第1話 運命って時に非常な選択を強いることがある |
「はぁ〜……」
一人の青年がベンチに座りながらため息を吐いていた。その息は白くなった後一瞬にして消えた。
「どうしてこんなことに……」
そう言って青年は手元にある一円玉六枚を見つめる。そしてまたため息。
「今年がまだ始まったばかりなのに、どうやってこれで乗り越えるんだろうか?」
そう、今の時期は年を越して、一月上旬。まだTVではいろんな正月番組がやっているだろう。
この時期はこたつにもぐるのがベストだな。
「いや、それただのぐうたら野郎ですから……」
はりのないツッコミを披露する主人公。
「はりがないとか言わないでくださいよ。ツッコミは得意じゃないんです」
それは言ってはいいのか?と思ったがあえて無視した。
「無視するな!!」
そう、さっきからこうしてため息ばかりでベンチに座りながら落ち込んでいる、この青年こそ、今回の小説の主人公、((御剣 桂馬|みつるぎけいま))である。彼が何故こんなに落ち込んでいるのか。、何故、手元にあるお金が原作の主人公よりも六円安いのか。それは今日の朝からさかのぼることにしよう。
―――1月5日―――
「……これでよしっと」
おんぼろアパートのとある一室。ひびが割れてる鏡をみながら満足げな顔をしている青年、桂馬の姿がそこにはあった。
「ふう〜、朝食も食べたし、お金も持ったし……これなら今日こそは受かりそうだ……」
一息おいてからまた呟く。
「会社の面接に」
そう彼は18歳。普通なら社会人か、大学生としての道を歩んでいる頃だろう。
しかし、彼は違った。
「まったく、なんで神様は僕を受からせてくれないんだろうか」
そう、桂馬はまったくといっていいほど、会社に受かったことがない。まるで何かに呪われているように……。
「しかし、今日もそれで終わりだ。今日こそは受かる、そんな気がする……」
しかし油断は禁物だ、と桂馬は心の中で自分に呟く。
玄関にある今日だけに用意した革靴を履き、扉を開ける。
「さて、行くとしますかな」
少し不安がまじっていたが、桂馬はそう呟いた。
―――練馬区、快劇会社の一室―――
「……よし、今月の分はこれで終わりね」
「今日もありがとうございます、吉村さん」
「ありがとうなんて言う必要はないわよ」
少し微笑みながら桂馬の前にいる女性は言葉を返した。
彼女の名は((川島 藍理|かわしまあいり))。ここ、小説を生み出す会社、小説会社で仕事をしている人である。主な仕事は小説家をサポートするマネージャー。
「しかし、ついにここまできたわね。とりあえず先に言っておくわ。十巻目達成おめでとう」
「いえ、ここまでこれたのはさんのサポートがあってこそです。こちらこそ、ありがとうございました」
そう、桂馬はこの会社、快劇会社の専属小説家である。今はイチハラカズトとして、小説を出している。ちなみにジャンルはライトノベルである。
「それにしてもあなた、その黒スーツ姿、もしかしてまた面接?」
「はい」
「もうやめたほうがいいわよ。どうせ受からないんだし」
「今日は気分がいいから大丈夫です。それに不安を煽るようなこと、言わないでくださいよ」
「だって今までだってそうだったんだから、事実でしょ?」
「それはまあ、そうですけど……」
事実が事実なため反論することができない桂馬。
「しかもあなたにはもう小説家という立派な職業があるじゃない」
「いや、これは所詮副業なんです。今どきの小説家は小説家を副業にして、本業は大企業で働いていたり、専門家だったりするんです」
「まあ、確かに今の時代多いけどね」
「そう、それができて僕は多分、初めて本当の社会人になれると思うんです!!」
「そう、なら頑張ってね」
「はい!!もう頑張りまくりますよ!!」
やる気を出した桂馬に心配の眼差しを送る藍理であった。
「……なるほど。それが我が社に入ろうと思った、あなたの意見ですか」
「はい。そうです」
