選択肢など──ない! |
風がざぁっ、と凪ぐ。
自分と、リズ──目の前に突っ立っている女性はそう名乗った──の間をすり抜けて。
話を聞いてくれますよね、と相手が言った為もあって、俺は剣を相手の喉下に突きつけたまま口を開こうとせず黙っていた。
しばし妙な沈黙が流れたが、喋ろうとしない俺に痺れを切らしたのか、彼女は俺の方には顔を向けずややうつむいていたが、視線だけ時折俺の顔より上の方を見上げる格好で、
「……私が名乗ったんだから、あなただって名乗るべきじゃない?」
不満そうに言ってきた、こ
言っておくが俺はあんたが話を聞いてくれるよねって言ったから黙ってただけに過ぎないんだぜ? それを名乗るべきだとか後からつけたすのは如何なものかな?
と言い返したい気持ちをぐっとこらえ、しかし皮肉たっぷりに応酬を返す。
「話を聞けと言うから黙っていただけだ」
言われた事は確かにその通りなんだけど、納得できない様子の彼女は言い返す代わりにむすっと不貞腐れた表情を取った。──随分感情をオモテに出す性格のようだ。ノルドの女性としては異質か。
わかったわかった、というふうに両手を上げて参ったとポーズを取りながら俺は剣をひとまず鞘に収めることにした。彼女からは殺気は感じられないし、相手は俺の知りたい事を教えてくれると言っている。殺すわけにはいかない──今はそう判断してのことだった。
「──ジュリアンだ。あんたの言うとおり、ドラゴンボーンという立場の者だ。職業的に言えば傭兵をやってるが」
簡単な自己紹介を述べてやると、それでも納得した様子でふんふんと頷く。内容はともかく、自己紹介をしてもらいたいだけのようだった。確認の意味も込めてだろうか。
「お互いの名前が分かったところで。……貴方が知りたい事、私は知ってます。貴方に話してそれを聞いてもらったうえで、お願いがあるの」
真剣な表情で言うリズは先ほどとは違っていた。どうやら本当に俺の知りたい事──俺の顔を真似た狐のことだ──を知っているらしい。しかし最後のお願いというのが引っかかる。無理難題を押し付けようってんじゃねぇだろうな。
「お願いっていうのは何だ? 話を聞いちまったら断れなくなるから今のうちに聞いておきたい」
「そんなに難しい事じゃないわ。さっき、彼を止めてもらいたいと言いましたよね。彼がやろうとしていることを阻止してくれたら、それで十分です。……それは貴方にとっても重要な事だけど」
その説明だけじゃ訳が分からない。
「彼とは何者なんだ?」
煮え切らない返事を繰り返すリズに俺はストレートにぶつけてみた。
しかし……彼女は照れたように頬を赤く染めたので、何事かと思ったら突然首をぶんぶんと振ってああもうと我慢できずに感情を言葉に出し、
「話が長くなるから、貴方は服を着るか再び温泉に浸かったほうがいいんじゃないかしら? ……ったく、女性の前でいつまでもそんな格好をさらけ出してんじゃないわよ」
最後に付け足した言葉は本音だろうか?
