インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#05 |
[side:一夏]
「それでは千凪さん、PICの説明をお願いします。テキストの右ページの上の方ですよ」
「はい。PIC…『パッシブ・イナーシャル・キャンセラー』は物体にかかる慣性をゼロにする現象を起こす装置でこれによりISは飛行、滞空、停止、姿勢制御などを行っています―――」
「はい、ありが―――」
「と、テキストにはありますけど、」
山田先生が先に進もうとしたところを空が遮った。
「え?」
当然ながら山田先生はぽかんとして妙な声をあげる。
「慣性をゼロにするだけでは浮上や滞空はおろか飛行もできません。少なくとも、重力と釣り合う程度には重力と真逆の方向への力が必要になります。そう言う意味ではスラスター噴射なしで滞空させる事ができるPICは『((Passive Inertia Controller|受動的慣性操作装置))』と言うべきモノであると言えます。」
「えっと…千凪さん?それって、どういうことなんですか?」
「言い方を変えれば、PICは飛び上がったISを落ちないように上に引っ張り上げ続ける装置ってところですか」
「ほぇー…なるほどー。勉強になります。それじゃあ次の項目の説明をお願いします」
「………あれ?」
…と、空が山田先生に代わってほとんど授業してる状態があったり、俺に専用機が用意されるとの通達があったり、箒が束さんの妹だって話が広まって大声をあげたりしつつ授業が終わって昼休みがやってくる。
セシリアとひと悶着のあと、俺は箒と空をさそって食堂に行く事にしたのだが、
「私は、いい。二人でいけばいいだろう。」
「まあ、そう言うなよ。ほら、立て立て。行くぞ」
「お、おい!私は行かないと――う、腕を組むな!」
昔っから、箒はたとえやりたいことでも誘われると拒否するヤツだったからな。
こうやって多少は強引に行けば―――
「なんだよ。歩きたくないのか?なんならおんぶしてやるぞ。」
「なっ……!?」
流石にこれならついてくるハズだ。
「は、放せッ!」
「学食についたらな。」
「い、今放せ!――ええいっ!」
箒の腕に絡ませていた腕が、肘を中心に曲げられ、一瞬だけ痛いと思ったら突然、腕に絡んでいた箒の腕がするりと抜けた。
「え?」
そして、何故か目の前に降って来る箒。
それを俺はなんとか受け止める。
幾ら鍛えていて、相手が軽いとはいえ、人ひとり分は結構堪える。
…まあ、そんなに大変じゃないが。
「さ、行くよ。」
何事も無かったかのように歩きだそうとする空。
俺も一瞬ポカーンとしてしまったが声を掛けられて我に帰る。
「お、おう!」
俺が教室を出た辺りで放心していた箒が我を取り戻し暴れ始めた。
「お、降ろせッ!」
「どっちにしろ暴れるな。落ちるぞ。」
流石に、高校生にもなってお姫様だっこは恥ずかしいらしい。
まあ、当然といえば当然か。ということで、箒が落ち着いて動きを止めたところで降ろす。
その時に物凄く残念そうな顔をされたけど、どうしてなんだ?
