インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#06
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[side:   ]

 

剣道場に、竹刀と竹刀がぶつかり合う音が響く。

 

 

剣道部の面々が感嘆の声を上げながら向ける視線の先では二人の一年生がハイレベルな戦いを繰り広げていた。

 

 

去年度の全国中学剣道大会女子の部の優勝者、篠ノ之箒。

同じく去年度の全国中学剣道大会男子の部優勝者、織斑一夏。

 

現在十五歳である少年少女たちの中で、剣道に於いては最強である二人の試合は高校生である剣道部の面々からしても得るものが多いものだ。

 

激しい打合いから鍔競りになり、双方の動きが止まったかのように変わる。

 

ただ、攻防が動的なものから静的な物に切り替わっただけで激しい攻防が繰り広げられる。

 

 

瞬間、一夏が動く。

 

箒の息継ぎの一瞬を狙って圧し込み、僅かながらできた隙に引き面を見舞う。

だが、その一瞬が狙われているなぞ、箒は百も承知だ。

 

故に、

 

パァン―――

 

二つの打突音が、同時に剣道場に響く。

 

 

一夏の竹刀が箒の面を、箒の竹刀が一夏の胴を捉えていた。

 

 

「相討ち、か…」

「ふん、全国優勝の男子というのはこの程度なのか?一夏。」

「冗談。」

 

 

防具に隠されて顔ははっきりとは見えないが、二人とも笑みを浮かべる。

 

「そろそろ本番と行こうか。」

 

「ああ。準備運動はここまでだ。」

 

物騒な笑みを浮かべて正眼に竹刀を構える二人。

 

「いざ、勝負!」

 

声が合い、再び二人は動き出す。

 

 

―――暦の日付はIS学園の入学式からまもなく一週間が経とうとしていた。

 

 

 * * *

[side:一夏]

 

放課後は箒と稽古をし、夕飯後に三時間ほど空に座学系を見てもらい、最後に小テストをやって満点取れなかったら翌日の稽古に掛り稽古追加という中々にハードな生活をすること六日。

 

遂に月曜日…対決の日を迎えた―――のだが…

 

「遅いな。」

 

「そうだな。」

 

俺に用意されたという専用機はごたついて到着していない。

 

そう、試合開始を目前にした今もまだ来ていないのだ。

 

「まあ、((第二世代型|くんれんき))でもやり様はあるけどね。用意できれば、だけど。」

 

そういや、空には専用機が用意されてないよな。

同じ『ISを操縦できる男』なのになんでだろ。

 

「織斑くん、織斑くん、織斑くん!」

 

第三アリーナのAピットで待ち惚けていた俺たちのところに山田先生が息を切らせて駆け込んできた。

 

「落ち着いてください、山田先生。」

 

空が山田先生の背中をさする。

 

「あ、ありがとうございます、千凪さん。」

 

 

そういえば、山田先生はなんで空の事をさん付けで呼ぶのだろうか。

 

「で、そんなに慌ててどうしたんですか?」

 

「届いたんです!織斑くんの専用IS!」

 

「織斑、時間が無い。すぐに準備しろ。アリーナを使用できる時間は限られているのだからな。」

 

「この程度の障害、男子たるもの軽く乗り越えて見せろ。一夏。」

 

「え?え?なん――」

 

「早く!」

 

千冬姉と山田先生と箒の声が重なる。

 

「織斑先生、ISの所まで行けなければ急ぎようがないですよ。」

 

空の至極まっとうなツッコミを受けて"ゴゴン…"と重々しい音を立ててピットの搬入口が開く。

 

その先には、『白』が居た。

 

「これがお前の専用機…《白式》だ。」

 

 

「これが………」

 

千冬姉に急かされるままに俺は白式に搭乗する。

 

まるで、こうなる事をずっと待っていたかのように見えた((《白式》|あいぼう))は俺に合わせて装甲を閉じる。

 

【関節部ロック解除】

【ハイパーセンサー正常稼働】

【ネットワーク構築】

 

様々な情報が投射ディスプレイに表示される。

 

その総てが『早く飛ばせろ』と言わんばかりに感じられる。

 

「問題はなさそうだな。一夏、気分はどうだ?」

ごく僅か、ハイパーセンサーあってこそ判別できる程度の声の震え。

…心配してくれてるんだな

 

「大丈夫だ、千冬姉。行ける。」

 

「そうか。」

 

 

「一夏、ちょっと時間貰うよ。」

 

そう空が言って何やら手持ちの端末からケーブルを刺す

 

【データリンク構築中………完了】

 

十秒も立たずにディスプレイは消え空はケーブルを外す。

 

「これでよし。」

 

「空、何をやったんだ?」

 

「ちょっとね。」

 

 

悪戯っぽく笑う空。

 

「い、一夏っ!」

 

追及しようとしたら今度は箒が声をかけてきた。

 

こっちも、なんだか普段と様子が違う。

 

「行け。………行って、勝って来い。」

 

決心したように言う箒。

 

「…ああ!」

 

PICを起動させ僅かに浮かび上がる。

 

そのままアリーナへと続くカタパルトに接続し勢いをつけて飛び出す。

 

 

 

カタパルトの先には、『蒼』が居た。

 * * *

[side:箒]

 

『あら、逃げずに来ましたのね。』

 