あれからしばらくたち、面接が始まった。落とされているといっても、何回も面接の空気も味わっているため、緊張もしなかった。しかし、今日は朝から何かが違う、と思っているのでかなり胸がドキドキしているようだ。
「よくわかりました。もう下がっていいですよ」
「はい、ありがとうございます」
そう言って、部屋を出る桂馬。
「きたぞ。今までのなかで一番の出来だった……あとは結果を待つだけ」
早く出ないかな、と思う桂馬。その顔はすがすがしかった。
「……まさか受かってるだなんて」
あれからしばらくして今は昼の1時18分。桂馬は面接に受かった。
最初は信じられなかったが、後々になって受かった実感がわいてきた。
(久しぶりに仕事ができる。そうえば、ちゃんとした仕事ができるのはバイト以来だな〜)
よほど嬉しかったのか、物思いにふけり始める桂馬。
「さてと早速向かうとしますか……」
嬉しい感情を表に出さないように抑えながら他の受かった人と一緒に会社の中に入ろうとした瞬間、
「お願いです、私を受からせてください!」
「はなせ!なんなんだ!」
「ん?なんだろう?」
会社の玄関の前で声が聞こえた。覗いてみるとそこにはスーツ姿の男の人が二人、何かで言い争っていた。とりあえず周り人たちに事情を聞くことに。
「あの、どうしたんですか?」
「ああ、なんでもあいつ落ちた奴らしいんだけどさ。ここの社長にお願いしてどうしても入れてもらいたいんだと。まったく往生際がわるいぜ」
「そうですか……」
気持ちはわからなくもないけど、と桂馬は呟く。今までだって自分がそうだったから。しかし今、こうしてみてみるとなんだか悲しくなってきた。しかし結果は結果なのである。そこはきちんとけじめをつけなきゃいけないだろう。
(仕方ない、僕が行って来るか……)
誰も止める気配がないので、桂馬が止めようとしたそのとき、
「いい加減にしろ!!」
「ぐはっ!」
「!?」
その社長は、さっきから迫っていた男を押して、そこに蹴りを入れたのである。
「……ぅぁ……」
どうやらそうとう入ったらしく、蹲っている男。
「大体、まずは頼み方というものがあるだろうが!!貴様はこの社長に向かって何様のつもりなんだ,
えぇ!!」
そしてまだ社長はその男を蹴り続ける。
「謝れ!!まず私にあやまれ。土下座でな」
「!?」
「嫌なのか?嫌ならしょうがないな……。せっかく考えていたのに」
「くっ!!……申し訳ございませんでした」
「よくできたな、ほれ、ご褒美だっ!!」
「ぶはっ。い、痛い……」
「まったく犬の分際でこの私に触れおって……。バイ菌がついたわ。返ったら消毒しとかなきゃいけないな、これは」
「しゃ、社長、いくらなんでもやりすぎなのでは……」
さすがに見かねたのかその社長の部下の一人である男が言った。
「貴様、こいつを庇う気なのか?ただの部下のくせに」
「い、いえ。別にそういうわけじゃ」
「そうえば貴様、つい最近はいったようだな。よし、わかった。お前はクビだ」
「え?」
「えっ、じゃない。言った意味がわからなかったのか?貴様はクビと言ったんだ。明日から来なくてもいいぞ」
「そ、そんな!!」
男は抗議するが社長はまるで聞いていないかのようにその男の目の前を通り過ぎて行った。
「まったく、近頃の若い奴らときたら……。それにしてもこんなによごれてしまった。今日は早く帰ってクリーニング屋にでも出さなければっぶは!!」
「………………」
今日の予定の変更を独り言で呟いていた社長を殴ったのは桂馬だった。
「えっ?な、何が起きたのだ?」
今の状況を社長は理解することができなかった。なぜなら自分の顔が地面についていたからだ。
しかし、しばらくすると先程の状況を思い出したのか、その社長は桂馬に向かってしゃべりだした。
「おい、貴様!!どういうつもりだ!」
「……」
「私はこの会社の社長だぞ!!その社長に向かって殴るとはどういう了見だ!!
