ゼロの使い魔 〜しんりゅう(神竜)になった男〜 第九話「フーケ、そして戦闘」
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翌朝。学院では、昨夜からの蜂の巣をつついた騒ぎが続いていた。

“レオムル”の呪文で、姿を消した俺は身体を最小サイズにし、才人の頭の上で宝物庫の様子を見ている。

 

理由はなんとなくだ。別に他意はない。

 

「な、なんだか頭が重い・・・・・・」

 

俺は才人の呟きを無視して、壁に刻まれた“土くれ”のフーケの犯罪声明を見つめる。

 

「“土くれ”のフーケ! 貴族たちの財宝を荒らしまくっているという盗賊か! 魔法学院にまで手を出しおって! 随分とナメられたもんじゃないか!」

「衛兵はいったい何をしていたんだね?」

「衛兵などあてにならん! 所詮は平民ではないか! それより当直の貴族は誰だったんだね!」

 

≪≪破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ≫≫

 

そう書かれた壁を見ながら、教師たちが口々に好き勝手なことをわめく。

そして、最後の教師のほざきに一人の女性教師の様子がおかしくなった。

どうやら昨晩の当直は彼女だったらしい。

 

「ミセス・シュヴルーズ! 当直はあなたなのではありませんか!」

 

その時、一人の男性教師がその女性教師(ミセス・シュヴルーズ)を追求し始めた。

 

あいつはギトーか・・・・・・?

はぁ。おそらくはオールド・オスマン(通称:じじぃ)が来る前に責任の所在を明らかにしておくつもりなんだろう。

浅ましいのにも程があるぞ。

 

「も、申し訳ありません・・・・・・」

「泣いたって、お宝は戻ってはこないのですぞ! それともあなた、“破壊の杖”の弁償できるのですかな!」

「わたくし、家を建てたばかりで・・・・・・」

 

ミセス・シュヴルーズという女性教師は、よよよと床に崩れ落ちた。

 

「これこれ。女性を苛めるものではない」

 

そこにじじぃが現れて、ミセス・シュヴルーズを問い詰めていたギトーを窘めた。

ギトーはじじぃの方を振り向くと、訴え始めた。

 

「しかしですな! オールド・オスマン! ミセス・シュヴルーズは当直なのに、ぐうぐう自室で寝ていたのですぞ! 責任は彼女にあります!」

 

ほとんどの教師がギトーの言葉に頷く。

 

・・・・・・というか、真面目に当直をしていた教師はほとんどいねぇじゃねぇか。

ミセス・シュヴルーズだけを責めるのはお門違いなんじゃねぇのか・・・・・・・?

 

そう思いながら成り行きを見守っていると、じじぃが長い口ひげをこすりながら口から唾を飛ばして興奮するギトーを見つめた。

 

「ミスタ・・・・・・、なんだっけ?」

「ギトーです! お忘れですか!」

「そうそう。ギトー君。そんな名前じゃったな。君は怒りっぽくいかん。さて、この中でまともに当直したことのある教師は何人おられるのかな?」

 

教師たちはお互い顔を見合わせると、恥ずかしそうに顔を伏せた。 

ギトーも苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 

「さて、これが現実じゃ。責任があるとするなら我々全員じゃ。この中の誰もが、もちろん私も含めてじゃが・・・・・・、まさかこの魔法学院が賊に襲われるなど、夢に思っていなかった。なにせ、ここにいるのはほとんどがメイジじゃからな。誰が好き好んで、虎穴に入るのかっちゅうわけじゃ。しかしそれは間違いじゃった」

 

じじぃはそこで話を句切ると、壁にぽっかりと空いた穴を見つめた。

 

「この通り賊は大胆にも忍び込み、“破壊の杖”を奪っていきおった。つまり我々は油断していたのじゃ。責任があるとするなら、我ら全員にあると言わねばなるまい」

 

そう言い切るじじぃに、ミセス・シュヴルーズが抱きついて、感激した様子で告げた。

 

