第十一話〜ウェイノン修道院〜 |
結局のところ、私はスキングラッド伯との夕餉の席で私達がどういう存在なのか、彼に話すこととなった。
否、話さざるを得なかった。
話を聴き終えたマーティンはかなり悩んでいるようだったが、どうにか彼は彼なりに折り合いをつけたようで、その後は何も言わなかった。
伯爵に用意してもらった馬車で、ウェイノン修道院のあるコロル付近まで運んでもらえることとなり、旅の行程をだいぶ短縮することができた。
長い道程の半分以上を馬車に任せられるというのはとても快適なものだったし、マーティンとも多少なりとも交流を持つ時間が手に入ったのは僥倖だといえるだろう。
いや、この場合は交流の時間が減ったと考えるべきなのだろうか?
それほどお互いに立ち入った話をしたわけではないが、行動をするに支障がない程度には信頼を得ておきたいところだった。
それがうまくいったのかは、分からないが。
道中に襲撃されるといったこともなく、修道院へと続く道の間に存在する、砦の前で下ろしてもらうことにした。
修道院まで直接送ってもらわないのは、こちらの安全を考えた上でのことだ。
帰路で御者が襲われないとも限らない。その時に私達がどこまで行ったのかわかっても、その後の行動を追うのに時間がかかるようになるはずだ。
マーティンはこの先の山道を見て小さくため息をついていたが、覚悟を決めたようだった。
一度、帝都付近にある宿、ワネット亭で昼を過ごしていたため、まだ夜といっても早い時間である。
夜の匂いと風が清々しい。夜明けもまた格別だが、私はこの夜の深まっていく時間が好きだった。
「ここから山道が続くからの、疲れたら遠慮なく言うことじゃ」
私が最初、追い剥ぎに遭遇した砦の前で馬車を見送ってから、マーティンへと告げる。
彼はといえば、慣れない旅の疲れが溜まってきているのだろう、起きてからそれほど立っても居ないというのにあまり優れた表情ではなかった。
最も、昼夜逆転している生活が体に堪えているのかもしれないけれど。
「ああ、できる限り早くウェイノン修道院へ……ジョフリに会いに行こう」
そう言って彼は山道を歩き出した。
私も隣について共に歩く。
ジョフリに会ったとして、この旅がそれで終わるという気はしないけれど、それはあえて黙っておくことにした。
ここで脱力されても困るし、そもそも彼がそこまで思慮の浅い男にも見えないからだ。
現状が、敵を掻い潜っての旅という側面がある以上、ジョフリに会うという目的で完結するものだと考えるのは短慮だろう。
そこから更に安全な場所へと移動が発生するはずだ。
直近の場所ではコロルの伯爵に庇護を求めるあたりだろうか?
とりあえずそういった可能性を念頭に入れておくことにする。
「そ、ソマリ……ちょっと、もう少し……ゆっくり……」
「……え?」
気づくとマーティンが後ろから必死に私を追いかけてきていた。
それは早歩きと言うよりは小走りに近い。
山道は思ったよりも景色が変わっており、彼が私を必死に追いかけていたところから、自然とかなりの早足になっていたのだろうことは容易に想像がついた。
立ち止まった私にあわせて立ち止まり、必死に呼吸を整えているマーティンが落ち着くのを待つ。
随分と足早に歩いていたらしいことは、マーティンの疲れ方から察することができる。
なぜ、私は無意識にこんなに早足になっていたのだろうか?