というか、貴様先程面接に来た奴だな」
「……だからなんですか?」
「なんですか、か。随分と威勢がいいな小僧」
「僕、もう青年なんで、せめて若造と呼んでください」
「どっちでもいいだろ!!」
「まあ、よしとしましょう」
「何故貴様が決めるんだ……ってとにかく貴様は即刻クビだ!私の顔を殴った罰だ。クビだけですんだことにありがたいと思え!というわけで、謝ってもらうぞ」
「……」
「さあ、先ほどのあの男のように謝れ。謝らなければお前の」
「……確かに、あの人はけじめをつけなかった」
社長の言葉をさえぎるかのように桂馬がしゃべった。
「は?貴様、なにいきなりしゃべって」
「先程の男性の方は落ちたという自分の現実を受け入れなかった。例えどんな理由があろうとしても……。だってそれは皆平等だから」
「ふん、貴様。わかっているではないか。ならば」
「だけど、あなたはやりすぎた……」
「なに?」
「謝る必要はあったのかもしれないけど、なにも土下座させる必要もないし、それに蹴る必要もないじゃないですか。それに関係のない人をいきなりクビにしたり……」
「ふん、私に逆らったんだ。何が悪いというのかね?」
「……じゃあ、聞きますけどあなたは先程の人の人生とか考えたことはあるんですか?」
「そんなこと知ったことか。私がそれを気にする必要もない……」
「そうですか……。それがあなたの答えなんですね?」
「だったらどうし」
「残念ならば、不合格です。もう一度人生をやり直してきてください!!」
「ぶはっ!!」
質問を終えるなり桂馬はそう呟き、その社長の顔を力いっぱい殴りつけた。あまりにも殴った衝撃が強かったのか、社長は気絶してしまった。
「……」
「あ、あの……」
「……なんですか?」
「ありがとうございます」
礼を言ってきたのは、さっきまで土下座してた男性。
「別に僕は当たり前のことしただけです。礼を言われるほどでもありません」
「しかし……」
「それに、あなたにも非はあるんですよ?」
「そ、そうですね、これからは気をつけます……しかし今月はどうしてもお金が必要で……」
「なにか理由が?」
「実は……」
桂馬はその人から事情を聞いた。どうやら今まで入っていた会社が倒産してしまい、自分も何故か借金を稼ぐことになってしまった。今までお金を貯めていたおかげでほとんど払い終わったのだが、どうやらあと5万5230円必要らしい。しかしちょうど資金もつきかけていた。そんなときこの会社のことを知ったようで、今に至る。ちなみに何故そんなに中途半端な鐘になったかは聞かないことだ。
「なるほど……ご家族は?」
「とりあえず実家に……。でもやっぱり心配してきてるみたいですね。ははは、情けないですよ」
「親戚から借りるとかはできなかったのですか?」
「私、どうやら親戚から嫌われていまして……」
どうしてかはわかりませんけど、と男性は苦笑いをしながら答える。
「……あなたの奥さんや息子たちには何もいってないんですか?」
「えぇ。これは巻き込まれたとはいえ私個人の問題なんです。そこに何の関係もない家族を巻き込むわけには行かないんです」
「……しっかりしてますね」
「そうですか?」
「だからって、先程のは駄目だと思いますがね」
「うぅ……。そのことは忘れていただけたら」
「冗談です。もう言いませんから落ち込まないでください」
「しかし困ったな……あともう少しで借金取りが来る時間だ……早く家に帰らないとな」
「……でもどうするんですか?」
「言い訳するしかないでしょうね。でももう何回も言い逃れてるから今度こそは無理かもですね……」
そう悲観的に男性は答えた。目には少し涙がたまっていた。よほど悲しいのだろう。
「……とにかく私は最後に君にあえてよかったかもしれない。もし君に出会えなければ僕は人間として駄目になったいたかもしれない……本当にありがとう」
男性は深々と頭を下げた。
「……ではこれで」
「あの、勝手に終わらせないでくれますか?」
去ろうとした瞬間桂馬が男性に向かって納得できない顔をしながら声をかけた。
「私になにかまだ?」
「これを」
そう言って桂馬は自分の財布を出して中から5万5230円を出した。
「このお金って……」
