LOST WORLD―COLLAPSE― 1−6 8月23日 午前10時30分 二階一年生教室廊下
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 二人と別れた玲はその手に角材を握り締め、もう一度に階段を使って上に向かっていた。当然のように二階に辿り着くと、角から覗き込んだ先にはふらふらと歩いているゾンビの姿があった。

 数体のゾンビが床に倒れたひとりの生徒に群がり、その身体に牙を立てる。必死に逃げようと悲鳴を上げながら暴れる生徒であるが、普通の人間の力とは思えないそれで抑え付けられているためにびくともしない。死んでいるためにもはや脳のリミッターというものが切れているのかもしれない。

 掴まれたら一巻の終わり、思わず角材を握る力が強まる。

 ここから逃げたいという思いも当然強くなる。だがそうできない理由もあった。

 大丈夫、きっと無事でいる。

 姉のことを思い、ゆっくりと角から姿を現す玲。音を立てないようにしてゆっくりと階段の方へと向かって行く。その廊下には群がっているゾンビたちがいる。襲われた生徒はもはやピクリとも動かずにその身体を貪られている。しばらくすれば彼もまたゾンビとなって動き出すだろう。

 床を踏む音が小さく鳴る。その音に敏感に反応したゾンビたち。ゆっくりとこちらに顔を向けてくる。口の周りを真っ赤に染め、白目を向いてこちらを見つめてくる。もはや見ているのかどうかも分からない。だがゲーム通り、彼らは音に反応した。まったく音を立てないようにするというのは難しい。だからなるべく彼らを誘導することを考えないと体力的にも難しくなる。

 一体のゾンビが玲に向けてその皮がずる向けて、肉や骨が剥き出しになっている腕を伸ばしてきた。それを横にずれることで交わし、そのままフルスイングをしてそれの側頭部を殴った。グシャリという嫌な音と共に、玲の掌にはまるで木の棒で西瓜を叩き割った時のような感触が伝わった。西瓜ならまだましも、それが生前は人間だったものの東部であるために嫌な感覚が背中を走った。そのゾンビは横にあった壁に激突し、完全に頭を割った。

 音を立ててしまったために、さらにゾンビたちが集まってくる。集まりすぎると廊下が埋まってしまい、前に進めなくなる。さらに後ろの教室からもぞろぞろとゾンビが現れる。もはや進む以外に選択肢はなく、退路は失われてしまった。

 キッと睨みつけるようにして玲はゾンビたちに視線を向け、廊下を踏みしめて走り出す。こちらに向かって腕を伸ばしてくるゾンビの横を掻い潜り、立ち上がって前方に現れたゾンビの頭を殴る。そうすると倒れはしないが後方によろよろと仰け反りながら後退する。その隙を突いて逆から腕を伸ばしてきたそれを振り上げた角材でいなし、そのまま一刀両断するかのように上段から振り下ろした攻撃で頭を叩き潰す。血肉が顔に降りかかる。思わず目を瞑りかけたが、すぐに持っていたやや大き目のハンカチで拭き取り、前を向く。

 二体のゾンビが迫る。角材で振り払おうとするもそれを一体だけに留まり、倒れ伏したところから足を引っ掛けてこちらに倒れてきた。慌ててゾンビの身体を角材で受け止める。だが相手は女子生徒だったからといって死んでゾンビとなっているために力は玲と同等、それ以上のものだった。時間を掛けすぎると後ろから立ち上がったゾンビや近づいていたゾンビに襲われる危険性がある。倒れていたゾンビがこちらに顔を上げてきた。まずいと思い、思いっきり足を持ち上げ、それの頭を踏み潰した。それによって脳髄などが回りにぶちまけられる。足から嫌な感触が広がり、血や髄液で右足がべとべとになる。

 

「く、そぉ……」

 

