Masked Rider in Nanoha 十六話 異世界への導き
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 五代は驚いていた。なのは達の世界で魔法を見た時も驚いたが、今はそれ以上に驚いていた。何せ、その仲間を呼ぶ事になった瞬間、光太郎が突然左腕を腰に当て右腕を高々と上げたと同時にある言葉を発したからだ。

 

「変身っ!」

 

 その腕を真下へ下げ、腹辺りで横へ動かす。それを受け、腰の左腕を一度右へ動かしてから左へ戻す。その瞬間、拳を握って。

 それがキッカケで光太郎の体が変化する。始めに光があり、その後爆発するかのように体を輝きが包む。体は鉄を思わせる鎧に、瞳は太陽の如き真っ赤なものへ。その姿はクウガの凄まじき戦士を思い出させるものがあった。

 

 しかし、五代はそれを見て思った。これはなってはいけない姿じゃない。これは、クウガと同じく本来必要とされてはいけない力なのだと。

 

 変身を終えたRXは、どこか呆然とする五代に一度だけ視線を向けると左腕を―――正確にはそこにあるリストビットを顔の近くへ動かし叫んだ。

 

「ライドロンっ!」

 

 それを聞いて何が起きるのだろうと五代は思った。まさか呼んだだけで来るのだろうかと。そんな事を考えて数秒後、地鳴りのような音と共に地面から赤い車のようなものが姿を見せた。

 

「おおっ!?」

 

「来てくれたか、ライドロン」

 

「嘘……ホントに来た……」

 

 嬉しそうにライドロンを触るRX。それを見て五代は自分のゴウラムと似たような存在だろうと推測した。そして、ふと思う。今頃ゴウラムはどうしてるのだろうかと。ゴウラムがいれば魔法世界へ戻った後空中戦にも対応出来ると、そんな事を考えたからだ。

 そんな五代へRXが声を掛けた。乗ってくれと。それに頷き、五代は何かに気付いたのか動きを止めた。それを不思議に思うRXだったが、五代の言葉にその理由を悟る。

 

―――本当にいいんですか?

 

 それが意味するものをRXは瞬時に理解した。仮に魔法世界に行けたとしてもまたここに帰ってこれるという保障はない。それを五代は心配しているのだ。それを感じ取ってRXは思う。五代は優しい男だと。

 自分も条件は同じなのにも関わらず、こちらの事を心配しているのだから。そう思ったからこそRXは力強く頷いた。大丈夫と心から思って。

 

「きっと帰れるさ。俺も、君も!」

 

「……はいっ!」

 

 RXの言葉に五代が頷き返す。そこに込められたのは、互いの帰還を信じる気持ち。それぞれがそれぞれの世界に必ず帰れる。そう強く希望を信じるからこそ、仮面ライダーは仮面ライダーたりえるのだ。

 五代はそれを理解している訳ではない。だがRXが自分の気持ちを知り、そう返してくれた事だけは分かった。しかし乗り込もうとした時、何故かそうしろと言ったRXが待ったをかけた。

 

「君も変身した方がいい。どうなるか分からないから」

 

「そうですね。分かりました」

 

 その意見ももっともだと思い、五代は両手を腹にかざす。すると、そこにアークルが出現した。それにRXも驚くが、そのベルトがどこか昔の自分―――BLACKのものに近いように思え、懐かしさも感じていた。

 そんなRXの目の前で五代はゆっくり構えた右腕を横に動かしていく。そして、それがある一定の位置にきた瞬間。

 

「変身っ!」

 

 叫ぶ。その右手を左手の位置へ動かし、ベルトの側面にあるスイッチのようなものを押した。それをキッカケに五代の体が変わる。RX程速くはないが、それでも常人には速いと感じるものだろう。

 体は赤く、瞳も赤く、炎を思わせるような外見。それを見てRXは頷いた。その外見も、そして五代の在り方もまさしく仮面ライダーだと実感したからだ。

 

「よし、行こうっ!」

 

「はいっ!」

 

