ゼロの使い魔 〜しんりゅう(神竜)になった男〜 第八話「香水、そして大荷物」 |
次の日、俺は昼前に目覚めた。
襲撃してくる者(ヴィリエ)がいなかったためなのか、日ごろの疲れが溜っていたためなのかは分からないが、ぐっすりと眠れたため気持ちのいい目覚めとなった。
ヒヒィン!!
その時、馬の鳴き声が聞こえてきた。
視線を向けると、門から馬に乗ってでていく二人の姿が見えた。
「ルイズと才人か・・・・・・。ああ、今日は虚無の曜日か」
その二人がルイズと才人だと気付いた俺は、今日が虚無の曜日だと理解し呟いた。
確か才人がデルフリンガー(通称:デル公)を買ってくる日だったっけな。
ピィ〜
そんな事を考えていると甲高い音が聞こえてきた。
その直後、寮塔の五階の窓から二人の人物が飛び下りてきた。
よく見ると、タバサとキュルケだった。
その二人をシルフィードが受け止めて、寮塔に当たり上空に抜ける上昇気流を器用に捕らえて、一瞬で空高く駆けあがっていく。
「キュルケにでも頼まれたのかね〜?」
そう呟きながら様子を見ているとシルフィードは、翼を振り始め、先程ルイズ達が向かった方向に飛んでいった。
俺はそれを見送り、二度寝の体勢になる。
ついていっても買って帰るだけだし何も起こらなそうだからな。正直つまらん。
「シェン、ちょっといいでしょうか?」
目を閉じて二度寝にしゃれ込もうとした時、モンモンの声がしたため視線を向けると、モンモンが木箱を重そうに抱えていた。
≪主、どうした?≫
「ちょっと城下町まで乗せてって欲しいんです」
≪城下町?≫
「ええ。頼まれてた香水が完成したからお店に納入したいんですよ。業者に頼むと、金と時間がかかるから」
モンモンは木箱を示し説明するが、相変わらず口調は敬語だ。
この一週間で、大分俺に慣れて怖がる雰囲気はなくなったんだがなぁ。
最早、これがデフォなのだろうか?
まぁ、それはさておくとして、木箱とモンモンを運ぶとするかね。
≪分かった。背に乗りなさい≫
俺は地面に下りて、モンモンに告げた。
そして、モンモンが乗ったことを確認し、壊れないように木箱を掴んで飛び上がった。
≪では出発する。しっかり掴まっていなさい≫
「ええ」
モンモンは頷いて、両手で角を掴む。
俺はそれを確認して、トリステインの城下町(トリスタニア)に向かって動き出した。
*****
「お嬢様、わざわざのお運びありがとうございました」
「こちらこそありがとうね、ミセス・パフューム。いつも私の香水を買ってくれて」
「いえいえ。お嬢様が作られる香水はいつも大人気ですから私どもも助かっております」
トリスタニアについた俺たちは、ある香水店にいた。
俺はモンモンの首に身体を巻きつけながら二人の様子を見守っていた。
ロビンは器用に俺の頭に乗って、気持ち良さそうに眠っている。
「・・・・・・お嬢様も二年生なのですねぇ。私が主人と一緒にお屋敷に仕えておりました頃は、まだこのぐらいの小さい女の子でしたのに」
「もうやめてよ、そんな昔話。私はもう立派な淑女よ」
「ふふふ。すいません」
この人物(確かミセス・パフュームだったな)はモンモンにとって信頼できる人の様だ。
モンモンの態度が貴族の淑女ではなく、一人の女の子になっているからな。
「そう言えば、お嬢様の通われている学院には“春の使い魔召喚”なるものがありましたね。お嬢様はどのような使い魔を?」
「ふふ、分からない? 私の首に巻きついているのが使い魔よ」
「え?」
モンモンの言葉でミセス・パフュームがこっちを向いて、俺と目があった。
俺は頭にロビンを乗せたままテーブルの上に降り立つ。
「まぁ! お嬢様は竜を召喚なされたのですね!」
この人物できるな。
所見で俺を怖がらないとは・・・・・・。
いや、このサイズだからか・・・・・・?