 思わず苦悶の声を漏らす。

 足元に広がった液体によって踏ん張りが利かないからだ。

 向こうの方はまったく制限なしの力を持っている。疲れなんて感じさせない様子は相変わらずだ。徐々に腕に力が入らなくなる。ゆっくりとゾンビの顔が近づいてくる。腐敗臭と血生臭い臭いが鼻をつく。鼻がひん曲がりそうに感じ、思わず顔を顰める。

 突然肩に手が置かれた。

 後ろから来たゾンビがその爛れた腕を伸ばしてきたのだ。掴まれるよりも先に慌ててその腹に向けて蹴りを放つ。そのゾンビは後方から集まってきていたゾンビたちを巻き込んで廊下に倒れる。起き上がるのも少し時間が掛かるだろうが、逆に踏ん張りが弱まったために玲はゾンビに押し倒されてしまった。

 

「こ、こいつっ!」

 

 今にも喉元に噛み付かんと襲い掛かってくるゾンビと交戦している。だが徐々に力負けして、腕が押され始める。さらに頭の向こうでもゾンビたちが立ち上がり始めていた。このままでは群がられ、殺されてしまう。しかし起き上がることも、押し返すこともできない。左右に振るってもがっちりとその角材を掴んでいるために離れないでいる。口からこぼれる血の混じった唾液が玲の顔に垂れる。

 ――こ、殺される……!

 死という恐怖が玲の思考を、身体を支配する。彼らに噛まれれば本当に死を迎えられるのだろうか。 死んでいるのに生きているように動き回るゾンビとなる。そんなのは絶対に嫌だ。だがゆっくりと身体に近づく。玲は恐怖のあまり目を瞑る。少しでも恐怖から、痛みから逃げるために。そして次の瞬間に聞こえてきたのは、自身の肉を噛み切るような音ではなく。何か鈍器のようなもので殴ったような音だった。それと同時に玲の身体を拘束していた力が弱まるのが分かった。ゆっくりと目を開けるとそこにはぐったりとしたゾンビがこちらにもたれかかっている姿だった。そのゾンビの肩から先に一人の女子生徒の姿が見えた。

 同じクラスの桜田かおりだった。白いセーラー服を血でところどころ赤く染め、恐怖引き攣った表情を浮かべている。その手にはゾンビを殴った時に使ったと思われる椅子があった。

 

「は、早くっ!」

「っ!?」

 

 かおりの言葉に弾かれるようにして玲は立ち上がる。

 そこには後ろからやって来ていたゾンビがいた。慌てて怜はかおりの手を掴み、走り出す。かおりもその手に持っていた椅子を投げ捨て、玲の後に付いて行く。

 椅子が投げ捨てられたことで大きな音が発生する。当然その音に反応し、ゾンビたちが動き出す。

 走る二人は階段を上へと上って行く。下からもゾンビたちが音に気付いてやって来ていたのだ。上には数体のゾンビしかいなかったために、玲が先頭に立ち、足を払うようにして角材を横薙ぎに振るった。階段という不安定な場所にいたために足を払えば倒れて、後は下に落ちていくだけなので余計な力を使う必要はなかった。そこにいた数体を同じように倒し、上に向かう。

 階段を上りきるといたるところでゾンビたちが廊下に倒れ付した生徒たちの身体を貪っていた。男女関係なく、すでに性別など関係なくなっていたゾンビたちはただ目の前の食料を食している。

 斜めに立っているかおりが玲の手を握り締める力が強くなる。それを感じ、玲も無意識の内にその手を握り返す。一瞬かおりはそうしてきた玲の方に視線を向ける。彼の視線は相変わらず廊下に存在しているゾンビたちの方に向けられている。

 慌ててその視線を外す。

 自分以外の生徒たちが次々とゾンビたちの餌食となり、どこかに走って逃げていってしまったのでかおりはひとり教室の中で隠れているしかできなかった。運よくそこにはゾンビが入ってこなかったのでぎりぎりまでやり過ごそうとしていたのだ。