「おお、オールド・オスマン! あなたの慈悲のお心に感謝いたします! わたくしはあなたをこれから父と呼ぶことにいたします!」

 

じじぃはそんなミセス・シュヴルーズの尻を撫でた。

 

・・・・・・って、何してんだこのエロじじぃ・・・・・・。

 

「ええのじゃ。ええのよ。ミセス・・・・・・」

「わたくしの尻で良かったら! そりゃもう! いくらでも! はい!」

 

コホンと咳払いをするじじぃ。

 

・・・・・・こりゃあ場を和ませるつもりで尻を撫でたな。

たく、もう少し違う和ませ方をしろよな。

 

「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」

「この四人です」

 

じじぃが尋ねるとコルさんがさっと進み出て、自分の後ろに控えていた四人、ルイズにキュルケにタバサ、そして主であるモンモンを指差した。

才人が入っていないのは、おそらく使い魔だからだろう。

 

「ふむ・・・・・・。君たちか」

 

じじぃは、興味深そうに才人を見つめてきた。

 

・・・・・・ああ、うん。

俺を見ているわけじゃないとは言え、じじぃにじろじろと見られるのはいい気はしないな。

 

「詳しく説明したまえ」

 

じじぃは視線を四人に戻し、そう訊ねた。

ルイズが四人を代表し前に進み出ると、見たままを述べていく。

 

「あの。大きなゴーレムが現れて、ここの壁を壊したんです。肩に乗ってた黒いメイジがこの宝物庫の中から何かを、その“破壊の杖”だと思いますけど・・・・・・、盗み出したあと、またゴーレムの肩に乗りました。ゴーレムは城壁を越えて歩きだして・・・・・・、最後には崩れて土になっちゃいました」

「それで?」

「後には、土しかありませんでした。肩に乗ってた黒いローブを着たメイジは、影も形もなくなってました」

「ふむ・・・・・・。後を追おうにも、手がかりナシというワケか・・・・・・」

 

じじぃはひげを撫でながらそう呟いて、秘書のロングビルの姿が見当たらない事に気付きコルさんに訊ねた。

 

「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」

「それがその・・・・・・、朝から姿が見えませんで」

「この非常時に、どこに行ったのじゃ」

「どこなんでしょう?」

 

そんな風に噂をしていると、当の本人が現れた。

 

「ミス・ロングビル! どこに行っていたんですか! 大変ですぞ! 事件ですぞ!」

 

興奮した調子で、コルさんがまくし立てるが、ロングビルは落ち着きはらった態度で、じじぃに告げた。

 

「申し訳ありません。朝から、急いで調査をしておりましたの」

「調査?」

「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして宝物庫はこのとおり。すぐに壁のフーケのサインを見つけたので、これが国中の貴族を震え上がらせている大怪盗の仕業と知って、すぐに調査をいたしました」

「仕事が早いの。ミス・ロングビル」

 

ロングビルの言葉を受けて、コルさんが慌てた様子で先を促した。

 

「で、結果は?」

「はい。フーケの居所が分かりました」

「な、なんですと!」

 

ロングビルがそう返事をすると、コルさんは素っ頓狂な声を上げた。

じじぃとロングビルはそんなコルさんを無視し話を続けた。

 

「誰に聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」

「はい。近在の農民に聞きこんだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。おそらく彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」

 

・・・・・・黒ずくめのローブの、男・・・・・・?

 

俺は“男”というロングビルの言葉に違和感を感じた。

昨晩、見たフーケはすっぽりと頭を覆っていたため男か女かは分からなかった。

 

それなのになぜ農民たちはフーケが男だと・・・・・・?

フードをとった・・・・・・?

いや、それはありえない。

大怪盗と呼ばれているフーケがそんな間抜けなことはしないはずだ。

単なる言葉の綾か・・・・・・?

ああ! じれったい・・・・・・! フーケの正体が分かればいいのに・・・・・・!

