星に願いを、2人の願いを
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「・・・ねぇ、れーじ。どうしてあいつがここにいるの?」

 

最初に俺の耳に届いた言葉は里村の不満そうな声だった。

 

「・・・いや、どうしてと言われても」

 

「それはこっちの台詞。兄さん、どうしてアレがここにいるの?」

 

お前に至ってはアレ扱いか。せめて人として扱ってやれないのか。

 

「はぁ?アンタにアレ呼ばわりされる筋合いないんすけど、黒羽紗雪」

 

「私もアナタにフルネームで呼ばれる義理は無い。気安く私の名前を呼ばないで」

 

「っ・・・なんだと、このっ・・・!」

 

「わ、ちょ、暴力はダメだよ、紅葉っ!」

 

「ふ、二人とも落ち着くんだよ〜!」

 

サクラが鈴白が2人をなだめようと仲介に入るが・・・多分、徒労に終わるだろう。

今の里村と紗雪・・・まさに竜虎相搏つ・・・といったところか。

 

「・・・・・」

 

俺は助けを求めるように、隣で楽しそうに紗雪たちを眺めている雨宮に視線を泳がせる。

 

「雨宮・・・楽しそうに見てないで、あいつらを何とかしてくれ。

サクラと鈴白じゃ、あの2人を止めるには役者不足だ」

 

「ふふ、いいじゃない別に。少しぐらい騒がしくしたって。今日はお祭りなんだから」

 

ーーーそう。俺たちは今日、祭りに来ているのだ。

梶浦神社からその付近にかけての、大規模とは呼べない祭りだが、

屋台の方は結構充実してるみたいだし、人も結構訪れているようだ。

家族連れやカップル・・・中には、星見学園の生徒もチラホラ見える。

やはり皆、友達などを誘って祭りに来ているみたいだな。

まぁ、かくいう俺も里村に誘われたからこそここにいるんだが。

その里村に「せっかくだからサクラとかも誘いなよ」と言われたから

俺はサクラと美樹と・・・紗雪を誘ったんだが・・・。

まぁ・・・こうなることが予想できなかった、と言えば嘘になる。

いや、むしろ絶対こうなるだろうなと思っていた。

だが、だからといってそれが紗雪を誘わない理由になっていいはずがない。

紗雪は俺の大切な妹で・・・恋人なのだから。

 

「レ、レイジ〜〜!どうにかしてほしいんだよ〜!」

 

・・・そうだな。まずはあれをどうにかしないと・・・。

・・・とりあえず他のやつに頼ってみるか。

俺は俺たちより少し離れた所に立っていた龍一に視線を送る。

 

「ふんふんふんふんふんーーーーっ!!」

 

・・・いつの間にかスクワットを始めてやがった。

祭りまわるだけなのに何故準備体操してるんだあいつは。

しかも、「自分には関係ない」と言わんばかりに俺たちに背を向けてやがるし・・・。

・・・駄目だ、あいつは役に立たん。

 

俺はこのメンツの唯一の良識人、美樹に視線を送るが、美樹は苦笑いしながら首を横に振った。

・・・結局俺しかいないのか。しょうがない・・・。

 

「ほら、2人とも、こんな入口の所で口論してたら他の人たちに迷惑だろ。

それにせっかくの祭りなんだから・・・今日ぐらいは控えろって」

 

「・・・むぅ。れーじがそう言うんだったら」

 

「・・・兄さんが言うなら仕方ない」

 

俺が2人に諭しかけると、2人は不満そうながらも納得してくれた。

・・・ふぅ、これでなんとか・・・。

 

「こんな奴と口論して無駄な時間過ごすんだったら、れーじとイチャイチャしながら

お祭りまわった方が有意義だもんねー♪」

 

里村はさっきの不満そうな顔から一変、鼻歌でも歌いだしそうなご機嫌な

表情をつくり、俺の左腕に絡みついてきた。

 

「お、おい、里村・・・!」

 

「えへへ♪れーじ、どう?浴衣、似合ってるかな?」

 