 そんなとき近くに現れたのが角材を手にしていた玲だった。そんな玲がゾンビに襲われ、殺されそうになったのを見て、助けなければと思い、無我夢中で近くにあった椅子を持ち、ためらいながらもそれをゾンビの後頭部目掛けて振り下ろしたのだ。

 そして今に至る。だが三階に上ってきたはいいが、一体彼は何をしようとしているのかかおりには分からない。

 

「ね、ねえ……これからどうするつもりなの」

「姉ちゃんを探す……生きていればの話だけど、いなかったら家の方に向かってる可能性がある。取り敢えず、三階はくまなく探したい……んだけど難しそうだな」

 

 視線の先にいるゾンビたちをどうにかしなければ先には進めそうにない。近くに何かないか探す。すぐ隣に空き教室がある。運よくドアが開いており、そこにはゾンビの姿はない。血が辺りにあるが、おそらくここでゾンビになった者たちはどこかに出歩いているのだろうと思う。

 

「こっちに!」

 

 玲はかおりの手を引っ張りその教室に入る。そして掃除用具のロッカーをあけ、そこからアルミ製のバケツを一つとる。それをもってまた入り口へと戻り、階段の方へと放り投げた。それが中を舞い、階段に落ちた。

 甲高い音が響き渡る。おそらく一階の方まで聞こえたのでないか。

 ガラガラという音を立ててそれが階段を落ちていく。それの音に気づいたゾンビたちが一斉に階段の方へと視線を向け、足を進める。二人は教室の廊下側の中央の席の近くに身を潜める。やはりゾンビには視覚はないが、聴覚が異常に発達していると分かる。階段の方に向かったゾンビは足を踏み外し、  次々と下に落ちていく。なんとも間抜けな構図であるが、今は笑う気になれるはずもなかった。

 ゾンビの姿が見えなくなったため、玲は血糊の付いた角材をロッカーの中にあった雑巾で一度拭い、滑らないようにする。立ち上がり、かおりに手を差し伸べて立ち上がらせる。

 

「取り敢えず後ろから付いてきて」

「……うん」

 

 玲の問いかけにおびえながらも頷くかおり。彼女のことを連れてきてしまったのは咄嗟のことだった。

 あの場所にいてもゾンビとの戦闘において高い音を立ててしまっていたのでその場に残っていたらおそらくやられていただろうと思う。先ほどの作戦で廊下にいたゾンビのほとんどが階段の下に落ちていった衝撃で即死しただろうと思う。まだ声が聞こえているので数体はそのあたりをうろついているだろうと思うが、何かが起きない限りは上には上がってこないだろう。

 ゆっくりと彼女の手を引きながら出口から顔を覗かせて廊下を見る。

 そこにはゾンビの姿はなかった。

 ゆっくりと足音を立てないようにして廊下に出る。彼女を背中に回し、両手で角材を握り締めて周りに視線を向けながら注意深く姉の姿を探していく。

 姉の天音は玲よりも一歳年上の高校二年生である。

 その二年生の教室というのは今二人がいる三階に存在しており、その教室数は五つ存在している。廊下には先ほど入っていた空き教室を含めて六つの教室があるために一つずつ確認する必要があった。

 それは彼女の教室に隠れているとは限らないためだ。

 最悪四階の方にも行かなければいけないかもしれない。だが上に行くほど学校からの脱出が難しくなる。だからできるだけ早く見つけたいと思っていた。

 かおりに後ろへの注意を任せながら教室の中を覗き込む。

 その教室は生徒たちがそこを出るときにぶつかりながらだったためか、椅子や机はめちゃくちゃに倒されており、さらにはゾンビがこの中にも侵入したために血が辺りに吹き飛んでいた。さらには食いかけの肉片などというものもあり、かおりは思わずそれを見て視線を逸らす。ここに来る間にも何度も見ていたが、流石にいきなり非日常的な光景を目の当たりにして玲も目を逸らしたくなる。

 

「誰か、いるか……?」

 

