ぬこの魔法生活 第1話 |
◆ 第1話 なでポ……だと? ◆
鼻をくすぐるミルクのにおいで目が覚めた。
いまだにこの愛らしい猫ぼでーからの脱却を果たしていないことに小さくため息を吐きつつ、いつの間にか目の前に差し出されているミルクの入った皿を見る。
はて? いつの間にこんなものが。誰かがわざわざ置いていったのだろうか?
とりあえず、この城(という名のダンボール)に置かれたのだから、所有権は自分に移ったという理解でよろしいでしょうか。
ちょうどお腹も減ってることですし……そういえば、昨日の夜から中の人は何も食べていない。
いや待て、置いてあるからといって勝手に食べてしまうのは元が付くとはいえ人間としてどうだろうか? でも、背に腹は代えられないし。かといって許可もなくむさぼるのは……
きゅうぅぅ……
おなかがくぅくぅ鳴きました…
結論:ムリポ
〜猫食事中〜
――ハッ!? もう牛乳が入っていない……だと?
まずい、飽食の時代を生きていた今まではともかく、いまやただの野良猫に過ぎないというのに、次の供給がいつか分からぬまま飲み干してしまった。
せめて、半分ぐらい残しとけばよかったと、後悔しても後の祭り、覆水盆に帰らず、飲んだ牛乳は戻らない。
絶望した。せっかくの人としての理性があるというのに、この無計画さに絶望した!
まぁいい。いや、よくはないけどひとまずおいておこう。とりあえずこの牛乳をくれたお方に感謝を述べねば!(猫だけど)
にゃん、とか みーとしか言えないが。(猫だもの)
それでもやろうとする事にこそ意味があるのだ! などと、なんとなくかっこよさげな事をのたまってみるテスト。
しかし、まだこの辺にいるのだろうか。
なんにしても、この城から脱出しなければなにもできやしない。
ということで
「にゃんっ!」 べちゃ
跳ぶ
猫の身体に慣れていない俺
足がダンボールに引っかかる
倒れる ←今ここ
俺、かっこ悪い。
猫らしい機敏さだとか美しさだとか気品だとか、欠片もなかった。速さよりも経験が足りなかった。
俺、ちょっとはぐれメタル狩りに逝ってくる……
ま、まぁだれにも見られていなかったのが不幸中の「わわ、大丈夫?」Oh,shit
「どこかぶつけなかった?」
ギ、ギギギ、と首だけ動かしながら声のした方へ目を向ける。
そこにはツインテールのかわいい幼女、もとい少女がいました。心配そうなその目が痛い。
ふふ、笑えよ。
いつの間にか猫になっていて、それなのにまともに猫らしく動くことのできないこの哀れな俺を!
それはともかく、周りを見るが少々景色が変わっている気がしなくもないがこの娘以外には人はいないようである。
ともすると、この娘が牛乳をくれたのだろう。とりあえずお礼の意味も込めて返事をしてみる。
「ふふ、よかった〜 なかなか目を覚まさないから心配したんだよ?」
それはかたじけない、あまりの理不尽さに不貞寝してたのですよ、お嬢さん。
「そしたら、いきなり跳んだり、転んで動かなくなるんだもん、びっくりした〜」
ぐぬっ、そいつは言わない約束だぜ。お嬢さん。いや、マジでお願いします。
「私、高町なのはって言います! よろしくね、猫さん」
ふむふむ、なのは嬢ですか。かわいらしいお名前ですな、それに元気もいいですし、花丸をあげよう!
あ、コラ、なでるんじゃないっ!
や、やめ、のどはだめっ! 敏感なのッ!
うにゃああああぁぁーーー!!
〜 しばらくお待ちください 〜
はぁ、はぁ、恐るべきなでテク。あまりの気持ちよさにトンでしまったぜぃ。
人としての尊厳とかいろいろかなぐり捨ててしまった感があるが、一先ずおいておくとして、周囲の確認をしてみる。
正面:立派なお庭(池まである)となのは嬢
後ろ:縁側つきの立派な一軒家が
どうやら、場所が変わった気がしたのは気のせいではなかったらしい。
そんな事を思っていると、なのは嬢が話しかけてくる。
「ごめんね、勝手につれてきたりして。
で、でもね、あそこでひとりでいるより私のおうちで暮らしたほうが楽しいし、おいしいご飯だって食べれるよっ
それにね、お父さんもお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんもみんな優しいんだよ!