そういや俺は……、と思い出した途端にくしゃみが口から飛び出す。よく出来てる体だ、まったく。
突然くしゃみの音にびっくりして再びこちらを向いたリズだったが、俺が鼻をすすりながら照れ笑いを浮かべてみせるとこらえきれずにぷっと噴出した。
「ほらごらんなさい。イスミールにかけて、早く着替えたほうがいいわ。凍傷になる前にね」
「そのようだ」
ばつが悪い顔をすると、彼女はくすくす笑いながら俺の着替える姿が見えないように突っ立っている馬の反対側に歩いていった。
「……彼とは、貴方の顔を被った人です。貴方の変わりにホワイトランで騒ぎを起こした張本人」
すっかり日は陰りを見せ、夕刻の頃を示している。先程と同じ場所で薪を継ぎ足した焚き火が、新しい燃料を炭に変えながら勢いよく爆ぜていた。
その音だけがしばし俺とリズの間に漂っていたが、彼女が意を決したように口を開いて出てきた言葉は最も俺の知りたい真実の一つ。どうやら彼女はその彼と知り合い? 仲間? いずれにしても関係者に間違いなさそうだ。
「俺の顔を被った人……俺と瓜二つの顔を持った双子の兄弟みたいなものってことか?」
彼女の言った事実に耳を疑いつつも聞いてみたが、彼女は頭を横に数回振ってそれを否定した。
「いいえ、彼の顔は貴方と瓜二つなんかでもないし、勿論双子の兄弟というものでもない。──けどそれを可能に出来る物を彼が持っています。望んだ顔を持つ事ができる……ものが」
「望んだ顔? つまり俺の顔になれるものか?」
何なんだそれは? と聞き返そうとしたが彼女は俺の質問を遮るように手を上げた。
「話を聞いてくれると言ったのだから、黙って聞いて。順を追って話します、彼が──彼と私を含めた仲間が、あるとき偶然手に居いれてしまった物の話から──」
リズは逃げていた。何から? ドゥーマーの遺産──と言うべきだろうか、それを守るガーディアンたる存在、オートマトンの攻撃から。
足がもつれる。リーダーや仲間の姿も何処に行ったのか人影ひとつ視界に入ってこなかった。自分だけ取り残されたのだろうか。
オートマトンに刃向ってみたものの、全く歯が立たなかった。鋼鉄のダガーが貫通すらしないのだ。切り刻む事は愚か突き刺すことすら出来ない。しかしオートマトンの持つ刃は自分達の持つ武器よりも鋭利でよく研がれており、人間の体なぞ紙を切るかのように、いとも簡単に切り刻んでは鮮血をあたり一面に飛び散らした。
その様子を思い出すだけでぞっとする。切りかかった仲間があっさり返り討ちにされたあの瞬間。
私はああはなりたくない。だから逃げる。
恐怖が体に鞭を打つように、彼女の足はバランスを失って転んだりする事無く走り続けることができた。息が切れようとも汗が流れ落ちようとも。
はぁはぁと息を喘がせながら無我夢中で走る。いつ何処からオートマトンがやってくるか分からない。精神も肉体もぼろぼろになりながらも尚も走って──薄暗い広間に出た。
しまった、と彼女は足を止め辺りを見回す。相当広いホールのようだ。調度品などが床に散らばっており、薄暗い室内は明かりが一つ照らすのみ。四方は壁。
通路が見つからなかった。行き止まりだ。
一瞬絶望が彼女を襲ったが、諦めずに壁に沿って歩いてみた。この先がもし空洞状態なら壁をぶちぬいて向こう側に行くことが出来ると踏んだためだ。松明を落としてしまったせいで手探りで探すしかない。
そろそろと近づきながら壁を確認していくと、四方のうち一つが金色に輝く柵状の扉である事に気がついた。近づいてみるとその先には薄暗くてわからないが、中央にレバーが設置されているのが見て取れた。昇降機のようだ。
「ここから逃げられるかも……!」
扉を開けようとしたが、取っ手もなければ鍵を押し込める鍵穴すらない。押しても引いても扉は開きそうになかった。
ここまできて──! 地団太を踏んでしまいそうになるが押しとどめた。何か細工が仕掛けてあるのかもしれない。彼女は辺りをきょろきょろと見回し、変わった点がないか探そうとした。
その時、
「リズか? 無事だったのか?」