 ゾンビの存在は確認されない。

 囁くような声で教室に生存者がいないか確かめる。ゆっくりと中へと踏み入れていく。隠れられそうなところをくまなく見てみるも、そこには誰もいなかった。

 仕方ないと思い、隣のクラスへと移っていく。

 だがひとつ、二つ、三つ目の教室を見てみてもそこには誰ひとりとして生徒の姿はなかった。

いたとしても身体中に無数の傷を作り、絶命していた生徒の遺体だけだ。その遺体もまた、数分もすればゾンビとなって這い回る屍となるだろうと思う。それが起き上がる前に移動しなければと思い、不安そうな表情でこちらを見ているかおりの手を掴み、その場を後にする。

 

「お姉さん、いないね……」

「……大丈夫」

 

 だと思うと心の中で続ける。

 正直このような混乱した状況下で数分といえども別れてしまっていれば探し出すことは難しい。普通であればここを脱出することが最優先のはずだ。姉のことを探しながらどうやってここを脱出するべきだろうかと考える。ここから直接階段を使って下に降りるのはもう難しいだろうと思う。なぜなら先ほどの方向にある階段にはすでに踏み外して下に落ちて言ったゾンビたちがうろついているだろうし、逆方向は一体どうなっているかは分からない状態だ。途中の廊下にゾンビがいれば降りるのは難しいと思った。

 それに戦力にならない後ろにいるかおりのこともあった。

 彼女には悪いが正直ここを脱出するには彼女は足手まといだった。だが彼女に命を救われたというのも事実。彼女がいなかったら今頃玲はゾンビたちの一匹になっていたのだから。だから決して彼女に文句を言うようなことはしない。

 そして最後の教室の中に視線を向ける。そこには今までの教室にあった遺体以上の数のものがそこに転がっていた。体中を噛み切られ、真っ赤に染まった男女それぞれの生徒たちの遺体があった。それを見たかおりは何度目かの口を手で覆う動きを見せる。玲はそっと誰かいないかと限りなく可能性の低いこの状況下で囁く。

 そしてそんな彼の声に反応する声があった――そしてそれはゆっくりと立ち上がる――ゾンビだった。

 倒れ伏していた遺体が次々と起き上がりこちらに白目を向いた顔を向けてきたのだ。それだけでなく後ろにいたかおりが悲鳴をあげる。一体何が起きたのかと慌てて後ろを見て、怜は愕然とした。

 そこには次々と上から階段を転がり落ちてくるゾンビたちの姿があったのだ。

 さらに廊下の向こうからも他の教室に倒れてあった遺体がゾンビとなって起き上がり、こちらに向かってやって来ていたのだ。

 

「高宮くん!」

「くっ!」

 

 かおりの声に怜は歯噛みする。

 絶体絶命だ。

 取り敢えずこの場にいるわけには行かず、教室を出る。だが出たからといって突っ切ることも階段を上ることもすでに不可能だ。すぐにゾンビたちが集まってくる。このままでは二人ともゾンビに噛まれてしまい、一巻の終わりだ。廊下に出た二人の近くには消火栓と脱出するには三階と高すぎる位置にある窓だけだ。二人には武器になるようなものは角材しかあらず、逃げ道など自殺覚悟での飛び降りしかできない。

 ――飛び降り……?

 慌てて怜は窓を開けて下を見る。

 そこには運よくゾンビはおらず、そこから少し離れたところに見えるだけだ。それにここにはまだ気づいていないようであり、すぐ近くには校外に出られるフェンスがある。やや登るには時間が掛かるかもしれないが、向こうのゾンビに気づかれなければすぐに脱出することができると思う。

だがここから飛び降りるには相当な勇気と圧倒的なまでの運にかかっていた。失敗すれば足の骨を折る可能性もある。そうなると移動することもできなくなり、当然のように殺されてしまうだろう。そうならないためにはどうするべきか。後ろにいるかおりの悲鳴のような叫びが怜の焦りを助長する。

 クソッとはき捨てるように言う。

 八方塞だ――!