「もう一体いるのだけれど」
「まぁ。もう一体も?」
「ええ。その竜の頭に乗っているカエルなのよ」
「まぁまぁ! 二体も使い魔を召喚なされるとは!」
「もう大袈裟ねぇ。そんな大したこと無いわよ」
モンモンは優雅に紅茶を啜りながらそう言うが、物凄く嬉しそうだ。
まぁ、今年二体を召喚したのはモンモンだけだからな。
鼻が高くなるのは仕方がないと言えば仕方がないだろう。
「それで旦那様にはそのことは?」
「ええ、伝えたわよ」
「それはそれは。さぞかしお喜びになられたでしょうね」
「さぁ、それは分からないわ。今日、手紙を出したんだもの」
「あら、そうなのですか?」
「ええ。色々あって報せるのを忘れてたのよ。思い出したのが、昨日届いたお父様の手紙ってわけ」
「もう。お嬢様は・・・・・・」
「ふふ。反省しているわ」
モンモンは笑いながら紅茶を啜る。
ただ、その言葉と態度が全然あってない・・・・・・。
まだ見ぬ父親にちょっと同情した瞬間であった。
**********
巨大な二つの月が、五階に宝物庫がある魔法学院の本塔の外壁を照らしている。
二つの月の光が壁に垂直に立った人影を浮かび上がらせていた。
“土くれ”の二つ名で呼ばれて、トリステイン中の貴族を恐怖に陥れているフーケというメイジの盗賊だった。
長く青い髪を夜風になびかせ悠然と佇む様に、怪盗の風格が漂っている。
「ち・・・・・・っ」
フーケは足から伝わってくる壁の感触に舌打ちをした。
「さすがは魔法学院本塔の壁ね・・・・・・。物理衝撃が弱点? こんなに厚かったら、ちょっとやそっとの魔法じゃどうしようもないじゃないの!」
フーケは足の裏で、壁の厚さを測っていたのである。
“土”系統のエキスパートであるフーケにとって、そんなことは造作もないことだった。
「確かに、“固定化”の魔法以外はかかってないみたいだけど・・・・・・、これじゃ私のゴーレムの力でも、壊せそうにないね・・・・・・」
フーケは、腕を組んで悩んだ。
強力な“固定化”の魔法がかかっているために、“錬金”の魔法で壁に穴をあけるわけもいかない。
「やっとここまで来たってのに・・・・・・、かといって“破壊の杖”を諦めるわけにゃあ、いかないね・・・・・・」
フーケの目がきらりと光った。
そして、腕組みをしたままじっと考え始めたのである。
**********
城下町を出発した俺は、モンモンとロビンを乗せ学院への帰路についていた。
“ルーラ”ですぐに帰っても良いが、別に急ぐことはないだろうと思い普通に帰っている。
「大分遅くなったわねぇ・・・・・・」
≪主が道草をしなければ、もっと早く帰れたがな≫
「うっ・・・・・・。で、でも仕方がないじゃないですか。滅多に入荷しない秘薬が沢山あったんですから」
≪それは分かるが、限度というものがある≫
俺はその場に止まると、片手に三((樽|たる))ずつ、計六樽の秘薬入りの樽(最大サイズ)を掴んだ両手を見つめた。
この樽の値段は想像に任せるが、相当高かったとだけ言っておく。
「い、いいじゃないですか。ミスタ・パフュームから報酬としてお金を沢山もらったし、樽には“固定化”の魔法がかかってるから、保存には困らないんですから」
モンモンはばつが悪そうにしながらも、反論してきた。
確かにミセス・パフュームの旦那さんから、正規の買取金額に色を付けて支払ってもらった。
また、貴重な秘薬だからと“固定化”の魔法がかかっている。
それはいい。いいのだが・・・・・・。
≪樽をこんなに買ってどこに置いとくつもりなんだ主?≫
「あ・・・・・・」
モンモンは『しまった』という表情をして、保存場所をどうするか考えだした。
か、考えてなかったんかい・・・・・・。
「はぁ・・・・・・。ドジな主だな、全く」
「そ、そんなことないよ! ご主人様は何も考えてないだけだよ!」
俺がそんなモンモンを見つめながら呟くと、ロビンが反論してきた。
しかし、それは・・・・・・。
「助けてるつもりだろうが、全然助けになってないからなロビン」
「あれ〜?」
「やれやれ・・・・・・」
俺は首を傾げているロビンに苦笑すると、視線を戻し学院に向かったのだった。
*****
ドーン!
