IS<インフィニット・ストラトス> 〜あの鳥のように… if
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これは、あったかもしれないifの物語…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミコト。忘れ物は無い?」

「ん」

 

研究所にあるクリスの部屋。前屈みになって少し斜めにずれていたリボンをきちんと直しながらクリスは私に訊ねてくると、私は問題無いと頷いてみせる。生活に必要な荷物は既に送った。手持ちの荷物はパスポートと財布と携帯電話とハンカチ。これも確認済み。

季節は春。今日、私はこの研究所から初めて外の世界に出る。ある場所に向かう為に…。初めて見る外の世界に期待で胸を膨らませて…。

 

「いい?飴玉あげるとか言われても知らない人について言ったらだめよ?あと、困ったことがあったら必ず電話すること。困ったことが無くても週に一回は電話を頂戴ね。それから―――」

 

次から次へ口から出てくる注意事項。それに合わせて当然時計の針も進んでいる訳で…。

 

「……クリス。時間…」

「うん?なぁに?……あっ、いけない!私ったら折角のミコトの晴れ姿なのに、写真撮るの忘れてたわ!ちょっと待ってて!」

「………時間…」

 

そう言ってはドタバタと騒々しく、部屋にあるタンスからカメラをまるでタンスをひっくり返す勢いで漁りだすクリスの背中を眺めながら、私は諦めてボソリと一人呟いた。

 

オワタ…。

 

「………何をやっているんだね。君は?」

「きゃあっ!?」

 

何時の間にそこに居たのか、クリスは突然現れた声に悲鳴を上げて後ろを振り向くと、そこに立っていた枯れ木の様な肌をした白衣を着た老人。この研究所の最高責任者であるゼル・グランが、呆れる様に小さく溜息を吐いた。

 

「しょ、所長!?いらしてたんですか!?」

「何時までもゲートに君等が来ないのでな。様子を見に来たらこれだ…」

「す、すみません…」

 

責める様に睨んでくるゼルに、クリスは身体を縮こませる。

 

「…まあ、いい。しばらくは戻っては来られんのだ。しかし、日本行きの便に乗りそびれるなどと言う事にはならんように」

「は、はい!」

「それと、3510号」

「………」

 

クリスから私へ視線を移してそう呼ぶけれど、私は無言でフルフルと首を振ってその名前を拒絶する。

 

「……いや、今はミコト・オリヴィアだったな」

「ん」

 

私は頷く。

3510号は私の名前じゃない。『ミコト・オリヴィア』。それが私の名前であり、私である証明。そして、クリスとの家族の絆。

 

「私がお前に言う事は一つだけだ。結果を出せ。それ以外は何をしようがかまわん。お前の好きにするといい」

 

私の好きに…。

 

「…いいの?」

「何度も言わせるな」

「私、『友達』がほしい。クリスが教えてくれた。学校は、友達をつくる場所だって」

 

ゼルはじろりとクリスを睨み、睨まれたクリスは慌てて視線を逸らした。それを見てゼルはまた溜息を零して私に視線を戻す。

 

「……好きにしろ」

「…ん♪」

 

無表情で承諾するゼルの言葉に、私は嬉しくてたまらなくなって笑顔になる。この胸の中にあるドキドキ。空を飛んでる時とは違うドキドキ。何だろう、この気持ちは?知りたい。これが何なのか。学校に行ったら。友達をつくったら分かるのかな?

 

「あ、ありがとうございます。所長」

「感謝される謂われは無い。……早く準備を済ませろ。もう本土に行く為の船は来ている」

 

そう言って、頭を下げて礼を言うクリスを見向きもせずに、ゼルは部屋から出て行ってしまった。

 

「………何だかんだ言って、あの人もミコトには甘いわよね」

「?」

「何でもないわ。……さてと、叱られたばかりなのにこれ以上時間をかけちゃいけないわよね」

 

そう言って、クリスは名残惜しそうに私の頭を撫でた。

出発日の前日からずっとクリスは私の頭を撫でたり抱き着いたりしてきてるけど、しばらくはクリスに会えないから私もそれを拒もうとせず、逆に喜んで受け入れ頭に感じる感触に目を細めた。

 

