第5話 協力者 - 機動戦士ガンダムOO × FSS |
第5話 協力者 - 機動戦士ガンダムOO × FSS
惑星デルタベルン。
ジョーカー太陽星団イースター太陽系第二惑星である。なお、第三惑星のアドラーとは双子星であるが、政治や気候は異なっている。
刹那とミレイナが出現した星団歴上ではデルタベルンは唯一人の主君により統治されていた。その名は、天照帝。正式には天照ディス・グランド・グリース・エイダスIV。彼は、星団歴2899年、デルタベルンを統一した際に、デルタベルンに存在する47の国と、72の領地、その他にも別星4つの統治領からなるジョーカー太陽星団最大の国家、((A・K・D|アマテラス・キングダム・ディメンス))を発足させる。また、天照はAKD以外にも強力な騎士団やMH、魔導師軍団を保有していた。
現在、刹那とミレイナが乗るプトレマイオス3、通称トレミーは惑星デルタベルン東方10カ国の1つ、バビロン王国首都、ファルス・バビロニアの宇宙港に着陸させられていた。
物語は三日前に遡る。
デルタ・ベルンへの民間宇宙航路を進んでいたトレミーの船内では、大気圏突入前の最終段階であった。先ほどまでブリッジに居た刹那は、格納庫のELSダブルオークアンタのコックピットで緊急事態に備えて出撃準備に備えていた。コックピットのモニターから操縦桿を握るミレイナを観察していたのだが、緊張している様子が容易に見てとれた。
「ミレイナ、そう緊張するな。((クアンタ|こちら))側でも操舵のバックアップは行える。」
「だ、大丈夫です。何度もシミュレーションは行いました。セイエイさんは、座ってみていてください。」
「……わかった。任せよう。だが、」
「はい。万が一の際は出撃をお願いします。」
トレミーはジョーカー太陽星団では船籍登録されていない。そのため、どうやって惑星デルタ・ベルンへの着陸、支援者とコンタクトを取るか? 地球出発時の課題であった。
惑星デルタ・ベルンは先に述べたとおり、天照帝により全星が統一されている。そのため惑星全域に鉄壁の防空網が敷かれていたのだ。
当初は刹那達ソレスタルビーイング側はデルタ・ベルン衛星軌道上で迎撃機と一戦交える事も覚悟していたのだが、地球での((協力者|・・・))より意外な方法が提案され解決することになる。
「敵味方識別装置を取り付けて、作戦機として入国すれば良いだろう。その後の扱いに関してはこちらで書類を用意するのでそれを渡せばよい。」
これは破格の提案であった。デルタ・ベルンに安全に着陸するための((IFF|敵味方識別装置))の取付、もう1つは入国に必要な書類の偽装であった。この協力者からの提案を刹那もスメラギもあっさり受け入れることになる。
その時だった。トレミーのEセンサーは高速でこちらに向かってくる宇宙戦闘機の機影を捉えた。同時に戦闘機を発進させた戦艦もキャッチしていた。
「ミレイナ、防空艦隊のフリゲート艦の艦載機2機がこちらに急速接近中だ。IFFのスイッチを。」
「了解です。IFFスイッチONにしました。」
このIFFは予め地球出発前にGN粒子の影響を受けないように調整されている。
AKD宇宙軍防空艦隊のフリゲート艦から発進した迎撃機はトレミーに一直線で向かっていた。彼らとしても直前まで、この((アンノウン|トレミー))をレーダーで捕捉できないでいたのだが、突如として大気圏突入を行う艦船を発見したためスクランブル発進したのだ。ジョーカー世界でも欺瞞・妨害技術が進んでいたのだが、GN粒子が一歩先を行っていた結果でもある。今回はそれが仇になったわけである。
ミレイナはトレミーの速度を落とし、抵抗や逃亡の意志がないことを示す。同時に迎撃機のパイロット達もアンノウンからIFF信号が急に発進された事に驚いていた。迎撃機のパイロットは母艦に照会を依頼するとトレミーに併走するように飛行を始める。
「セイエイさん、なんとか、味方とわかって貰えたようです!?」
「いきなりズドンッ! はなさそうだが、通信回線のチャンネルは開けておいた方がいいな。周波数は知っているな?」
「はいです、AKD宇宙軍の周波数はプリセット済です。」
