ボケ娘に告白されました! 水瀬愛須の告白
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 今日はクラスが沸いていた。

 血肉は湧き踊り、風船は飛び爆ぜ、餓鬼魍魎は死肉を食い散らかす。

 訳も無いが、それだけクラスは湧いていた。

 無理も無い。

 今日はある大物が久々に学校に登校してくる日なのだ。

 その期待にみんな、ワクワクを隠せない中、俺は憂鬱だった。

(アイツが来るのか……)

 胃がキリキリ痛み出し、胃薬を飲んだ。

 これから来る登校者は別に不登校の生徒というわけではない。

 逆に不良でもない。

 むしろ、学校にとって大きな益を生む生徒であった。

「おはよう、みんな!」

 元気良く教室に入ってくる女の子にクラス中が湧いた。

 水瀬愛須(みなせあいす)。

 この有名人だらけの学校の生徒の中でも取り分け有名な女子生徒である。

 クラスのみんながよってたかった、彼女を囲み話しかける中、彼女も嬉しそうに微笑み、会話をした。

 なぜ、滅多に学校に来ない人間がこんなにも人気があるかというと、答えは俺の机の上に乗っているグラビア誌にあった。

『小さな身体に大きな夢の塊! 今日も愛須はみんなを愛すます!』

 妙な寒いキャッチフレーズの書かれたグラビア誌にため息を吐いた。

 そう、水瀬愛須は今をときめく、グラビアアイドルなのだ。

 身長は同世代の女の子にしては小さいほうだが、胸はこの学校でもトップをいくほどの大きさを持っている。

 アレだけの大きさと勝負が出来るのは俺の知る限り、違うクラスの因幡萌絵か、上級生の古優先輩くらいしか思いつかない。

 しかも、ただアイドルとして人気が高いわけじゃない。

「やだ〜〜! もう、そんな訳ないでしょう!」

 大爆笑するクラスメート達に愛須も上品に笑った。

 愛須の人気はその人柄である。

 どんな相手でも笑顔で接し、時には自分でもジョークをいい、場を盛り上げる。

 その気さくさから、アイドルとしてだけでなく、純粋に水瀬愛須そのものが好きだという声も多い。

 ただ、それが周りの人間に限ったことだけであるのだが……

「あ……?」

 俺と愛須の目が合った。

 愛須の目が途端に冷たくなった。

 足音も感じないほど静かな歩調で俺に近づいてきた。

 不思議と教室の温度が軽く二度下がるような涼しげな風が吹いた。

「おはよう……」

 ザワァッと場が凍りついた。

 さっきまでの笑顔が嘘のように愛須の声が冷たくなり顔も無表情になった。

 俺も真っ青になって答えた。

「お、おはよう」

「おはよう……」

 改めて返事を返され、俺は胃がキリキリした。

 これが俺の憂鬱の正体。

 水瀬愛須はなぜか、俺の前では、いつも冷たい態度なのである。

 クラスメートには満面の笑顔で接するのに俺の前では、なぜか冷た表情を浮かべる。

 それはもう絶対零度ギリギリ上くらい冷たい表情だ。(それでも、結局、凍るけど)

 こういうときだけ、クラスメートも彼女に声をかけず、早く冷めた温度が上がるのを待つだけであった。

 本当、優しいクラスメートをもって俺は幸せだよ。

「それ……?」

 冷たい目のまま俺の机の上に乗ってるグラビア誌を見た。

「あ、ああ……たまたま、売ってたから、買ったんだ」

「……」

 冷たい視線のまま見つめられた。

 これが俗に言う蛇に睨まれた蛙のような気持ちという奴だろう。

 生きた心地がしない。

(喉が渇く)