 だが戸惑っている暇はない。怜はすぐさま消火栓の扉を開け、そこにあった白い放水用のロープをかおりに手渡す。いきなり押し付けられる形で手渡されたかおりはこれを一体何に使うのかと戸惑っている。これを使ってやってくるゾンビたちを撃退することも一時は考えたが、それではさらにこちらにゾンビをひきつけてしまう形になる。そうなるといよいよ脱出することが難しくなる。だからこれを命綱にして下まで降りることを思いついたのだ。

 

「それを窓から下に降ろして!」

「えっ……高宮く――」

「いいから急いで!」

 

 戸惑いを隠せずにかおりがこちらに一歩踏み出そうとしたのを止めるようにして怜は叫ぶ。

 すでに彼の手はホースを水の放出口に取り付け、閉める方向にぐるぐると回していた。それを見てもはや動揺してばかりはいられないとかおりも意を決してそれを思いっきり外に投げる。それがロープの代わりになって下の地面に落ちる。放出口に取り付けているためにしっかりと固定されている。怜はすぐにかおりに対して下に降りるように叫ぶ。自身はその手に角材を持ち、近づいていた一体のゾンビの頭を横なぎに殴った。グラリと側頭部を殴られたゾンビは横によろける。だがすぐに後ろから別のゾンビが手を伸ばしてくる。

 怜が再度叫ぶ。

 かおりはすぐに頷いて窓に足をかけ、一瞬下を見て戸惑いを見せる――が、すぐにホースを握り締めて、ゆっくりと降り始める。まだ外にいるゾンビたちはこちらに気付いていない。例え気付いたとしてもすぐにはこちらにはたどり着くことはないだろう。怜は降りていくかおりの様子を確認し、掴まりそうになったゾンビの顔に対してその角材を、槍で突く要領で突き出した。それがゾンビの鼻を圧し折る。

 

「お、おおおォォォ!」

 

 思いっきりそれを押す。

 盛大に後ろに倒れたゾンビが後続を巻き込みその場に倒れる。

 今なら余裕を持って外に出られる――そう思いホースを握り、窓に足を掛けた。下を見るとすでに地面に降り立っているかおりの姿があった。怜はほっとしながらもしっかりとホースを掴んで下に降りていく。

 ようやく脱出できる――そう思った時だった。

 

「た、高宮くん! う、上!」

「っ!?」

 

 慌ててかおりが指差した上を見る。

 そこには起き上がっていたゾンビが窓際に群がっており、今にもこちらに落ちてきそうな状態だったのだ。さらに片側に寄せていた窓が今にも外れそうであり、そうなったりしたら下にいるかおりと共にガラスの被害にあってしまう。

 まずいと思い、慌てて降りるスピードを速める。

 あと一階――そう思った時だった。ガチャンという何かが外れる音と共に、こちらに向かって窓ガラスと数体のゾンビがこちらに向かって落ちて来たのだ。

 

「きゃあああっ!」

「くそっ!」

 

 頭を庇うようにしてしゃがみこむかおり。その悲鳴を聞いてこちらに気付いてしまうゾンビたち。それを見て怜は愕然とする。ここまで来て死なないといけないのかと――思考が止まり、ただこちらに向かってくるゾンビと窓ガラスを見つめているしかできない。

 嫌だ――。

 時間がゆっくりになったような感覚を覚える。これが死に直面したときの状態だろうか。怜はただ死にたくないと強く願った。

 親友とまた生きて会おうと約束したから。

 まだ見つけていない姉を探し出すと決めたから。

 ――俺は、俺はまだ、死にたくない!