突如掛けられた声にひゃっと飛び上がりそうになる。何事かと後方を見やると、自分が走ってきた方向からゆらり、と人影が現れた。
片手に剣、もう片方には盾を持ち、あちこちで戦闘をしながらここまで辿り着いたようで鎧に刀傷がいくつか刻まれてある。広間が薄暗い為顔は見えないが、鋼鉄製の鎧を身に着けている姿を見てリズは仲間の一人、屈強なオークの戦士だろうと推測した。
常に重苦しい鎧を着込んでいるのはリーダーである山賊長と彼しか居なかったし、仲間の殆どが素早く移動できるため好んで軽装であるにも関わらず、オークは生まれながらにして戦士だから鎧を好むのだとか常日頃言っていた。フルプレートに身を包んでいたリーダーよりオークは鎧の中でも若干身軽に動ける鋼鉄製の鎧を身に着けていた。恐らくは彼だろう。
びっくりした胸をなでおろしつつ、驚かされたのもあって彼女は悪態をついてみせる。
「生きてたのね。びっくりさせないでよ。──ここ、恐らくは地上に通じてると思うんだけど鍵もなければ開け方も分からなくて困ってたのよ。手を貸してくれない?」
しかし彼女の声に彼は応対しなかった。どうしたの、と思って再び後方に顔を向けると──すぐ傍に彼は突っ立ってこちらを見ていた。……いや、彼は彼でもリズが想像したオークの戦士ではなく。
「え? リーダー……?」
兜を脱いだ状態で突っ立っていたのは、彼女が推測したオークの戦士ではなく──山賊長であるリーダーだった。確かに彼の顔なのに、身につけた装備がオーク戦士のそれと同じなため、リズは面食らってしまう。
「ああ、そうだ」
男がそう答える。しかし……奇妙な事に何かが違う、そんな気がした。
最初に話しかけてきた時だって、身につけた鎧と声でオークの戦士だと判断したのに、近づいてみたらリーダーだったなんて。
「いつの間に鎧を変えたんです? この遺跡に入る時は板金鎧で武装していたのに」
当然の疑問を口にするリズ。しかしリーダーは「鎧が壊れたからそこらで落ちてた鎧を身に着けただけだ」と言ってのけた。その答えもまた奇妙だ、と彼女は訝しむ。
確かに、鎧が壊れたから手近にあった装備に着替えるというのはあってもおかしくはないだろう。しかし……何かがおかしい、何かが。
けど疑問に思っている時間はあまり残されてない。いつオートマトンがやってくるか分からない。ここから逃げる事が先決だ。頭から疑問を振り払うように彼女は何回か頭を振って、
「と……とにかく、ここから出ましょう。どうやらここに出口に向かう昇降機があるようで、扉の鍵──」
扉を指差しながら言ったものの、リーダーは何も答えず……腕を動かしたかと思うと、手に持った剣をすっとリズに突きつけてきた。
え?
リズは目を丸くする。何故剣を突きつけられなければならないのか? 頭の中で理解しようとしたが……答えは出てこない。
剣を突きつけているリーダーの顔は薄笑いを浮かべている。その笑顔は嬉しい時楽しいとき浮かぶものではなく、狂気を帯びたそれだった。
「な、何をするんです? ここから脱出しなければ──」
当然の疑問を口にしたが、目の前で武器を突きつけている彼はその答えを返さず、
「一人だけ逃げようったって、そうはいかない」
剣を向けたまま無表情で言うリーダー。感情すら表してないその顔は不気味で何かにとりつかれているんじゃないか、と疑問が沸く。
「……何を言ってるんです? 私は一人で逃げようとしてた訳じゃありません!」
苛立ちを含めたリズの声は自然と高くなり、諭すよりも怒鳴りつけるような口調になっていた。
しかし彼は剣を収めず、自分の喉元に押し当ててくる。思わずリズは後ずさるが、そうするにも距離はなくわずかに後退しただけで体ががたん、と音を立てて扉に当たった。
「誰も逃しはしない。……お前も仲間と同じように俺を裏切ろうとするのだろう? 俺を差し置いて逃げようとするんだろう? そうはさせるものか」
ちくり、と剣の切っ先が彼女の喉元に押し当てられた。
本気だ。本気で自分を殺そうとしている──けど何故殺されなければならないのか訳がわからない。裏切ろうだの、差し置いてだの……皆が散り散りになって逃げたせい? けどそれは──私だけのせいじゃない……!