「……そろそろ、行かないとね。私は船着き場まではお見送り出来ないから、一緒なのはゲートまで……ごめんなさいね?」

「ううん。いい」

 

此処の施設は他の国の人に知られちゃいけないから、衛星から監視されている可能性も考えて、人が出入りするのは極力避けないといけない。だから仕方が無い。表向きこの島はISの実験場だし。

 

「ありがとう、ミコト。それじゃあ、ゲートに向かいましょうか」

「ん」

 

差し出されたクリスの手を私は握り返し、私とクリスは部屋を出る。

向かうは研究所の出口であるゲート。私はそのゲートを潜った事は一度もない。ISの訓練に使う地上に存在する訓練場はゲートからではなく別の通路から行く為私がゲートに近づく事は今まで一切なかった。

 

「向こうで友達が出来るといいわね?」

「ん」

 

此処じゃ友達なんて出来ないから。沢山居る姉妹達も顔を整形して国内のバラバラの場所に配属されちゃって、今施設にいるのは私だけだし…。

 

「容姿の事で色々あると思うけれど、貴女はオリジナルとは赤の他人。クローンだと言う事は誰にも話しちゃ駄目。分かってるわね?」

「ん。今日までずっと言われてたから…」

 

『クローン計画』に関する情報は一切話しては駄目。それは向こうに行くことが決まってから何度も言い聞かされていた。

 

「よろしい。―――あっ、着いたわね」

 

この先しばらくは出来ない親子の団欒を楽しんでいると、いつの間にか固く閉ざされたゲートが目の前にあった。

ゲートに設置された監視カメラのレンズが私の姿を捉えると、閉ざされたゲートは重い機械音を響かせて開き始める。

 

「……ここでお別れね。元気でね、ミコト」

「…ん。クリスも」

「夏休みはここじゃなくて私の家に帰ってくるのよ?此処はその頃にはもう閉鎖してるから」

「ん。問題無い。住所も記憶した」

 

『クローン計画』は成功した。けれど、この研究が違法なのは変わりない。だから計画が成功と共に証拠隠滅ため此処が閉鎖するのだ。此処は私の生れて育った場所だから少し寂しい。

 

「寂しくなったら、いつでも電話していいんだからね?」

「大丈夫。この子もいるから」

 

私の専用機である『第三世代型IS ペルセウス・カトプトロン』の待機状態の翼と鏡を象ったブローチを優しく撫でてあげると、光の反射でまるでブローチは私の言葉に答えるかのようにキラリと輝いた。。

ペルセウス・カトプトロン。第三世代型実験機であるイカロス・フテロの完成した姿。私の翼であり、鎧であり、槍である機体…。

 

「そう、なら安心ね」

「ん」

 

この子は私を守ってくれる。私はこの子を守ってあげる。この子と共にある限り、私は墜ちないし、私は負けない。

 

「それじゃあ……いってらっしゃい、ミコト」

「いってきます―――お母さん」

 

互いに手を振って別れを告げて私はゲートを潜る。建物を出た途端、陽の光の眩しさに目を細めて空を見上げる。空は快晴。まるで私の今の気持ちを表しているかのようだった。

 

「………ん♪」

 

笑みを浮かべて私は歩き出す。私が向かう場所。そこは―――。

 

―――日本。IS学園。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS<インフィニット・ストラトス> 〜あの鳥のように… if 「鏡映しの戦乙女」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑一夏

 

 

「全員揃ってますねー。それじゃあSHRを始めますよー」

 

にっこりと笑顔で微笑み黒板の前でそう告げるのは、俺のクラス副担任である山田真耶先生。身長は低めで外見も生徒に混じっても違和感ない程だというのにこれで先生だと言うのだから世の中分からないものだ。しかも着ている服も少し大き目でサイズが合って無く。なんだかその姿は背伸びをする子供を連想させる。本人に言ったら怒りそうだが…。

これもこの学園だからこそ、なのか?な訳無いか。入学式で他の教員を見たが別にそう言う訳でもなかったし。まぁ、それでも他の学校と比べれば若い先生も多くて皆女性教員だったけど。

 

「それでは皆さん。一年間よろしくお願いします」

 

『…………』

 