 なぜか、喉を潤したい気持ちになった。

「それ……貸して」

「うん? これか?」

 喉の渇きも潤わないうちに愛須は勝手にグラビア誌を奪った。

 スカートのポケットからサインペンを取り出した。

「被疑!」

「秘儀だろう! 誰を疑ってる?」

 キュッキュッとサインペンが光の速さほど出ないスピードで走らせた。

「はい」

「あ、サイン?」

「三角関数なんて、私、知らない」

「それはサイン、コサインだ!」

「肌を焼く」

「それはサロン!」

「勝負の決着が急につくこと」

「サドンデス!」

「二枚のパンの間にハムやタマゴなどを挟む」

「サンドウィッチ!」

「魔法使い?」

「ウィッチ!」

「二人の魔法使い?」

「萌えアニメにでも任せろ!」

「やっぱり、アニメはロボットだよね?」

「個人の嗜好だな、それは!」

「故人の執行?」

「どんな天誅だ!?」

「私たちの上にあるもの?」

「天井!」

「我が道を突き進む」

「天上天下唯我独尊!」

「一人で歌うこと」

「独奏!」

「一人で走ること」

「独走!」

「誰も考え付かないアイディア」

「独創!」

「食べると死ぬ」

「毒草! いい加減にしろ!」

「いい加減な城?」

「崩壊寸前か!?」

「韓国の湯豆腐みたいなもの」

「それはズンドュブ! かなり離れてるぞ!」

「ナリがはなたれ」

「黙れ!

「うぐぅ!?」

 下ネタを言おうとする愛須の口に今日の昼食べようと思って買ったコッペパンをねじ込んだ。

「ありがとう」

 動じた風も無く、コッペパンを口から手で外し、豪快にかじりついた。

「まずい……」

「贅沢言うな!」

 人の昼飯をなんだと思ってるんだ。

 ガックリ肩を落とす俺に愛須は変わらない目でいった。

「そういえば、明日の休み、時間ある?」

「明日の休み? 基本、休みは暇だぞ」

「地球最大級の山の一つなんて、聞いてない」

「それはヒマラヤ!」

「大阪にあるナンパ目的でよく使われる?」

「それは引っかけ橋!」

「走るの?」

「駆け足!」

「言葉の矛盾をつまらないであげること」

「揚げ足!」

「日本を含む世界最多の人口率を誇る」

「アジア!」

「おいしいよね」

「アジ!」

「最近、すっかり……」

「あじぃ〜〜……!」

「お父さんの実家、元気かな」

「お爺!」

「この前の野球、後もう一歩だったのにね?」

「惜しい!」

「このコッペパンの反対の味」

「おいしい! というか!?」

 食べていたコッペパンを奪い返した。

「マズイなら食うな!」

「返してよ……」

 またコッペパンを奪われ、大口で食べられた。

「やっぱり、まずい」

「こいつ……」

 人の昼飯だと思って……

「とりあえず、明日、暇なら、大通り公園にきてよ。大事な話があるから」

「大事な話?」

 眉をひそめる俺にクラスメートも不思議な顔をした。

 普通なら、ここで恋の話に発展しそうだが、コイツと俺の間にそんな浮いた話、百パーセントありえない。

 だって、周りには可愛い笑顔を振りまくコイツが、俺のときだけ、こんな冷たい目をしてるんだぞ。

 絶対に嫌われてるよ、俺。

「じゃあ、明日の朝、公園で待ってるから、探してね」

「探すのかよ!?」

「女の子を捜すのは男の子の仕事じゃない?」

「どこの映画だ!?」

「でも、お姫様を助けるには勇者がドラゴンを」

「それはクエスト!」

「疑問?」

「クエスチョン!」

「ただの人間には興味ありません!」

「キョン!」

「影を踏まれると動けなくなる」

「キョンシー!」

「じゃあ、また明日」

「勝手に話をきり終えるな!」

 去っていく愛須に俺も渋々、了承した。

 なぜか、格好よくサムズアップ、ようするに親指を立てる愛須に俺は頭痛を感じた。

 

 