ミレイナはとりあえず最悪の事態は避けられたかな? と、胸をなで下ろしていたが、それは迎撃機のパイロットも同じであった。突如現れたアンノウンであったが、土壇場で味方とわかったからだ。それも、あまり関わりたくない相手のようだ、とパイロットは長年のカンで自分自身に警鐘を鳴らしていた。
「隊長。あの宇宙船は新造艦ですか?」
「わからん。俺も初めて見る艦だ。((強襲揚陸艇|パンナコッタ))よりも大きい位な? それよりも、推進器を見ろ。あの光の粒子はなんだ? イレーザーの光とも違うぞ!?」
「陛下がお作りなられた新しい推進機関ですかねぇ……。」
「そう、かもしれんな。」
迎撃機のパイロット達はトレミーの船尾から漏れ出るGN粒子の光に目を奪われていたが、せいぜい彼らの君主がまた暇つぶしに新機軸の推進器を開発。それの実験艦か何かだろうかと考えていた。だが、すぐに母艦であるフリゲート艦より通信が入る。
「バビロン王国所属の特殊作戦艦だと!? ……了解。エスコート任務にうつる。」
ミレイナは迎撃機から通信を受信した。
「(ミレイナ、ここは打ち合わせ通りで大丈夫なはずだ。)」
「(セイエイさん、了解です。)」
刹那とミレイナは連絡を取り合っているわけでも、脳量子波でやりとりをしているわけでもないが、以心伝心で伝わっていた。だが、迎撃機の隊長機から驚くべき通信が入った。
「こちらデルタ・ベルン防空艦隊所属ゴーストライダー1、プトレマイオス応答せよ。」
(えっ!?)
(なに!?)
刹那とミレイナにとって耳を疑う通信だった。AKD側はトレミーの名前を知っていたからだ。IFFの取り付けは行ったが、IFFの信号フォーマットの解析まではミレイナは行っていなかった。そのため信号データに艦名データまで含まれていたのか定かではないが、相手がトレミーと名指ししてきたのだ。
「プトレマイオスどうした? 聞こえないのか!?」
返信をしないトレミーに対して再度通信が入る。ミレイナは意を決して打ち合わせ通りの返信を行う事にした。
「こちら、プトレマイオス。私は艦長のミレイナ・ヴァスティです。わざわざの出迎え後ご苦労様です。」
迎撃機のコックピットのモニターにミレイナの顔が映し出された。ノーマルスーツを着ていたため実年齢は判断できなかったが、彼らの目には知的な女性に映ったに違いない。
「(女性だったか。)ミレイナ艦長。IFFに何かトラブルがあるのですか? 危うく貴艦に対して雷撃を行うところでした。」
「それは……。」
その時、ミレイナはハッとした。
「実は我が艦の通信機器に障害が発生していて、ご覧のように通信機器やIFFが不調で地上管制と連絡が取れません。着艦コースを指示していただけませんか。」
「突入まではご一緒できませんが、おやすいご用です。」
「ご協力に感謝します。これで((浮遊城|フロートテンプル))に帰ることが出来ます。」
ミレイナはここで、さらに一芝居打つことにしたのだ。着艦コースや着陸先の港までの航路情報は実は地球を出る段階でトレミーにセットされていたが、最終目的地までの現地での最新情報は欲しいところだった。
「ミレイナ艦長、それは出来ません。」
「え?」
「貴艦に対して、本国への帰投命令が出ています。」
こうして、トレミーは当初の目的地とは違う、バビロン王国首都ファルス・バビロニアの宇宙港に着陸することになったのだ。そして今、トレミーは宇宙港の大型ドッグに秘匿されていた。
「セイエイさん、今日で三日目ですね。」
「ああ。」
「まだ書類審査が終わらないのでしょうか? まさかと思いますが、書類に不備があったとか?」
「それはないだろう。不備があったなら、俺達のためにこんな大型格納庫まで手配すると思うか?」
「うーん、それもそうです。でも気になります。」
(確かにミレイナの言うとおりだ。普通は碌な監視も付けずに三日間も放置するものなのか……。)
三日前、宇宙港に着陸したトレミーであったが、民間航路の滑走路ではなく軍用機滑走路に誘導されて着陸させられていた。ファルス・バビロニアの宇宙港は民間機と軍用機と共用で使っており、バビロン王国の軍用機もここを利用している。