し〜ん…。

柔らかな笑顔での挨拶。本来なら見惚れても良い程のその笑顔も、この教室を包む変な緊張感の中では何の意味もなさない。誰一人山田先生の挨拶に無反応なのだ。まあその変な緊張感というのはたぶん自分が原因なんだろう。絶対。だってこの教室に入った時からずっと背中に視線が突き刺さって痛いんだもん…。

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で…」

 

自己紹介の挨拶にまさかの無反応。それでもめげずに頑張って話を進ませるその山田先生の姿が涙を誘う。それでも、周りの生徒は眼中に無いようだが。前を見ろよ前を。俺を見るな…。

何故こんなにも先生にではなく俺に視線が集まるのか。それは簡単だ。何故なら…。

 

俺以外のクラスメイトが全員女子だからだ!

 

そう、此処は女性にしか動かす事が出来ない兵器。IS ≪インフィニット・ストラトス≫の操縦者を育成するための学校。つまり、女性しか入学出来ない訳だ。本来ならばの話だが。

そして、突き刺さる視線の理由は当然クラスにぽつんと男子が一人だけ居るから。しかも目立つ『真ん中の前から二列目の席』。そりゃ目に入るし気にならない訳が無いし視線も集まる。しかもこの学園に来る前に、ニュースで大々的に世界に自分の存在を放送されたのだからちょっとした有名人だ。自分は望んでなんていないし有名になっても嬉しくもないが。何故なら現在の様に見世物状態になるのだから。

 

何でこんな事になったんだっけ…。

 

最高に居心地の悪い状況で俺は心の中で思う。

思い起こせば今年の2月。俺、織斑一夏が試験会場を間違ってISを起動させてしまったのが原因だ。女性にしか動かせない筈が何故か男の俺が動かしてしまって俺の意思に関係無く強制的に入学させられてしまったのだ。まぁ、ぶっちゃけると誰が悪いか問われれば会場間違えた自分が悪いです、すいませんでした。って話なんだけど…。

 

弾ならハーレム最高!とか言って喜ぶんだろうけどなぁ。

実際に男一人で女に囲まれるという体験している身から言わせてもらえれば、男子校行きたいです。マジで…。

 

…ちらり。

 

「………」

 

救いを求めて窓側の席に視線を向けるのだが、その視線の先に座っていた無慈悲な幼馴染 篠ノ之 箒は視線を送っても顔を逸らすだけ。箒さんや、それが6年ぶりに再会した幼馴染に対する態度でしょうか?もしかして、俺嫌われてる?俺なにかした?なんにも記憶にないのですが…。

 

「……くん。織斑 一夏くん!」

「は、はいっ!?」

 

目の前から聞こえる自分の名を呼ぶ大きな声によって逃避していた魂を現実へと引き戻され、はっとして裏返った声で返事をしてしまう。

 

「あっあの、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる?怒ってるかな?ゴメンね、ゴメンね!自己紹介、『あ』から始まってい今『お』の織斑くんなんだよね。だからね、ゴメンね?自己紹介してくれるかな?だ、駄目かな?」

 

掛けているメガネがずり落ちそうになる程ペコペコと頭を下げる山田先生。何て言うか、その、先生としての威厳が全く無い…。生徒にそんなに頭を下げるのはまずいんじゃないだろうか?それに今日は入学初日であって生徒に舐められる様な事はしない方が…。

 

「いや、あの、そんなに謝らなくても…っていうか、自己紹介しますから、先生も落ち着いてください」

「ほ、本当ですか?本当ですね?や、約束ですよ?絶対ですよ!」

 

がばっと顔をあげて、俺の手を取り熱心にそう聞いて来る山田先生。

いや、そんな熱心に言わなくても…。ていうか皆自己紹介してるのに俺だけやらないって言うのは不味いでしょ。雰囲気悪くなるし。てか近い、近いって!

 

何にしても、自己紹介は入学初日のイベントみたいなものだからやるしかないだろう。やると言ってしまったしやってやろうではないか。何事もはじめが肝心だ。最初の印象が交友関係を大きく左右させる。

さてと、何と喋るべきか…ん?

 

自己紹介を始めようと席を立ったは良いものの。俺の意識は自分の前の席に集中する。

 

空席…?