 今度こそ互いにライドロンに乗り込むRXとクウガ。すると、その横に一台のバイクが近付いてくる。アクロバッターと呼ばれるRXの専用バイクだ。生体メカともいえる存在で、幾度となくそのピンチに駆けつけた心強い味方である。

 そう、彼はRXがBLACKの頃から支え続けたまさしく戦友なのだ。それを見てRXは気付いた。アクロバッターもついて来たいのだと。その気持ちを感じRXは感謝と共に告げた。

 

「一緒に行こう、アクロバッター!」

 

「アア。イコウ、ライダー」

 

「バイクが……喋った?」

 

(あ、でもゴウラムも何か喋ったもんな。それと同じだ。でも……ゴウラム、ほんとに来てくれないかなぁ……)

 

 アクロバッターが喋るのを聞いて、クウガは魔法というならこちらの方じゃないかと思った。だが考えてみればゴウラムも喋る事を思い出し、それと似た様なものだと一人納得する。そして、ふと思ったこの事がもう一人のライダーを呼び戻すキッカケとなるのだ。

 一方、RXはそんなクウガの反応に小さく笑い声を漏らしライドロンに告げた。

 

「行くぞ、ライドロン! 異世界へ!」

 

「なのはちゃん達がいる世界へ!」

 

 二人がそう告げると双方のベルトから眩しい光が発せられた。それが自分をここまで連れてきた光だとクウガは理解すると、戸惑うRXへそう伝えた。その次の瞬間、ライドロンとアクロバッターが走り出す。

 その行動にやや驚く二人だったが、見れば前方に何か穴のようなものが生じている。それがきっと道なのだろうと二台は感じたのだ。勢いよくその穴へ飛び込むライドロンとアクロバッター。そしてその体が完全に穴に入りきると、それは何事もなかったように閉じ、そこには元の静かな空間が広がった。

 

 共に神秘の輝石を持つライダー。それが向かった先は闇が巣食う魔法世界。だが、彼らは知らない。闇が想像だにしない姿で甦る事を……

 

 

「五代君の知り合い!?」

 

「……はい。と言うか、ここどこですか?」

 

 科警研にある休憩スペース。深夜のため、ここにいる者は少ない。そのため、榎田が上げた大声に文句を言う者もおらず、翔一は少し耳を押さえながらそう尋ねた。

 彼にしてみれば、いきなり目を覚ましたら白衣を着た女性が立っていて、自分は大きなクワガタの上で寝転んでいたのだ。しかも、目覚めて早々「貴方、誰?」と少々きつめに聞かれ、名前を名乗らされた。

 

 その後、詳しい話をと言われこの場所まで大人しくきた彼は本来の目的であった事を問いかけたのだ。そう、五代はどこだろうと。それに対しての榎田の反応がこれだったのだから戸惑うのも仕方ないと言える。

 翔一の表情に榎田も若干冷静さを取り戻し、小さく咳払いをすると少し確かめるような顔で問いかけた。

 

「科警研って言えば分かる?」

 

「科警研……警察の施設って事ですか」

 

「そ。ちなみに、私はここで研究主任をしている榎田ひかり。よろしく」

 

 告げられた名前を何度か呟く翔一。その翔一を榎田はやや怪しむように見つめた。そう、実はゴウラムが反応していたのだ。翔一が触れている間中、ずっと。それは五代が触った時とは違い、活性化というよりは共鳴しているようなものだった。まるで、翔一の何かがゴウラムに作用しているように。

 そこから榎田は翔一に何か五代に似たものがあるのではと考えていたのだ。もし翔一が五代の名前を出さなければ、彼は未確認と疑われていただろう。ゴウラムが反応するだろう物はアマダムとそれに近しい未確認が有していた鉱物しかないのだから。

 

「あの……さっきのおっきなクワガタは?」

 

「ゴウラム。五代君の頼れる相棒ってとこ。えっと、馬の鎧とも言うんだって」

 

「馬の鎧?」

 

「ま、クウガの乗り物の鎧になる存在だって事。古代には馬ぐらいしかなかったんでしょう」

 