こんなことなら真面目に原作読んでおくんだった。

流し読みしてたから所々しか覚えてないし、全然内容が思い出せない。

原作を覚えていなくても別にいいと思っていたんだが、こういう肝心なところで思い出せないと、不便といえば不便だな。

 

「すぐに王室に報告しましょう! 王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」

 

色々考えていると、コルさんの叫び声が聞こえてきた。視線を戻すと、じじぃが首を横に振る。

 

「ばかもの! 王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げしまうわ! その上・・・・・・、身にかかる火の粉を己で払えぬようで、何が貴族じゃ! 魔法学院の宝が盗まれた! これは魔法学院の問題じゃ! 当然我らで解決する!」

 

そして、年寄りとは思えない迫力で目をむき、怒鳴ったじじぃは咳払いをすると、有志を募った。

 

「では捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」

 

しかし、誰も杖を掲げず、顔を見合わせるだけだった。

 

「やれやれ・・・・・・」

 

俺はそう呟きながら苦笑した。

本当に自分の身が可愛いと見える。

 

ただまぁ、気持ちは分からんでもない。

 

トリステイン中の貴族に恐れられている大怪盗のフーケの捜索だ。

命がいくつあっても足りないと思っても仕方がない。

しかし、『貴族だ!』とか『メイジだ!』とかいつも威張っているのだから、もう少し骨のあるところを見せてほしいものだ。

 

「おらんのか? おや? どうした! フーケを捕まえて、名をあげようと思う貴族はおらんのか!」

 

じじぃの煽るような呼びかけも空しく、誰一人として教師たちは手をあげない。

すると俯いていたルイズが、すっと杖を顔の前に掲げた。

 

「ミス・ヴァリエール!」

 

それを見たミセス・シュヴルーズが、驚いた声をあげた。

 

「何をしているのです! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて・・・・・・」

「誰も掲げないじゃないですか」

 

ルイズはミセス・シュヴルーズにそう言い放った。

その横顔は凛々しく、美しいと言える。

ふと下を見ると才人がぽかんと開けてルイズを見つめていた。

 

これは惚れた、いや、惚れ直したか・・・・・・?

 

「ツェルプストー! 君も生徒じゃないか!」

 

コルさんの声で視線を戻すと、ルイズの隣にいたキュルケも杖を掲げていた。

 

「ふん。ヴァリエールには負けられませんわ」

 

キュルケはつまらなさそうにそう言った。

そしてルイズ、キュルケと続いてタバサも杖を掲げた。

 

「タバサ。あなたはいいのよ。関係ないんだから」

 

キュルケがそう言うと、タバサは短く答えた。

 

「心配」

 

キュルケは感動した面持ちでタバサを見つめて、ルイズも唇を噛みしめ、お礼を言った。

 

「ありがとう・・・・・・。タバサ・・・・・・」

 

そんな三人の様子を見ているモンモンの横顔を窺った。

 

「さて、モンモンは・・・・・・、主はどうするのかねぇ・・・・・・」

 

俺がそう呟いた時、モンモンは意を決したように杖を掲げる。

ルイズとキュルケは驚いた表情をし、モンモンを見つめた。

 

「モンモランシー?」

「あなたはもっと関係ないでしょ? どうしたのよ一体?」

「い、いいじゃない! わ、わわ私だって当事者よ! 皆が行くって言ってるのに自分だけいかないんなんてありえないでしょ!」

 

モンモンは顔を赤くしながら、そう答えるとじじぃを見つめた。

 

≪くくっ。はっ、ぅははははははは≫

 

その様子を見て、俺は思わず皆に聞こえる言語で笑ってしまっていた。

別に可笑しかったワケではない。

大人の教師たちが躊躇した捜索を少女たちが自ら進んでやるというのが、微笑ましかったからだ。

 

「誰だ! 笑っておるのは!」

 