 休みの日がやってきた。

 俺はいつものようにカジュアルな私服で時計を確認しながら、大通り公園まで足を運んでいた。

 正確な時間や場所までは指定されてないので、適当にアイツが来そうなところを予想して歩いていた。

 噴水の見えるベンチの前で愛須を見つけた。

 俺はなにもいわず、ベンチに座る愛須の横に座った。

「おはよう」

「おはよう……」

 学校と変わらず、冷たい表情のまま返事を返され、俺は心の中で苦笑した。

「で、用件はなんなんだ?」

「予言はなんだ?」

「用件だ!」

「養殖の犬」

「怖いわ!」

「柔らかいご飯」

「こわい!」

「某学園支援部に良く厄介ごとを持ち込んでくる3の口のウザキャラ」

「ヤバス!」

「キツネ顔のお母さんの口癖」

「ザマス!」

「いい気味だ!」

「ザマァ!」

「ヘッドスライディングでよく使われる擬音」

「ザザァ!」

「反抗期の息子が親に言う言葉」

「ババァ!」

「床屋」

「バーバ!」

「えっと……」

「無理にボケるな!」

「……」

 なんで、そんな気に食わない顔をする。

 気に食わないのはこっちだ。

「私の格好どう?」

「うん?」

 いきなり、格好の話をされ、俺は軽く愛須の服装を確認した。

 カジュアルでラフな服装に少女らしさを忘れない可愛いスカート。

 俺は軽く頷いた。

「普通じゃないのか……グラドルなら?」

「あっそ……」

 また、ふて腐られてしまった。

 なんていえばよかったんだよ。

「アナタの格好は素敵ね」

「そうか?」

「モヒカン頭の男が着てる服装並みにイカしてるわよ!」

「どんな世紀末だよ!?」

「お似合いよ!」

「そんなファッション、似合いたくない!」

「くしゃみ?」

「ハックションじゃない!」

「架空現実?」

「フィクション!」

「パソコンなどの電子機械のシステムのこと」

「ファンクション!」

「ファンが送ってくれる、ふかふかの生地」

「それはファン・クッション!」

「この前、盗聴器が入ってたわよね?」

「警察に連絡しろ!」

「アナタのが送ったものじゃないの!?」

「なんで俺がお前に盗聴器を送らないといけない!?」

「チェッ……」

「なぜ、残念がる!?」

「じゃあ、警察に連絡する」

「してないのかよ!?」

「警察って、何番だっけ?」

「110番だ!」

「電話って、百桁まで入力できるの!?」

「桁の数字じゃない!」

「じゃあ、なによ! 紛らわしい!」

「お前が紛らわしくしてるんだ!」

「責任とって、教えてよ!」

「どこに俺がお前の不始末の責任をとらないといけない義務がある!?」

「アナタのだと思ったから、通報しなかったのに……」

「仮に俺が送り主でも通報しろ!」

「アナタにしていいの?」

「いいわけあるか!」

「じゃあ、誰にすればいいの?」

「盗聴器を送った奴を探せ!」

「アナタが送ったんじゃないなら……いったい誰が?」

「知るか!」

 俺のほうが混乱してきた。

 しかも、こんな応酬を繰り返してるのにコイツの顔は相変わらず無表情のままだし……

 ある意味、驚きだ。

「貸せ! 俺が警察にかけてやる!」

 一、一、ゼロと……

「はい、後は送信ボタンを押せばいいだけぞ」

「後でいいよ」

 アッサリ電話を切られてしまった。

「コイツ……」

 なんだよ、この自由人。

「ねぇ、お腹がすかない?」

「え? あ、ああ、そういえば、そうだな?」

 時間を確かめるともう昼になっていた。

 コイツのボケに付き合ってるうちに時間が流れたのか。

「じゃあ、昼でも買って来るか!」

 ベンチから立ち上がった。

「なにが食いたい?」

「ご飯、用意してきたわよ」

「ほへぇ?」

 マヌケな声を出した。

「アナタの分もあるから、食べましょう」

「あ、ああ、ありがとう」

 渡された弁当箱を見て、戸惑った。

(これじゃあ、まるでデートだな)

 蓋を開けた。

「おかずは?」

 ご飯だけのお弁当に俺は愛須を見た。

「これ」

「ぶっ!?」

 渡された写真を見て吹いた。

「なんで、下着姿のお前の写真がおかずなんだ!?」

「因幡さんに聞いたの。男の子は女の子の下着姿をおかずにするって」

「それは別の意味のおかずだ!」

 写真を返した。

「……」

「なんで、不満そうに俺のポケットに写真を入れなおす!?」

「おかず?」

「だから、違うって!」

「ちなみに私のおかずはこれ」

「ご飯?」

 違う箱にも真っ白な白米が入っていた。

「テレビで言ってた。ご飯をおかずにご飯を食べるって!」

「それはお米好きの上級者だ!」

「なるほど……どうしよう、これ?」

「コンビニでなにかおかずになりそうなものを買ってくるから、待ってろ!」

「本屋のほうがいいんじゃない?」

「まだ、拘るか!?」

 