 榎田の適切な表現と説明に、翔一は何度も頷きながら差し出されたコーヒーを飲む。そして、それを飲み干して周囲を見回しふと気付いた。人がいない事に。

 厳密に言えば人の気配がないのだ。明かりも必要最低限しかついていない。そこから翔一はやっと自分がいる場所が深夜なのだと気付いたのだ。

 

 そんな翔一を見ながら、榎田は奇妙な感覚を覚えていた。本当に五代に似ているのだ。持っている雰囲気や空気が。そう考えたところで、大事な事を榎田は思い出した。五代の事だ。翔一によれば、五代は光に包まれてそれを掴んで彼はここに来たのだから。

 

「ね、話してくれる。どこで君が五代君と会ったか。そして、どうやってここまで来たのか」

 

「いいですけど……信じられないと思います」

 

「大丈夫よ。私も五代君の仲間なのよ。もう生半可な事じゃ驚かないって」

 

「はぁ……じゃ……」

 

 笑顔で言い切った榎田を見て、翔一はどこか心配するものの、ゆっくりと語り出す。五代との出会いやここに来た経緯を。そこには当然なのは達が使う魔法や管理局の事なども含まれた。それらを全てを話し終えた翔一。

 そんな荒唐無稽な話を聞いた榎田は頭を抱える事無く、冷静に状況を分析していた。勿論、アギトや魔法の話を聞いた時はさすがに驚きはしたが、詳しく話を聞く限りでは彼もクウガに近い存在。それに魔法は進歩した科学のように榎田は感じていた。

 

 それも、警察がもっとも欲しい相手を殺さず確保出来る攻撃法だ。それを使って治安維持をしている点から見ても、その世界はファンタジーではなくむしろSFだと感じたのだ。

 そんな中、今、彼女が考えているのは翔一をどうやって元の世界へ戻すか。そう、魔法世界に。本人を見れば分かったのだ。翔一も五代と一緒なのだろうと。だからこそ、みんなの笑顔のために異世界でもアギトとして戦ったのだ。

 

(何とかして翔一君や五代君の力にならなきゃ……そうだ!)

 

「翔一君、バイク乗れる?」

 

「え? はい、乗れますよ」

 

「よしっ! じゃ、変身して」

 

「変身、ですか?」

 

「そう。私の勘が当たれば、どうして五代君じゃなく翔一君がここへ来たのかを説明出来る」

 

 戸惑う翔一に榎田はそう言って歩き出す。ついて来てと言いながら。それに慌ててついて行く翔一。そして、その歩みが一枚のシャッターの前で止まる。それに合わせて翔一もそこで歩みを止めた。

 すると、榎田が何かスイッチを押したのかシャッターがゆっくりと動き出す。そのシャッターの先にあったのは―――一台のバイクだった。

 

「バイク?」

 

「そう、ビートチェイサー。正式にはBTCSって言って、五代君―――つまりクウガのために開発された専用マシンよ」

 

 榎田の説明に頷く翔一。そして、その外観を見て納得したのだ。雰囲気がクウガに合うような気がしたからだ。だが、そんな事を考える翔一に榎田ははっきりと告げた。

 

「これを五代君に届けて」

 

「え?」

 

「聞けば、魔法で空を飛んだりするんでしょう? じゃ、せめて陸上の速度だけでも確保しなきゃ」

 

 そう笑いながら言って榎田は一転してこう告げた。それに、これを使わないと戻る事は出来ないかもしれないから、と。

 それに驚く翔一。その視線は説明を求めるものだ。榎田はそれを感じ、ビートチェイサーを最初にいた場所まで運んで欲しいと返す。理由はその時に話すからと。それに頷き、翔一はそれを動かそうとして止まった。

 

 ハンドルが片方ないのだ。それ故にエンジンもかけられない。どうすればいいのかと戸惑っていると、榎田が「ごめ〜ん」と言いながら走ってきた。そしてビートチェイサーの横にあるトランクからハンドルのようなものを取り出し、それを欠けている場所へと差し込んだ。