当然、教師の一人が怒鳴ってきた。

 

・・・・・・これは姿を現さないとマズいな。 

 

そう思った俺は穴から一旦外に出ると、身体をシルフィードぐらいの大きさにする。

そして、“レオムル”の呪文を解除して、その穴から中を覗き込んだ。

俺を見たモンモンとギトーが、ほぼ同時に叫ぶ。

 

「シェン!」

「き、貴様はミス・モンモランシの使い魔!」

「ほぅ。お主がミス・モンモランシが召喚した竜殿か。・・・・・・して、何か用かね?」

 

俺を見て他の教師が怯える中、コルさんは会釈を返して、じじぃは俺を興味深そうに見ながら訊ねてきた。

俺はモンモンに視線を向けながら答えた。

 

≪用があったワケではない。主が心配だったため様子を見守っていたのだ。するとどうだろう。人間の大人が躊躇している捜索を、主を含めた子ども達がやるという。しかも自ら志願してだ。その勇ましい姿に思わず笑ってしまったのだ。邪魔するつもりはない。話を続けてもらってもかまわないぞ≫

「ふむふむ。そうであったか」

 

じじぃは笑顔になって頷くと、ルイズ達にこう告げた。

 

「それでは四人に頼むとしようか」

「な!? わ、わたしは反対ですオールド・オスマン! 生徒たちをそんな危険にさらすワケには!」

「では、君が行くかね? ミセス・シュヴルーズ」

「い、いえ・・・・・・。私は体調がすぐれませんので・・・・・・」

 

ミセス・シュヴルーズはそう言うと、顔を俯かせて引き下がった。

それからじじぃは教師たちに説明しだした。

 

「彼女たちは、敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号をもつ騎士だと聞いているが?」

「本当なの? タバサ」

 

“シュヴァリエ”。

この称号が、どんなモノなのか分からない。

というか忘れたが、貴族たちが驚くのを見ると、タバサが持っていること自体が凄いというのは分かる。

で、その中心のタバサはというと、周りが騒いでるのは我関せずといった感じにぼけっと突っ立っているだけだった。

それからじじぃは、未だ宝物庫内がざわめく中、今度はキュルケを見つめた。

 

「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」

 

キュルケは得意げに髪をかきあげた。

俺は一昨日の夜のことを思い出す。

あの男子生徒を窓ごと吹っ飛ばした炎は相当強力だった。

だから、キュルケが誇る気持ちはよく分かる。

 

「ミス・モンモランシは・・・・・・、<今は違うが>何代にわたり水の精霊との盟約の交渉役を務めてきた家系の出で、彼女自身も水系統の魔法を得意とすると聞いているが? なおかつ、使い魔の竜殿は1000年以上生き、他の竜よりも総てが上回っておるという」

 

モンモンは誇らしげに胸を張った。

 

というか、じじぃ。今、小声で『今は違う』って言わなかったか?

今は違うということは自慢することではないぞ?

いや、何代に渡って交渉役を務めてきているのだから、自慢できるか・・・・・・?

ま、本人が気にしてないんだからどちらでもいっか。

どうでもいいことを考えながら見ていると、じじぃはルイズを見ながらこほんと咳払いをした。

まさかとは思うが、褒めるところが見つからないというオチとかじゃないだろうな・・・・・・?

 

「その・・・・・・、ミス・ヴァリエールは、数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女で、その、うむ、なんだ、将来有望なメイジと聞いているが? しかもその使い魔は!」

 

じじぃは歯切れ悪くしながら言うと、才人に顔を向けた。

 

「平民ながら、あのグラモン元帥の息子であるギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったという噂だが」

「そうですぞ! なにせ、彼はガンダール、むぐ! はぁ! いえ、何でもありません! はい!」

 

コルさんは辛抱堪らずに、“ガンダールヴ”について言おうとしたが、じじぃに口を押さえられたため慌てて訂正した。

コルさんから離れたじじぃは、教師たちに告げる。

 