 

 コンビニにつくと俺は財布が許す限りで、おでんやチキン、フライドポテトとおかずとしても食べられるジャンクフードを買った。

「なぁ、さっき、大通り公園で水瀬愛須がいるって聞いたが、本当か!?」

「ああ! さっき、そこでファンが言い寄って、サインを書いてたぞ!」

「俺たちも、貰いにいくか?」

「やめておけよ! ファンはプライベートのアイドルにちょっかいを出さないのが礼儀だろう!」

「出たよ出たよ、ファン節!」

「嫌なら、頼まれてた写真集はやらん」

「ああ、ゴメンって!」

 コンビニから出て行く男たちに改めて思い知った。

(やっぱり、あいつって、アイドルなんだな)

 なんだかんだで距離が近い気がしてたが本来は違う世界の人間なんだよな。

 俺はレジで買ったジャンクフードを片手に元の場所へと戻った。

 そして、目が点になった。

「なにしてるんだ、お前?」

「ご飯をおかずに写真を食べてるの!」

「順番が逆だ」

 自分の写った写真をおかずにするなよ。

「あれ?」

「ッ!?」

 慌てて写真を隠され、俺は眉をひそめた。

(今、俺の顔だったような。まぁ、よくある顔だし、気のせいだろう)

 横に座り、おかずを渡した。

「ほら、おかずを買ってきたぞ」

「ありがとう」

 買ってきたおかずを見ると不満そうな顔をされた。

「デザートは?」

「人の金で贅沢言うな!」

「ケーキ、アイス……モンブラン」

「この炎天下でそんなもの、デザートで買えるわけ無いだろう!」

「じゃあ、食べ終わったら買ってきて」

「ワガママ言うな!」

 といいながら、俺たちは昼飯を食った。(デザートも買いに行かされた)

 痛い出費だ。

 昼食を済ませると俺たちはノンキに本を読んでいた。

 俺は推理小説。

 コイツは……

「なんで、官能小説なんか、読んでるんだ?」

「責めが弱いわね」

「聞いとらん!」

「アナタはどんなものを読んでるの?」

「面白いぞ」

 本を閉じ、拍子を見せた。

「閉じ込められた山荘で起きた連続殺人。全員が犯人の可能性があるサスペンスだ!」

「全員が犯人の可能性があるなら、全員に「犯人はお前だろう、バラされたくなかったら、凶器を持って俺のもとへ来い」という手紙を出せばいいよ」

「なんで?」

「犯人以外はこんな手紙を送られても、プレッシャーを感じるだけで、なにも出来ない」

「そ、そうか……?」

「または、事件のあらましを一人ずつ話させるか……だね」

「どうして?」

「事件は犯人が周りに予告なしで行ってるはずだから、犯人以外は事件を詳しく理解してないはずだから」

「犯人だけが、事件を正確に説明できるってわけか?」

「そういうこと」

「屁理屈じゃないか、それって?」

「そのほうが手っ取り早いわ」

「推理もクソもないし、そもそも、それって反則技じゃ?」

「反則というよりも、駆け引きね。話術に長けてれば推理なんてしなくっても済むし、そもそも、取調べってそういうものだし」

 コイツ、推理アニメとかマンガは真っ向から否定するタイプだな。

「うぅ〜〜ん!」

 本を閉じると愛須は急に顔をふらふらと揺らしてきた。

「眠いのか?」

「ネム区内」

「どんな区内だよ!」

 ピトッと肩に頭を乗せる愛須に俺は真っ赤なった。

「すぅ〜〜……」

「寝ちまったし」

「そんなもので身体は洗ってない……」

「それはヘチマだ! 寝ぼけながらボケるな!」

 完全に寝入った愛須に俺はため息を吐いた。

 

 