宇宙港に着陸した際に、基地司令と名乗る男がトレミーの元を訪れていた。刹那とミレイナは地球の協力者から預かってきた入国に必要な書類一式が入った厳重に密閉された封筒を渡したのだが、その時にトレミーを大型ドッグに格納するように指示されていた。
刹那は基地司令に誰からの命令なのか問いただしたのだが「これは上からの命令です。」とだけしか返答がなかった。また、二人に対して特に行動制限はされていなかったが、いつ連絡があるかわからないので、トレミーで待機をしている状態である。
一方、刹那とミレイナ同様に今回の事態に悩んでいる女性が遙か上空に居たのであった。
グリース王国上空。そこには、この星の絶対君主である天照帝とその恐るべき軍団の全兵器が詰め込まれた浮遊城がある。
天照帝の個人所有の島であったパトラクシェ島をジョーカー太陽星団の科学力で浮かび上がらせたのだ。その全長は6.7kmにも及び、高度3000mあまり上空を浮遊している。
この浮遊城は天照家の外宮であり、本宮はグリーズ王国にある。十字架の形をした本宮は浮遊城よりも更に大きく、衛星軌道上からでも視認できるほどの巨大な建造物である。
刹那達が地球から持ち込んだ入国関係の書類は封筒ごと、浮遊城に届けられていたが実は封筒の中には入国に必要な書類など入ってはいなかったのだ。入っていたのは何通かの手紙だけである。その手紙はこの浮遊城の住人に届けられていたのだが……。
「この手紙が届けられたのはいつだ!?」
巨大な、いや、この机に座っている男児と比べたら、という但し書きになるが、男児は体格に似合わない罵声を吐くと机を叩いた。彼なりに手加減をしているようだが、机の天板が手の形に凹む。恐るべき怪力である。
その一撃が、男児を囲む大人達の顔色を失わせることになった。この端から見ても、未就学前の男児にしか見えない子供が、大人顔負けの威圧感を周囲に放っているのは異様な光景だった。
「ひっ、エンデ様、怒らないでください。」
「手紙が届けられたのは三日前です。」
「馬鹿もん。三日も刹那達を待たせたのか!」
大柄な大人達がたった一人の男児の前で小さくなる姿は滑稽であった。ここから更に男児の怒りがヒートアップするかと思いきや、男児の後ろに立っていた白いスーツの女性が男児を椅子から抱き上げた。
「こら、離せ。」
「イエッタ様!?」
男児はいやいやと暴れるが、両脇の下をまるで万力で固定された木材のように女性にしっかりと掴まれてしまい思うように動けないでいた。
「マスターには私から、よーく、説明しておきますから皆様は下がっていただいて結構です。」
イエッタと呼ばれる女性は、大人達を部屋から退出させると、男児を抱きかかえたまま今度は椅子に座った。
イエッタは自分の膝に座らせた男児の頭を撫でながら諭すように話しかけはじめた。
「((情報部の皆さん|彼ら))はマスターがご公務休職中のため他の書類と一緒に代理執行されている天照陛下の元に行ってしまった手紙を、陛下の手に渡る前に奪い返してきたのです。これ以上、どうか彼らを責めないでください。」
「……それは、俺も感謝している。だがなイエッタ。」
「マスターは遠く地球から来た刹那さん達を三日も待たせた自分が腹立たしいのでしょう。」
「フン、わかっているじゃないか。」
男児は机の上のソーダ水のグラスを分捕るように取ると、ストローに口をつけブクブクと悪態をついてみせる。イエッタにはそれが可笑しくてまた可愛くも見えた。
「不幸中の幸いは陛下が留守だったことと、刹那達に気がつかれた命様が本国の空港に着陸させたということだ。」
「はい。命様の慧眼です。フロートテンプルに直接来られていたら騒ぎになっていました。」
男児は膝の上から飛び降りると、二三歩いて軽く腕を動かして見せる。一見子供が単なる腕を動かしている仕草のように思えるが、それは大間違いだ。
「マスターは刹那さんと会うのが楽しみなのですね。」
「あいつがそこらの騎士程度の実力だったら地球に送り返してやるわ。」
「まあ酷い。でも、それは指南した人にも責任がありますわ。」
「なんだと!?」
イエッタは苦笑いする。幾らELSと融合した真のイノベイターである刹那と、ジョーカー太陽星団の騎士とではその実力は雲泥の差があるはずなのだが……。