「この四人に勝てるという者がいるのなら、前に一歩出たまえ」

 

教師たちはすっかり黙ってしまった。

 

まぁ、じじぃの威厳ある声や態度の前では、否定などできるワケないな、うん。

 

「魔法学院は諸君らの努力と貴族の義務に期待する」

 

じじぃは五人に向き直って、そう告げる。

ルイズとタバサとキュルケとモンモンは真顔になって直立すると、『杖にかけて!』と同時に唱和した。

それからスカートの裾をつまみ恭しく礼をする。

才人も慌てて真似をした。

 

って、才人それは違う。

 

「では馬車を用意しよう。それで向かうのじゃ。魔法は目的地につくまで温存したまえ。ミス・ロングビル!」

「はい。オールド・オスマン」

「彼女たちを手伝ってやってくれ」

「もとよりそのつもりですわ」

 

ロングビルは頭を下げると、五人とともに宝物庫を出ていった。

俺も宝物庫を後にし、学院の入り口に向かった。

 

*****

 

学院を出発してから三,四時間、馬車は深い森に入っていった。

俺はシルフィとともにその様子を見守りながら会話していた。

ちなみに人間の目では視認することができないほどの高さにいるから、フーケに見つかる心配はない。

 

「シェンさん。フーケって何者なのね?」

「主の話では、“土くれ”のフーケといって、土系統の魔法を得意とするメイジの盗賊らしい。この国の貴族たちが恐怖するほどの使い手とも言っていたぞ」

「お姉さまも強いのね! フーケっていう人間もかなわないのね」

「はいはい。だが、油断は禁物だぞ」

「分かってるのね」

 

森は鬱蒼として、ここからではモンモン達の姿は少ししか分からないが、何事もなく進んでいっている様子だ。

俺は、目をこらし注意深く五人を見つめながら、フーケの正体を思い出そう試みてみる。

しかし、全く思い出せないため、心の中で舌打ちをした。

 

「シェンさん、あそこ」

「ん?」

 

視線を向けると、森が開けた場所が見えた。

 

森の中の空き地といったところか・・・・・・。

 

「・・・・・・真ん中あたりに小屋があるな」

「フーケがそこにいるのね?」

「さぁな。どちらにしても様子を見た方がいいだろう。主たちも森の茂みに身を隠しているからな」

「分かったのね」

 

それからシルフィとともに様子を見守ること数分。

森の茂みの中から才人が跳びだして、小屋のそばまで近づいていった。

 

これは・・・・・・、一番素早いから、偵察に向かわされたな。

まぁ、囮の役目もありそうだが・・・・・・。

 

そう思いながら才人を見つめていると、才人は窓に近づいて恐る恐る中を覗く。

そしてしばらく中を見ていた才人は頭の上で、腕を交差させた。

すると隠れていた全員が、恐る恐る近寄っていく。

 

「どうしたのね?」

「おそらく中にフーケがいなかったんだろう」

「じゃ、逃げられたのね?」

「いや、それは分からん。だが、小屋には誰もいないのは確かの様だ」

 

シルフィの質問に答えながら、才人とキュルケとタバサがドアを開け中に入っていくのを見つめる。

モンモンとルイズは中に入らないとこを見ると、外で見張りをするつもりらしい。

またロングビルは辺りを偵察に向かうのか、二人に何事か告げてから森の中へ入っていった。

 

「シェンさん、この後どうするのね?」

「中に“破壊の杖”があったら儲けものだが」

『『きゃぁああああっ!?』』

 

返事するため視線をシルフィにむけた時、ルイズとモンモンの悲鳴が聞こえてきた。

視線を戻すと、巨大なゴーレムがばこぉーんと小屋の屋根を吹っ飛ばしていた。

辺りをくまなく見回してみるが、鬱蒼として薄暗い森の中にいるのか、フーケの姿は確認できなかった。

 

『ゴーレム!』

 