 夕日が沈み、辺りが暗くなり始めるとようやく、愛須は目を覚ました。

「あれ?」

 ショボショボの目を擦り、俺の肩から頭を離すと伸びをした。

「練てた?」

「寝てるだ! パンを作ってたのか!?」

「この前のまずいコッペパンはまさか、君が作ったの?」

「作るか!」

「だよね。あんなまずいコッペパン、作られたら困る」

「コッペパンはたいてい、あんな味だ!」

「金平糖はたいてい、アジアだ?」

「金平糖は本来は外国の品だ!」

 あくびをし、俺を睨んできた。(無表情に)

「なんで、起こしてくれなかったの?」

「目の下にクマを作ってる奴がなにを偉そうに」

「目の下に熊?」

「恐ろしいわ!」

「ペアルック?」

「おそろい!」

「顔を白く塗る」

「白粉(おしろい)!」

「将軍様が住む」

「お城!」

「か〜ごめか〜〜ごめ」

「後ろの正面!」

「なにも無いよ」

「ツッコミだ!」

「ちょっと、鬱陶しいね」

「悪かったな!」

「アイドルコンサートにいったことは」

「ないけど……」

「今度、私、歌を出すんだけど」

「CDは買ってやるよ」

 まぁ、にわかファンとしてな。

「何枚?」

「一枚だけど」

「四枚送ってあげる」

「なんで!?」

「保存用? 布教用? 観賞用? 実用用?」

「おい、なんだよ、最後の実用用って?」

「因幡さんが教えてくれたの。男の子は最低四個かって、最後のは実用用にするって」

「もう因幡さんの言うことは信じるな!」

「う? うん」

 素直に頷く愛須に俺は今度、因幡さんに文句を言ってやろうと誓った。

(あの娘は本当にろくなことを教えないな)

「じゃあ、何枚、あれば足りるの……?」

「一枚で十分だ、一枚で!」

「でも、それだと、実用用が?」

「だから、それが一番、いらん!」

「でも、因幡さんが」

「お前は因幡さんの言葉と俺の言葉とどっちを信じる」

「……」

「考えるな!」

 ダメだ。パニックになる前に話を変えてやる。

「ところで、俺に言いたいことがあったんじゃないのか?」

「後、もうちょっと……」

 無表情の顔で俺を見つめてきた。

「後もうちょっとでいえるから」

「時間が来ないといえないことなのか?」

「日が沈みきったときにわかるよ」

「そう……」

 徐々に沈んでいく太陽を俺たちは見つめた。

(太陽ってこんな風に沈むんだな)

 身近なものほど、よく見えないというが、太陽の沈みがこうも感動的だとは思わなかった。

「太陽が帰依してくる」

「消えていくだ! 戸籍を変えてどうする!?」

「太陽人?」

「神様が作った新人類か!?」

「神様は万能だから、きっと太陽の中でも生きていける人類を作ってるよ!」

「神様は万能だな?」

「日輪の光を浴びるからね」

「それは万丈だ!」

「わ〜〜い!」

「それは万歳!」

「未来でも過去でもない」

「現在!」

「お腹を下す」

「下剤! 下品だぞ!」

「うん」

 そっぽを向く愛須の無表情の顔がちょっと赤くなったのを俺は感じた。

 太陽が完璧に沈んだ。

 夜の静寂が訪れ、電灯に光がともった。

「太陽が沈んだぞ」

「そうだね。じゃあ、太陽のあった場所を見限って」

「見限られるか!」

「違った。見上げて!」

「こうか?」

 太陽のあった場所を見上げた。

(別になにも無いが……うん?)

 ピシュンッと花火が打ち上げられる火薬音が聞こえた。

(今日、花火が上がる予定なんてあったっけ?)