 

そう、空席である。入学初日に。別に珍しいと言う訳ではないだろう。風邪かもしれないし家の都合かもしない。でも、俺は前の空席が妙に気になった。さっきまで現実逃避して気付かなかったくせにとは言わないで貰いたい。色々と一杯一杯なのだ俺も。

 

「あの…」

 

気になったので山田先生に聞いてみる事にする。副担なんだしこの空席の生徒の事も知ってるだろう。

 

「はい?何ですか?」

「いや、どうでも良い事なんですけど。前の席の人はどうしたんです?」

 

そう前にある空席を指差して訊ねたのだが、山田先生は一瞬表情を凍らせる。本当に一瞬だ。目の前にいる俺だから分かったものの、周りの生徒はきっと気が付かなかっただろう。

 

「あ、ああ!オリヴィアさんですね!オリヴィアさんはトラブルがあった様で少々遅れるそうです」

「トラブルですか…」

 

事故か何かかな?入学初日で災難だなぁ。その人も…。

 

「あと、これはオリヴィアさんが来てから話すつもりだったんですけど、オリヴィアさんは少々特殊で皆さん驚くかもしれませんが、仲良くしてあげて下さいね?」

 

急にそんなことを言い出す山田先生にどの生徒も困惑した表情を浮かべる。

世界中から異なる文化を持った人々が集まる学園だ。その中から更に特殊と言われたらどう反応すればいいのか戸惑ってしまうのは仕方が無いことだ。

 

「は、はぁ…それで、トラブルって何なんです?それと関係あるんですか?」

「い、いえ、それとこれとは別なんですけど……あ、あははは…」

 

視線を泳がせてはっきりとしない山田先生に教室はざわめき出す。クラスの女子達は皆それぞれにそのオリヴィアという女子生徒のイメージを勝手に固め始める。ひそひそと聞こえる声には「不良少女」だとか悪いイメージも含まれていて、それも内容はさまざまだ。そんな女子達に山田先生はあわあわと慌てて誤解を解こうと試みるが、ざわめきは治まる事は無い。

 

「あっ。あのっ!ち、違うんですよ!?オリヴィアさんはそんなのではなくてですね!?あ、あうぅ〜…」

 

収拾のつかなくなったこの状況に涙目になる山田先生。それを見かねて、俺はこの話題を出した責任も含めて皆を黙らせようと腹に力を込めるが、その時、騒音の中を凛とした声が響いて、騒がしかった教室が一気にしんと静まり返った…。

 

「唯の迷子…いや、散歩だ。初めての日本に興味津々で街を見て回っている所を補導されて学園に電話が来た。私が遅くなったのはその迎えに行っていたからだ。まったく、余計な手間を掛けさせよって…」

 

その聞き慣れた声に俺は出入口のドアに視線を向けて言葉を失う。何故なら…。

 

「お、織斑先生!お迎えご苦労様でした!」

「ああ、山田君。クラスの挨拶を押し付けてすまなかった」

 

世界で唯一人の家族で姉である織斑 千冬だったのだから…。

職業不詳で家にろくに帰ってこないで危ない仕事でもやってるんじゃないかと思ってたらまさかIS学園で教師をしてただなんて思いもしなかった。

しかし、トラブルって補導かよ…。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。出来ない者には出来るまで指導してやる。逆らっても良いが私の言う事は聞け。良いな」

 

何と言う暴君。流石は千冬姉だ…。

無茶苦茶な暴力発言に批判の声が上がるかと俺は思った。しかし、教室にはそんな声はまったく無く、それどころか喜びに満ちた黄色い声が響いた。

 

「キャーーーー!千冬様、本物の千冬様よ!」

「ずっとファンでした!」

「お姉様に憧れてこの学園に来たんです!」

 

お姉様って…いや、何も言うまい。

元々此処は女子高みたいなもんだし、そう言う物なんだろう。そうに違いない。そう自分に言い聞かせる。

 

「あの千冬様にご指導していただけるなんて嬉しいです!」

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

有名なんだなぁ千冬姉は。でも最後の人は落ち着こうな。

きゃーきゃー騒ぐ女子生徒達。まるで人気アイドルを前にして騒ぐファン達の様だ。たぶん間違ってはいないのだろうが騒がれている千冬姉本人はかなりうっとうしそうにしている。