 それを見て翔一はどこかで似たような光景を見た気がしていた。だがそれを思い出す間もなく、榎田が何か中央にあるパネルのダイヤルを操作した途端に車体の色が変わり、黒を基調としたものへとなったのだ。

 

「凄い……」

 

「ま、これも機能の一つ。後はここを推せば動かせるから」

 

 そう言って榎田はスタスタと歩き出す。それを見つめ、翔一はビートチェイサーに跨ろうとして思い出す。これはクウガのために作られた専用バイク。つまり、普通の人間ではちゃんと使いこなせないかもしれない代物だ。

 それに榎田も変身しろと言っていた。それは、その事を考えてだろうと。そう考え、翔一はいつもの構えを取る。丁度その時、翔一が全然来る気配がなかったので榎田が振り向いた。

 

「変身っ!」

 

 翔一の体がアギトへ変わる。それを見た榎田は何故か確信する。翔一も五代と同じで、その力を正しい事に使える者だと。その理由は、他でもないアギトの目。クウガと同じ赤い目。そして外見も似ている。

 

(この安心感……やっぱ彼も、アギトも人の味方ね)

 

 それにその全身から感じる雰囲気。それが実に安心感を与えるのだ。そんな風に感じて目を細めて笑みを浮かべる榎田の視線の先では、ビートチェイサーにアギトが跨っていた。それが意外にも違和感なく榎田は思わず感嘆の声を上げた。

 それを合図にアギトはビートチェイサーのエンジンを作動させる。独特のエンジン音を響かせ、久しぶりにビートチェイサーが唸りを上げた。それに頷き、アギトはその車体を走らせる。クウガが乗る事を前提に作られたマシン。それをアギトは完全に乗りこなしていた。その腕前に惚れ惚れする榎田を置いて、アギトはゴウラムの元へ向かう。

 

 そしてアギトがゴウラムのある場所へついて数分後、榎田が少し慌てて現れた。それを見たアギトはゆっくりと榎田に近付いた。変身を解こうとも思ったのだが、わざわざバイクに乗せるだけで変身させない気がしたため、こうしてそのままでいたと言う訳だ。

 

「遅かったですね。何かあったんですか?」

 

「ん。ちょっと連絡してたのよ」

 

「連絡?」

 

「そう。折角だから五代君への伝言を頼もうと思って、ね」

 

 榎田はそう言って笑顔を見せると、アギトに絶対に伝えて欲しいと念を押した。それをアギトはしっかりと頷き、約束した。榎田がそれにサムズアップを見せ、アギトも返す。こうしてアギトへ榎田は伝言を伝えた。その数、三つ。だが、榎田は最後には悔しそうにこう告げる。

 

「本当は後一人いるんだけど、時間が時間でしょ? 彼女は子供相手の仕事だから電話をかけられなかったのよ」

 

 アギトはその相手が誰かを訪ね、榎田に教えてもらう。その相手の事を聞き、アギトも確かに残念に思った。きっと、その三人に負けないぐらい五代へ想いを伝えたい人だろうと思ったからだ。

 そしてそこでアギトへ榎田から何故ここへ翔一が呼ばれたかの説明がされた。その内容にアギトもなるほどと納得する。それならば何故五代が共に来なかったが理解出来るために。

 

「じゃ、よろしく」

 

「はい!」

 

「えっと……アギト、だっけ?」

 

「はい」

 

「……かっこいいわね、君も」

 

「ありがとうございます!」

 

 アギトの声に榎田は笑みを見せる。だが、そんな和やかな雰囲気もそこまで。また科学者の顔に戻るとアギトへこう言った。

 

「じゃ、ゴウラムに触って」

 

「触ればいいんですか?」

 

 言われるまま、アギトはゴウラムに触る。その瞬間、ゴウラムの霊石が反応を示す。それを見て、榎田は自分の考えが間違っていなかった事を実感した。

 何故クウガではなく、アギトがここに来たのか。それは、ゴウラムを使ってクウガの元に行かせるためだ。そう、クウガが来ては世界や次元の壁は超えられない。だが互いが別にいるのなら、そしてそれを誘発出来る存在ならば。

 