里村が今、言ったように里村をはじめ、サクラ、鈴白、紗雪、美樹、雨宮・・・

と、うちの女性面子は全員浴衣を着用している。

俺も最初はサクラや紗雪に着ていくよう促されたが、男が浴衣着たって

誰が喜ぶわけでもなし。私服の方が動きやすいし、丁重にお断りした。

ちなみにあっちでスクワットしてる役立たずも俺と同じで私服だ。

まぁ、浴衣なんか着てたらあんな軽快にスクワットなんかできないだろうし。

・・・いや、あいつならできそうで怖い。

 

「ねぇ、れーじ聞いてる〜?」

 

「ん・・・あぁ、悪い悪い。似合ってるぞ」

 

「・・・むぅー。れーじ、淡白〜」

 

里村は不満そうながらも甘えるように俺の腕に更に絡みついてくる。・・・あーもう。

 

「・・・・・」

 

紗雪は何か悔しそうに俺のことを睨んでくるし・・・。・・・嫉妬してんのかな、あいつ。

 

 

「・・・とりあえず、そろそろまわるか。ここで立ち往生してても仕方ないし」

 

しかし、出発するまでに大分時間食ったな・・・。

 

「やっとなんだよ〜・・・。もう私、お腹ペコペコなんだよ〜・・・」

 

「あはは、サクラちゃんはお祭り初めてなんだよね?」

 

「うん!だからどんな美味しいものがあるか楽しみなんだよっ!」

 

「あはは、そっか」

 

「なぎさ」

 

「会長?なんですか?」

 

「太らないようにね」

 

「余計なお世話ですっ!!」

 

俺の一言によって皆が祭りの雰囲気に呑み込まれていく中、紗雪は何かを

遠慮しているように、チラチラと俺の方を見てくる。

 

「・・・どうした?紗雪」

 

俺が声をかけると紗雪がわかりやすく「ビクゥ!!」と驚いた。

今日の紗雪は表情豊かだな・・・。

・・・いや、表情豊かになったのは今に始まったことではなく俺と

付き合い始めてからかもしれない。

 

「れーじ?・・・早く行こうよ」

 

里村が俺の腕をグイグイと引っ張り急かしてくるが、そういうわけにもいかないだろう。

 

そして、紗雪は意を決したように「よし」と力強く頷くといきなり俺の右腕に抱きついてきた。

 

「なっ・・・さ、さゆっ・・・」

 

「・・・いいでしょ・・・兄さん」

 

「あ・・・・あぁ・・・」

 

上目遣いで、人懐っこい猫のように甘えてくる紗雪の姿はいつもより

可愛く、何よりも愛おしく感じた。・・・だが。

 

「歩きづらい・・・」

 

右腕に紗雪、左腕に里村が抱きついてきてるので非常に、非常に歩きづらい。

しかも紗雪と里村が俺を真ん中に両サイドでバチバチ火花を散らしているから

居心地が悪いったらありゃしない。

 

まぁ・・・たまにはいいかもしれないな、こういうのも。

今日は目一杯・・・皆とこの『日常』を楽しむとしよう。

・・・なんか忘れてる気がするが・・・いや大丈夫か。

・・・あぁ、きっと思い出さない方が幸せなんだ。

うん、そうだ、そうに違いない。さぁ、祭り祭りっと・・・。

 

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

「318・・・319・・・320・・・あれ?・・・皆・・・どこに・・・。

まさか・・・僕は置いてけぼりをくらったのか!!?くそ、早く追いつかないと・・・。

あぁ、でもスクワットの回数も中途半端だし・・・。

しょうがない スクワットしながら行くしかない。 『((疾風迅雷|タービュランス))』!!!