綺麗な夜空で、心地良い風で、肌に気持ちいい夜気の夜だ。
こんな日に心が落ち着かなかったことなど、過去に無い。
だというのに……。
ひどく嫌な予感が私の胸の奥でわだかまっている。
この感覚は、なんだったか……。
直感的に、急いだほうがいいと感じ、マーティンの息が整う前に、私は再び歩き出していた。
慌てて、まだ荒く整っていない呼吸のままにマーティンがついてくる。
私の気配が変わったことを悟ったのだろう。
できることなら彼を置きさってでも、この山道を駆け抜けて修道院の様子を確認したいところだった。だが、それができるわけもなく、彼も何か嫌な予感を感じ取ったのだろう、できる限り歩調を上げてついてきていた。
もうすぐウェイノン修道院が見えてくるはずだった。
しかし、修道院が見えるよりも先に聞こえた悲鳴で何が起こっているのか理解するには十分だった。
マーティンと離れるわけにも行かず、周囲を確認しながら慎重に修道院を目指す。
こちらに逃げてくる人影と、剣を振りかざしそれを追う人影。その背後の人影に電撃の魔法を撃ちこみつつ、私は刀を引きぬいた。
「こっちに来なさい!」
まずいかと思いつつ、放って置くこともできないため声をかけて駆け出す。
マーティンも自衛の意味でか短剣を抜きはなっていた。
「た、助けて! 修道院の皆が!」
こちらに逃げてきたのは修道院で働いているとおもわれる女性だった。
その横をすり抜けて背後から襲いかかる人影の剣を受け止める。
見覚えのある特徴的な服装は、神話の夜明け教団の暗殺者のものだった。
暗殺者が受け止められた剣を引き戻す、その一瞬を見切り、軽く跳躍し頭をめがけて回し蹴り叩きこむ。直撃した蹴りに暗殺者がよろめいた一瞬を狙い刀を一閃。
刀は暗殺者の首を捕らえ、血の噴水が激しく吹き上がる。
暗殺者が倒れるよりも先に手応えに確信を得て、私はマーティンと、逃げこんできた女性へと視線を写しつつ、着地した。
「は、はやくっ……しないと、皆がっ!」
「落ち着くんだ、何があった」
マーティンが女性を宥めて話を聞こうとする。だが、彼女の話が要領を得ることはなかった。
不意に何者かが現れ、マボレル修道院長が殺された事。わかったことはそれぐらいだった。
眼の前で突然親しいものが殺された、そういう状況で冷静でいられる人は少ないだろう。
「ソマリ、行ってくれ! 彼を、ジョフリを助けてくれ!」
「ジョ、ジョフリ修道士なら、おそらく礼拝堂に……」
マーティンにとって、ジョフリは唯の修道士という認識でしか無いのだろう。助けなければ殺されてしまう、そう考えるのが妥当だ。
だが、私から見た彼は、この程度の練度の暗殺者程度ならば切り捨てられるような実力を秘めた老獪という印象のほうが強い。
どうするべきかしばし逡巡し、襲撃の目的がアミュレットにあるとするならば、ここにいるマーティンが襲われる可能性は低いだろうと判断した。
「マーティン!」
荷物袋の口から飛び出していた、それなりの長剣を彼へと放り投げる。
少なくとも、短剣よりかは戦い易いはずだ。
彼が頷くのを確認し、私は刀を一旦収めて修道院までの距離を駆け抜ける。
収める理由はそのほうが走りやすいことと、私の得意な剣技が抜刀術だからに他ならない。
修道院の前までは十数秒とかからない、礼拝堂の中からの争う声に、私は全力で礼拝堂の扉を蹴り破った。
蝶番が悲鳴を上げて壊れ、扉が不自然な開放状態で動かなくなる。中程から折れてぶら下がり、破片が飛び散る。その扉の間から礼拝堂の中へと入ると、ジョフリの姿があった。
二人の暗殺者の剣を受け止めつつも、壁際へと追い詰められている状態だった。
突然扉が破砕したことにより、暗殺者のうち一人がこちらへと振り返る、それを確認するよりも早く、私は手に生み出した雷球をもう一人、ジョフリから視線を逸らさなかった暗殺者へと打ち出した。
私の意図を読み取ったであろうジョフリが、背後から電撃に打たれ一瞬硬直した暗殺者を一太刀で切り捨てる。失敗を悟ったもう一人の暗殺者はジョフリの刀から逃げるべく私へと向かってくる。
結果、ジョフリの次の一太刀は暗殺者の背を浅く切り裂くにとどまった。
私が刀を抜いていないことを理解してか、私を先に切り捨てようという魂胆だったのだろう。
刀に私が手を伸ばし、抜くよりも先に私を斬れる、そう確信していた暗殺者の胴を一閃すると同時に、私は暗殺者の横をすり抜けた。
風切り音にも似た音とともに振りぬいた刀にはわずかに血がついて刀を赤く光らせた。
