ゼロの使い魔 〜しんりゅう(神竜)になった男〜 第四話「シルフィード、そして誘拐」 |
髭が誰かに触られている感覚で目を覚ます。
薄目を開けてみるると、((三羽|さんにん))の小鳥が俺の髭などを啄んでいた。
そのうち((一羽|ひとり))が、目を覚ました俺に気付いて挨拶してきた。
「おはよう、竜さん」
「ああ、おはよう」
俺は返事して、小鳥たちと話しながら俺の事をどう思うか聞いてみた。
それによると俺には他竜のような危険な雰囲気がないらしい。
俺は昔から小鳥とか動物が大好きだったから、この状況は物凄く感動ものである。
また動物たちの言葉が分かるというのはいいもんである。
「竜さん、じゃあまたね」
「ああ」
そう感慨深く思いながら、小鳥たちが森へと飛び立っていくのを見つめる。
「さてこの後はどうするかなぁ」
俺は身体の大きさを小さくしながら考えていく。
「・・・・・ん? あれは・・・・・・?」
ふと空を見上げると、シルフィードの姿を見つける。
その背中にはタバサが乗っていた。
・・・・・・って、千里眼かよ。なに? このスペック・・・・・・。
ま、まぁいいや。それにしてもアイツら何をしてんだろう?
少し気が引けるが、何となく気になったため昔学んだ読唇術(先生には物凄く褒められた)で読みとることにした。
*****
『・・・・・・あのちびすけ。ほんとに竜使いが荒いのね。まったく、いくら外の世界を見てみたいからって、使い魔なんかになるもんじゃないのね』
読みとった結果、シルフィードがタバサに頼まれたのは、“人間に化けてトリスタニアに買い物に行く”というものだった。
面白そうだったので、シルフィードの後について行くことにした。
もちろんモンモンには許可を得ているぞ。
まぁ、『はい。行っていいです』と敬語だったのは笑えたけどな。
『ご飯につられたとはいえ・・・・・・、このわたしをつかいっぱにするなんて、罰当りもいいところなのね!』
魔法学院のメイド服を着せられたシルフィードは、ぶつぶつと文句を言いながらトリスタニアの街を歩いていく。
それはいいんだが、石ころを蹴飛ばしたり、頭をかきむしってみたり・・・・・・、もうちっと大人しく歩けないのかねぇ、あいつ。
ちなみにタバサの注文は、本屋で何冊かの本を買ってくるというものだ。
で、ここが本屋なのだが・・・・・・、シルフィードは少年聖歌隊のパレードの後をついていって見えなくなっていた。
はぁ・・・・・・、アイツ大丈夫なのか?
「たく・・・・・・」
そう呟いた俺は急いでシルフィードを追ったが・・・・・・・、シルフィードの姿は完全に見えなくなっていた。
見失ったな、これは・・・・・・。
「どうすっかねぇ・・・・・・」
考えながら歩いていると、お腹がなった。
そう言えば何も食べてなかったっけ・・・・・・。
どうすっかねぇ。金は持ってないしなぁ。
「ん?」
どうするか考えながらしばらく歩いていると、目の前の紳士の懐から財布らしきものをスッている男が目に入る。
たくどこの世界にもそんな事をする輩はいるもんだな。
そう思った俺は通り過ぎようとした男の手を握り捻りあげる。
「いたたたたっ! 何しやがる!」
「・・・・・・懐のものを出しな」
「何を言って――いたたたっ!? 分かった、分かった。出すよ、出せばいいんだろう!?」
男は慌てて懐から紳士の財布を取り出すと、俺に渡してくる。
俺が手を緩めると、脱兎のごとく逃げていった。
いや〜、初めてやったけど、上手く行ったよ・・・・・・。
やればできるもんだねぇ。
おっと、そんなこと考えてる場合じゃなかった。これを返さんとな。
「そこの紳士」
「え? 私かね?」
今のやりとりを見ていた野次馬の中から、さっきの紳士を見つけ呼ぶ。
呼ばれた紳士は自分が呼ばれるとは思いもしれなかったのか、恐る恐る俺に近づいてきた。
「これはあなたのだろう?」
「え!?」
俺が財布を見せると、紳士は慌てて懐をまさぐる。
そして財布がないことに気が付いて、俺から財布を受け取った。
「ありがとう! 何てお礼を言っていいのか」
「お礼はいい。今後は気を付けることだ。ではな」
俺はそう言うと、街の路地へと入っていく。
あ、お礼で金をもらえば良かった。まぁいいか。
良いことをするのは気持ちがいいもんだからな。
「おっと、本屋に戻るか」
本屋へと戻ろうと踵を返そうとしたところ、森へと向かうシルフィードと老紳士が目に入った。
何をしてんだアイツは・・・・・・?
様子を見ていると、シルフィードが縄で縛られ馬車に放り投げられるのが見えた。
うん、ありゃ誘拐だね・・・・・・・。って、誘拐!?
「ヤバいじゃねぇか・・・・・・!」
俺は慌てて森の方へ駆けだしていくが、一足遅く馬車は二台ともどこかへ行ってしまった。
「ち・・・・・・っ! ん?」
慌てて変身を解こうとすると、左目に魔法学院の様子が映った。
「これはモンモンの視界か・・・・・・?」
そこは魔法学院の食堂だった。
で、目の前にはギザなギーシュいて、その直後テーブルに置いてあったワインのビンを掴み中身をどぼどぼとギーシュの頭の上からかけるところが見えた。
それには覚えがある。
たしか、これは・・・・・・、ああ。ギーシュと才人の決闘か・・・・・・。
って、そんなことしてる場合じゃない・・・・・・!
俺は急いで変身を解くと、上空へと上がって馬車を探した。
そして、馬車を見つけると、その後を追いかけていった。
*****
馬車からある程度の距離を保ち追跡をしていると、夕方になってしまった。
シルフィードだけだったらそのままやっつけても良かったが、馬車のなかには、シルフィードの他にも少女たちが誘拐されているために、迂闊に手を出すわけにはいかなかったのだ。
「さて、どうすっか・・・・・・。ん? あれは・・・・・・、関所か・・・・・・?」
上空から様子を見守る。
関所にいた中年の役人が二人、馬車の中を覗き込むが、見張りの男はニヤニヤと笑みを浮かべているだけだった。
そして役人の中で上官と思しき人物(貴族みたいだな)がもったいぶった仕草で、目録を見つめながら訊ねた。
『積荷は小麦粉とあるが・・・・・・』
見張りの男はさらに笑みを深くした。
『どっからどう見ても、立派な小麦粉でしょう?』
見張りの男は、懐から革袋を取り出し、それを役人に手渡した。
中を改めた役人はもったいぶった様子で頷いた。
『なるほど。確かに小麦粉だな』
「はぁ・・・・・・。いい貴族というのは本当に少ないな・・・・・・」
そう呟いていると、馬車の方が騒がしくなった。
どうやらシルフィードが怒っているようだ。
バシィ!とここまで届くような破裂音がしたかと思うと、馬車の幌が破れてシルフィードの姿が見えた。
その衝撃によって、見張りの男や、役人たちが吹き飛ばされていく。
『くけー!』
あまり迫力の感じられない雄叫びをあげるシルフィード。
我に返った見張りの男が獣を握って立ちあがるのが見えた。
あれは火縄銃のような銃か・・・・・・?
男がその引き金を絞る。
しかし、その一足早くシルフィードが男を前足で払った。
同時にドーンッ!と銃口から火花と共に銃弾が打ち出されて、俺に向かって飛んできた・・・・・・。
「って、危ない!」
咄嗟に身体を捻って弾を避ける。
下を見ると、吹き飛ばされた見張りの男は、したたかに地面に打ち据えられたのか気絶していた。
「たく無茶するなぁ・・・・・・、アイツは・・・・・・」
早く助けたいが、敵が何人いるか分からないため容易には動けない。
しかし、そうこうしてるうちに御者台にいた二人が糸のようなものを飛ばして、シルフィードの自由を奪っていく。
その糸はシルフィードが暴れても千切れない。
どうやら相当な強度の糸のようだ。
さて、どうするか・・・・・・。
『この竜・・・・・・、突然現れたがって・・・・・・。いったいなんだっていうんだ?』
『誰かがこの竜に、女になる魔法でもかけたんだろうさ』
あらら、シルフィードが先住魔法が使える韻竜だとは気付いてないみたいだ。
まぁ、それもそうか。韻竜は絶滅ってことになってるからな。
『とにかく、仕事の邪魔だからやっちまおうぜ』
男たちは杖を掲げた。
これはヤバい・・・・・・。ふぅ、仕方がない・・・・・・。
〔バギクロス〕
俺は上空から“バキクロス”の呪文を唱えて、巨大なかまいたちで、シルフィードを絡めている糸を切っていく。
同時に巨大で猛烈な竜巻が、杖を構えた二人を吹き飛ばしていた。
あの威力の魔法は・・・・・・、タバサか・・・・・・?
『ぐへッ!』
二人は立ち木に激突して、そのまま地面へと崩れ落ちる。
激しい砂埃の中、ゆらりと小さな影が現れた。
それは予想通りタバサだった。
やれやれ、俺が助ける必要はなかったな。
『ち、ちびすけ・・・・・・』
シルフィードがそう呟く。
タバサは眠そうな目のまま、ぼんやりと突っ立ていた。
「帰るか・・・・・・」
そう呟いた俺はその場を後にして学院へと帰っていく。
この姿を見られてもあれなので“レムオル”の呪文を唱える。
※その様子をタバサが見ていたが、シェンは気付かなかった。
**********
「・・・・・・・・・・・・」
タバサはシェンが消えたことに驚いていた。
また、先程のシルフィードに絡んでいた“蜘蛛の糸”を容易く切り裂いた魔法も見たことがなかったので、あの竜は何者であるのかと疑問に思った。
その時、後ろの馬車から、ゆらりと一人のメイジが降り立つ。
“頭”と呼ばれていた人物で二十歳を過ぎたばかりの女性だった。
倒れていたメイジが、彼女を見て哀願するような声をあげた。
「あねご!」
「まったく、だらしがないね。油断するなと、いつも言ってるだろう?」
それから彼女はタバサを見つめると、唇の端を持ち上げて冷笑を浮かべた。
「おやおや、あんたは正真正銘の貴族のようだね。こりゃちょうどいい」
タバサは空を見上げることをやめて、女頭目と対峙した。
その表情は、いつもと変わらないものに戻っていた。
「『どうしてメイジが人さらいなんかやってるんだ?』って顔だね。あんたは貴族のようだから、きちんと冥土の土産に教えてやろう。あたしは女だが、三度の飯より“騎士試合”が大好きでね。伝説の女隊長のように都に出て騎士になりたい、なんて言ったら親に猛反対されたのさ。で、こうやって家を出て、好きなだけ“騎士試合”ができる商売に鞍替えしたってわけだ」
「ただの人さらい」
タバサがそれだけ言うと、女頭目はにやりと笑った。
「そりゃあ、食うためにはしかたないさ」
「あねご! やっちまってください!」
倒れた手下の男たちが叫ぶ。
女頭目は首を振った。
「なに、これは騎士同士の“決闘”だよ。順序と作法ってもんがある。さて、正々堂々といこうじゃないか」
「わたしは“騎士”じゃない」
タバサは短く告げ杖を構えた。
すると女頭目は、首を振った。
「“騎士試合”に付き合わないっていうんなら、あの竜と女たちに魔法を飛ばすよ」
杖をシルフィードや縛られた少女たちに突きつけて、女頭目が言った。
シルフィードは咄嗟に少女たちを庇うように翼を覆った。
その様子に女頭目は笑みを浮かべると、杖を構え優雅に一礼した。
めんどくさそうに、タバサもそれに合わせて礼をした瞬間・・・・・・、女頭目の魔法が飛んだ。
「卑怯者!」
思わずシルフィードは叫んだ。
しかし、風の刃がタバサの胸を襲うと瞬間、タバサは驚くべき反応即で、横に飛んだ。
女頭目の目が丸くなる。
一瞬で呪文を完成させたタバサは、その体術に驚く女頭目めがけ魔法の矢を放った。
その矢が女頭目の持った杖を切り裂いて、同時にその服を地面に縫いつける。
勝負は一瞬でついたのだった。
信じられない、といった顔で、女頭目はタバサを見上げていた。
あれほど素早く身体を動かせることも驚きながら、その魔法の詠唱の素早さと、コントロールの正確さは感嘆に値した。
魔力は同じでも、それを扱う腕前は、天と地ほどの差があったのである。
「あ、あんた、何者・・・・・・」
「ただの学生」
タバサは、小さな声で答えた。
*****
人さらい達と、賄賂を受け取った役人たちを警邏の騎士に引き渡して、少女たちを自由にしてやった後、タバサはシルフィードの背に跨った。
シルフィードは素直にそれを受け入れて、その場を飛び立った。
そして魔法学院へと帰る途中、シルフィードはタバサから“シルフィード(風の妖精)”という名を与えられて、双月の明かりが照らす中、シルフィードはきゅいきゅいと楽しげに喚き続けた。
タバサはそれをBGMに本を読み続けながら、あの竜・・・・・・、モンモランシーの使い魔の事を考えていた。
「・・・・・・あの竜は」
「え? どうしたのね、お姉さま?」
「何でもない」
「?」
タバサはそう呟くと、本を読むのに専念し始めた。
**********
関所から戻ってきた俺は、ベットで寝ている才人の怪我をルイズがいない隙に、“ベホマ”の呪文を唱え、傷を塞いで体力を元に戻した。
まぁ、直ぐに起き上がってはマズいので、“ラリホー”の呪文を唱え才人を眠らしたのは言うまでもない。
で、昨日からの俺の定位置の木の上で眠っていると、誰かがこっちに近づく気配がしたため目を開けると、黒髪の少女(シェスタ)がやってくるのが見えた。
≪・・・・・・・・・・・・何か用かい? お嬢さん≫
「(ビクッ)は、はい! つつつ使い魔さんの、おおおおおお食事を用意しました!! で、では・・・・・・!」
「・・・・・・・・・・・・」
用件を訊ねると、タバサは物凄くテンパりながら肉の入った籠を置きお辞儀をして、走って戻ってしまった。
俺はそれに苦笑しながらタバサを見つめる。
そんなに怖がらなくても襲ったりはしないんだがなぁ・・・・・・。
「ふぅ・・・・・・。まぁいいや。よっと・・・・・・」
首を伸ばして籠の持ち手を加えて持ち上げる。
で、中身を見ると物凄く高そうなお肉(生肉)が入っていた。
う〜む。どうするかな・・・・・・。お、そうだ。
〔メラ〕
肉を空へ放り投げて、“メラ”の呪文を唱える。
で、落ちてきた肉をパクっと食べると、程良く焼けた、いい焼き肉になっていた。
うむ・・・・・・、火加減はこれぐらいかな・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・(だらだら)」
「ん?」
気が付くと涎を垂らしたシルフィードがこちら・・・・・・、いや肉を見ていた。
で、その背中にはタバサがこちらを見据えていた。
あちゃ〜、魔法を見られたかな?
「・・・・・・あなた何者?」
≪何者かと聞かれる前にお嬢さんの方から名前を言うのが筋というのもの≫
「・・・・・・タバサ」
「あたしはシルフィードなのね!」
≪うむ。我は神竜。それ以上でもそれ以下でもない、ただの竜だ≫
タバサとシルフィードが名前を言ったためこちらも名前を返す。
タバサが俺の目をジッと見つめてきたので、俺もジッと見つめ返した。
まぁ、正体は元人間で転生者?だが、それを理解できるワケがないため黙っとくに限る。
「・・・・・・そう」
タバサはそう呟くと、シルフィードと共に学生寮に向かった。
そして自分の部屋の窓の下へと来ると、シルフィードの背中から部屋の中へと飛び降りた。
で、シルフィードがタバサが部屋の中に入ったのを確認すると、こちらにやってきた。
何だ・・・・・・?
「あのあの、お肉ちょうだいなの」
「肉かい? まぁいいが、ご主人は許可したのかい?」
「うん。さっき分けてもらってもいいっていったの!」
「そうかい。俺はもういいから、全部食べなさい」
「ありがとうなの♪」
肉の入った籠をシルフィードの近くに持っていくと、シルフィードはお礼を言って物凄い勢いで食べ始めた。
おいおい。そんなにお腹がすいてたのか?
「そんなに慌てて食べなくても、肉は逃げないぞ?」
苦笑しながら呟くが、シルフィードは耳に入らなかったのか勢いは衰えず、素早く食べていく。
やれやれ・・・・・・。
「美味しかったのね♪」
「それは良かったよ。じゃ、その籠は俺が片付けておくから、帰りなさい」
「分かったの♪ ありがとうなの♪」
で、食べ終えた時、物凄くいい笑顔になったので、俺もつられて微笑んでしまう。
そしてお礼を言ってシルフィードは自分の寝床に戻っていった。
それを見送った後、俺は籠を咥え食堂の方へと持っていって、入口に置き寝床の木に戻る。
「さて明日はテリーの特技の練習でもするか・・・・・・」
そう呟きながら眠りについたのだった。
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死神のうっかりミスによって死亡した主人公。 その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。 第四話、始まります。 |
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