おっさんPとアイドル(小鳥編) |
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいプロデューサーさん」
「ふぅ……疲れた」
帰ってきたプロデューサーさんは本当にお疲れのようで、倒れこむようにソファに座っています。
我が765プロダクションのプロデューサーさん。見た目はおじさんで、実際に年も取っているのですが……
年齢を感じさせないくらいに色々なところを営業で飛びまわっています。
そして同時にアイドルの面倒をも見ています。そういう意味では年齢を感じさせないかもしれませんね。
ですが、それはアイドル達の前でだけのお話です。
「プロデューサーさん。本当にお疲れのようですね」
「まぁ、年だからな」
「ふふ……お茶の用意をしましょうか?」
「あぁ、コーヒーを頼む」
「はい。分かりました」
普段疲れた、だなんて言わないプロデューサーさんも私の前では案外素直だったりします。
まぁ私とプロデューサーさんは付き合いが長いですからね。他のアイドルと比べると……
その分だけ、プロデューサーさんは本音を語ってくれているのかもしれませんね。
ふふ、実は数少ない私の自慢の一つなんですよ? これって。
「はい、コーヒーです」
「おぉ、ありがとうな小鳥」
「いえいえ」
喉が渇いていたのか、ズズズと一気にコーヒーを飲み干していく。
「プロデューサーさんって、私の時は毎回コーヒーを飲みますよね?」
昔は、そんなにコーヒーをよく飲むような人じゃなかったんですけどね。
コーヒーよりもお茶とかを好んで飲んでたような気がするんですけど……
「まぁ、お茶は雪歩に任せているからな」
「どうせ私は雪歩ちゃんみたいに美味しいお茶を淹れることは出来ませんよーだ」
少しだけ雪歩ちゃんに嫉妬してしまう。だって他の人が淹れるお茶は飲みたくはないってことだから。
私が淹れるお茶も飲みたくはないってことだから……
「俺は小鳥が淹れるコーヒー好きだぞ?」
「ぴよっ!?」
不意にプロデューサーさんからかけられた言葉に変な反応をしてしまう。
「お茶は雪歩が一番だが、コーヒーは小鳥が淹れるのが一番だよ」
「え、えっと……」
「昔は不味かったけど、今は凄く美味しく淹れられるようになったよな」
プロデューサーさんが昔を懐かしむようにカップを見ている。
「あまりこういうことを言うのはよくないんだが、小鳥も回数を重ねていけば雪歩みたいにお茶を淹れることが出来るだろう」
まぁ……雪歩ちゃんほどまではいかなくても、それなりに美味しいお茶を淹れることは出来ると思いますよ?
「雪歩はお茶に拘りを持ってるからな。あまり雪歩の役割を奪ってやりたくはないんだよ」
「プロデューサーさん……」
「だから雪歩はお茶で小鳥はコーヒーって分けてるんだ」
「そうだったんですか」
まさかプロデューサーさんがそういう理由でコーヒーを飲んでいるとは思いませんでしたよ。
「実際、俺も昔はコーヒー苦手だったしな」
「えぇっ!? そ、そうなんですか!?」
「あぁ。小鳥のおかげで飲むことが出来るようになったのかもな」
「そ、そんな――」
そんなことはない。って言いたいのに、その言葉が妙に嬉しく感じてしまう。
うぅ……私って、結構現金な女ですよね。
プロデューサーさんに褒められたのがとても嬉しく思ってしまうんですから。
「さて、休憩も済んだし小鳥はまだ仕事が残ってるのか?」
「あ、実は少しだけ……」
べ、別に妄想とかをしてて仕事が終わらなかったわけじゃないんですよ!? ほ、本当ですからね!
単純に仕事の量が多かっただけですからね。
「そうか。だったら俺も手伝ってやるよ」
「いや、でもそれは――」
プロデューサーさんも今まで仕事をしてきて、疲れているのに私の仕事を手伝わせるわけには……
「気にするな。俺と小鳥の間柄だろ。今更お前の強がりなんかに騙されないって」
「プロデューサーさん……」
あぁ、たぶん何を言ってもこの人は私の仕事を手伝ってくれるのでしょう。
ほんとに昔からこの人は変わらない。誰かのために動くことが出来る。だからこそ、アイドル達に好かれているんでしょうね。
勿論、私もプロデューサーさんのことは大好きですよ。
それこそ、他の子達に負けないくらいに。
それに私は想いの長さが違うんだからね。皆よりも長い間、プロデューサーさんのことを想ってきてるんですから。
「ほら小鳥。半分でいいからこっちに仕事を回せ」
「……はい。お願いします」
私から仕事を受け取ったプロデューサーさんはテキパキと仕事を片付けていく。
この調子でいけばすぐに終わることが出来るだろう。結構時間がかかると思っていたけどすぐに帰ることが出来そうです。
「あ、あの――プロデューサーさん!」
「何だ小鳥」
「よ、よかったらこの後食事に行きませんか?」
「食事にか?」
「は、はい。仕事を手伝ってもらってますし、そのお礼として……」
本当はお礼とか関係ない。私が単純にプロデューサーさんと一緒に居たいだけ。それに対して変な言い訳を用意しているだけ。
だけどプロデューサーさんはそんな私に対して笑顔でこう言ってくれたんです。
「いいぞ。小鳥と一緒に飯を食うのは嫌いじゃないからな」
――って。
たぶん、この時の私凄く気持ち悪い顔をしてたと思いますよ? 凄くニヤけてて気持ちの悪い笑みを浮かべてたと思います。
あの子達には若さで負けてしまうけど、プロデューサーさんに対しては意味はないわよね。
私の方が年が近いし、何よりこういうことが出来るんですから。
ふふ。恋には抜け駆けなんて当たり前なんだからね。皆も悪く思わないでよ?
プロデューサーさんと結婚をするのは絶対に私なんですからね!
説明 | ||
小鳥さんです。事務員ですが、彼女もアイドルなのですよ。 | ||
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