 

「毎年、よくこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも私のクラスだけ集中させているのか?」

 

頭を押さえて本当にうっとうしそうに溜息を吐く千冬姉。毎年これなら気持ちは分からなくもないが、しかし愛想良くしても罰は…。

 

「きゃあああっ!お姉様!もっと叱って!罵って!」

「でも時には優しくして!」

「そしてつけあがらないように躾して〜!」

 

前言撤回。今のままで宜しいかと存じます。むしろ毎年良く我慢できるね。流石、千冬姉である。

 

「はぁ、どいつもこいつも………オリヴィア、入れ」

 

ガラッ

 

千冬姉の言葉と同時にドアが開かれる。

そして、遅れてきた生徒が入ってきた途端。再び教室中がざわめき出し、誰もが自分の目を疑った。俺も、今まで我関せずだった箒も目の前にある光景に言葉を失う。何故なら―――。

 

「え゛…」

「――――!?」

 

教室に入ってきた千冬姉と並ぶ白い女性は髪の色や肌の色が異なるものの、千冬姉と瓜二つだったのだから。

……いや、違う点は他にもある。千冬姉は長い髪を後ろで一纏めにしているが、目の前の彼女は二つに纏めている。それに、身長も千冬姉よりやや低い。千冬姉が166cmだから隣の白いのは150ちょいくらいか?でも、その代わり…。

 

「ギリシャ代表候補生。ミコト・オリヴィア。ん、よろしく」

 

そう自己紹介をしてぺこりと頭を下げると、それに連動して胸が大きく揺れる。

 

どったぷ〜ん!

 

身長の分が胸に…胸が…胸が千冬姉より大きい!?

 

「い、一夏ぁ!何処を見とるかぁ!?」

 

ガタンッ!大きな音を立てて顔を真っ赤にした箒が立ち上がり、怒号を響かせて俺を叱りつけてくる。

 

「ち、ちがっ!?」

「この破廉恥めっ!成敗してくれる!」

「ご、誤解だ!?俺は別に胸なんか……あっ…」

「………っ!」

「? 胸…?」

 

やばい。余計なことを口走った…。

オリヴィアさんは不思議そうに首を傾げて、周りからは「織斑くんって胸の大きい子が好みなんだ」とか「うぅ…私じゃあのクラスは無理だぁ…」とか、そう言った胸関連の話題で持ちきりになっているのだが、俺はそれどころではない。俺の目の前に修羅が立っているのだから…。

 

「この………」

 

箒はぷるぷると震える拳を持ち上げる。

 

「不埒者おおおおおおっ!」

 

……あ、俺死んだ…。

 

そう思った時にはもう、俺は頭に奔った衝撃に意識がブラックアウトしていたのだった…。

意識が完全に途絶える直前。顔に柔らかい感触と甘い香りに包まれながら「お〜?」と間の抜けた声を聞いたような気がした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side ミコト・オリヴィア

 

 

「……お〜?」

 

倒れてきた男の子を抱きとめると、私の胸に埋めて気を失ってる男の子の顔をじっと観察する。

 

……似てる。けど、違う…。

 

顔立ちは私やオリジナルと似ている。けれど違う。少し違う…。

 

「い、いつまでそうしてるつもりだっ!」

「?」

 

男の子を殴った子が私に詰め寄って来る。何でこの子はこんなに怒ってるんだろう?

 

「男の顔を自分の胸に埋めるなど……は、はしたないにも程があるぞっ!」

「でも、離したら倒れちゃう。それは、ダメ。危険」

 

頭を殴られて気を失っている人の身体を動かすのは危険。それも更に衝撃を与えるなんて以ての外。

 

「どうして、怒る?」

「そ、それは、一夏が厭らしい目でお前の……む、胸を見るから…」

「? よくわからない…胸を見るのは、いけないこと?」

 

そんなのクリスから教えて貰ったことや、刷り込まれた知識からも存在しない。

 

「あ、当たり前だ!お前も女なら恥じらいを持て!」

「?」

 

目の前の子が言う事が理解できなくて首を傾げる。別に恥ずかしい事なんてない。

 

「……〜〜っ!ああもうっ!何なんだお前は!?その容姿といい、その思考といい!訳が分からんぞ!?」

 

何なんだお前って、自己紹介したよね?