「ところで刹那達の様子は?」
「格納庫に匿っています。エレーナ様も詰めていますので大丈夫かと思いますが……。フロートテンプルを抜け出す段取りは我々にお任せ下さい。」
「うむ、任せる。」
「うみゅ〜。この手紙の意味がわがんにゃい……。」
その頃、フロートテンプルの別の場所では、刹那達からの手紙を受け取って頭を抱えている一人の少女が居た。先ほどから噴水の縁に腰掛けて、手紙を読んではウンウン、手紙を太陽にかざしてはウンウン唸っている。
宛先は自分、差出人も自分。手紙の内容は「地球」という惑星から尋ねてきた男女への協力依頼であった。それも問答無用で彼らに路銀と使えそうなパーツを提供しろ、その代わり天照陛下には内緒でパクってこい。というシンプルな文面であった。
「紙は((フロートテンプル|お城))の売店のメモ帳なのは間違いないし、筆跡も私の自筆。でも、なんでこんな事を書いたんだろう?」
少女は首をかしげる。かしげる、かしげる、かしげる。その様子を見ていた少女の遊び友達は、少女の顔を覗き込み怪訝な顔をした。しかし、この遊び友達の風体は道化師のそれであった。怪訝な顔、と言われてもメイクなのか自なのかわからない独特な顔だ。果たして本当に怪訝な表情だったのかと言われると困るが、一応彼としては怪訝な表情なのであった。たぶん。
「フンフン、なるほど、なるほど。」
「あ、こら。勝手に見ちゃ駄目!」
少女はすぐに手紙を後ろ手に隠すが、道化師は悪びれる様子もなく顎に手を当てながら少女に応えた。
「姫様が先ほどから唸っていたから我々は心配していたですよ。」
「そ、それは、ありがとう。でも、どうしたら良いかしら?」
「姫様、この者達はファルス・バビロニアの宇宙港に居るそうじゃないですか!? 直接、会って話をしてみたらどうですか。そうすれば姫様の疑問もすぐに解決しましょう。」
「そうか! 直接会って話すのが早いわね。スペクター、あったま良いー!」
「マスター、姫様に褒められました。」
「えへへ、やったでありんす。」
「そうと決まったら準備してくるわ。」
少女は先ほどまでの問題が解決したのが嬉しいのか、縁から飛び降りると早速出かける準備をするために建物の方に走って行ってしまった。その後ろ姿を友人の道化師と彼の相棒は見つめていた。
「やれやれ、カレン様。イノベイターの嫁探しも大変ですなぁ。……イノベイターとガンダムはこの時代には劇薬かもしれませんよ。」
道化師は伏せ目がちに呟くと、彼の相棒は首を傾げる。
「マスター、ガンダムってな〜に?」
「おお、ポーター、良い質問です。それはですね、目が2つに額にV字型ブレードアンテナがついている……」
太陽が傾き、夕暮れ時。
刹那はトレミーのコックピットで毎日届けられる地元の新聞などから情報を整理していた。「などから」というのは、新聞以外の情報も含まれる。ミレイナの手にかかれば、この基地のシステムをクラッキングして情報を入手することも容易い……。それにしても、トレミーの歴代オペレーターはクリスティナ・シエラを筆頭に、フェルト・グレイス、そしてミレイナとコンピューターの実力に関しては異常である。ミレイナに至っては10代前半からGNドライヴ搭載MSの修理を行っている。
刹那が新聞からジョーカー太陽星団全体が、きな臭くなっていることを感じ取っていた。
「バッハトマ魔法帝国か……。」
新聞ではジョーカー太陽星団では勢力を伸ばしてきた新興国のバッハトマが大国を相手に戦争の準備を始めている様子が報じられていたのだが、高度な科学技術を持つといわれるジョーカー太陽星団でも、未だに戦争が続いていることに刹那は心を痛めた。
「……だが、俺達は武力介入に来たわけではない。俺達の目的はマリナとの再開……。」
刹那は口から出かけた言葉を飲み込んだ。
「マリナに関する手がかりを見つけることは出来るだろうか。」
珍しく刹那は弱音を吐いた。ミレイナがもたらしたジョーカーに関する情報はまだ整理を始めたばかりなのだが、マリナの消息に結びつく有力な手がかりを見つけられるか不安な部分もあった。