キュルケの叫び声が聞こえて、その直後にタバサの巨大な竜巻が舞い上がりゴレームにぶつかったが、ゴーレムはびくともしない。

更にキュルケの炎が伸びて、ゴーレムを火炎に包んだ。

しかし、ゴーレムはまったく意に介さない。

 

「あのゴーレムを倒すのは、相当な力がいるみたいだな」

「どうするのね? シェンさん」

「考えるのは後にしよう。主たちを助けるのが先決だ」

「分かったのね!」

 

俺とシルフィは地上に降りて、逃げてきた三人を乗せ再び浮上する。

ルイズと才人の方を見ると、二人は言い争っていた。

ゴーレムはそんな二人、特にルイズを先に叩きのめすことに決めたらしい。

ゴーレムの巨大な足が持ち上がって、ルイズを踏み潰そうとした。

 

マズい・・・・・・!

 

≪主、シルフィの背に飛び乗りなさい!≫

「え? あ、はい・・・・・・!!」

 

俺はモンモンがシルフィに飛び乗った瞬間、身体を三段階まで大きくした。

そして、ルイズを踏み潰そうとしているゴーレムに尾を巻き付かせ締め付けた。

すると烈風のごとく走り込んだ才人がルイズの身体を抱きかかえて、地面に転がっていった。

 

「シェ、シェン、大丈夫?」

≪ああ、問題ない≫

 

モンモンに返事をしながら、振りほどこうと暴れるゴーレムを更に締め付け動けないようにする。

その状態で、二人の方を見るとルイズが顔をぐしゃぐしゃに歪めて泣いていた。

 

って、早くそこから逃げろよな・・・・・・。

 

≪さっさと逃げんか馬鹿者ども!≫

「は、はいぃいいいいいっ!!」

 

弾かれるように才人はルイズを抱き上げた。

それと同時にシルフィが才人たちの目の前に着陸する。

 

『乗って!』

 

シルフィに跨がったタバサが叫んだ。

才人はルイズをシルフィの上に押し上げて、キュルケの手を取って跳び乗る。

 

流石に五人はきついか・・・・・・?

 

「シルフィード、大丈夫か?」

「これくらい大丈夫なのね!」

 

心配する俺に対してシルフィはそう言うと、力強く飛び上がった。

 

ふっ、頼もしい。

 

俺は笑みを浮かべると、ゴーレムを締め付けながら持ち上げる。

そして、勢いをつけて地面に叩き付けた。

ドーン!という音ともに地面に叩きつけられて、バラバラに砕けるゴーレム。

しかし、すぐに再構築して復活してしまった。

俺は心の中で舌打ちすると、ゴーレムを睨みつける。

 

「サイト!」

 

ルイズの怒鳴り声で視線を向けると、才人がシルフィから飛び降り剣を振り下ろしていた。

それに呼応するかのように、ゴーレムの拳が鋼鉄の塊に変わって、うなりを上げ才人に迫った。

そして拳と剣がぶつかり合った瞬間、ガキーンと鈍い音がして、剣が根元から折れてしまった。

 

「なによ。ゲルマニアの錬金術師シュペー卿が鍛えし業物じゃなかったの?」

 

剣が折れるのを見たキュルケがそう呟く。

俺は『やれやれ・・・・・・』と呟いて、ゴーレムの拳から辛うじて避けた才人を素早く背中に乗せる。

そしてゴーレムの攻撃を尾で捌きながら、才人に告げた。

 

≪無茶をする((小童|こわっぱ))だ≫

「だってよ。あのバカ、悔しいからって泣くんだよ。なんとかしてやりたくなるじゃないか」

 

才人はそう返答して、シルフィに乗っているルイズを見つめた。

俺は才人の様子に苦笑しながら、再び巻き付いて、動きを止めようとする。

しかし、ゴーレムは拳でそれを阻む。

 

「ち・・・・・・っ」

 

俺は舌打ちをすると、巻き付きは不可能と判断し、身体を三段階縮小した。

そして、才人が振り落とされないように注意して、ゴーレムの攻撃を避けながらこれからどうするか考えていく。

 

“破壊の杖”は取り返したみたいだし逃げるか・・・・・・?