一瞬の交錯で雌雄は決し、刀に付いた血を振り払い鞘に収める。
相手には、唐突に私が視界から消えたように写ったかもしれない。
次の瞬間には自分の目線が突然低くなったと感じたことだろう。
胴体から一刀両断されたことを認識したかどうかはわからないが、暗殺者はそのまま何をすることもできず息絶えた。
「無事のようじゃな」
「間一髪という所だ、ありがとう。気を逸らしてくれなければ危なかった。そして、よく戻ってきてくれた」
「引き受けた以上はな。ま、少し遅くなったがの。それよりも……」
私が言葉尻を濁したことで、何を言おうとしたのか悟ったのだろう。ジョフリも頷くと、生活空間のある本院のほうへと促される。
ジョフリが持っていない以上、王者のアミュレットはどこか別の場所に保管されていると考えるべきだ。
もしもアミュレットを奪われていれば、私たちの状態はあまり良い方向には動いていないことになる。
本院の明かりはすべて壊されていて、闇に満たされていた。私には暗視能力があるから良いものの、ジョフリは手探りに階段を探し二階へと向かう。
明かりが壊されていて、良かったのかもしれないと私は内心で思っていた。
床に横たわる修道院長の遺体を、直視せずに済んだのだから。おそらく、先ほどの女性を逃がすために必死に抵抗したのだろう。
剣で斬られ、突き刺され、ひどい有様になっていた。
闇にまぎれた暗殺者が私達に襲いかかってきたのは、まさに階段を登っている最中だった。
闇に完全に紛れ込んでいた、といううぬぼれがあったのだろう。あまりにもおそまつな動き方だった。
私はそいつの首を思い切りつかみ、壁へと叩きつける。力が入りすぎて首を折らないことに苦労した。
「なんだ!?」
「お主はアミュレットを確認せい。ここは任せろ」
「……わかった」
ジョフリの気配が階段の上へと消えたのを確認してから、私は呼吸できずに居る暗殺者へと、詰問を──否、尋問をする。
「お前が、ここの修道院長を殺したのかえ?」
なんと答えようと殺すつもりではいた。だが、確認しておきたかったのだ。
暗殺者が、呼吸に喘ぎながらも不敵な笑みを浮かべたのを見て、それを肯定であると半段した。
首をつかむ手に力が篭る。
「そうか、貴様ごときが……あの己の無力さを知りながら、それでも他者に手を伸ばすことを止めなかった、愚かなほどに敬虔で優しいあの男を殺したのか……痴れ者が!」
私の怒りによって開放された冷気魔法が、瞬く間に暗殺者を凍りづけにしていく。
半分も凍らぬうちに死んで居ただろう、それでもなお私の怒りは収まらなかった。
全身、髪の一筋から足の先まで、全身が凍りついたところで、首を掴んでいた手に更に力を込める。
氷柱と化していた暗殺者は、粉々に砕け散って階段に散らばった。
「糞が……」
「ソマリ」
不意に背後から声をかけられ、まずいところを見られたかと一瞬だけ気になった。
だが、戻ってきたジョフリの落胆の表情から見るに、杞憂だったと思う。
彼の落胆の色は、アミュレットを奪われたということを表す以外に無かった。
「その様子だと、アミュレットは奪われてしもうたようじゃの」
「ああ、またも敵に出し抜かれた」
「そうか……とりあえず、彼と合流しよう」
「彼?」
「マーティンじゃ。ここに来る途中、襲撃されて逃げてきた修道院の女性と一緒に居る」
「そうか、なら我々はすべてを失ったわけではないのだな。タロスよ、感謝します……。我々は、ユリエルの後継者と引き換えに、アミュレットを失ってしまったということか……ならばまだ挽回はできる」
「そういうことじゃな、このあとはどうする?」
敵に襲撃された以上、この場所はすでに敵に知られている。ここにマーティンをおいておくわけにはいくまい。
直近のところでコロルの伯爵に保護を求めるかと思ったけれど、ジョフリは別の判断を下した。
「此処に彼をおいておくわけにはいくまい。ひとまず今回の襲撃は撃退できた、だがそれはすぐに相手に伝わるだろう。奴らから身を守るのに、絶対に安全と言える場所は存在しない」
「ふむ、じゃろうな。こちらの手札以外は全てリバースカードと思うて良かろう。あるいは手札すらも、かもしれんが……。どこにジョーカーが隠れておるか、わかるわけがない。ならばどうする?」
逃げ込んだ先が敵の手の内である、という可能性を考えれば、うかつに身動きを取ることもできまい。
となると、いったいどこが候補先になるだろうか?
皇帝は王城にいてなお狙われ、帝都から脱出するところだった。
どこへ?