そんなこんなで学食についた処、既に空が三枚の食券を買っていた。
日替わり定食と生姜焼き定食と焼魚定食。
見事にバラバラにしてある。
「さて、二人は席の確保をお願いしようかな。それじゃ。」
と、調理場の方へと空は行ってしまう。
取り残された俺と箒は言われた通り、席を確保して待つ。
待ってる間、妙な沈黙が気まずくなった俺は口火を切る。
「お前、友達できなかったらどうするつもりなんだよ。高校生活、暗いとつまらないだろ。」
「私は………別に、頼んだ覚えはない!」
「俺も頼まれた覚えはねぇよ。けどな、幼馴染で同門なんだ。これくらいのおせっかいは焼かせろよ。」
むすっ、とした顔になる箒。
そのまま視線を天井に逃がす。
前からこうだ。
俺やアキ兄が見てないと、すぐに集団から浮くんだよな。
「そ、その……ありがとう………」
「別に、礼を言われる事をしたつもりじゃねえよ。」
お互いに言いたいことが終わって沈黙。
「はい、お待ち。」
けど今回は気まずくなる前に空が三人分の定食を大きなトレーにのせて持ってきてくれた。
「おお、うまそうだ。」
「さ、好きなのを取って。」
「あ、ああ…」
と返事をしつつ財布を取り出す箒。
けど、
「ほら、気にせず食べな。これくらい、年上の甲斐性だよ。」
頑として受け取る気ゼロな空。
確かに、言ってる事と雰囲気は年上っぽいけど、どうも見た目的な意味では年下っぽく見えてしまう。
「年上って…お前も同い年ではないのか?」
「ふっふっふ。少なくとも、二人よりは年上だよ。四月生まれだから。」
してやったり、という風な笑みを浮かべる空。
成る程。箒が七月で俺が九月だから、そう言う意味では一番の年上だな。
「ほら、冷めたらおばちゃんたちに失礼だ。」
そう言われて俺は生姜焼き定食を、箒は日替わり定食を受取る。
「そんじゃ、頂きます。」
食べ始めた処で、俺はとある『頼みごと』をする事にした。
「なあ、箒、空。俺にISの事教えてくれないか?正直言って今のままだと為すすべなく負けそうだ。」
昼飯に二人をさそった理由はコレだ。
二人とも、少なくとも俺よりはISに詳しい。
「うん?僕は構わないよ。箒は?」
「…私も、構わない。」
「助かる。」
よし、これで何とかなるか?
「それじゃあ、箒には一夏に剣の稽古をつけてもらえるかな。」
―――は?
「別に構わないが…どうして剣の稽古なのだ?」
俺の疑問をそのまま代弁してくれた箒。
俺も理由を知りたい。
「ISも肉体の延長だからさ。操縦者が剣術を使えれば、ISにもある程度フィードバックできる。――織斑先生のようにね。」
そう言われると、多少納得がいく。
千冬姉は生身でも十分強いよな。
「それに、銃について頭に詰め込むよりも、中学剣道の全国大会優勝者の実力を生かした方が遥かにに建設的だよ。」
「…中学剣道の、全国大会優勝者………?一夏が?」
「あ、ああ。」
実は、そうなのだ。
箒が優勝した全国大会、あの大会に俺も男子の部で出場し優勝してたりする。
本当はバイトするつもりだったんだけど、千冬姉に止められた。
『家の事は気にするな。アキト兄さんが言っていただろう。学生時代は好き勝手にやれ。支えるのが年上の仕事だと。』
って、言われて。
それだから中学の三年間もしっかりと剣道をやっていた。
「まあ、あの大会は男子と女子を別の日にやるから、用心深く新聞とかで確認しないと判らないか。」
「そ、そうだったのか………それにしても、よく知っていたな。」
「まあ、僕も昔は剣道をやってたからね。」
「昔、と言う事はもう辞めてしまったのか?」
「一時期、忙しくてね。」
むぅ、なんと勿体ない。
「とにかく、一夏に剣の稽古をつけてもらう理由は判ってもらえたかな。」
「ああ。だが、私でいいのか?」
「男子と女子の優勝者同士ならいい勝負になるだろうし、剣の間合いとかを確認する意味でも十分だよ。座学に関しては僕が教えるから心配しないでいい。場所は一夏の部屋でいいよね?」
「あ、ああ。」
「それじゃあ、決まりだ。―――ご馳走さま。さて、残りの時間で次の授業のダイジェストをやってあげよう。食べながらで良いから聞いていなよ。」
「…おう。」
食事時間中くらいは忘れたかったのだが、始まる講義。
よくもまあ、テキストとか無しで次の授業の内容が出てくるもんだな。
しかも、判りにくい専門用語とかはそのたびに解説してくれるからけっこう判り易い。
これならなんとかついていけそうだ。
そういえば、午前中の授業で何故か空が授業を進行してたりもしたよな。
と、気がついたら俺たちの廻りは人だかりが出来ていた。
『千凪先生のIS講座』…ってか?
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