数分前の記憶遡ってみる……うん。間違いない。確かにちゃんと自己紹介した筈だ。

 

「ミコト・オリヴィア。さっきも言った」

「私が言いたいのはそう言う事では無く――――痛ッ!?」

 

オリジナルに出席簿で叩かれて目の前の子は悲鳴を上げる。痛そう…。

 

「いい加減に席に戻れ、話が進まん。それとも、入学早々にグラウンドを走りたいのか?」

「……すいません」

「よろしい。お前達も篠ノ之と同じ疑問を思っているかもしれんが、私とオリヴィアは赤の他人だ。私の血縁はそこの胸の中で伸びている弟だけだ」

「え?彼って、あの千冬様の弟…?」

「それじゃあ、世界で唯一ISが使えるのも、それが関係して…」

 

オリジナルの弟…。そっか、この男の子がクリスの言っていた『世界で唯一男性でISを操縦する事が出来る』、織斑一夏って人なんだ。道理で似てる筈。ん、納得。

 

「オリヴィア。お前も席に着け。その馬鹿は机に寝かせておけばいい。放っておけばいずれ起きる」

 

扱いがぞんざい…。いいのかな…?

でも、オリジナルが早くしろと急かすので、私はそれに従って一夏をそっと一夏の席に座らせて突っ伏するような格好で寝かせてから私も自分の席に座ると、タイミングを見計らったかのようにチャイムが鳴る。

 

「時間切れか、自己紹介は各自でしておけ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えて貰う。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか、良いなら返事をしろ。良く無くとも返事をしろ。私の言葉には返事をしろ」

 

そうして、さっきまでの出来事が無かったかのようにして、IS学園の最初の授業が始まった。授業中さっきの子の視線を背中に感じたけど何か用なのかな?んー…友達を作るのって難しい…。

学校が終わったらクリスに電話して相談してみよう。私は授業の話を聞きながらそう心に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 篠ノ之箒

 

 

「……ちょっと来い!」

「う?」

 

一時限目の授業が終わると同時に、私は周りの目も無視してやや強引に、ミコト・オリヴィアと名乗る白い少女の手を取り教室から連れ出した。行先は屋上。昼休憩ならともかく授業との合間の小休憩ならまずあそこに生徒は居まい。

どうしても確認しなければならない。その容姿について…。6年間も顔を見ていないからと言って、幼い頃から私は千冬さんの事を知っている。だから分かるのだ。これは、他人の空似ではないと。千冬さん本人は違うと言っていたが、立場が立場なためあの言葉も信用できない。それに、何せ身内が身内だ。また何かやらかした可能性がある。あの人は千冬さんに酷く執着している。もし、もしもだ。彼女にあの人が関わっていたのなら…。いや、そうでなくても、何か企みがあって一夏に近づいたと言うのなら許せる訳がない。

 

千冬さんは一夏にとって憧れの存在だ。その姿を利用するなどと…!

 

バタンッ!と屋上の入口のドアを蹴破る勢いで開け放ち屋上へ出ると、掴んでいた手を離しオリヴィアと真っ向から向き合う。

連れて来られたオリヴィアは、きょろきょろと辺りを見回して此処に何も無いことを把握すると、どうして屋上に連れて来られたのか分からず不思議そうに此方を見ていた。

 

「お前は……何者なのだ?」

 

先程の様な、あの場にあった軽いふざけた雰囲気は此処には一切ない。私は真剣に敵意すら込めて目の前に立つオリヴィアを睨みつけてそう問うた。

 

「ん。ミコト・オリヴィア」

 

私の同じ質問にオリヴィアも同じ返答を返すと、私はそれに納得できる筈もなく彼女に対して声を荒げた。

 

「ふざけるな!他の者はそれで通るとしても私はそうはいかんぞ!?何が目的で学園に入学した!?」

「でも、事実。私は私。ミコト・オリヴィア。それ以外の誰でもない。それは、誰が言おうと譲れない」

 

彼女は目を逸らさない。じっと私の目を見つめてそう主張する。その目には確固とした意志を宿して…。

 

「学園に来た理由。IS学園に来たのは、友達が欲しかったから」

「友達、だと……?」

 

予想もしなかった言葉に私は眉を顰めると、オリヴィアは短く返事をして頷く。

 

「ん。クリス、言ってた。学校は友達を作る場所だって…。私、友達が欲しい」

「なっ……!?」

 

そ、そんな理由で…?