「当面は、そうだな……クラウドルーラー神殿がいいだろう」
「クラウドルーラー神殿?」
「ブルーマ近郊の山地にある、遥か昔にブレイドの創始者が立てた要塞だ。我らの古の砦、聖域、そして最後の隠れ家だ。地理的にもそうだが、専守防衛を行うならばうってつけの立地の城壁だ。常駐するブレイドの人数はそう多くはない、だが手練の者たちが手合わせをし更に高みを目指す修行の場でもある。きっと彼を守り通してくれるだろう」
「決まりじゃな、そうと決まれば早いところここから立ち去るとしよう」
「そうしよう」
もはや誰もいなくなるであろう修道院に、そっと短い黙祷だけを捧げ、私たちはそこを後にした。
* * *
コロルからブルーマへと抜ける山道を馬で駆け抜ける。道を知るジョフリを先頭に、最後尾を私が受け持つ並びでの夜間の行軍は、やはりマーティンにかなりの負担を強いるようだった。
携帯のテントを張り、その中でマーティンを休ませつつの行軍はすでに二日目となっていた。
暗い夜の山道に馬を走らせるのは常人にはかなりの精神的な負担もあるのだろう、食事を済ませた後、マーティンは泥のように寝入ってしまい、寝返りを打つ素振りすら見せなかった。
「すまんな、昼に動ければもっと早く、それに負担も少なかったじゃろうに」
この夜の行軍になってしまった理由は、単純に私が昼に活動できない故のもので、だからこそ少し気にかかっていた。
「いや、私一人で陛下をクラウドルーラー神殿まで守りきれるという自信はない。君が一緒にいてくれてむしろ心強く思っている。陛下には神殿に着くまでは我慢していただく他あるまい」
「……そうか、出来ればブルーマで一日休憩も挟みたいところじゃな。ブルーマの後はかなり険しい山道になるじゃろ?」
「そうだな、出来れば体調を整えて、防寒着も揃えておきたい」
「そのへんの準備はまかせよう、わしの分は要らん。ブルーマではしばし別行動を取らせてもらうぞ」
「分かった、だが……何をするんだ?」
「もしかしたらアーベントがまだ居るかもしらん。手練は多いほうがよかろ?」
私の言葉に、ジョフリはなるほどと頷いた。
正直なところ、アーベントがブルーマでの滞在を切り上げるかはぎりぎりのタイミングだとは思う。私たちの到着次第であるけれど、彼がブルーマに到着してすでに四、五日が経過しているはずだ。
進展次第では次の行動に移っていてもおかしくはない時期だろう。
会えるか会えないかは四六、あるいは三七あたりかもしれないなと、可能性を考えつつ、私も眠りへと落ちていった。
日が落ちる頃合いになり、私が目を覚ますと、ジョフリとマーティンが食事の準備をしているところだった。
日はほぼ沈みきったのか、それとも木々に邪魔されてかあまりその力を感じることはできない。
空腹感は確かに存在している。けれど、それを普通の食事でごまかすのにもそろそろ限界が来そうだった。
微かな物音を耳が捉えたのはその頃だ。
押し殺すような、気配を消すような、かすかな物音。それがどういう意味のものなのか理解した私は唐突に腰を上げた。
「お、起きたか。もうすぐ食事ができるから待っていて……?」
「どうした?」
「……少し、歩いてくるわ」
マーティンが首をかしげる中、ジョフリは刀に手を伸ばしていたのを見て、私はテントの外へと出た。
気配は二つ。それほどはっきりとはしないところから、密偵、あるいは暗殺者としてそれなりの経験は積んでいるのだろう。
だが……。
「(唯の訓練された暗殺者程度、今ならあしらうにも苦労はしないじゃろ)」
むしろ、いまは食事が向こうからやってきたことに感謝するべきだと、そう感じていた。
生憎と、事情を知っていたとしても人の前で食事をする気にはならない。
そういう意味でこの状況は貴重だった。
夕闇が濃くわだかまるその一角に、一瞬だけ殺意を向ける。
草むらが一瞬だけ動き、ややあって二人組が姿を表した。変わらぬ黒と赤で彩られた神話の夜明け教団の暗殺者の出で立ちの二人は、私にあぶり出されたことを理解してか、こちらを睨みつけてきた。
出来れば殺さずに抑えこみたいところだ。殺してしまうと食事がしづらくなる。
「なかなかに鼻が利くようね」
返事はなく、二人は左右に距離を取る。
二人一組の暗殺者といったところだろう、それぞれに獲物を手に隙を伺ってくる。先に動いたのは左側の暗殺者だった。
両手に持った短剣を投擲してくる。それを僅かに身を捻ることで躱し、次の挙動を待つ。
服の中に短剣を幾つも仕込んであるのだろう、すぐさま続けて次の短剣が投擲される。
鞘を利用してその短剣を撃ち落とそうとした瞬間、右手側の暗殺者が動く。
先端に刃と鉤爪を一緒くたにしたような錘のついた縄──鉤縄の投擲。下手に絡まれれば動きを制限されることは間違いない。足を狙ったそれを軽く跳躍して空を切らせ、同時に投擲された短剣を鞘で撃ち落とす。
投擲と同時に距離を詰めてきたのだろう、短剣を両手に構え私に肉薄してくる。
両手の短剣で斬りかかってくる様は並の相手ならば十分に脅威だろう。だが、身体能力でこちらのほうが優位である以上、それほどの脅威とはならない。
片方の短剣の刃を掴み捻って奪い取り、もう片方の短剣を奪った短剣であしらう。
短剣使いが至近距離まで接近したことを失敗したと思うほうが早かっただろうか?
