博麗の終  その18 (終)
[全3ページ]
-1ページ-

【幻想の終】

 

 レミリアの去った部屋に、月明かりが差し込んでいた。

 

 生きているにしては白すぎる霊夢の顔は、もはや血の気というものが存在していなかった。

 紫がそっと顔を撫でてみれば、低目ではあるが体温が感じられる。

 

「…………あーあ」

 

 ふてくされた少女のような声で、紫は不満を乗せた声を吐き出していた。

 そして添い寝をするようにパタンと倒れると、もぞもぞと布団の中にもぐりこんでいった。

 

「失敗、しちゃった」

 

 すべては終わったのだと、決定してしまったのだと。

 何をやっても何をやらなくても、何を変えても何を変えなくても。

 話しても考えても叫んでも、何もかも何もかも。

 

 決して、避けられないことを悟った。

 

 

「ごめんね。霊夢」

 

 

-2ページ-

 

 

 紫は、布団にくるまりながら、霊夢の胸の温かさを感じていた。

 

 そして考えるまでもなく、これから起こることを、起こっていることが頭の中を通り過ぎる。

 

 紅魔館は、パチュリー・ノーレッジが館ごと移動する魔法の手筈を整えていることだろう。

 白玉楼は、地獄と共に担当替えでどこかへと行ってしまうだろう。

 永遠亭は、また姿を隠して細々と生きる道を選ぶのだろう。

 山の神社は、あの2柱の指示ですでに幻想郷を離れているだろう。

 地底は、そのうちまた入口を閉じるだろう。

 新しくできた寺も、他の勢力も、またどこかへ行けばいいだけだ。

 

 みんなみんな、去っていくだけだ。

 

 私だけが、取り残されて。

 私だけが、死に目に立ち会うことになる。

 

 

 幻想郷の終わりを見るのは、いつも私か霊夢だけなのだ。

 

 

-3ページ-

 

 

 八雲紫と、これから旅立つ博麗霊夢だけが知っている。

 

 この幻想郷の崩壊は、神が幻想郷を捨てたからなのだと知っている。

 

 神が見捨てたなら博麗霊夢に、神の式が壊れたなら八雲紫に。

 

 幻想郷の終わりは、必ずそのどちらかで決まる。

 

 壊れれば、戻らない。

 

 幻想は、儚く消え去るだけ。

 

 神の脳内から、式の記憶から、削除されればただ終わるだけ。

 

 この先などありえない。

 

 博麗霊夢の命と共に、すべてが消去されていく。

 

 

 働き過ぎたが故の眠気なのか、それともすでに削除が始まっているのか。

 

 薄れ行く意識の中で、八雲紫は思う。

 

 

『これはたった一つだけ、一つの幻想郷の終わり。

 

 神の数だけ、幻想郷は存在する。

 

 悲しむことはない。

 

 ただ役割を終えただけなのだから。

 

 きっとどこかの神の式で、私も霊夢も励んでいるのだろう。

 

 嘆くことはない。

 

 この幻想郷を忘れた神も、いつかの時は楽しんでくれていたのだろうから』

 

 

 消え行く幻想郷の中で、紫が一粒涙を零す。

 

 

 畳に落ちるその前に、全てが記憶の底へと消える。

 

 

 

説明
どこかの、誰かの、幻想郷
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
626 621 0
タグ
八雲紫 東方Project 東方 

shuyaさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com