だから……だからね? 私とお友達……ううん、家族になってくれませんか……?」
ふむん、つまりだ。この娘が自分の飼い主になって、さらにおいしいご飯まで食べられると。
悪くない、と言うか文句なんぞ全くない。どうせペットになるならかわいい娘の方がいいに決まっている。
……なんかこの言い方だとエロく見えるな。
ゲフン! それはともかく、何ゆえこの娘はこんなに不安そうに尋ねてくるのだろうか?
今の自分はただの猫に過ぎないのに……
むぅ、わからん……わからんが、このまま不安そうな顔を見るのはつらいので了解の旨を伝える事にする。
しかし、どうやって伝えようか。しゃべれば楽なんだがなぁ。とりあえずなのは嬢にすり寄ってみることに。
どうやら、伝わったようでうれしそうに抱きしめてくれる。うむうむ、笑顔が一番!
かわいいは正義ですよ!
べっ、別に俺はロリコンってわけじゃないんだからね!
猫さんと一緒におうちまで帰ってきた。
一応、起こさないようにゆっくりと帰ってきたけれど、泣き疲れていたのかこの猫さんはまったく起きる気配がなかった。
野良猫としてこんなに無防備でいいのかなと、思わなくもなかったけどかわいいので許しちゃったの。
かわいければよかろうなの。大事なことだから2回言ったよっ!
とりあえず、猫さんをお庭に置いてっと……次は食べるものを用意しなくっちゃ!
でも、何をあげたらいいのかな? んー……無難にミルク、かなぁ?
お皿に牛乳を入れて、ダンボールの中にこぼれないように入れてあげる。
さて、起きるまでこの子のことを見守ることにしよっと。
今が冬だからかもしれないけど、ふさふさの長い黒い毛で覆われていて、しっぽも触ったら気持ちよさそうだなぁ。
全身真っ黒なのかなと思ったけど、胸からお腹にかけては白い毛で覆われてるみたい。
そうやってニコニコしながら見ていたら、猫さんは目が覚めたようだ。
最初はいつの間にか置かれてるミルクの皿に戸惑ってるみたいだったけど、すぐに全部なめちゃった。
ちょっと足りなかったかな、なんて思っていると。
「にゃんっ!」 べちゃ
猫さんはダンボールから出ようとしたのか、ジャンプしたんだけど足が引っかかって落っこちちゃった。
「わわ、大丈夫? どこかぶつけなかった?」
心配になって思わず聞いてみる。
返事なんてできないのになって、言ってから思ったんだけど、その猫さんは私の言葉が分かってるみたいに「にゃん」って答えてくれた。
それがうれしくてその後も話しかけたり、ついついなでちゃいました。
その度にお返事してくれたり、くすぐったそうな姿に私は昨日まで心の底では感じていた寂しさを忘れていました。
そしてしばらくすると、猫さんは自分の周りをきょろきょろと見渡し始めました。
そういえば、勝手にここまで連れてきてしまったんだと思い出して私は。
「ごめんね、勝手につれてきたりして。
で、でもね、あそこでひとりでいるより私のおうちで暮らしたほうが楽しいし、おいしいご飯だって食べれるよっ
それにね、お父さんもお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんもみんな優しいんだよ!
だから……だからね? 私とお友達……ううん、家族になってくれませんか……?」
そう、その子に打ち明けた。
自分でも何を言ってるのかよく分からなかったけど、私は一生懸命猫さんにうちのいいところをアピールしたりしてお願いをしました。
すると猫さんは、私の足元まで近づいて「みぃ」と鳴きながらすり寄ってきてくれる。
これはいいよってこと、なのかな?
それがうれしくて猫さんを抱き上げてぎゅっとしてあげました。
抱きしめた猫さんはやっぱりふかふかで、とても、とっても温かかった。
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