眠れる森 エターナル 天界編 3話後編 |
「え〜、今日の授業は終了で〜す。では、さよなら〜」
授業が終わった途端、アニーはそう言って教室を去って行った。そんなに急ぐほど研究がしたいのだろうか?
しかし、こう授業がはやく終わってしまっては俺は何をすればいいのだろうか。
勉強かな。それとも法術の訓練?法術についてはまだ理論とか概論とか足を突っ込んだだけの状態でとてもじゃないが一人で勉強などできない。
そう思って俺はあることに気が付いた。そうだ、二人に頼めばいいのだ。
タケトとクリスなら教えてくれるはず。俺はそう教室を後にした。向かう先は寮。
真っ青な空の下を歩き5分くらいで寮に辿りついた。2階へ上り俺はクリスの部屋をノックした。
「はい〜。」
やけに間延びしたクリスの声が聞こえてドアが開かれた。
木製のドアは少し殴っただけで壊れそうで、クリスが開くとギシィと鳴った。
「クリス、お願いしたいことがあるんだけどいいかな。」
クリスは寝ていたのか寝ぼけ眼でコクリと頷くと「ちょっと待って〜」と言って部屋に潜っていった。
その間に俺はタケトの部屋をノックした。
クリスの時とは違いノックするといつもどおりのタケトが現れた。
「タケト、ちょっとお願いしたいことがあるんだけどいいかな。」
クリスの時と同じように話すとタケトは頷いてすぐに出てきた。
その後、クリスが出てくるのを待ってから俺は話を切り出した。
「今日の授業が終わったんだけど、昼から何したら良いかわからなくて……法術について教えてくれないかな?」
俺がそういうとクリスは目を輝かせ言った。
「わぁ、やる気まんまんだねぇ。よし、僕も少しくらいなら手伝うよ。」
さっきまでの寝ぼけ眼が嘘のようなテンションの高さ。タケトは無言で頷いた。
「なら、訓練場に行こうよ。」
「訓練場?……名前すら知らないのはなんでかな?」
「………(汗」
目を逸らすクリス。どうやら、俺はこの学校の施設全てを教えてもらっているわけではないみたいだ。
まぁ、それはどうでも良いとして俺たちは訓練場へ向かった。
訓練場は学校の裏手にあった。そして、それはごくごく普通の体育館のような建物だった。
違うのは大きさだけ。
「ねぇ…これが訓練場?」
訓練場と呼ばれる建物の大きさは小屋ほどにしかなかった。
よくある雪山の避難用の小屋といった感じで人が4人くらい入れば手狭になるだろう。
そんな大きさだ。そんな大きさで訓練とか大丈夫かこの学校。
俺の考えを見抜いたのかタケトがドヤ顔で言った。
「大丈夫だ、問題ない。」
クリスもそう思っているらしく小屋に進入する。
小屋は思った通り狭かった。空間が歪曲して小屋の中が大きいということはなかった。
ごくごく普通の小屋だ。ただ、小屋の奥に扉があった。大きさ的に奥に部屋があってもおかしくはないが部屋を作る必要性が感じられない。
「こっちだ。」
タケトが無造作にその扉を開いた。ひんやりとした空気が扉からやってきた。
黒。扉の奥は暗かった。タケトが何やらボタンのようなものを押すと灯りが点り扉の奥が露わになる。
階段だ。地下に続く階段があった。二人がその階段を下っていくので俺もついていく。
「ここは……いったい?」
「訓練場だよ。地下にあるんだ。」
しばらく階段を下りると灯り意外の明るさが現れた。
「ミライ、ここが訓練場だよ。」
そこはただの体育館だった。見覚えのあるような床にはワックスが掛けられ斜め上にはバスケットゴール。上には大きな照明。どこからどうみても体育館である。
しかし、大きさは非常に大きい。サッカー場が2面入るのではないだろうか。
訓練場は無人ではなくあちこちに人がいた。見えるだけで約10名ほど。
「じゃあ、法術の使い方を実践してみよか。」
少し歩いて壁際の近くまで来たところでクリスがそういった。
「クリス、その前に一ついい?」
「何?」
「基本授業でも法術って教えてもらえるんだよな。だったら、別に実践する必要は…。」
俺がそう言いかけたところでタケトが割って入ってきた。
「基本授業では理論しか習わない。たいてい、法術の実践方法は授業以外で覚えなきゃならない。」
「へぇえ。」
納得はいかないがそういうものなのだと自分に言い聞かせる。
「もう質問はない?ないなら始めるよ。」
俺は無言で質問がないことをアピールする。
「よし、まずはミライの適性を調べないとね。」
「適性?」
「うん、適性。タケト、持ってきたよね。」
クリスがそうタケトに言葉を振るとタケトはうなずき懐からなにか取り出した。
そして、それをことりと床に置いた。グラスだ。
タケトは無言でそのグラスに水を注ぎ満杯になったところで水の上に葉っぱをおいた。
「ミライ、これが適性をみるものだ。」
タケトはそういった。グラスに満たされた水。その上にある葉っぱ。ホントにこれで法術の才能がわかるのだろうか。
「これは水s…「真面目にやってよ、タケト。」…すまん。」
クリスがタケトの後ろ頭を叩いた。何がどうなっているのだろう。
「ごめんごめん、タケトちょっとぼけちゃったみたいで。」
クリスはグラスの水を全部飲み干しグラスを空の状態にし葉っぱをその辺に放り投げた。
「本当はこれだよ。」
クリスは空のグラスを普通に置いた。何もない。水を入れたりはしない。
「これから神力を体から出す訓練をするんだ。そして、成功すればこのグラスにある変化が起こるの。そこまでできたら今日は及第点かな…。まぁ、僕が一回やってみるよ。」
クリスがグラスに右手の平をグラスに向けた。距離は1mくらい。変化はすぐに起きた。
