インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#02 |
[side:一夏]
「俺は織斑一夏。こっちは幼馴染の篠ノ之箒。えっと…せんな、でいいのか?」
まったくもってちんぷんかんぷんな一限と二限が終わった休み時間。
俺は箒と一緒に例の『二人目の男子』の所にやってきていた。
何故、箒も一緒かって?
箒も、気になるんだとさ。
まあ、アキ兄は俺と箒と千冬姉と束さん、みんなの兄貴だったから当然といえば当然だけど。
「((空|そら))。((千凪 空|せんな そら))だよ。」
何というか、どこかで魔界の魔王とか、図書館司書長とか、無感情に見えて可愛い物好きかつ乙女な魔導杖使いとか、愛情表現が関節技な独逸帰りの帰国子女とかやってそうな声だな。
どうでもいい上に訳分からないけど。
「ああ、よろしくな。空」
"千に凪ぐ"で"せんな"、"そら"はまんま空と書くらしい。
「よろしく。織斑くん、篠ノ之さん。」
「水臭いから一夏でいいぜ。箒もいいだろ?」
「あ、ああ」
「なら、改めて。よろしく、一夏、箒。」
ほにゃっ、と毒気のない笑顔に俺も箒も一瞬だけだけど我を忘れそうになった。
なんだろう、この可愛い小動物チックな笑顔は。
「不躾で悪いが、『マキムラアキト』という人を知っているか?」
と、箒が尋ねる。
これに関しては俺も気になる処だ。
「んー、」
思い出そうとしてるのか顎に手を当てて上目になる空。
なんかいちいちそういうポーズが様になる。
主に可愛い系の意味で。
本当に同性なのかが少し心配になるくらいに。
「ちょっとよろしくて?」
そこに、突然声が掛けられた。
三人そろって声の主の方を見るとそこにいたのはロールのかかった金髪の、白人系の女子。
まあ、ここには俺と空以外男子はいないけど。
その金髪縦ロールは白人特有の青い瞳を釣りあげさせて俺と空を睨んできていた。
「聞いてますの?お返事は?」
「あ、ああ。聞いてるけど、どういう用件だ?」
人が話してるのを態々中断させるほどの用件だろうか。
そうなると、俺としてはまったく心当たりがない。
なんせこの女子、初対面だ。
「まぁ!なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度と言うものがあるんではないのですか?」
ん、日本語に間違い発見。
『光栄』って使いたいなら『光栄な事』と言うべきだな。
あと、丁寧な言葉遣いとしては『あるんでは』じゃなくて『あるのでは』だ。
まあ、それはともかくとして俺は『厄介なのに絡まれた』と内心で舌打ちをした。
ISが現れてから、世間は急激に女尊男卑に傾いた。
そのせいでこう言う『女だから男より偉い』と思い込んでる手合いが増えた。
今では町で見ず知らずの、それこそすれ違っただけの女に使い走りにされる男も居るくらいに。
こう言う手合いは爆発物だ。だからと言って下手に出るのは俺の趣味じゃない。
「悪いな。俺、君が誰だか知らないし。」
そもそもで自己紹介は『あ』から『おり』までしか出来ていない。
知ってる方がごく少数だろう。
「わたくしを知らない!?このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生にして入試主席のこのわたくしを?」
へー、セシリアって言うのか。
「………空、代表候補生ってなんだか知ってるか?」
俺は小声で空に尋ねる。
自慢じゃないがIS関連の知識なんぞ全く持ってない俺としては未知の単語だ。
「あ、あ、あ、あなたっ!本気でおっしゃってますの!?」
「((国際大会|モンド・グロッソ))に出場する国家代表の、その候補の事だよ。つまるところの国を背負うエリートだよ。」
おお、成る程。だから『代表』の候補生なのか。
そして大爆発したセシリア。どうやら聞こえていたらしい。
「し、信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら……」
失礼な。
「で、そのエリートな代表候補生サマが何の用なんだ?」
「そう!エリートなのですわ!」
…こいつ、人の話を聞かないタイプか?
ぴしっ、と俺に指を突き付けてくるセシリア。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることでも奇跡、幸運なのですわよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「そうか、それはラッキーだ。」
「………馬鹿にしてますの?」
「一夏、嘘をつくならもう少しマシにやれ。」
流石に箒からもツッコミが入った。
「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。唯一男でISが操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待はずれでしたわね。」
「…俺に何かを期待されても困るんだが…」
「まあ、でも?わたくしは優秀ですから、あなたちのような人間にも優しくしてあげますわよ。」
へぇ、イギリスじゃこう言うのを『優しい』と言うのか。
今度誰かがイギリスに行く時は教えてやれねば。
「ISの事でわからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートなのですから。」
「あれ?俺も倒したぞ、教官。」
「………は?」
確かそうだ。
がむしゃらに突っ込んできたからそれを避けて、振り返り際を狙うつもり―――だったのに相手はそのまま壁に激突して自滅しちまった。
「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
驚きに目を見開いたセシリア。
どうやら向こうにとっては相当ショッキングだったらしい。
「女子では、ってオチじゃないのか?」
「つ、つまりわたくしだけではないと……?」
「いや、知らないけど。」
「あ、あなたも教官を倒したというの!?」
「まあ、一応、多分。」
どちらかと言えば『自滅』だが。
「たぶん!?たぶんってどういう意味なのかしら!?」
「えーと、とりあえず落ち着けよ。」
「こ、これが落ち着いて居られ―――」
キーンコーンカーンコーン、
「あ、チャイムだ。」
空の能天気な声が時間切れを告げる。
「ッ―――!また後で来ますわ!逃げないことね、よくって!?」
全然良くない。
けど、それを言ったらまた怒りそうだから黙っておこう。
「一夏。一夏も席に戻った方がいいんじゃないのかな?」
「おっと、そうだった。」
気付けば箒はもう自席についている。
このままじゃ千冬姉の出席簿アタックを喰らってしまう。
早々に戻らねば。
「それじゃ、また後でな。」
それだけ言ってから、俺は自分の席に戻る。
丁度座ったタイミングで、千冬姉と山田先生が教室に入って来た。
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