うおおおおおおおおおおおおおおおおおぁぁぁぁっ!!!」

 

この日を境に、月読島では、祭りの日になると、スクワットしながら高速で走る

金髪美少年の幽霊が出るという都市伝説が生まれた。

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

 

「見て見てレイジ!おいしそうな食べ物がいっぱいあるんだよ!!」

 

サクラはこれ以上ない程の極上の笑みを浮かべながらくるくると踊り、

その喜びを身体いっぱいに表している。

 

「サクラちゃん、楽しそうだね」

 

「だな。・・・まぁ、見渡す限り食いもの屋だらけだからサクラが喜ばないハズもないが」

 

射的屋とか金魚すくいとかの店もあるが絶対に眼中にないだろう。

むしろあいつならすくった金魚まで食いだしかねん。

 

「ねぇ、れーじれーじ!タコ焼き買わない?私があーんして食べさせてあげるよ?」

 

「い、いや・・・魅力的な提案だが里村・・・さすがにそれは・・・」

 

「に、兄さん!あっちにクレープ屋あるよ、一緒に食べよ?

・・・た、食べさせあいっこしよ・・・?」

 

「い、いや紗雪・・・人目があるから・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

2人が散らす火花がより一層強くなったのは俺の勘違いなんかじゃない。

勘違いじゃないというのが明白なので俺は半ば呆れるように溜息をつく。

 

「・・・上等じゃない。どっちがれーじにアーンさせられるか。あれで勝負よ!」

 

ビシィ!!という効果音がよく似合いそうなポーズをとった里村が指さしたのは・・・

かき氷の屋台だった。

 

「海での勝負は引き分けだったからね。((再試合|リターンマッチ))ってわけ。どう?」

 

「異議なし。・・・今度こそ、勝つ」

 

「ハッ、それはこっちの台詞。見てなさい、ケチョンケチョンにしてやるんだから!」

 

そう言って紗雪と里村はかき氷の屋台の方へと駆けていった。

 

「・・・ハァ。やっと解放された」

 

重荷が一気に下りた感じがする・・・。いや、両手に花で幸せだったっちゃぁ、幸せだったが。

 

「芳乃君、お疲れ様〜」

 

「おう、鈴白ーーー・・・・か・・・」

 

驚愕した。ただ、ただ驚いた。・・・いやだって普通は驚くだろう?

右手にチョコバナナを2本、左手にもまた2本・・・

計4本のチョコバナナを手にしている女の子が目の前に平然と立っていたら

そりゃ誰でも驚く・・・よな?

 

「・・・?どうしたの、芳乃君?」

 

「い、いや・・・鈴白、それは・・・」

 

「うん?チョコバナナだよ?」

 

「いや、そうじゃなくて・・・」

 

「あ、種類のこと?こっちがメロンチョコで、こっちがストロベリーチョコ

そしてこっちがブルーベリーチョコとミルクチョコ!」

 

鈴白は夏の空に輝く太陽のように眩しい笑顔を浮かべて見せた。

・・・本人が幸せならそれでいいか。

 

「まぁ・・・鈴白」

 

「え?」

 

「・・・太らないようにな」

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!!芳乃君にまで言われたぁぁぁぁぁ!!」

 

鈴白はヤケになったのかわんわんと泣きながらもぐもぐとおいしそうに

チョコバナナを食べている。・・・忙しい奴だ。

 

「・・・ん?おぉ、なんや聴き覚えのある声やなと思うたら芳やんやんけぇ!」

 

「おぉ、霧崎じゃねぇか。それに・・・有塚に轟木も」

 

「・・・あぁ、君たちも来ていたのか。・・・まったく、どうして王たる僕が

こんな低俗なものに・・・」

 

「お前たち、こんなところで・・・あぁ、射的か。轟木が挑戦するのか?」

 

なんか轟木なら商品全部落としかねないな。

 

「せや。しかも気合いだけで全部落とすつもりやで」

 

それはいくら何でも無理だろう。どこまで脳筋なんだあいつは。

というかもはやそれは射的とは呼ばない。

 

「だぁぁから、んな((小細工|モノ))必要ねぇって言ってんだろおおおおおおおおおお

おおおおおおおおおおおおおおおおぁぁっ!!!このでかくて!!強ぇぇぇ!!俺様なら!!

こんなの気合だけで十分だらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

どうやら射的屋の主人と揉めてたようだが、主人の方が折れたらしい。

・・・にしても相変わらずで安心した。・・・つかマジで気合だけで落とすつもりか!?