いや、それは難しいだろう。やはりゴーレムを倒すしかない。

だとしてもどうする・・・・・・?

操作するフーケならともかく、ゴーレムにメラ系、ギラ系、火の息系は効かないだろう。

デイン系、イオ系、バキ系もダメだ。破壊してもまた再構築されてしまう。

同じ意味で凍てつく波動もダメだな。

・・・・・・となると、ヒャド系か氷の息系で動きを止めるしかないか・・・・・・。

 

「ルイズ!」

 

そう結論付けた時、背中にいる才人が怒鳴った。

見ると、シルフィの背中からルイズが身を躍らせていた。

その手には“破壊の杖”を持って・・・・・・。

 

≪小童! 我がゴーレムの動きを止める! お前は小娘の所へ行け!≫

「わ、分かった!」

 

俺は才人にそう怒鳴った。

才人は俺の尾をつたって地面に降りると、“破壊の杖”を振っているルイズ目掛けて駆けだす。

それと同時に、俺はシルフィをゴーレムから離れさせて、全身を震わせると“冷たく輝く息”を吐いた。

急を要し、手加減する余裕はなかったため、最大威力の冷気が才人を踏みつぶそうとしていたゴーレムを襲った。

すると、ゴーレムは動きを止めてピキピキと音を立てて氷づけになっていく。

その隙に駆け寄った才人は、使い方が分からずにもたもたとしていたルイズの手から“破壊の杖”を奪い取った。

 

「使い方が、分かんない!」

「これはな・・・・・・、こう使うんだ」

 

才人は“破壊の杖”を掴むと、安全ピンを引き抜いた。

そして“破壊の杖”を肩にかけると、氷づけになったゴーレムに照準を合わせる。

 

「後ろに立つな。噴射ガスがいく」

 

才人がそう怒鳴ると、ルイズは慌てて身体を逸らせた。

それと同時に、才人はトリガーを押す。

しゅっぽっと栓抜きのような音がして、白煙を引きながら羽を付けたロケット状のものがゴーレムに吸い込まれて、狙い違わずゴーレムに命中して爆発した。

耳をつんざくような爆音が響いて、ゴーレムの上半身がばらばらに飛び散る。

そして氷と土の塊が雹のように辺りに降り注いだ。

白い煙の中、ゴーレムの下半身だけが立っていたが、“輝く息”の効果が消えると同時に、滝のように腰の部分から崩れ落ちて、ただの土の塊へと還っていく。

また再構築するかと思われたが、そんなことにはならなかった。

昨晩と同じように、後には土の小山が残されただけだった。

その様子を呆然として見つめていたルイズは、腰が抜けたかのようにへなへなと地面に崩れ落ちた。

そして俺がシルフィードとともに才人とルイズの方へと降り立つ中、才人はため息をついて立ち尽くしていたのだった。

 

*****

 

「サイト! 凄いわ! やっぱりダーリンね!」

「何言ってんのよ。シェンの方が凄いわよ!」

「あら。竜種なんだから当たり前じゃないの。才人は人間で、しかもメイジじゃないんだから」

「で、でも見たことも聞いたこともない攻撃だったじゃないの!!」

 

モンモンとキュルケが、シルフィから飛び降りながら言い争いをしていた。

 

まぁ、どうでもいい話だし無視しておこう。

 

「フーケはどこ?」

 

最後に飛び降りたタバサが崩れ落ちたフーケのゴーレムを見つめながら呟いた。

その言葉に俺を含めた全員が一斉にハッとする。

 

そういえば、フーケの正体ってまだ思い出せてなかったわ。

 

その時、辺りを偵察に行っていたロングビルが茂みの中から現れた。

 

「ミス・ロングビル! フーケはどこからあのゴーレムを操っていたのかしら」

 

キュルケがそう尋ねると、ロングビルは分からないというように首を振った。

 

森にはいなかったということなのか?