「いや、必ずマリナを探し出して地球に連れて行く。」
そう刹那が改めて決心をしたとき、トレミーに外部から通信は入った。明るい女性の声がブリッジに響き渡る。
「はーい、刹那さん。夕飯の時間ですよ。扉を開けてくれないかしら?」
時間を少しだけ巻き戻す。刹那がトレミーのブリッジで情報を整理している頃、岡持を括り付けたられたディグからひとりの女性が格納庫の前に降り立つ。ディグと言ってもバイクタイプから乗用車タイプ、はてはMH用と有り一括りには出来ないが、今回女性が乗ってきたのはバイク型ディグだ。ご丁寧にカウルには翼のエンブレムが、ディグの後部には出前用岡持を括り付けるためのアクティブサスペンション付きの保持器が取り付けられている。
「さて、本日のラストミッションを開始しましょう。」
女性はディグ後部の((3人前|・・・))の食事が詰め込まれたアルミニウム製の岡持を軽々と片手で持ち上げると格納庫の扉へと歩を進めた。
彼女の名前は、エレーナ・クニャジコーワ。彼女は刹那達がファルス・バビロニアの宇宙港の格納庫に秘匿されてから連絡係として頻繁に足を運んでいた。彼女が地元の新聞や雑誌などを刹那達に提供しており、それ以外にもこうして三度の温かい食事を出前しているのだ。
「今日は刹那君とミレイナさんからどんな情報が聞き出せるかな。……刹那君、ああ見えて感が良いから、気をつけないとこちらが危ない、かな!?」
三日前、エレーナは宇宙港の基地司令から刹那達の監視と護衛の任務を任されたのだが、はじめて刹那とミレイナに会った時は訝しげに思っていた。
「はじめはどこかの王族が亡命でもしたきたのかと思ったが、なぜ((単なる民間人|・・・・・))を匿う?」
それがエレーナの刹那達の第一印象だった。しかし、刹那とミレイナと接するうちに違和感を感じ始めていた。
(この二人は何者なのだろう? この刹那という男は((騎士|ヘッドライナー))ではないようだが、何か得体の知れない力を隠している……気がする。外観からすると120歳ぐらいか。それにミレイナという女性、乗員同様得体の知れない宇宙船の艦長というが、彼女がこの宇宙船を開発したという。どこかの高名なマイトなのか? それに宇宙船の大きさを考えるとMHでも搭載されていると考えるのが妥当だろう。こちらは160歳ぐらいの容姿だが、二人は恋人同士? まさかな。)
エレーナは刹那達に関する情報を一切伝えられないまま任務にあたっていたのだ。もっとも、刹那達の正体を知るものはジョーカー太陽星団では今だ数名しかいない。
そのため職業柄、自然とこの謎の訪問者に対して情報収集しているのだ。
「はあ。何はともあれ、ボス、早く出てきて下さい〜!」
エレーナは一向に情報を寄こさない上司への八つ当たりを含めて、格納庫入り口のインターフォンのボタンを連打するのだった。
「もう、そんな時間か。エレーナ、ロックを解除する。」
刹那はトレミーのブリッジから秘匿されている格納庫入口脇の通用口の電子ロックを解錠した。すると、出前用の岡持をもった女性士官が姿を現した。
刹那はELSダブルオークアンタのメンテナンスに没頭しているミレイナに声をかけると、先にトレミーのタラップから格納庫に下りて女性士官を出迎えるのであった。
「エレーナ、今日も来てくれたのか。」
「こんばんは、刹那さん。命令というのもありますが、これも何かの縁です。ところでミレイナさんは? また整備?」
「まあ、そんな所だ。もう間もなく姿を現すだろう。」
刹那は言葉を濁すと、格納庫の一角に設けられたテーブルに女性士官を促す。
「クニャジコーワさん、セイエイさん、お待たせいたしましたです。」
タラップからミレイナが駆けつけてきた。
エレーナ自身が明るく社交的な性格のため、刹那やミレイナとしても「地球の協力者」以外のジョーカー太陽星団の人々とのコミュニケーションが円滑に進んで何よりであった。いつも朗らかなエレーナの表情はホッとさせられるものがあった。しかし、刹那は密かに時折エレーナから感じる唯ならぬ気配に警戒していた。
「ミレイナさん、間に合って良かった。折角の麺がのびるところでした。」