 アギトはクウガの元にゴウラムを連れて行くための案内役なのだ。故に、榎田はビートチェイサーを託した。未だに第四号への特別措置は生きている。先程連絡した内の一人である彼も、今回の事が上に知られた際、何とか出来るように以前のチームの面々と相談すると言ってくれた。

 

(突拍子もなかったのに、ホント、息ピッタリなのは変わらないんだから)

 

 彼は榎田が告げた内容に驚きを見せたが、すぐにこう答えたのだ。

 

―――五代は、無いなら無いでどうにかするはずです。なので、送れる物は全て送ってください。

 

 それは、無い事で無理をしないようにとの配慮なのだろう。責任は私が取りますとさえその男は言ってのけたのだから。それを思い出し榎田は笑う。やはり未確認以外での二人のコンビを見て見たかったと心から思いながら。

 

「翔一君、願って! 五代君の元に行きたいってっ!」

 

「分かりましたっ!」

 

 言われるままに強くアギトは願う。五代の元へ、はやての元へ行きたいと。その瞬間、ゴウラムが急に動き出した。そしてビートチェイサーへ合体する。その光景を見て一瞬呆然とするアギトだったが、榎田の視線が急げと言っているように思えビートチェイサーへ駆け寄る。

 ゴウラムが鎧となって装着されたビートチェイサー。いやビートゴウラムへ跨り、アギトはそのハンドルを掴んだ。その瞬間、周囲に風が起こり、榎田はそれに少し後ずさりながらもアギトにサムズアップを向けた。

 

「五代君によろしく!」

 

「はい!」

 

「それと、君も体に気をつけてっ!」

 

「はいっ!」

 

 榎田にサムズアップを返し、アギトがそう力強く返事をすると、強い輝きがビートゴウラムを中心に発生する。それに榎田が目を閉じ、開けた時にはアギトもビートゴウラムもいなくなっていた。

 ただ、彼女のずり落ちた眼鏡だけが何かあった事を証明していた。

 

 戦士の導きにより、彼もまた世界を渡る。だが、それは即ち彼の力も必要という事。仮面ライダー、それに託された想いや祈りは、重い。

 こうして、クウガもアギトも共に新たな力を連れて戻ってくる。甦るだろう闇。それを完全に打ち倒すために……

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 ジェイルラボ内セッテの部屋。そこでセイン、セッテ、ディエチの妹組(セイン決定)が揃っていた。話題は一つ。真司の事だ。

 ジェイルが現在ナンバー9であるノーヴェを、クアットロがナンバー8であるオットーを調整しているのだが、真司はその手伝いをしていて最近セイン達と遊んでいない。

 訓練はトーレが煩く言うためかしているので完全に相手をしない訳ではない。ないのだが、やはり以前に比べて三人に割く時間が減ったのは事実だった。

 

「ね、寂しくないの? セッテもディエチも」

 

「それは……」

 

「まぁ……」

 

 実際、セインの思っている事は二人も同様に思っていた。セインは普段の他愛ないからかい合い。セッテは真司から聞く地球の御伽噺。ディエチは料理などのコツ。それぞれが真司に教えて欲しい事やしたい事などがある。

 そして、何故ここにチンクやクアットロがいないか。その理由は次のセインの言葉にあった。

 

「大体さ、チンク姉達がいけないんだよ。真司兄が折角作った時間を訓練や相談で潰しちゃうんだから」

 

 そう、チンクやトーレは訓練相手に、クアットロやウーノは相談相手にと真司を指名するのだ。そこに実は彼女達なりの思惑があるとは三人は知らない。だが、それが自分達から真司との時間を奪っている事は理解している。

 故に、セインは決意したのだ。姉達から真司を取り返す事を。未だ目覚めない妹達は許す事にした。何せ、自分達も似た様なものだったのだ。そこは仕方ないと割り切れるセインだった。

 

「で、何か考えある?」

 

「セイン姉上、そこはまず姉上から」

 

「そうだよ。だからセインはお姉ちゃんに思えないんだって」

 

「あ〜っ! 言ったな、言ったな〜。気にしてるのにぃ」

 