「アレが私の言いたかったこと」

「え?」

 花火が空に花咲いた。

『たわしと月遇って管祭』

 誤変換だらけの花火が空に舞った。

「出してほしい言葉、間違った!?」

 珍しく真っ青になる愛須に俺は聞いた。

「あれ、お前の仕業か?」

「う、うん……」

 無表情の仮面が壊れたのか動揺する愛須に俺は聞いた。

「あの誤変換はなんだ?」

「……告発」

「誰を訴える?」

「告別」

「誰と別れる?」

「別れる!?」

「なぜ、涙目になるな!?」

 動揺を隠せない愛須に俺は頭の後ろをポリポリ掻いた。

「黙って聞いてやるから、落ち着いて話せ」

「う、うん」

 俺の目をジッと見た。

「えっと、私と突き合ってください!」

「剣道でもしろと?」

「アレ?」

 いい加減、言いたいことがわかり、こちらから、言うことにした。

「俺と付き合いたいのか?」

「そう、その突き合い!」

「だから、字が間違ってるって!」

「……?」

 ダメだ、さっきの花火のせいで混乱してる。

「お前、俺のこと嫌ってるんじゃないのか?」

「なんで?」

 あ、また、表情が戻った。

「だって、お前、俺の前じゃ笑わないじゃん」

「笑う必要ないからね」

「それを嫌ってるってことじゃないのか?」

「私は大切な人の前じゃ、楽な姿勢をとることにしてるの」

「楽な姿勢?」

 愛須の視線が夜空を見上げた。

「一年前の入学当時、私、工藤って人にしつこく迫られたの」

「あの人、可愛い子に見境がないからな」

「付き合う気がないって言っても、「君の笑顔は僕に向けられてることは気付いてるよ」って言って、聞いてくれなくって」

「あの人は迷惑なところでポジティブだからな……」

 新入生なにしてるんだ、あのバカ先輩。

「愛想笑いを浮かべてやり過ごそうとしたら、余計に勘違いされて、私は辛かった……」

「追い込まれてたんだな?」

 工藤先輩を殴り飛ばしたい衝動に駆られた。

「でも、アナタが助けてくれた」

「俺が?」

「私、工藤って人の彼女だって誤解されてた時期があったの」

「そういえば、お前が交際しているという噂を聞いたことがあるな」

 すぐに噂はデマだとわかったが、その騒動の犯人が工藤先輩だったとは予想通りで面白みがないな。

「私、学校にいるのも辛くって……でも、他の学校に行くだけの学力も無くって、本当に死んじゃいたいと思った」

「ヘ、ヘビーだな?」

「友達からも疎遠して、学校にいる間は校舎裏の非常階段でいつも泣いてた」

「非常階段?」

 なんか、ボンヤリ、変な記憶がよみがえってきた。

「なぜか、非常階段から上がってきたアナタがいて、私を見つけたの」

「そういえば、あの時」

 男子連中と鬼ごっこをしてた記憶がある。

 負けた奴はジュースを奢る、ルールで……

「私は慌てて笑顔を作ったら、アナタ、私の頭を叩いたのよ」

「思い出した!?」

 確かに俺は、あの時、コイツの頭を叩いたんだ。

 あまりにも無理した笑顔にいたたまれなくなって、つい……

「その後、アナタ、なんていったか覚えてる?」

「いや……殴った覚えだけは残ってる」

「無理な作り笑いをするなって、言ってくれたのよ」

「え?」

「笑いたくないなら、笑わないほうがいい。無理な作り笑いは自分を追い詰めるだけだって」

「ほへぇ……」

 そんな格好いいこといったの、俺。

「笑う姿が自然体じゃないから、誤解されるんだって言ってくれたの」

「そういえば、そんなこと言ったような」

 非常階段だから、安心しきって話し込んだっけ。

「自分の感情に任せて顔を変えるのが自然体だといわれて、そのまま去っていったの」

「あの後、非常階段は反則だって言われて、俺の負けになったんだよな……」

 あいつら、高いジュースを奢らせやがって……

「その言葉をしっかり吟味するのにかなり時間がかかったわ」

「まぁ、今、聞くと俺も、なにを言いたいのかわからないからな」

「それで、笑顔は作らないことにしたの!」

「極端な解釈をしたな!?」

 コイツの無表情の仮面の下の原因は俺かよ。

 ということは俺の憂鬱の原因って、自業自得って奴か。

(嫌われてたんじゃなく、身から出たサビに苦しめられてたとは俺もとことんバカだな)