「や……やめ……」
恐怖で涙が溢れる。彼に自分の言い分が通らないせいか、それとも死にたくないと希う為か──
その時、再び自分や彼が来た方向からばたばたとこちらに向かって走ってくる音が聞こえてきた。数人居るようだ。ばらばらに走る音からして、二、三人。
剣を突きつけているリーダーの耳にもそれは入ってきただろう。リズに剣を向けたまま、彼は後方に視線を向けた。その隙を見計らってリズは大声で叫んだ。
「助けて!」
その声に反応したのだろう、誰かいるのか、と声を上げながら走ってくる音が近づいてくる。人影が数人、薄暗い広間に入ってきた時──リズは目を疑った。
先頭の男は松明を片手に、もう片方の手に剣を握っていた。残りの男は二人居るようでどちらも軽装。松明を持っている者の姿は──板金で作られてあるフルプレートを身に着けていた。その姿は間違いなく、この遺跡に入る前に見た彼と同じ装備。同じ容貌。同じ──顔。
「リーダー……?」
間違いなく山賊長であるリーダーその人だった。じゃあ、じゃあ……私に剣を突きつけている人は……? リズの頭は混乱した。
分が悪いと感じたのか、リズに突きつけていた剣を下げると、走ってきた三人の男の方に向かってもう一人のリーダーがくるりと振り向く。振り向いた男の顔を見た途端、走ってきた三人の男は驚愕の表情を浮かべた。
ことさら驚いたのはリーダーだろう。自分の顔が目の前に突っ立っているのだ。悪夢か何かかと思ったに違いない。何度か目をしばたたかせ、凝視しているが、見紛う方なく山賊長であるリーダーとと瓜二つだった。唯一違っていたのは、身につけた装備のみ……。
しかしもう一人の──リズに剣を突きつけて殺そうとしかけていた──リーダーは驚きもせず、可笑しそうににたにたと気味が悪い笑みを浮かべ、リズに向けていた剣を今度はリーダーと仲間の方に向かって突きつけ、
「来たな。リーダー。あんたは生きてると思っていた。どちらがリーダーに相応しいか決着をつけようじゃないか」
言い放ち、姿勢を低くして構えたると──彼は一気に間合いを詰め、斬りかかっていった。
三人の男──本物の山賊長であるリーダー、そして生き残った仲間、ゴブとオドに向かって。
話を一旦切り、リズは喉を潤すために焚き火で暖めておいたハチミツ酒の瓶を開け、口に流し込む。
俺は今彼女の口から出てきた話を頭の中で反芻させていた。仲間と共に向かったドゥーマー遺跡で瓜二つの姿をしたリーダー。しかしその後の展開が分からないため考えは結局そこで停止してしまう。
彼女にとってはつらい出来事だったのだろう、時折話しながら胸を掴むような仕草を見せていた。思い出しては出てくる痛みに耐えるかのように。
「……で、それからどうなったんだ?」
しばし時間を空けてから、彼女に質問する。
ハチミツ酒で喉を潤していたリズだったが、俺の質問に答えようと飲むのを止め、一回、息をすぅっと吸って──意を決したような表情を浮かべ口を開いた。これから話す事が重要性を含んでいるのは明らかだった。
「……本物のリーダーと残った仲間、ゴブとオド、そして私──が偽のリーダーに切りつけられ、傷ついていきました。偽のリーダーは強く、私達には歯が立たなかった。そりゃそうですよね、その偽のリーダーは我々の仲間で一番強いとされていた、オークの戦士だったのですから」
「つまり……偽のリーダーはあんたが最初に勘違いした男で間違いなかったと?」
こくりと頷く。逡巡しながらも彼女は再び口を開いた。
「そうです。それに気づいたのは本物のリーダーでした。……格好とか戦い方とか、装備した武器とかも手伝っての事でしょうけど。けど私達の目の前に居る人物の顔は間違いなくリーダーの顔そのもの。そこで私達は一斉に飛びかかり、彼の顔に何かがついているのかもと推測し掴みかかったんです」
勿論彼は抵抗した。しかし私達は怯まず、オドとゴブは彼の体を、リズとリーダーで偽者の顔を掴んだ、その時。
「顔が輝いたと思うと、目が眩む金色の光が放たれて……その直後すさまじい衝撃に吹っ飛ばされ、次の瞬間には壁に叩きつけられてました。打ち所がよかったのか、私は意識を失う事なく起き上がったのですが、リーダーと仲間二人はばらばらに倒れていたのを覚えてます。……そして、偽のリーダーは……」
彼女が見たものは目を疑うような光景だった。
突っ立っている男の顔部分が先程瞬時に放たれた金色の光と同様に輝いていた。……いや、何かが違う。よく見るとリーダーの顔ではなく、仲間の一人であるオーク戦士自身の顔があった。元に戻ったのだろうか? それなのに何故顔が輝いているのだろう?