「ん?」
学院まであと少し(約500m)というところで、何かが爆発する音が、かすかに聞こえてきたため、その場に止まり様子を窺う。
すると、月明かりに照らされた学院の本塔にヒビが入っているのに気付く。
また一人の人物がロープで縛られて、本塔に吊るされているのが見えた。
あれは才人か・・・・・・?
あ、ああ。あの二人(ルイズとキュルケ)の戦いに巻き込まれたってわけね。
「どうしたの、シェンさん?」
モンモン(未だに樽をどうするのか考えている)の肩に乗っているロビンが、動きを止めた俺に訊ねてきた。
俺は『何でもない』と返事をして動き出した。
視線を才人の方に戻すと、ちょうど火球が才人を吊るすロープにぶつかったところだった。
ロープは一瞬で燃やし尽くされ才人が地面に落ちていく。
だが、途中で落ちる速度が遅くなった。
多分、屋上にいる人物(タバサ)が“レビテーション”でもかけたのだろう。
ん? そう言えばこの後何かがあったような・・・・・・。
何だっけ?
「シェンさん、あれ!」
その時、慌てたようにロビンが声を発した。
見ると、巨大なゴーレムが本塔に近づいていた。
ああ! フーケだ、フーケ。
すっかり忘れてた!
≪主≫
「え? な、何ですか?」
≪学院で何かあったらしい。速度を上げるからしっかり掴まっていなさい≫
「あ、はい!」
俺はそう断りを入れると、速度を上げて学院に向かった。
フーケの事を思い出したので、もう少し近くで様子を見ようと思ったからだ。
速度を上げながら、ゴーレムを見据える。
ゴーレムは本塔にヒビが入った壁に向かい拳を打ち下ろしていた。
壁に拳がめり込むと、パカッと鈍い音がして、壁が崩れる。
「な、なによ。あのゴーレムは」
学院に到着した時、モンモンがそう呟いた。
すると、壁にあいた穴から出てきた黒ローブの人物(フーケ)を肩に乗せて、ゴーレムがこちらに近づいてきた。
俺はシルフィードが旋回している位置まで浮上して、ゴーレムから離れる。
魔法学院の城壁を((一跨|ひとまた))ぎで乗り越えて、ずしんずしんと地響きを立てて草原を歩いていくゴーレム。
それを見つめていると、シルフィードがこちらにやってきた。
その背に跨ったタバサは身長より長い杖を振って、ルイズと才人を背に移動させていた。
「一体どういうこと、ルイズ?」
「し、知らないわよ。と、突然、このゴーレムが現れたんだもの」
ルイズはモンモンの質問に、ちらちら俺を見ながら答えると、巨大ゴーレムを見つめた。
若干、俺に怯えている感じだが、それはまぁ今はいいだろう。
問題はゴーレムの方だ。
「あいつ、壁をぶち壊してたけど・・・・・・。なにしたんだ?」
「宝物庫」
タバサにロープを切ってもらった才人が巨大ゴーレムを見つめながらルイズに訊ねると、代わりにタバサが答えた。
「あの黒ローブのメイジ、壁の穴から出てきたときに、何かを握っていたわ」
「泥棒か。しかし随分派手に盗んだもんだな・・・・・・」
才人がそう呟いた時、草原の真ん中を歩いていた巨大ゴーレムが、ぐしゃっと崩れ落ちて大きな土の山になった。
「シルフィード、降りるぞ」
「分かったのね」
シルフィに声をかけて、地面に降りる。
しかし、そこには月明かりに照らされて、こんもりと小山の様に盛り上がる土山以外、何もなかった。
そして、肩に乗ったフーケの姿も消えていたのだった。
説明 | ||
死神のうっかりミスによって死亡した主人公。 その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。 第八話、始まります。 |
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