 ディエチの指摘にそうやって喚き出すセイン。それを見つめ、ため息を吐くセッテとやや苦笑するディエチ。結局、話し合いの末ある考えが導き出される。それを聞いたディエチはやや難色を示したが、セインの真司は喜んでくれるとの力説に渋々承知した。

 

 その頃、研究室ではジェイルとウーノがある新聞を見て頭を抱えたくなっていた。

 

「不味いね」

 

「不味いですね」

 

 ジェイルとウーノは揃ってある部分を見て悩んでいた。それは新聞の見出しに当たる部分。そこには大きく『期待の新人、高町なのは大手柄!』となっている。ある任務を終えたなのはは帰還途中に謎の機械に襲撃されたものの、それを何とか撃退し回収する事に成功したのだ。

 そう、彼女は本来ならこの相手に撃墜させられるはずだった。それは無理矢理蒐集行為を受け、その状態でスターライトを撃つという事をした事に端を発する負担のため。そこへ闇の書事件の際、カートリッジを使い守護騎士達と戦闘し、闇の書の闇との戦いでもスターライトやエクセリオンを使用しその体に無理を強いる???はずだった。

 

 だが、思い出して欲しい。まず守護騎士達との戦闘時、彼女はスターライトを撃つ必要がなくなった。そう、クウガとアギトによって。その後も修復されたレイジングハートを使いはしたが、カートリッジを使うような相手は魔法生物にはそうそうおらず、しかもチームで行動していたため彼女の負担は減っていた。

 それとなのは自身の考え方の変化も理由の一つだろう。五代と出会い、彼の考えに触れたユーノからなのはは言われたのだ。無理をする時をきちんと見極めねばならない。でなければ、本当に無理をしなければならない時に無理が出来なくなってしまうと。

 

 それもあり、なのははこう考えたのだ。笑顔が好きな五代。彼と再会した時、ちゃんと笑っていられるようにしようと。何か無理をし過ぎた時、彼が戻ってきて悲しみで顔を曇らせる事のないようにと。

 

 後は事件の起きる時期だろう。まだ早いのだ、本来の流れから考えれば。つまり、本来なら撃墜されるはずがむしろ完璧に近い動きでなのはは謎の相手を撃破した。そして、彼女が撃破した機械というのが問題だったのだ。

 

「あの時、逃げ出したのかなぁ……」

 

「やはり真司さんが全て掃除したと言った時、確認すべきでしたね」

 

 それは、ジェイルが研究した”ゆりかご”と呼ばれるロストロギアの内部にあった機械だった。

 以前、龍騎がジェイルに頼まれてゆりかごの中にいる『トイ』の原型を全て駆逐した事があった。その際、全部片付けたと龍騎は言ったのだが、その時取った方法はサバイブでのファイナルベント。おそらくその時に撃ち漏らしたのがいたのだろう。

 

 そうジェイルは考えた。ちなみに、作業を終えた龍騎からサバイブを使ったと聞いてジェイルは何故教えてくれなかったのかと本気で激怒した。

 

 記事によれば、管理局がこの機械を調査し出所を突き止めようとしているらしい。だからこそ、二人は悩んでいるのだ。もし、万が一それがゆりかごのものだと判明すれば、このラボ周辺に局員が現れるようになる可能性がある。そうなれば、何の拍子でここが発見されるか分からない。

 そう簡単に出所が分かるはずはないが、それでも用心に越した事はないのだ。故に、ジェイルが考え出した方法は一つ。

 

「よし、代わりの研究所をでっち上げよう」

 

「は?」

 

「そこで作ってましたという情報を流して管理局を騙そう。確かもう使ってない所が何箇所かあったろう?」

 

「……分かりました。ではそのように手配しておきます。最高評議会へはどう伝えます?」

 

「適当に……そうだなぁ。試作した機械が逃げ出したとでもしておいてくれ。後、データはトイのを改変したので頼むよ」

 