つやつやとした光沢が薄暗い広間に僅かに照らす明かりに反射され不気味な位に輝いていたが、表情は苦しそうに目をかっと見開き、手は虚空を彷徨っていた。何かを求めているかのように。
彼の名前を呼ぶリズ。しかし彼は反応しない。口をあけてはいるものの何かを喋ろうとはしなかった。
……いや、出来なかった。
「彼は苦しそうに手をもがき続けていましたが……それも僅かのことでした。やがて彼の顔が口を開いたまま、瞼を閉じることすらしなくなった時、もがいていた手もぴたりと動きを止めたんです。──死んでました。
恐る恐る近づいてみてみたら──彼の顔はあたかもドゥーマーの金属と同じ材質で出来た彫刻のように固くなっていたんです。苦悶の表情を浮かべたまま──」
その光景を思い出したのだろう、ぶるっと彼女は身を震わせ、両手を交差して自分の体を抱え込むようにして抱きしめる格好を取る。自らを守るように。
「……大丈夫か?」
気遣う声をかけると、彼女は大丈夫です、と気丈に振舞い、話を続けた。
「……でもその衝撃のおかげで、扉が開いていたのは幸いでした。意識があるのは私だけだったので、大の男三人を引きずるような形で昇降機まで連れていき、脱出したんです。地上に出れた時はほっとしました。……リーダーの手に金色に輝く仮面が握られているのを見るまでは」
それがオークの戦士を別の顔に変貌させることのできた物だと、仮面という形も相俟って彼女にもすぐ察しがついた。奪って捨てようとしたもののがっちり掴まれて抜き取る事すら出来ない。いくら山賊として多少訓練を積んだところで、大柄の男がしっかり握っているものを簡単に奪い取ろうなぞ簡単に出来る事じゃなかった。
だから彼女は口を閉ざすしかなかったのだ。──幸い、リーダーと仲間はあの広間で起きた一連の出来事を吹っ飛ばされた衝撃の影響を受けたのか、記憶を失っていた。仮面について言及する者は誰一人なく、遺跡で唯一つ拾ってこれた価値のある物程度の扱いしかしていなかったのだが……
「つまりその仮面が、俺の顔を写し取った狐の正体って訳か。……とすると、仮面をつけて俺の顔を真似た奴はあんたら山賊のリーダーだな?」
その先の展開は読めた。彼女は黙ってこくり、と頷く。
「そうです。止めて欲しいと言った彼こそ貴方が仰るとおり、リーダーです。彼が今貴方の顔を写し取り、貴方に代わって悪事を働いています。仲間二人、オドとゴブも……」
よりによって山賊が俺の正体とはね……呆れると同時に道理で、と納得する部分もある。ホワイトランで見かけた姿、俺は仲間数人を引き連れて、と衛兵は言っていた。
それに金品を奪ったり女性を襲ったり……定職を持たず、女に縁がない山賊ならやりかねない事だ。
ひとえに山賊といっても女性が居る場合だってある。リズだって自ら山賊の仲間の一人だと言い切った。山賊と名乗る以上、彼女は仲間の慰み者という立場ではない筈。だから仲間という立場を保ち、他の仲間も彼女を襲ったりはしない。
俺が思案しているのだと勘違いしたのだろうか、リズは窺うような視線を向け、
「……貴方の知りたいこと全部話しました。私の願いを聞いてくれますよね」
対価を支払ったのだからお前も支払えと言わんばかりの言い方だった。分かったと言う前に俺は右手の指を二本立て、
