス良く登場させようと言う事で、こんな感じになりました。それに、華蝶連者とむねむね団のバトルシーンはコメディを前面に押し出す事になるので、文章もそれに沿った物にしなければなりませんから、他の要素は、出来るだけここまでの段階で消化しておきたかったと言う事情もありますw
因みに、中盤のお酒にまつわる会話は、他のエピソードへのちょっとした伏線にもなっています。勢いのある内に、続きを投稿したいと思っておりますので、もう少しお待ち下さいね!
次回からは、いよいよ華蝶連者とむねむね団が大暴れ!……の予定です。
では、また次回、お会いしましょう!
説明 | ||
どうも皆さま、YTAでございます。 いよいよ、今回は一刀さんが、徐所にのっ引きならない事態に追い込まれて行きますw では、どうぞ! |
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コメント | ||
特に、魏・呉編では、仕えている君主に対してもそうですから。リアルに考えたら、不敬罪で首チョンパですもんw思春さん、やり過ぎですかねぇ?原作でも同じ様なシチュがあったので、書いている時はさほど気にしなかったんですが…。出来れば、笑って頂けたら嬉しいです。作者がギャグで書いている以上は、思春さんの手元が狂う心配はありませんから(笑)(YTA) 西湘カモメさん 作者としては、三年ほど会って居なかった友人に、「いやぁ、俺、十三歳、歳取っちゃってさ」と言われても、現実感湧かないと思うんですよ。作中では明確な理由がありますけど、実際にはありえない事なのでwそもそも、一刀君からして、年長者に対して呼び捨て&タメ語で、かなり失礼ですしw(YTA) それから、冥琳や思春の一刀を呼ぶ時の「お前」呼ばわりは、一寸違和感が。一刀は三十路で彼女達は二十代半ばで、幾らなんでも年長者に対する言葉使いではないと思う。まあ、一刀があの頃と同じように接してくれと頼むのだろうけどさ。思春の一刀に刃を突き付けるのは明らかにやり過ぎだ。万が一手元が狂ったら、どう責任をとる積りなんだか?ツンデレにも程がある。(西湘カモメ) えと、笑っていいのだろうか?今回の一刀の扱いが何か悪いような気が・・・。思春が一刀に刃を突き付けている所を龍風が察知して、思春を蹴り飛ばされれば良いのにと思ったり。いよいよ次回は星の涙ぐましい?努力が実って、仮面白馬・倍功夫登場?だね。華蝶仮面とタッグを組むのか?待て次回?(西湘カモメ) |
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