 

「いぃぃぃぃぃぃぃぃくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぁぁぁぁ!!!」

 

そしてーーーーー

 

「どぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

らっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

大地が振動する。大地が断末魔のような悲鳴をあげている。

その大地の真ん中に、雄々しく立ちつくすは一人の屈強な男。

彼は、この世のものとは思えない咆哮をあげながら、迷いのない、まっすぐな

瞳で、前だけを見据えている。

 

見据えるものは自分の目の前に立ち塞がる敵のみ。(射的の景品)

更にその先に見据えるのは勝利という2文字のみ。(景品全部落とすこと)

敗北などという情弱な言葉は彼の中で存在することなど許されないーーー!!(景品落とし損なうこと)

 

「ぐ・・・なんつー((圧力|プレッシャー))だ・・・。だがいくら轟木だからって・・・」

 

なんだかんだで結構ノってる俺がいる。見てるだけ側の俺としては結構楽しい

 

「まぁぁだぁぁぁまだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ああああああらっしゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

轟木はまだ尚、この空間に対しての蹂躙を続ける。

今、この空間を支配しているのは誰でもない。

轟木鋼という一人の戦士だ。

その姿は何よりも堂々と、何よりも猛々しく・・・何よりも美しく、

今この空間を魅了し続けるーーー

 

そしてーーー

 

 

ボトッ・・・ボトトトッ・・・

 

 

刹那、轟木はーーー勝者となった。

 

 

「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!」」」

 

いつの間にか集まっていたギャラリーが一斉に歓声を上げる。

やったな轟木・・・。そして同時に・・・やらかしちまったな轟木・・・。

 

「ハッ!!まぁ、俺様にかかればこんなもんよぉぉっ!!」

 

轟木は今世紀最大のドヤ顔を浮かべガッツポーズをとる。

轟木がこういうむかつくことしても不思議と憎めないんだよなぁ・・・。

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!とっどろき!!とっどろき!!」」」

 

「なんだぁ、その弱々しい声はよぉぉぉぉぉぉぉ!!?気合が足んねぇぇんだよぉぉぉぉぉ

お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

とっどろき!!とっどろき!!とっどろき!!」」」

 

「俺様世界!!!!!」

 

「「「うぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」

 

「・・・・・」

 

「・・・芳やん、突っ込まへんのか?」

 

「・・・俺が何でもかんでも突っ込むと思うなよ」

 

こんなカオスな状況にどう突っ込めというのだ。

 

「まったく・・・彼には心底呆れるよ。・・・あれは、里村紅葉じゃないか。彼女も来ていたのか」

 

そこで有塚が里村のことを見つけたようだ。・・・うわ、本当にかき氷早食いしてる・・・。

 

「やぁ、里村紅葉、君も来ていたのかい?なんだったらこの王たる僕が、君とこの

低俗な民共の祭りごとを一緒にまわってやってもーーー」

 

有塚がすべてを言い切る前に里村は一心にかき氷を食いながら、無言で有塚の足を

払い、態勢が崩れた有塚にかかと落としを食らわせた。

・・・鬼畜すぎる。しかも今ので有塚は気絶したようだ。

 

「あぁ、あぁ、見てられへんわ・・・。ほな、芳やん。

わいは陣やんを介抱してくるさかい、ここでな」

 

「あ、あぁ・・・霧崎。」

 

「なんや?」

 

「・・・お前も、大変なんだな」

 

「・・・それはお互いさまや」

 

霧崎は苦笑いを浮かべながら、地面の上で昇天している有塚をかついで、この場から

そのまま去っていった。

 

「・・・さて」

 

「零二君、のど渇いてない?ジュース、買ってきたわよ」

 

「お、雨宮。・・・そうだな、言われてみれば。サンキュ」

 

俺は素直に雨宮からジュースを受け取り一口ーーー

 

「間接キスね、零二君」

 

「っんごぉぉっ・・・!!?」

 