「疲れる笑顔は関係を壊したくない友人のために」

「壊したくない友人か」

 友達好きだもんな、コイツ。

「疲れない氷の仮面は私の大切な人のために使うって決めたの!」

「疲れない氷の仮面?」

 俺を見た。

「この顔は私の感情に任せた自然体。失敗しちゃったけど、言うね?」

 スゥと息を吸った。

「アナタの喉に隙があって突きたいです!」

「おい、俺を殺したいのか?」

「あれ?」

「はい、落ち着け!」

 頭を撫でると愛須の目が猫のように細った。

「元旦は終わったよ」

「それは餅突けだ!」

「お酒や醤油に一日つけたもののほうがサシミはおいしいよね?」

「それは漬けだ!」

「遠慮無い喋り方」

「それはズケズケ!」

「頭が痛い」

「ズキズキ!」

「あなたのことが好き!」

「それは好き……あれ?」

 真っ赤になった。

「笑顔も大切だけど、やっぱり、顔を休める必要もあるよね。そう思わない?」

「あ、ああ……」

 そっぽを向き、また無表情になった。

 不思議と今はコイツの感情がわかる気がした。

 期待と不安。

 冷たい目から感じられる強い意志。

(答えないといけないか)

 息を吸った。

「俺でいいのか?」

「うん」

「俺、お前のことわかってないぞ」

「付き合い始めなんて、みんな、そんなものだよ」

「工藤先輩以下かもしれないぞ」

「ありえないね」

 そこだけはキッパリしてるな。

「わかった。でも、嫌なら無理するなよ」

「私はいつでも自然体だよ」

 無表情で俺を見る愛須に俺はドキッとした。

(いいのかな、これって?)

 場に流されてるだけだと思うけど、不思議と心がドキドキした。

 愛須の目がそっと瞑った。

 俺も目を閉じ、ままキスをした。

 また、花火が上がった。

『ごめん。打つ花火間違えた! お金は返すから、許してちょ!』

 そのメッセージに気付いたのは翌日の朝刊であった。

 

 

 登校日、学校につくと俺は玄関前の生徒達の視線を一斉に集めていた。

「なんだ、この視線は?」

「おい!」

「あ、工藤先輩?」

 嫌な奴が現れたな。

「お前、なに人の女にちょっかい出してるんだ!?」

「え?」

 いきなり胸倉を掴まれ、持ち上げられた。

「こんな張り紙を張りやがって、このストーカー野郎!」

「あ、その張り紙!」

 工藤の取り出した張り紙にはこう書かれていた。

『私たち、付き合うことになりました!』

 下に俺の名前と愛須の名前がハート型の空間の中に書かれていた。

「水瀬さんは俺の彼女だぞ! 入学当事から、付き合ってる人の女に手を出すなんてな、このストーカー野郎!」

「え、付き合ってる?」

 確か、愛須はコイツに迷惑してたはず。

(なるほど、コイツの頭の中では愛須は一年の頃から付き合ってることになってたのか)