奪いとった短剣を手に態勢を入れ替え、背後に回りこむ。
その動きについてこちらに振り向いてくる、その対応が思いのほか早く、背中を狙うことができなかった。
仕方なく振り向きざまを狙い、頭部めがけて蹴りを繰り出すも、それを腰を落として避ける。思惑を続けて外されたことに苛立ちを感じつつも、今度は頭部、首を狙って鉤縄が飛んでくる。
短剣で鉤縄を弾きつつ、後方へと跳躍することで一旦距離を取る。
やはり、殺さずに捕まえるのは骨が折れそうだ。
二匹とも生かして捕まえるのは諦めることにし、手にしている短剣を短剣使いへと全力で投擲する。
私の投擲した短剣は短剣使いの左肩に深々と食い込んだ。
肩を抑えているのを見て、それなりのダメージはあっただろうとほくそ笑む。
もう一人が鉤縄を再度投擲してくるのを見て、マギカを開放し、複数の雷球と冷気を生み出す。
縄の部分を掴み、それと同時に雷球を開放することで生まれる稲妻が鉤縄を持った暗殺者を打つ。
一瞬体が弛緩したであろう瞬間を見計らい思い切り鉤縄を引き込むと、縄は暗殺者の手からすり抜けた。
そのまま放り出し、残る雷球と冷気を放つ。雷に打たれた一人を庇うように、右手のみで短剣を持った暗殺者が前に出る。
だが、二刀流ですら私に刃が届かなかったのに、片腕が使えなくなった状態でまともに戦えるわけがない。
短剣を持つ右腕を右足で蹴り上げ、そのまま勢いを維持したまま飛ぶ。体を捻り繰り出した回し蹴りは短剣使いの側頭部を捉えた。地面を転がった短剣使いに狙いを定め、刀を引き抜き再び投擲する。樹の根元で止まった短剣使いを縫い付けるかのように突き立った刀は、そのまま命を奪うこと無く拘束することに成功した。
「まずは、お前から……喰ってあげるわ」
僅かな抵抗が限界だっただろう、喉元に喰らいつかれてわずかに体をもがかせるが、程なくしてその体からは力が無くなった。
喰い終わった死体を山道から谷底へと投げ捨てて、刀を回収した私はテントへと戻った。
血の匂いをさせて戻ってきた私に対して、ふたりとも顔をしかめこそしたものの何も言うことはなかった。
出発の準備を整えて、再びブルーマへと向かうべく馬に跨る。
ブルーマに到着したのは、翌日の夜だった。
* * *
ちょうど日の変わる頃合いの時間に、ブルーマの東門をくぐる。
比較的暖かな気候であったクヴァッチの修道服ではかなり寒いのだろう、マーティンはしきりに腕をこすって、身を縮めていた。
「な、なぁ……ソマリ、お前は寒くないのか?」
「ん? ああ、もともと雪国の生まれじゃからな、慣れとる」
それに加えて吸血鬼は寒さには強いものだ。
マーティンの視線から、お前はそんな格好で寒くないのか? 見ている方が寒いぞというのがひしひしと伝わってくるが、あえてそこには反応しないでおいた。
白い吐息を吐き出しながら震えているマーティンをみやり、無理もないとおもいつつ、宿へと先導する。無論、私たちの協力者であるヴォルフの拠点としている宿へ。
宿の扉を開けて中に入ると、見覚えのある顔二人が酒場と食堂を兼用する小さなテーブルの上で顔を突き合わせていた。
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12回目の更新となります。まだまだ物語は中盤にも差し掛かっていません。進展遅くてごめんなさい | ||
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