危うく吹き出しそうになった・・・。ぉぉぉ、鼻から炭酸が・・・。

 

「雨宮っ・・・おま・・・」

 

「冗談よ。初ねぇ」

 

雨宮は、してやったり顔で上品にくすくすと笑っている。・・・くそ。

 

「・・・ん、零二君。何か聴こえてこないかしら」

 

「何か?こんな騒がしい所で何かって・・・」

 

・・・ん・・・?言われてみればなんか男の呻き声みたいな・・・。

というか、この声聴いたことあるような・・・。

 

「みぃぃぃぃぃぃぃぃんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

なんかスクワットしながら高速でこっちに迫ってきている変態がいる!!?

 

「って・・・龍一かよ!!?」

 

「ようやく見つけた・・・。皆、ひどいじゃないか!僕だけ置いてけぼりにするなんて・・・」

 

「とりあえずスクワットをやめろ」

 

「ちょっと待って・・・。997、998、999、1000・・・っと。

お待たせ。で、ひどいじゃないか零二!!」

 

「スクワットしながら走ってくるお前の方がひでぇよ、頭が」

 

しかも『((疾風迅雷|タービュランス))』使ってたのかよ。アホかこいつは。

 

「しょうがないだろ。スクワットの回数が中途半端だったんだから」

 

「スクワットのためだけに、んなくだらないことしたのか・・・」

 

こいつも轟木とは違うベクトルで脳筋だな・・・。

 

「それより零二。せっかくのお祭りなんだ。あれで勝負しないかい?」

 

龍一が指さした店は金魚すくいの屋台だった。

 

「面倒くせぇなぁ・・・」

 

「なんだい零二、自信がないのかい?」

 

龍一が俺を挑発するようにそう言ってくる。・・・まぁ、いいか。

適当にやってればこいつも満足するだろ。

 

「わかったよ・・・やりゃぁいいんだろ、やりゃぁよ

 

「よし、そうと決まれば移動し・・・。あれ?あれは・・・」

 

龍一が何かを見つけたように驚いた声をあげる。

 

「どうした?」

 

「今、金魚すくいしてる人・・・真田さんじゃないかい?後ろに陽菜子ちゃんもいるし・・・」

 

・・・マジだ。間違いなく真田のおっさんと陽菜子だ・・・。

しかし、真田のおっさん何してんだ・・・。

あんなナリで金魚すくいの網構えてるとかどう見ても変質者だろ。

ていうか、眼がマジっぽくて怖いんだが・・・。

 

「・・・っ!!!」

 

真田のおっさんの瞳がギラついた刹那、水中を優雅に泳いでいたはずの

金魚たちが一瞬にして消え去った。・・・おい、まさか・・・。

 

「わぁ、真田さんすごぉいっ!!」

 

真田のおっさんの手にしていたおわんにはさっきまで自由に水中を泳ぎまわっていた

金魚たちが山積みにされていた。

・・・轟木といい真田のおっさんといい、俺の知人にまともな奴はいないのか?なぁ?

 

「真田さん!陽菜子ちゃん!」

 

龍一は2人に駆けより、俺の元から離れた。・・・今のうちに逃げるか。

 

「兄さんっ!!」

 

その時だった。普段のクールな表情とは真逆な人懐っこい笑顔を浮かべた紗雪が俺に抱きついてきた。

 

「っと・・・!ど、どうした紗雪?」

 

「勝ったよ、私!!」

 

・・・ってことは・・・。

 

「くっそ〜〜〜!!あと一口というところで〜〜〜〜〜!!・・・あぅ、頭痛い・・・」

 

里村の手にはかき氷のカップが3つも重ねられていた。・・・どんだけ食ってんだよ、腹壊すぞ。

 

「黒羽紗雪・・・。今日は負けを認めてあげるけど、次はこうはいかないんだから・・・」

 

「負け犬の遠吠えほど醜いものはない」

 

「〜〜〜っ!!?サクラ、なぎさ、ば会長、水坂さん行こっ!!