 愛須が追い込まれてたことにも気付かず、おめでたい頭だ。

「お前はあいつの笑顔を見たことあるか!?」

「ないけど」

 アイツの笑顔はそんな特別なものじゃないからな。

「アイツは俺の前ではいつも笑ってるぜ、幸せそうにな!」

 それは愛想笑いだ。

「相手にされないからって、こんな嫌がらせしやがって! 水瀬さんに代わって俺が懲らしめてやる!」

 拳を振り上げようとする工藤先輩に俺はギュッと目を瞑った。

「いい加減にしなさい!」

「ボゲバ!?」

 工藤先輩の身体が空中でスパイラル回転した。

「うわぁ」

 俺も工藤先輩の手から解放され、床に尻餅をついた。

「な、なんで、俺はただ、自分の彼女を守ろうと……!?」

「自己陶酔もいい加減にしなさい!」

 空中回転する工藤先輩の頭上に重いカカト落としが落ちた。

「ぼべら!?」

 床に頭を埋める工藤先輩に綺麗に技を決めた女性は鼻を鳴らした。

「私の力で退学に出来ないかしら?」

 俺はビックリした。

「白鳥先輩!?」

「大丈夫?」

 ニコッと笑う白鳥生徒会長に俺は慌てて立ち上がった。

「だ、大丈夫です!」

 うわぁ、本物の白鳥生徒会長だ。

 綺麗で可愛くって、それで凛々しいな。

 そういえば、彼氏が出来たって言ってたな。

 いいな、羨ましいな〜〜……

「なんで、生徒会長がここに?」

「私じゃなくって」

 背中から愛須が現れた。

 無表情だが、その視線はそっぽを向いていた。

 それだけで今回の騒動の原因がわかった。

「お前か、こんな張り紙を張ったのは!?」

 床に埋もれる工藤先輩から張り紙を奪い、見せた。

「だ、だって……自慢したかったから」

「私が提案しました!」

「生徒会長が!?」

「えっへん!」

 残念な胸を張る白鳥生徒会長に俺は信じられない思いをした。

「また、アンタは公務をサボって、遊んでるのか!?」

「ヒィ!?」

 短い悲鳴を上げ、白鳥生徒会長は怒鳴り声を上げた男の子を認めた。

 男の子は白鳥生徒会長の細い手を強引に掴んだ。

「仕事が残ってるのに堂々とサボって遊ぶなんて、どういう了見だ!?」

「こ、これは可愛い後輩のために」

「後輩を言い訳に使うな!」

「ひぇぇぇぇ……」

 俺たちを見ると男の子は頭を下げた。

「ウチのバカ会長が迷惑をかけた! それと」

 俺と愛須と見比べた。

「お似合いだぜ、お前たち。少なくとも工藤より遥かにな」

 格好よく銃を撃つようなジェスチャーをするとまた、白鳥生徒会長を睨んだ。

「この騒ぎの責任と壊れた床についての工藤の責任は今日の放課後、役員会議で決める! 今日という今日は覚悟しろ!」

「だ、だって〜〜……」

「だっても伊達政宗もない!」

「パーリィー気分を……」

「アンタは常時、頭がパーリィーしてるだろうが!」

「ひ、緋鯉(ひごい)!?」

「酷いだ! もっと、酷い目にあいたいのか!?」

「えっとね……ベッドの中なら」

「どうやら、本当にお仕置きが必要のようだな!」

 指を器用に片手でポキポキ鳴らす男の子に俺は一瞬、モンスターを見た気がした。

「ま、待って!? アレだけは勘弁して!?」

「ならん!」

「漬物?」

「それは奈良漬だ!」

「奈良県ならしし鍋かな?」

「いつか、食いに行きたいな、そのふざけた態度を矯正した後にな!」

「ゆ、ゆるしてぇ〜〜〜!?」

「アンタは俺の言うことを聞いてればいいんだ!」

「あ、はい……」

 なぜか、嬉しそうな顔する白鳥生徒会長に俺はちょっとだけ夢が壊れた。

 と、そんなことよりも……

「この張り紙、他に張ってる場所はあるのか?」

「きょ、教室一つ一つ全部、張ったから……たぶん、もう噂は」

「ふ・ざ・け・る・な〜〜〜〜〜!」

 俺の雄叫びが教室中に響き渡り、ガラスが何枚か割れた。

 余談だが、僅かに残っていた工藤と愛須の恋人話の噂は俺の存在ができて、綺麗に消えたらしい。

 工藤はそれが気に食わないのか、往生際悪く俺のストーカー説をでっち上げようとしたらしい。

 もっとも、白鳥生徒会長の力でもみ消されたらしいが……

 むしろ、学校内を無用に荒らした罪で一週間の停学処分と停学中の補習を夏休み受けないといけなくなってしまったらしい。

 人を呪わば穴二つというが、身から出たサビともいうだろう。

 ちなみに、俺と愛須も校内にいかがわしいものを張った罪で、副会長(さっきの男の子)に反省文を何枚と書かされた。(白鳥生徒会長も一緒に)

 なんで、俺まで反省文を書かないといけないんだ。

説明
アイドルっぽい雰囲気って、どうやれば出せるんだろう?
ということで今回の属性は「アイドル」です!
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コメント
>ywxhffrom341さん、コメントありがとうございます!ある意味、主人公は女の子のためには多少の損はやむなしですから!(笑)実用用……それはですね(自主規制)(スーサン)
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ボケ娘が告白してきました! ボケ ツッコミ ラブコメ アイドル 

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