「その前に。二つほど確認しておきたい事がある」
すんなり引き受けなかった事に苛立ったのか、リズは一瞬むっとした表情を浮かべたものの──渋々といった様子で小刻みに頭を数回振った。
「じゃあまず一つ目。何故俺の顔を写し取った? リーダーとやらは俺と面識があるのか」
突き立てていた中指を折る。
余程言いづらい事なのか、なんと言えばいいのかと頭の中で言葉を探すリズ。彼女の慌てようが手に取るように分かった。しょうがない、助け舟を出してやるか。
「……何も言い訳を探さなくてもいい。俺が知りたいのは何故俺なのか、それだけだ」
機嫌を損ねやしないかと不安なのだろう。しかし俺の助け舟に押されて彼女は申し訳なさそうに薄笑いを浮かべながら口を開いた。
「……貴方が山賊をたった一人なのにも関わらず片っ端から潰しているって聞いて、それで一泡吹かせてやろう、と話になって……、貴方の人となりを情報屋から買って、モンタージュを描いてもらって……」
聞いて苛々するような事を敢えて聞かなければならないとか酷い話だ。──でも確かに俺は山賊を片っ端から潰してる。それは勿論、山賊なぞ百害あって一利なしの存在だから。……彼らから金品巻き上げるのも嫌いじゃないしな。というのが本音。今は言わない方がよさそうだ。
「それに貴方が伝説のドラゴンボーンで、その血で常識外れの力と体力を兼ね備えているというのも聞いてます。だからこそリーダーと仲間うちで貴方を極悪人に仕立て上げようとしたんです。良い噂よりも悪い噂はあっという間に広がりますしね」
「そりゃどうも。と言った方がいいか?」
引き攣らせた笑みを浮かべながら言い返す。心の中ではいずれこの一件が落ち着いたらリーダーに目に物見せてやると決めながら。
邪な考えが顔に出たのか、はたまた俺の顔が不気味に思えたのか、リズは怯えた顔でぶんぶんと頭を横に振ってごめんなさいと懇願し始めた。……やれやれ。俺もまだまだ人間出来ちゃいねぇな。
「わかったわかった。……じゃあ、二つ目の質問」
最初の質問はするべきじゃなかったな……と心の中でごちる。聞く事はこちらの方が本命だったから。
「あんた達が向かったドゥーマーの遺跡が何処にあるか教えてくれ」
彼女の話を聞いてるうちに、疑問は確信へと変わった。
リズが言う、彼が今現在身につけている仮面を奪うだけなら造作もないだろう。しかし話してくれた事はそれだけでは済まされないものを孕んでいる。身につけた仲間から仮面を剥がす際に起きた衝撃、そして剥がされた仲間の不気味な死に方。
その仮面が何処にあり、どうやって手に入れたのか、その手がかりを見つけなければ──
面倒な事になったが、自分の身の潔白を証明させるためにも仮面について知らなければならないのは確実のようだ。
陽が完全に沈み、辺りが闇と同時に静寂を纏いながら訪れる様は、これから起こる危険を暗に知らせようとしているかのようだった。
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TESV;Skyrimの二次創作小説チャプター第5です。今回も相当長くてすいませんorz。。。まだまだ続きます。。 | ||
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