 その投げやりな言い方にウーノもため息を吐いて出て行った。この時、ジェイルが取った行動も本来起きるであろう状況を未然に防いでしまう事になる。その違法研究施設へ乗り込んだ首都防衛隊、通称ゼスト隊はもぬけの殻の施設で申し訳程度のデータを手に入れ、一人の負傷者も出さずに任務を終える事となるのだから。

 

 

「へぇ、この子達はノーヴェの親戚なんだ」

 

「そ。ちなみにノーヴェちゃんの調整がクセ者なのは、そのタイプゼロ達の魔法をISにしようとしてるからですって」

 

 クアットロの話を聞きながら、真司は手元の書類に乗っている二人―――ギンガとスバル―――の写真を見つめた。二人は戦闘機人でありながら、心ある人に拾われ人間として暮らしている。

 それを真司は聞いた時、嬉しそうに頷いたのだ。やはりそう考える人もいるんだと。生まれに拘らず、ちゃんと人として考え、接してくれる人が。

 

「じゃ、オットーは?」

 

「この子は、シンちゃんがディードちゃんと一緒に出して欲しいって言ったからよ? まさか、忘れてないわよねぇ」

 

 そう、双子ならやはり一緒にと真司が言ったのでクアットロはこうして二人分の調整をせざるを得ないのだ。正直、オットーだけならば今年中に終わらせる自信が彼女にはある。だが、二人一緒となると事情が変わってくるのだ。

 ディードは戦闘型で前衛タイプ。オットーは同じ戦闘型だが後衛タイプなのだ。その異なる仕様の二人を同時に仕上げるのは中々手間といえた。

 

 それでも真司の願い通りにしようとする辺り、クアットロも大分彼に毒されているようだ。今も真司がいるからこそこの調整室にいるようなもので、既にチンクやトーレを始めナンバーズは真司を部屋に入れたりする事に何の問題も抱いていない。

 真司だけはまだどこか抵抗があるようだが、なし崩し的にそれぞれの部屋へ入室させられている。それでどうこう思うような感情を真司へ抱いているのは、現状ではチンクやセインぐらいなのだから。

 

「忘れてなんかないって。感謝してるよ、クアットロ」

 

「ふふっ、まぁ私も好きでやってるところもあるし。シンちゃんのためだけって訳じゃないからね」

 

「それでもありがとさん。いやぁ?、ホント最近みんなが優しくなったよな。ウーノさんもどっかあったトゲみたいな感じが消えたし、トーレも訓練じゃない事で俺を呼ぶようになったし、チンクちゃんは良く家事手伝ってくれるようになったし」

 

「私はからかう事が減ったし」

 

「そうそう……って、自分で言うなよ」

 

 真司のノリツッコミに笑みを浮かべるクアットロ。対する真司も笑顔だ。このまま穏やかな時間が過ぎる。そう感じてクアットロは思った。

 

(やっぱりシンちゃんがいると時間の進みが違うわぁ。調子が狂うというより、私らしくなくなるのが難点だけど〜……それもシンちゃんだ・か・ら、よね)

 

 そんな風に考え、微笑むクアットロ。その笑みに真司は思い当たるものはないものの、その笑顔がとても優しいものだったので頷いて笑みを見せる。そんな良い雰囲気のところへ運悪くか運よくなのか一人の訪問者が現れた。

 

「真司兄、見つけた!」

 

 セインは勢いよく叫ぶと驚く真司とクアットロを他所に彼の腕を掴むとそのまま調整室から引きずり出した。あまりの事にそれを見送る事しか出来ないクアットロ。真司もそれに反抗する事無く連れ出され、調整室に静寂が戻った。

 だが我に返ったクアットロは先程までの幸福感の反動か、その静けさがかなり寂しく思え大きくため息。そして、セインが連れ出した理由に思考を巡らせ、またため息一つ。

 

 おそらく真司に構ってほしいのだろうと予測したからだ。セイン一人だけでなく、きっとセッテやディエチもそれに参加しているだろうと考え、更にその目的も察しをつけ、クアットロは軽く頭を押さえる。

 

「セインちゃん達ってば、お姉ちゃんの邪魔するなんて良い度胸ねぇ。このお礼はきっちりしてあげなきゃ……ふふっ」

 