エレーナは、テーブルに岡持を置くと側面の板をスライドさせ、中から今日の晩ご飯を並べ始めた。今日の晩ご飯は、味噌ラーメンとチャーハンのセットである。エレーナはラーメンの丼の輪ゴムで固定されたラップを外し始めた。失敗するとラップについた汁が飛び散るのだがエレーナは器用に外す。なお、食事は毎回エレーナの分も含めて3人分あった。
「いただきます!」
デルタ・ベルンに到着して、エレーナが食事を持ってきた時には、どんな食事が出てくるのか興味津々であったが、以外にも地球と同じメニューばかりが出てきてミレイナは拍子抜けするやら、驚くやらの連続だったが逆にエレーナ自身もデルタ・ベルンの定食屋のメニューに驚きと懐かしく感じるという刹那達に疑問を持っていた。
ミレイナはさすがに三日目になると多少慣れてきたのだが、当初は本当に別の宇宙に来たのか悩んでいた。隣で今まさに上手に麺をすすっている男に相談しようか考えた事もあったが、ティエリアから聞いた話ではELSとの対話の道中で本物のラーメンやらビフテキやら食べてきたそうだ。
「地球の常識で考えてはいけないかもしれないです……。」
今日の晩ご飯の味付けが地球の、それも旧ユニオン経済特区の食堂の味に似ていると思いながらミレイナがチャーハンを食べているとエレーナが話しかけてきた。世間話にカムフラージュした情報収集が目的だろうが、刹那もミレイナもこたえられる範囲でこたえていた。
「ミレイナさん、差し出がましいですが、もし整備で人の手が足りないようでしたら、お手伝いしますよ?」
この申し出には刹那もミレイナも今日も来たか、と身構える。会話の中で時々情報を聞き出そうとしてくることは何度もあったが、今日は随分ストレートであった。
「お心遣い、ありがとうございます。でも、大丈夫です。」
「そうですか? その割りに、お疲れのようですが……。もし宜しければ私の知り合いにデルタ・ベルン随一の整備士がいます。いつでも、紹介いたしますわ。」
「それは、助かります。どうしても、の時は是非お願いします。」
「わかりました。遠慮なさらずに仰って下さいね。」
ミレイナは当たり障りのないようにこたえるしかなかった。刹那は二人のやりとりを見ているうちに麺をすするのを忘れてしまっていた。それに気がつき、再び麺をすすりはじめたのだが、ミレイナは反撃に出てしまった。
「そういえば、エレーナさん。天照陛下はMHも開発されるようですね。独創的なエンジンレイアウトに超強力なツインエンジンから繰り出される圧倒的なパワーと稲妻のようなスピード、イレーザーファンクションのプラズマ炎で乱反射して発光する半透明化積層装甲の美しさは一目見たら忘れられませんわ。ミラージュマシンは凄いですね。」
この一言で場の空気が凍り付く。刹那がエレーナに目を向けると先ほどまで爛漫としていた表情が凍り付いていた。
――どうして、この女はミラージュマシンを知っている? ミラージュマシンは最近になって公開されたばかりとはいえ、詳細は明らかにされていない。だが実際にその目で見ているような口調だ。まさか性能も知っているのか? 様々な憶測がエレーナの頭に浮かんでは消える。知らず知らずのうちにエレーナは自分がミレイナを睨んでいることに気がつかなかった。
「エレーナ・クニャジコーワ。すまないが、お冷やを頂けるか?」
「え? ああ、すみません刹那さん。今、お冷やをお注ぎしますわ。」
再び、明るく朗らかな表情に戻ったエレーナに刹那はコップを差し出すと、エレーナはピッチャーのお冷やを注いだ。ピッチャーを持つ手が今にも震えだしそうだが彼女は懸命に平常心を保った。だが、エレーナは表情とその仕草とは裏腹に内心、刹那とミレイナを侮っていた自分を悔やんでいた。
不意に格納庫に備え付けられている通信機の着信音が鳴り響いた。盗聴防止のため有線電話だ。エレーナが受話器を取ると二言、三言、言葉を交わす。その間、小声で刹那はミレイナを叱っていた。
「ミレイナ、牽制としても今のは言い過ぎだ。」
「……ごめんなさいです。でも、通話の相手は誰でしょうか?」
「わからない。だが、何か嫌な予感がする……。」
エレーナは通信機のボタンを押すと受話器を置いた。それは保留ボタンであった。エレーナは食事が終わった刹那の前に立つと伝えてきた。