パキンッ。と音を立ててグラスにひびがゆきそのひびが全体に広がりグラスが割れた。
バラバラに砕け散るグラス。
「ふう、こんなもんかな。今のはかなりセーブしたけど僕じゃもうこれはダメだね。」
「へ?ダメなにが。」
「オーバーしたんだよ。クリスの送り込む神力が多すぎてグラスが耐えきれなかったんだよ。」
どうやら、クリスでは力が多い過ぎてグラスが割れてしまうようだ。
「まぁ、僕みたいにグラスに手をかざしてみるといいよ。片手じゃなくて両手でね。」
コトッと音がした。タケトが新しいグラスをおいた音だ。
俺はグラスの両隣に両手をそれぞれ置きグラスを挟む。見よう見まねですらないがこれが一番良い方法だと思った。
神力の注ぎかたはよくわからないけどただ何か力を入れてみる。
そのまま1分が過ぎた。変化は何も起きない。
「ミライ、ただ力を入れても意味ないよ。イメージは人によって違うけど神力って水みたいなものだよ。想像してみて。」
クラスの言葉に耳を傾けた。そして、想像してみる。流れるような水のイメージ。体をめぐる力が奔流しあふれるように手から出る神力を。
変化は起きなかった。初心者だから時間がかかっているだけかもしれないが俺はもう気づいていた。
これは違うと。このイメージでは神力はでないと。
直観していた。だったら…。もし、違うということがわかるんだったら正しいイメージがわかるはずだ。俺は直観に任せてみる。
すると、一つのイメージが浮かんだ。大きくて広い真っ青な空、天界の空だ。しかし、そこに太陽みたいな巨大な発光物が現れてイメージを加速させる。
ここは空、見た目は天界の空に近いけどこれは俺の知っている青空だ。
下には白い雲の床。風になびかれてなにかが流れる。それが神力とかそういう不思議な力で俺に取り巻き、ついていく。まるで蛇のように力の紐が巻き付き俺の中に力がみなぎる。
そうなのか……。俺はすでに気づいていた。水じゃない。俺が感じる神力は水とは違う。水には形がある。水には簡単に感じられる重さもある。しかし、俺が今、感じ取っているのは水ではない空気だ。何もないと思ったところにいつも存在するもの地球上、水の中でさえ存在するもの。酸素、二酸化炭素、窒素。それらで形成される空気と言う存在。
俺の中のイメージはいろんなものが混ざった空気が俺に混ざり合うというものだった。
神力だけでない得体のしれない力、力、力が俺の中に混ざりこんで混沌となる。
法術を使う者はみな同じような感じなのか?答えは否だと思う。なぜなら、法術を使用するのに必要なのは神力のみである。俺はおそらく神力以外の力も取り込んでいる。
そして、それから神力だけを感じることはできない。でも、扱うことはできる。
この混沌の中に俺の求める力があると思い俺は両手に力を送りグラスに向かわせる。
グラスに変化が起きた。俺の送った力がグラスに浸透し、力を発動させる。
「お、お、おっー!!!」
クリスが驚いた。タケトも口を開いている。
なぜなら、グラスの変化がクリスよりも面白い結果になったからだ。
ぐにゃりとグラスがグラスの形を失いドロッとした。溶けたのだ。クリスのは派手に割れたが俺のは溶けたのだ。
「ミライ、すごいよーっ!!僕でもこんな結果初めてだよーっ!!もしかしたら、すごいAA持ってるかもね。」
AA?なんのことを言っているのだろう。
「クリス、ここを頼む。グラサン連れてくる。」
タケトはそう言い残して。訓練場の奥へ走りこんだ。
「どうしたんだ。そんなにすごいのか?クリスの方がすぐに割れたし…ちょっと特殊かもしれないけど…。」
「いや、すごいよ。普通は僕みたいに割れるかエリーゼみたいに膨らむかぐらいなんだよ。まれに特殊な人がいるけど大体、2パターンのどっちかになるんだよ。」
と早口でクリスが言ってるうちにタケトが男を連れてきた。
背が高くグラサンを掛け髪型はオールバックだった。
「何があったんだっ!!」
厳つい顔には似合わない若い声。少しビビってる様子。
「先生っ!ミライが神力質テストでこんな結果に……。」
グラサンが本名なのかわからないが彼は溶けたグラスに触れる。
「熱っ!?まさか……熱型っ!?」
グラスに向かわせた手を引っ込めた。非常に熱を持っているそうだ。
熱型というのが俺のタイプのようだがいったい、どういうものなのだろう。
先生がそう叫んだせいか周りに人が集まり始めた。
「なんだ、なんだ。」
「見て、こいつ確か新人だったよな。これってあのテスト?」
「まじかよ。溶けてるぜ…。」
いろいろな言葉が俺の周りで渦巻く…と言っても約5人くらいだが。
「ミライ君、君は熱型といって少し特殊なタイプだが……訓練は普通の訓練でも大丈夫だ。そうだな…クリス、タケトあと……エリーゼがそれぞれの得意な法術について教えてやってくれないか。」
先生の言葉。少し緊張が混ざっているようだ。そして、クリスとタケトとエリーゼが教えてくれるそうだ。ただ、エリーゼはここにはいない。大丈夫なのだろうかここにいない人に頼むって。
「悪いが3人に頼む……ミライ君たちはもう帰っても良い。後始末は我々がするから。」
そう言って先生は溶けたグラスを囲むようにチョークで丸を書いた。まるで事件現場だ。
俺とクリスとタケトはそれをひとしきり眺めたあと、俺たちは今日は帰ることに決めた。
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3話の後編です。 毎度のことながら初見さんはプロローグからお願いします。 |
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