 そこに浮かぶは狡猾冷酷状態のクアットロスマイル。しかし、その怒りが三人へ降り注ぐのはまだ先の話。今は、双子の調整に力を注ぐクアットロだった。

 

 一方、セインに連れ出された真司は彼女の部屋にいた。そこにはセッテとディエチもいる。一体何が始まるのか。そんな事を真司が考えていると、セインがベッドに横になってほしいと言い出した。その理由が分からず、真司は説明を求める。

 だが、それに頑としてセインは答えず、横になれば分かるとしか言わない。仕方ないので彼は言う通りに横になった。だが、その表情はその行動が渋々であると物語っている。

 

「じゃ、マッサージするね」

 

「へ? マッサージ?」

 

「はい。兄上は最近お疲れですので」

 

「その……真司兄さんが喜んでくれると嬉しいんだけど」

 

「もしかして、嫌かな?」

 

 三人の言葉に真司は感動した。最近あまり構ってやれない自分に兄貴としてどうなんだろうと思う事もあったのだ。だが、そんな自分を三人は怒るどころか労わってくれると言う。これを喜ばずして、何に喜ぼう。そう思って、真司は満面の笑みで答えた。

 

「嬉しいに決まってんだろ! んじゃ、お言葉に甘えるか」

 

 そう言って満面の笑みで真司は体の力を抜いた。それを見てセインは頷いて真司の上に乗った。そしてその背中を押し始める。セッテは足の方へ移動し、そのままマッサージを始めた。ディエチはやや躊躇いながら真司の腕を揉み始める。

 その心地良さに、真司は疲れもあったのか簡単に眠りへ落ちた。それに気付き、三人は小さく笑うと真司を起こさないように丁寧に優しくその疲れをほぐしていく。想いを込めて、懸命に。

 ディエチの「下手したら痛がったりする」という予想に反して、真司は起きる事なくそのままマッサージは終了したのだが―――それだけでは終わらないのが世の中というものだった。

 

「な、別に毎日してくれなくても……」

 

「ダ〜メ! 真司兄は頑張りすぎなんだから」

 

「我々に任せてください」

 

「し、真司兄さんが嫌なら止めるよ」

 

 そう、この日から三人が毎日寝る前にマッサージをしにくるようになったのだ。真司としては有難いのだが、週に一度程度でいいと思っているためどこか申し訳なく感じていた。それと、こうなってからと言うもの困った事も起きていたのだ。

 

「どうせ、セイン達に癒してもらえるだろ」

 

 そう言ってトーレは訓練の激しさを増し……

 

「やはり、お前は大きい方がいいのか!」

 

 チンクも同じく訓練の過激さが増し……

 

「シンちゃん、私も疲れるんだけど?」

 

 クアットロは、笑顔なのにどこか笑っていない目でマッサージを要求し……

 

「真司さんはいいですね。私も最近疲れ目なのに……」

 

 ウーノは羨ましそうにそう言ってくるのでマッサージをする事になり……

 

(結局、俺の負担減ってないよなぁ……)

 

 そう思う真司だったが、三人が一所懸命体の疲れを取ろうとしてくれているのを感じ、小さく呟いた。

 

―――ま、いっか。

 

 誰かが自分のためにと想い、動いてくれる幸せを噛み締めつつ真司は目を閉じる。彼は知らない。それは、ジェイル達が彼にしてもらった事で感じている事なのだとは。

 だが、それに気付かないからこその真司であり、愛すべき”バカ”なのである。

 

 

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空白期。なのは達に降り掛かる事件は、大きなものは変化し無害になりました。起きる時期が早まったのも原因の一つですが。

 

空港はジェイルがレリックを利用するつもりないので、おそらく変化します。起きないのではなく、変化。残るStSで語られる事件がそれぞれの帰還と重なります。

説明
五代と光太郎が魔法世界への道に行く術を試している頃、翔一は榎田からクウガの力を託される。
それがアギトを魔法世界へと誘う事となり、三人の仮面ライダーは魔法世界へと導かれるのだった。
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