いや、それはおかしい。

あのゴーレムを操るためには少なくとも俺たちが見えるところに隠れていないとダメなはずだ。

ということはフーケはロングビルに見つからない様にしていたということか・・・・・・?

 

「ロングビルさん・・・・・・?」

 

才人の怪訝そうな声色で視線を向けると、ロングビルが“破壊の杖”を取り上げていた。

そしてロングビルはすっと遠退くと、俺たちに“破壊の杖”を突きつけた。

 

ま、まさか・・・・・・。

 

俺は唖然としてロングビルを見つめた。

 

「ご苦労様」

「ミス・ロングビル!」

「どういうことですか?」

「さっきのゴーレムを操っていたのは、わたし」

「え、じゃあ・・・・・・、あなたが・・・・・・」

 

ロングビルはメガネを外して、表情を豹変させた。

俺は我に返ると、身体を起こす。

 

「そう。“土くれ”のフーケ。さすがは“破壊の杖”ね。私のゴーレムが粉々じゃないの!」

 

ロングビル、いや、フーケはさっきの才人がしたように“破壊の杖”を肩にかけて、俺たちに狙いをつけた。

俺は五人を守るように動くと、フーケを睨みつける。

 

「あら? “破壊の杖”の威力を目の当たりにしたのに動じてないのかしら? あなたがどんなに強い竜だとしても、この“破壊の杖”には敵わないわよ? さぁ。全員、杖を遠くに投げなさい!」

 

四人は仕方なく、杖を放り投げた。

俺はその杖を全て咥えると、四人に返す。

 

「シェン!?」

≪主、大丈夫だ。我は神竜。小娘ごときにやられるタマではないわ≫

「・・・・・・い、言ってくれるわね。じゃ、試してみる? 使い方は、そこのすばしこい使い魔君が教えてくれたし、分かってるわよ?」

 

フーケは青筋を立てると、俺に狙いをつけて才人がしたように“破壊の杖”のスイッチを押した。

しかし、先程の様な弾が発射されることはなかった。

 

ふっ・・・・・・。やはり、これは単発式の武器だったな。

 

「な、どうして!?」

 

フーケはもう一度、スイッチを押す。

しかし、うんともすんとも言わなかった。

俺は微笑むと、素早く尾を動かし“破壊の杖”を叩き落とす。

慌てて杖を握ろうとしたフーケだったが、電光石火で駆け寄った才人により腹に剣の柄をめり込ませられて、バタッと崩れ落ちた。

 

「そいつはこっちの世界の魔法の杖なんかじゃない。俺たちの世界の武器だ。えっと確か“M72ロケットランチャー”とか言ったかな」

 

フーケが崩れ落ちるのを見ながら呟いた才人は“破壊の杖”を拾い上げた。

 

「サイト?」

 

四人は目を丸くして、才人を見つめていた。

俺は苦笑しながら身体を退かす。

 

「フーケを捕まえて、“破壊の杖”を取り戻したぜ」

 

才人のその言葉で四人は顔を見合わせると、才人に駆け寄って抱擁し合う。

俺はそれを見ながら傍らに近寄ってきたシルフィに告げた。

 

「シルフィード。よく頑張ったな」

「シェンさんも凄かったのね。やっぱり長老様が言っていた神さまなのね!!」

「いや、それは違うぞ」

「間違いないのね!!」

「やれやれ・・・・・・」

 

その後、俺とシルフィは五人と縄で縛ったフーケを乗せて、学院に戻ったのだった。

説明
死神のうっかりミスによって死亡した主人公。
その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。

第九話、始まります。
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ゼロの使い魔 ドラクエ 呪文・特技 しんりゅう(神竜) テリー 

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