バーカ!!零二のバーカ!!シスコン!!豆腐の角にサクラぶつけて消えてなくなっちゃえ!!」

 

「今のは聞き捨てならないよ、紅葉ちゃん!!?」

 

「ふふ・・・女の嫉妬って怖いわね」

 

そして里村たちはそんな意味不明な捨て台詞を置き土産に、そのままサクラ達を

連れて、人ごみの中へ消えていった。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

紗雪もこの展開は予想してなかったのか、呆気にとられている。

 

そして、俺の方をチラッとみてくると、俺と目が合ってしまった。

・・・なんか気まずいな。

 

「兄・・・さん・・・」

 

「な、なんだ・・・?」

 

さっきよりも心臓の音がよく響き、よく聴こえる。どうやら情けないことに

俺は緊張しているらしい。・・・いや、当たり前か。

好きな子と・・・実質、2人きりなんだもんな。

 

「・・・手・・・繋ご」

 

紗雪は消え入りそうな小さな声でそう呟いた。

そして俺は・・・確かに、紗雪の想いを聞き届けた。

 

「・・・ほら」

 

俺は、紗雪の手を、丁寧に優しく、自分の手で包み込んだ。

何でも触ったことあるはずの紗雪の手だが、今この瞬間、俺が触れている

紗雪の手は今まで触れてきたどの瞬間の紗雪の手より温かく感じた。

 

「・・・兄さん。来てほしい所があるんだけど・・・いい?」

 

・・・あれ、クレープ屋に行くんじゃないのか?実は結構楽しみだったんだが・・・。

・・・まぁでも・・・。

 

「訊く必要なんてないだろ?俺が嫌と言うとでも思ったか?」

 

「・・・ううん。兄さんは妹を泣かすようなヒトじゃないから。

じゃあ、ついてきて」

 

紗雪は遠慮がちに俺の手を引っ張る。

・・・しかし、来てほしい所とはどこなのだろうか。・・・もしかして・・・。

 

「紗雪。お前ひょっとして・・・最初っから・・・俺を誘うつもりで?」

 

こんなことを訊くのは少し無粋だったかもしれない。

だが、紗雪が愛しすぎるあまり訊かずにはいられなかった。

 

「・・・うん、そうだよ。本当は皆に黙って、こっそり兄さんのこと連れ出す

つもりだったんだけど・・・。手間が省けちゃった」

 

・・・まさか里村の奴が気をきかせて・・・。いや、ないか。あいつに限って。

 

俺はそのまま紗雪に連れられ梶浦神社のとりえをくぐった。

 

「あ、先輩たち、こんばんわ」

 

「お、梶浦」

 

とりえをくぐると、巫女服姿の梶浦が出迎えてくれた。

 

「あれ・・・?お二人だけですか?」

 

「あ、あぁ。ちょっと、他の奴らとは、はぐれちまってな」

 

「え、そうなんですか?・・・見かけたら、メール飛ばしときましょうか?」

 

「いや、大丈夫だ。心配してくれてサンキュな」

 

「いえ、そんな!・・・では、芳乃先輩に、黒羽先輩。

せっかくのお祭りなんで、目一杯楽しんでくださいね!」

 

「うん、ありがとう、梶浦さん」

 

「梶浦も巫女の仕事、頑張れよ」

 

「はいっ、ありがとうございます」

 

俺は満面の笑みを浮かべた梶浦に見送られながら、その場を後にした。

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

「紗雪、あとどのくらいで着くんだ?」

 

「ん、もうちょっとだよ、兄さん」

 

俺は紗雪に手を引っ張られるままついていってるだけだが・・・。

本当、どこへ向かってるのだろうか。

こんな・・・人気のない通り・・・。

・・・・・・・・・・・。いかん、邪な想像をしてしまった。

邪念よ・・・消え去れ・・・。

 

「着いたよ、兄さん」

 

「え?お、おぉう」

 

「・・・?どうかしたの?兄さん」

 

「い、いや・・・。・・・!ここは・・・」

 

ーーー月読島で、一番空に近い場所だった。

 

見渡す限り、漆黒に輝く夜空。俺達を優しく見守ってるかのような無限の綺羅星達。

 