ピットのモニターで私たち…私と織斑先生、山田先生は試合の様子を見ていた。

 

唯一、空だけは空間投射ディスプレイに囲まれたままなにやら作業をしている為モニターに視線を向けていない。

 

『最後のチャンスをあげますわ。』

 

『チャンスって?』

 

『わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげない事も無くってよ。』

 

『寝言は寝て言えよ。大体、国の侮辱したのも決闘を言いだしたのもお前の方だろ。』

 

『そう、残念ですわ。それなら――』

 

オルコットのIS――空が言っていた名前だと《ブルー・ティアーズ》だったか?―がその手に持つ長大なライフルを一夏に向ける。

 

『お別れですわっ!』

 

閃光。

 

それを一夏は上昇することで回避する。

 

続けざまに放たれるレーザー。

 

それを一夏は避けることに専念して、なんとかかわし続ける。

 

『さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットと《ブルー・ティアーズ》の奏でる((円舞曲|ワルツ))で!』

 

その宣言と共にブルー・ティアーズの腰のフィンアーマーが四つ切り離され、自立飛行を始める。

 

五つに増えたレーザーの銃口を前に、一夏は懸命に飛びまわっていた。

 

「箒、ちょっといいかな?」

 

「なんだ?」

不意に、空に呼ばれて私が振り返ると空が片手で何かを投げてきた。

 

これは…インカム?

 

「それで一夏と通信できるから、『焦るな』って言ってやってくれないかな。『チャンスは、絶対に届けてみせる』って、伝言を頼みたいんだ。」

 

すぐに両手を作業に戻した空。

視線すらこちらに向けられていないが、それは目の前に集中をしているからだ。

 

「わかった。任せてくれ。―――一夏、聞こえるか?」

 

『ほ、箒?』

 

「空からの伝言だ。『焦るな、チャンスは必ず届けてみせる』だ。」

 

『…ありがとな、箒。』

 

「そんな事より周りを見ろ。」

 

『おおっと!』

 

モニター上の一夏が慌てて身をひねるとそれまで一夏の上半身があった場所を数本のレーザーが通過する。

 

「通信、切るぞ。」

 

『ああ、箒の声、聞けて良かった。』

 

「なっ!?」

 

『おかげで、色々思いついた。』

 

モニター上の一夏がそれまで何も武装させていなかった白式に近接ブレードを呼びだして装備させる。

 

どうやら白式の唯一の武装があれらしい。

 

まさか空はこれを見越して私に剣の稽古をつけさせたのか?

 

『中距離射撃型のわたくしに、近距離格闘装備で挑もうだなんて、笑止ですわ!』

 

『笑いたきゃ笑ってろ。』

 

言いながら、一夏は白式をアリーナに接地させた。

 

右足を半歩前に出す、正眼の構え。

 

剣道における基本中の基本。

体に染みついたそれは、一夏を白式という鎧をまとった((武士|もののふ))に昇華させる。

 

『さあ、来い!』

 

宣言する一夏はなんというか…物凄く、格好良かった。

 

 * * *

 

『二十五分…まあ、よく持った方ですわね。褒めて差し上げますわ。』

 

『そらどーも。』

 

試合開始から二十五分。

 

宙を舞うブルー・ティアーズと地面にどっしりと構える白式の闘いは、ある種対照的だった。

 

空がモニタリングしているらしい白式のデータを見る限りでは、シールドエネルギーの残量は二〇〇ほど。

三分の二は削られてはいるが直撃はかなり少ない。

 

それは、一夏が回避と攻撃パターンを読む事に専念していたからだろう。

地面に着いた事で足元という死角をなくしたのもその為だったのだろう。

 

"剣の道は見の道である。"

相手を動きを見て、学んで、自分の動きにフィードバックさせていたのだ。

 

『このブルー・ティアーズを前にして、初見でこうまで耐えたのはあなたが初めてですわね。』

 

言いながら、オルコットは自分の周囲に従わせている((自立機動攻撃端末|ビット))を撫でる。

 

一夏がオルコットに対して一度も攻撃をしていない故に、その姿は二十五分前となんら変わりはない。

 

対して一夏は地面を駆け回り、転がりを繰り返した為か白式の純白だった装甲は土埃とかすったレーザーによる破損で大分姿が変わっていた。

 

『ですが、そろそろ((終幕|フィナーレ))にさせていただきますわ。』

 

オルコットが左手を振り、ビットが猟犬の如く一夏に向かってゆく。

 

『ソイツを待ってた!』

 

『えっ!?』

 

ちょうど、一夏の背後に廻ったビットがレーザーを放つと同時、一夏は全身を回転させてかわし、一足でビットとの距離を詰めて斬り伏せた。

 

『一つ!』

『なっ!?』

 

着地し、再び地面を蹴りオルコットが驚いている為に操作がおろそかになっているビットを斬る。

 

『二つ!』

『なんですって!?』

 

二つの爆発を背に、上段刺突の構えでオルコットに向かって地面を蹴り、飛びあがる一夏。

 

『くっ…!』

 

オルコットは下がりながらビットを向かわせる

 

『ビットばっかり気にしてたら、本体がおろそかになっちまうぞ!』

 

『くぅっ!』

 

ここにきて、一夏の逆襲が始まった。

 

説明
#06:クラス代表決定戦(前編)
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