 それは無意識の内にだった。

 怜はホースを手放すと同時に足場にしていた壁を思いっきり蹴ったのだ。そしてまだ二階という高さから思いっきり加速しながらかおりに向かって飛び降りる。

 指の隙間からこちらを見た彼女は驚きのあまりに言葉を失う。

 彼女の身体に触れると同時に思いっきり着地と共に地面を蹴り、転がる。二人がいたところに向かってゾンビと窓ガラスが同時に落ちた。顔面から落ちたゾンビたちの頭は完全に潰れ、まるで西瓜を叩き割ったような状態になる。

 さらに窓ガラスも大きな音を立てて割れる。

 かおりの悲鳴とともにその音に反応したゾンビたちの数がさらに増えたのが見て取れた。

 地面から彼女を庇いながら転がった怜は慌てて起き上がる。腕の中に庇うようにして抱きしめていたかおりも顔を赤らめながら立ち上がる。

 ゾンビたちが集まりつつあり、彼らの来る方向に抜けるのは不可能だ。

 しかし二人の背後にはやや高いだけのフェンスがあり、その向こうは校外の道路となっている。その 向こうには運よくゾンビの姿はない。

 

「早くフェンスに上って!」

「う、うん」

 

 怜の言葉に慌ててかおりはフェンスを掴み、足をかけて上り始める。怜もまたすぐさま上り切り、向こう側に降りる。慣れないことをするものであるから、彼女の動きはひどくゆっくりである。ゾンビの動きも遅いが見ていてはらはらする。

 ようやく上り切り、飛び降りる。

 迫っていたゾンビたちはフェンスに遮られ、こちらに来られない。

 

「よ、よし……逃げよう!」

「……うん」

 

 手に持つ武器はない。しかし進まなければ生き残れない。怜は隣に立つかおりにそう声をかけ、かおりはそれに頷きながら答える。

 ――姉ちゃん……生きているよな?

 生存すら確認できない姉のことを心配しながら、怜は生き残るために足を踏み出す。

 まずは家族の安否の確認だ。

 当然かおりの家にも行かなければいけない。

 こうなったら生存者は集まって脱出するしかない。そう思いながら家のある方向に視線を向け、足を踏み出すのだった――                                 (終)

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EDテーマ→「夢で終わらせない…」

 

 初めての方は始めまして、以前の作品から読んでくださっている方はありがとうございまず、泉海斗です。

 今作品はニコニコ動画でふとバイオハザードシリーズの実況などを見て書いてみたく思い、執筆してみたものです。過去にも数話バイオハザード系の作品を執筆してみたのですが、その時は挫折してしまい、やめてしまったということがありましたが、今回は完全にオリジナルストーリーということや以前とは違って見切り発車ではなく設定をしっかり考えているということもあり、楽しく執筆させていただいております。

 アニメの学園黙示録、ハイスクール・オブ・ザ・デッドなども見たりして、同じ高校生が活躍する作品ですので色々と研究もしているところです。アニメの方ではかなりチートな武器が出てくるなどしていますが、今作品においてはそのような武器はほとんど、否、まったくと言って良いほど出てきません。

 警察が持っているような拳銃はありますが、ショットガンなどという普通は持てないような武器は登場させないつもりです。絶望の中でどのようにして生き残るかというのを執筆することができればと思っております。

 第二章においては学校を脱出した二人がそれぞれの家に向かい家族の安否を確かめるという話にしていきたいと思います。当然そこまでにたどる道は厳しく、はたして二人はそれぞれの家に辿り着けるのか。

 次章「A brother and in order to survive 」もお付き合いくだされば、幸いです。

 一言二言でも構いません、ご感想をいただけると嬉しいです。

 それでは!!

説明
 時は2150年。
 決してありえないとはいえない未来の話。
 いつものように朝目が覚めればいつもの日常がやってくるだろうということを信じて疑わなかった。
 だが次の朝目が覚めたら……世界が終わっていた。
 町を歩き回るは生きた死体――ゾンビ。人が人を喰らい、まるで生き地獄を見ているかのようだ。
 そんな地獄のような町から抜け出すために少年は仲間たちとともに戦う。
 しかし果たして最後に町を抜け出すのは何人か……。
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タグ
R15 残酷な描写あり ゾンビ 高校生 チートなし 生き残り NotGoodEnd バイオハザード 恋愛(悲愛) 

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