俺はこの瞬間、紛れもなくこの夜空に呑み込まれていた。

 

「・・・綺麗でしょ。兄さん」

 

「・・・あぁ」

 

お前の方が綺麗だよ、とかリップサービスをきかせてやればよかったのかもしれない。

・・・古典的だが。

 

「『((最終戦争|ラグナロク))』の犯人を探してるときに見つけたの、ここ。

いつか『((最終戦争|ラグナロク))』が終わったら・・・兄さんと一緒に来たいな

って思ってたの。・・・願い、叶っちゃった」

 

「・・・さゆーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、愛するその人の名を最後まで口にすることができなかった。

 

言葉が紡ぎだせない。・・・当たり前だ。

俺の唇は今、この瞬間、俺の愛する人・・・黒羽紗雪によって塞がれてしまっているのだから。

 

・・・この瞬間ほど、時が止まってほしいと思ったことはないかもしれない。

 

唇が焼き切れるように熱い。だが、それ以上にとても心地いい。

 

俺が紗雪で満たされていく。紗雪の温もりが、俺という存在を支配してゆく。

 

 

 

ドォォーーン・・・ドォォォーーーン・・・

 

 

 

 

俺達を祝福するかのように、夜空に次々と虹色の花が咲き乱れてゆく。

それを合図に、俺と紗雪の唇は離れた。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

お互い照れくさそうに目をそらす。

・・・端から見たら完全に成り立てのカップルって感じなんだろうな・・・。

 

「・・・兄さん」

 

先に口を開いたのは紗雪の方だった。

 

「今日が何の日か・・・わかる?」

 

「7月7日・・・七夕か」

 

七夕。愛し合う彦星と織姫が年に一度会える日だ。

日本では短冊に願い事を書いて笹に飾るという風習もある。

 

「そう、七夕。・・・ということで」

 

紗雪は懐から2枚の短冊と2本の油性マジックを取り出した。

 

「せっかくだから・・・ね?」

 

「・・・そうだな。せっかくの七夕だもんな」

 

俺は紗雪から短冊とマジックを一つずつ受け取る。

 

「・・・久しぶりだね。七夕の日にお願い事するの」

 

「・・・そうだな。子供の頃はよくしてたけど、年が重なるにつれてやらなくなってったな・・・」

 

俺は何の迷いもなく、短冊に願い事を書いていく。

 

「私たちって・・・織姫と彦星みたいじゃない?」

 

「・・・どこが?」

 

「好き合ってたけど会えなくて・・・久々に再会できた・・・ってところ?」

 

「無理があるだろ・・・。それに、俺たちは年一度なんて制限もないんだ。

・・・これからは、ずっと一緒だ」

 

「・・・・・うん。」

 

・・・・・。

 

「書き終わったか?」

 

「うん、私は・・・。兄さんは?」

 

「俺ももうとっくに」

 

「じゃあ・・・飾る前に、お互いに見せ合おうよ」

 

「あぁ、いいぞ。・・・根拠とかないけどさ・・・何か俺・・・紗雪と同じ

願い事のような気がするんだよな」

 

「・・・えへへ。実は・・・私も。兄さんと同じ願い事なんじゃないかって・・・」

 

「そうなのか?・・・なら、きっと一緒だな」

 

「うん・・・。きっと、一緒の願い事」

 

「・・・あぁ。じゃあ、せーので見せるぞ?」

 

「うんっ!」

 

 

 

 

「「せーのーーーーーーーーーーーーー」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輝く星々と、咲き乱れる虹色の花々を背景に、

2人の願いは、この無限に広がる夜空にたくされた。

 

 

その純粋に輝く2人の願いは、これからの2人の未来を

穢れなき光で彩ってくれるだろう。

 

 

2人の願いは輝き続ける。

 

2人で築いたこの世界で・・・永遠にーーーーー

 

 

 

 

説明
紗雪アフター風に書いてみました。
みんなでお祭りに行くお話です。
拙い文章ですが最後まで見ていただるなら幸いです。
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