「刹那さん。刹那さんと是非話がしたいという方からお電話が入っています。お電話に出ていただけませんか?」
「……相手はエレーナの上司か?」
先ほどとうって変わってエレーナの顔はもう笑っていない。
「まあ、そんな所です。」
「わかった。電話に出よう。」
ミレイナはトレミーのブリッジで食後のコーヒーを啜りながら、ELSダブルオークアンタの整備を行っていた。
今、トレミーが秘匿された格納庫にはミレイナしか居ない。先ほどの食後の電話に刹那が出ると、すぐにエレーナと格納庫の外に出て行ってしまったのだ。ミレイナは刹那から「もしも」の時に備えてトレミーに残るように言い渡されていた。
クアンタの状態だが直接の整備はハロが行っているが、現在ミレイナが手を付けているのはエンジンパワーの出力調整である。とある理由でGNドライヴが緊急停止状態のクアンタにとってこの二基一組のエンジンは頼みの綱なのだが地球出発までに地球での協力者と二人がかりで調整を行ったのが最終的にモノに出来なかったのだ。
「セイエイさんに何かあれば、ELS達が教えてくれるでしょうが、ELSダブルオークアンタが使い物にならないのは困るです。」
「エレーナさんの申し出を受ければ良かったかな……。ああ、駄目です。それは約束違反です。」
クアンタの内部についてはジョーカー太陽星団では秘密扱いになっていた。ひとつにGNドライヴの技術がジョーカー太陽星団ではオーバーテクノロジーであること。もうひとつはクアンタに移植された部品がジョーカー太陽星団では機密扱いであることの2点であった。後者の理由はミレイナが地球での協力者との間に交わした約束でもあったのだ。
トレミーのブリッジに外部から通信が入った。それは先ほど同様、格納庫の扉に設置されたインターフォンからのものだ。なお、インターフォンは暗証番号を入力しないと動作しない仕様であり、エレーナによると暗証番号を知っているのはこの宇宙港施設の極一部と刹那とミレイナだけだという。つまり、ピンポンダッシュなどは行えないようになっている。
(セイエイさん、意外に早かったですね。どんな用事だったのでしょう?)
ミレイナは通信にこたえた。
「ミレイナ・ヴァスティです。どのようなご用でしょうか?」
「……貴女が私に手紙を届けてくれた人ですね?」
「は、はい!?」
ミレイナは通信機から聞こえてきた声に驚いた。刹那ともエレーナとも違うはじめて聞く別人の声だ。今、この格納庫には自分しかいない。何かあれば、ELSダブルオークアンタが守ってくれるかもしれないが、それは最悪の状況に陥った時だ。そのような状況下ので突然の訪問者である。軽いパニックに陥りそうになるが、必死に自分自身に落ち着くように言い聞かせながら返答する。声の主が言う手紙については自分たちが持参した封筒の事だとピンときた。
「はい。私達が封筒、いえ、手紙を持参しました、です。あ、あのー、どちら様でしょうか?」
「ラキ……いえ、祇妃・ラキシス・ファナティック・B・天照・グリエスと申します。」
「え……、ラキシスさん!?」
ミレイナにとってその名前こそ、共に地球でELSダブルオークアンタの改修に尽くしてくれたパートナーの名前であり、ミレイナが約束を交わした協力者である。
第五話完。
後書き。
投下が遅れましたが、読了お疲れ様でした。
次回第6話から、第4話の続きのお話しになります。
説明 | ||
刹那とミレイナを乗せたプトレマイオスは惑星デルタ・ベルン、バビロン王国首都ファルス・バビロニアの宇宙港に着陸していた。その頃、フロートテンプルでは刹那達が携えてきた親書に振り回される人々がいた。 | ||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
3117 | 3084 | 0 |
タグ | ||
ガンダム00 FSS ファイブスター物語 ELSダブルオークアンタ 刹那・F・セイエイ 機動戦士ガンダムOO | ||
窓側 指定席さんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |