ゼロの使い魔 〜しんりゅう(神竜)になった男〜 第六話「小童教師、そして秘話」 |
「・・・・・・・・・・・・ん?」
食事を終え肉の入っていた籠を食堂の使用人入り口の前に置いた後、惰眠を貪っていると誰かの気配を感じた。
またあの小僧かと思い無視しようとしたが、もう一人の気配があったため顔を動かさずに視線を向ける。
そこには昨日のヴィリエとかいう小僧と、教師らしき人物がいた。
その二人は俺が見ているのにも気付かず、会話していく。
「ミスタ・ロレーヌ。私を呼んだわけを言いなさい。本来、この時間は出歩きは禁止されているのだぞ」
「・・・・・・ミス・モンモランシの使い魔が理由なく僕を傷つけたのです」
「なんだと? ミス・モンモランシの使い魔がかね?」
「・・・・・・はい」
「むむむ。使い魔が主である人間を傷つけるとは何たること。それは捨ておけん。ミスタ・ロレーヌ、その罰当りの使い魔の下へ案内しなさい」
「・・・・・・はい(ニヤッ)」
小僧、貴様・・・・・・。
「おい! 貴様か!? このメイジを傷つけたという使い魔というのは!?」
「・・・・・・・・・・・・」
寝床の近くにやってきた教師らしき人物(こいつはギトーだったな、確か)が怒鳴ってくるが、俺はそれを無視し視線だけを教師の後ろに隠れているヴィリエの小僧に向ける。
自分では敵わないからと、嘘をつき教師を利用するとは、つくづく愚かな奴だ・・・・・・。
まぁいい。小僧の戯言を信じるギトーもギトーだからな。
「私はギトー! 四系統魔法の中で最も優れている“風”の使い手だ!」
≪・・・・・・それがどうした、((小童|こわっぱ))≫
「こ、小童だと!?」
そのままの格好で呟くと、頭に血が上ったのか顔を赤くするギトー。
コルさんなどの知らせで俺が喋れると知っているとはいえ、大抵の人物は驚くんだが・・・・・・、怒りが驚きよりも勝っているというとこか。
ふっ、これはいい。もっと怒らせてやるか。
そう考えた俺は顔をあげて、ギトーを睨みつける。
≪我は、この世に生を受けてから数1000年の刻を過ごしてきた。20そこらしか生きておらん小童に小童と言って、なにが悪い≫
「なんだと!?」
≪それと小童。お前は先程、四系統魔法の中で最も優れているのは“風”と言ったが、それは違う。四系統の“火”、“水”、“風”、“土”が調和を保っているからこそ、この世は存在できているのだ。四系統は等しく優れていると言っても良い。“風”が最も優れている? 笑わせるな≫
「ぐぐぐぐ・・・・・・。言わせておけば! こうなったら、“風”が最も優れていることをお前の身体に教えてやろうではないか! ユビキタス・デル・ウィンド(何をしているのですかな)」
俺の適当に言った言葉にキレたギトーが、呪文を唱えようとした時、ギトー達の後ろから声が聞こえてきた。
この声はコルさんか・・・・・・?
そう思って、声が聞こえてきた方に視線を向けると、暗闇から姿を現したのは・・・・・・、思った通りコルさんだった。
「ミスタ・コルベール・・・・・・」
「何をしとるのですかな?」
コルさんはギトーに視線を向けて、もう一度訊ねた。
ギトーは苦虫を噛み潰したような顔で説明していく。
「・・・・・・ミスタ・ロレーヌ、嘘はいけませんぞ」
「・・・・・・・・・・・・(ビクッ!)」
一通り話を聞いたコルさんは、ギトーの後ろで隠れている小僧に視線を向け言い放った。
ほぅ、あの話が嘘と見破るとは・・・・・・、流石コルさんと言ったところか。
「嘘・・・・・・?」
「左様。ミス・モンモランシの使い魔は今まで見たことのない竜であるが、数1000年以上の刻を過ごしていることは雰囲気で分かる。その竜が理由なく人を襲うとは考えにくい。そうではないかね、ミスタ。君は“風”の使い手だ。風の流れで、この竜の力量を測れるはずですぞ」
すいません、コルさん。
俺は生を受けてからまだ28です。
しかも、一回死んでます。
「むむむむ・・・・・・」
「・・・・・・そのようなワケでここは引いてくださいますかな、ミスタ? このままだとオールド・オスマンに報告せねばなりませんので」
「・・・・・・失礼する!」
ギトーはコルさんを睨みつけながら言うと、踵を返して教員塔に向かう。
そして、その場には俺と小僧とコルさんの三名が残った。
「・・・・・・君もだ、ミスタ・ロレーヌ。貴族としての誇りを十分に考えなさい」
「・・・・・・・・・・・・」
小僧は何も言わず、立ち去っていく。
やれやれ、そこまで愚かなヤツだとは・・・・・・。
立ち去る小僧を呆れながら見つめていると、コルさんがこちらを振り返って頭を下げてきた。
「・・・・・・私の生徒と同僚が失礼したね」
≪((些細|ささい))ことだ、気にするな。して、我に何か用か?≫
「!! ・・・・・・なぜ私が、あなたに用があると分かったのですかな?」
コルさんは俺の言葉に驚くが、すぐに表情を引き締めて訊ねてきた。
俺は苦笑しながら答える。
≪我がいる場所は、君がいる部屋の反対側だからな≫
この場所は、コルさんがいる研究室の反対側にある。
当直と言っても門の詰め所に待機しているだけだ。
こちらには俺に用があると思うのは定石だ。
俺の言葉にコルさんは、頭をかきながら苦笑する。
「うむ。あなたの言う通り、用があってこちらにきたのだよ。あなたのことを知りたくてね」
≪我のこと?≫
「ああ。あなたは韻竜ではないのかとね」
韻竜か・・・・・・。まぁ、この世界にとって、竜が人語を操るのは韻竜だけだからな。
そう考えるのは当たり前か。
さてどう説明するか・・・・・・。
別に韻竜じゃないと言っても良いが、韻竜でもない竜が人語を操っているというのはおかしくなるしな。
「いや。あなたの正体を暴いて、城に知らせようというのではない。単にあなたの正体に興味があってね」
黙って考えていると、コルさんは俺が警戒していると思ったのか口早に弁解してきた。
ふぅ、仕方ない・・・・・・。
多少、話を盛るとするか。
≪君の名前は何という?≫
その前にコルさんの名前を聞いておく。
いきなり名を読んで説明を求められても面倒だからな。
ここは聞いといた方が得策だ。
「ああ、そういえば言っていなかったね。私はジャン・コルベールという」
≪コルベールか・・・・・・。我は神竜。だが、主にシェンと名前を付けてもらった。シェンと呼ぶと良い≫
「シェンだね。分かった」
≪ではコルベール。我の話は他言無用で願う≫
コルさんは頷くと、石に腰かけ聞く態勢をとった。
≪・・・・・・コルベール、最初に言っておこう。我は韻竜ではない≫
「そうなのかい? しかし、雰囲気が他の竜種とは違う。また人語を操る竜は韻竜の他には知らんのだが・・・・・・」
≪実際、我は人語を操っているわけではない。君たちの脳に直接話しかけているのだ≫
「なんと! それは真か!?」
コルさんは驚いて、石から立ち上がった。
俺はそれを制して落ち着かせた。
≪実際はそうだが、人語を操るというのはあながち間違いではない。我が人語を操れると思っていても良い≫
そう補足した俺は、今から話すことは他言無用ということを、再度念を押してから語りだした。
嘘の俺の物語を。
≪・・・・・・コルベール。君は((パラレルワールド|並行世界))というのを知っているかい?≫
「パラレルワールド・・・・・・? いや、しらないな。それはどういう世界なんだい?」
≪この世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界のことだ≫
「なんと! この世界とは違う世界があると言うのですか!」
≪ああ。そうだ≫
「むむむ。それは興味深い・・・・・・」
コルさんはそう言うと、しばらく考えこむ姿勢になった。
≪話を続けても良いか?≫
しばらく考えが纏まるのを待った俺は、考えこむコルさんに声を掛けた。
「ああ失礼した。話を聞きましょう」
≪うむ。パラレルワールドの話をしたのは他でもない。我は別の世界から来たからだ≫
「別の世界から・・・・・・、なるほど・・・・・・」
≪我は、この世界とは異なる世界で生まれ数1000年の刻を過ごしてきた。その世界で数1000年を生きた竜は我だけ。我は神の力を持つようになり、神竜となったのだ。人語を操れるのは、我が数1000年を生きた竜だからだ≫
「なるほど。・・・・・・では、あなたがこちらに来たわけというのは? 召喚されたのですかな?」
≪いや、この世界に来たのは偶然だ。召喚もこちらの世界に来た時だ≫
「偶然・・・・・・。では、世界を渡ろうと思ったわけは?」
≪魔王を倒した勇者の願いを全て叶えたからだ。我は神の力の使い道を我が認めた者の願いを叶えることと見定めた。それから、その者が現れるのを待ち続けた。そして、世界が魔王という輩に支配されようとした時、勇者が現れ、その魔王を討ち果たしたのだ。我はその勇者こそが我が認める者であると感じた。そのため、その者が我の所にやってきた時、我は力を試そうと戦いを挑んだ。結果は我の敗北。我はその者の力を認め願いを叶えた。それから、その者は毎回、我が出す試練を乗り越えて、全ての願い事を叶えていった。その後、その者はアレフガルドという世界に旅立っていった。我はこの世界での役割を終えたと悟った。だから今後は自分のために生きてみるかと考え、残りの神の力を使い、新たな世界に旅立った。それで着いたのが、この世界だったというワケだ≫
「なるほど、なるほど」
コルさんはしきりにそう呟きながら頷いている。
さて時間も時間だな。
話はここら辺でお開きとするか・・・・・・。
魔法や特技については、いつか話すとしよう。
≪我の話は以上だ≫
「ああ、いい話を聞かせてもらった。ありがとう、シェン」
≪いや。では我は眠る≫
「ああ。そうですな。私も戻るとしましょう。では、おやすみ」
コルさんはそう挨拶をすると、自分の研究室に戻っていった。
それを見送った俺は顔を身体に埋めて眠りについたのだった。
しかし、あの話で良かったかなぁ。
相当、無理がある気がする。
まぁ、コルさんが納得してたから良いとするか・・・・・・。
*****
朝の光で目を覚ました。
今はコルさんとの会話から数時間ってところか・・・・・・。
「さて二度寝をするのも良いが・・・・・・、才人の様子が気になるし見に行くか」
そう思った俺は、才人がいるルイズの部屋の窓まで近づいて、そっと中の様子を窺った。
おっ、目を覚ましたか。才人は左手のルーンを見つめていた。
包帯は巻かれていないところを見ると、机に突っ伏して寝ているルイズがやったのだろう。
ああ、見つかると面倒だな。
〔レムオル〕
俺は“レムオル”の呪文を唱えて姿を消した。
見なければいいじゃんと思うかもしれないが、暇潰しということで勘弁してもらいたい。
コンコン、ガチャ
その時、ノックの音とともにドアが開いた。
入ってきたのはシェスタだった。
シエスタはパンと水をのせた銀のトレイを持ちながら、才人を見ると微笑んだ。
『シエスタ・・・・・・』
『お目覚めですか? サイトさん』
『うん・・・・・・。俺・・・・・・』
『あれからミス・ヴァリエールが、ここまであなたを運んで寝かせたんですよ。先生を呼んで、“治癒”の呪文をかけてもらいました。大変だったんですよ』
『“治癒”の呪文?』
『そうです。怪我や病気を治す魔法ですわ。ご存知でしょう?』
『いや・・・・・・』
才人は首を振った。
ここでの常識が才人に通用すると思われては困るだろうなぁ。
『“治癒”の呪文のための秘薬の代金は、ミス・ヴァリエールが出してました。だから心配しなくていいですわ』
『そんなにかかるの? 秘薬のお金って』
『まぁ、平民に出せる金額ではありません』
平民の賃金って、一体いくらになるんだ?
というか、そんな高い秘薬を使わないといけなくなるまで怪我をするってよく生きてたな、才人・・・・・・。
『よっ・・・・・・』
『あ。動いちゃダメですわ! あれだけの大怪我では“治癒”の呪文でも完璧に治せません! ちゃんと寝てなきゃ!』
才人が起き上がろうとしたが、シエスタが凄い勢いでそれを制して、そう告げてくる。
その剣幕に圧されて、才人は素直にベットに寝転んだ。
いや、大丈夫なんだけどなぁ。
〔ダモーレ>〕
“ダモーレ”の呪文を唱えて、才人のステータスを見る。
そこには“状態:状態正常(HP全回復)”と出ているから、傷は完治していると言える。
まぁ、シエスタはそのことは知らないから、あの行動は正しいんだけどね。
『ありがとう・・・・・・。俺、どのぐらい寝てたの?』
『二日間、ずっと寝続けてました。目が覚めないんじゃないかって、皆で心配してました』
『皆って?』
『厨房の皆です・・・・・・』
シエスタは、それからはにかんだように顔を伏せた。
『どうしたの?』
『あの・・・・・・、すいません。あの時、逃げ出してしまって』
『いいよ。謝ることじゃないよ』
『ほんとに貴族は怖いんです。私みたいな、魔法を使えないただの平民にとっては・・・・・・』
貴族は怖いねぇ。
まぁ、人を殺めることができる魔法が使えるというのは、使えない者にとっては恐怖以外なにものでもないかもしれないな。
『でも、もう、そんなに怖くないです! 私、サイトさんを見て感激したんです。平民でも、貴族に勝てるんだって!』
『そう・・・・・・。はは』
シエスタはぐっと顔をあげて、目をキラキラと輝かせながら宣言した。
才人はなんだか照れ臭かったのか、頭をかいている。
才人の様子を見る限り、どうして勝てたのか不思議がっている感じだな。
「はぁ〜」
その時、欠伸が出た。
さて才人も起きたことを確認したし、二度寝に洒落込むとするか・・・・・・。
俺は“レムオル”の呪文を解除すると、寝床に戻り惰眠を貪り始めたのだった。
説明 | ||
死神のうっかりミスによって死亡した主人公。 その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。 第六話、始まります。 |
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