「使ってください。僕には使いようがないので……」
「そんな!だめですよ……」
「いいんです。とにかく受け取ってください」
無理矢理お金を渡す桂馬。男性はわからなかった。なんでこんなにもしてくれるのか、と。
「何故、ここまでしてくれるのですか?」
桂馬はしばらく黙っていたが、後ろに振り替えながらしゃべりだした。
「……嫌いなんですよ、理不尽な不幸って。まあ、自分のことはいいんですが他の人を見てるとなんだか理不尽なことが多くて……。なんだかそれって嫌じゃないですか。
まあ、僕がそう思うだけかもしれませんが……。要はお節介なんですよ。他人からは親切とも言われますけど。それだけです」
「そんな理由で……」
「でもそれが僕の決めたルールですから……ではこれで」
そのまま去ろうとする桂馬。
「……せめて名前だけでも」
男性はそう答えるが桂馬は首を横に振りながら言った。
「名乗るほどのものでもありませんよ。それより、これからは家族を大切にしてくださいね」
「……はい!」
そう言って今度こそ桂馬は去った。そのときの顔はとてもすがすがしい顔をしていたに違いない。
―――Fin―――
「勝手に終わらせないでください!それに終わり方中途半端すぎです!小説にあるまじき行為ですよ」
暗くなった空に誰かにはわからないが、言うようにして叫ぶ桂馬。なんだか周りから見れば、ただの変な人である。
「あなたのほうが変です……とにかくどうしようか、これから」
あれからもう既にかなりの時間が経っていた。というか回想をしていたらすっかり夜になっていた。
「長すぎるんですよ回想が……」
まあ、やってしまったものは仕方ない。
「はぁ〜、とにかく本当にどうしましょうか?」
もう一度手を見る。そこには一円玉六枚があった。
「六円か。うまい棒ですら変えないじゃないか……家にはもう帰れないし」
そう彼は今家を追い出されたのである。理由は次に書くとおりである。
お金をあの男性を渡した後、アパートに戻った桂馬だったが、いきなり大家さんから、今すぐ出て行け宣言により追い出された。ちなみに荷物は三日以内に出せ、だそうだ。
「先程より短いですね……ってそれは置いといて。……今日の朝に戻れるなら戻りたいな」
この世界にはドラ○もんはいないから、タイムマシンは借りれない。
「そんなことわかってますよ。もしも、です。……今日はとことんついてなかったな〜。せっかくの小説十巻目記念だったのに……」
ほんとに散々な一日である。
「……さらに雪か」
空から白い綿が落ちてきた。正体は雪。普通なら綺麗だな、とかいってるんだろうが、今は、追い討ちをかけているとしか思えない。
「そうえばふるって言ってたな……なんだかもういやだな」
傘も家に置きっぱなしだ。しかし、もう家には戻れない。
「……もう、休んでもいいかな?いいよね。僕、それなりに頑張ったつもりなんですよね、これでも……。だから、いいかな?ねぇ、プトラッシュ……」
色々な不幸がありすぎて、ついにおかしいことを言い出してしまった桂馬。このままじゃ、1話にして完結してしまう。というかプトラッシュとは?
「……なんだか暖かいな。なんでだろう?」
いつのまにか冷たかった雪が止んでいた。
「……まあ、いっか。どうせ僕はもう死ぬ運命にあるんだし。今更考えたって……」
「何故死ぬ運命なんですか?」
「それは今までの経緯を見てたらわかりま……ってえ?」
あきらかに自分とは違う声が聞こえた、と思った桂馬はあたりを見渡す。しかしその必要もなかった。
「雪も降っているのに傘も差さずにいると風邪を引いてしまいますわよ?」
目を上に上げるとそこには自分の上に傘を差しているメイド姿の女性がいた。
このメイドさんとの出会い――マリアとの出会いによって、桂馬の運命は大きく変わることになる。
歯車はすでに回り始めている………………。
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第1話です。 文才がないですがよろしくです。 それではどうぞ。 |
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