 

クリスと言う人物が何者かは知らないが。そんな子供みたいな理由でIS学園に来たのかと私は驚いた。しかし、目の前に立っている彼女の目は正しく本気で、嘘偽りが無いのは誰が見ても明らかだった。

 

「私、ミコト・オリヴィア」

「そ、そんな事は知っている!」

 

いきなり自己紹介を始めるオリヴィアに私は馬鹿にされているのかと思い、ついムッとなり怒鳴ってしまう。先程からその問答は何度も繰り返したのだ。人の名前を覚えるのが苦手な者でも此処まで繰り返せば流石に覚えるだろう。

しかし、怒鳴られた本人は怯みもしない。本当に何なのだこいつは…。

 

「貴女は?」

「…な、何?」

「貴女の名前。私、知らない」

 

突然私の名を求められて、そう言えば名乗ってなかったという事に漸く気が付く。HRでも一夏の馬鹿者の所為で全員の自己紹介は行えなかった。勿論、私もだ。

 

「……し、篠ノ之箒だ」

「篠ノ之 箒……ん。箒で、いい?」

「…………な、何?」

 

名の呼び方に許可を求められたのだが、私は意外な反応に戸惑う。『篠ノ之』の名を聞いても、彼女はその名に対して何の反応を示さなかったのだ。『篠ノ之』なんて名字は非常に珍しい。その名を聞けば誰もが『あの人』の身内ではないかと表情を変えてしまうと言うのに…。

 

「お、驚かないのか…?」

「ん?どうして?」

 

どうしてって…。

まさか逆に質問を返されるとは思わなんだ。私は誇らしくも何も感じていないが、『篠ノ之』の名は世界的にも有名だと言うのに…。

 

「『篠ノ之』だぞ?気にならない筈がないだろう!?」

「ん〜……?」

 

しかし、オリヴィアは理解出来ないと言った様子で、私の言葉の意味に気付けないで何時までもうんうんと悩んでいる彼女に、私は苛立ちを増していき、ついには自分でその答えを教えてしまうことに…。

 

「『篠ノ之 束』!篠ノ之と聞けばまず最初にその名が思い浮かぶだろう!?私はその篠ノ之束の妹だ!」

「………お〜!」

 

ぽんっと手を叩いて納得したと言った感じの表情を浮かべるオリヴィアに対し、私は頭痛を覚える。

 

本当に…本当に何なんだコイツは…?

 

篠ノ之の名を聞いても無反応。答えを言ってもこの反応だ。どうも調子が狂ってならない。けれど、これはまだ序の口だった。私の正体を知ったオリヴィアは、次にまたも私の予想の斜め上の反応を示す。

 

「……それで?」

「え?」

「え?」

 

二人して驚く。何だこの妙な空気は…。

 

「そ、それでって…。篠ノ之束だぞ?ISを開発したあの篠ノ之束の………っ、妹なんだぞ?」

 

あの人の妹と口に出すと、心の中で抵抗があって表情が苦痛に歪む。

あの人の妹と言うだけでどれ程辛い想いをして過ごして来た事か。周りからは『篠ノ之束の妹』としてしか見られず、政府の重要人物保護プログラムにより家族はバラバラ、日本各地を転々とさせられて、心安らげぬ日々を強いられてきた。そんな原因を作った姉をどうして良く思えと言うのだ。

 

「んー……でも、箒は箒。篠ノ之博士、違う」

「――――………ぇ?」

 

当たり前のように言ったオリヴィアの言葉に、胸に渦巻いていた姉へのどす黒い感情が一瞬にして四散していく。

 

「私はミコト・オリヴィア。それは、だれも否定できない。箒は篠ノ之箒。それも、誰も否定できない」

「………」

「だから、箒の今の言葉。不適切」

 

私が間違っている…?

 

…いや、そうなのかもしれない。私は『篠ノ之束の妹』として見られるのを嫌っておきながら、自ら『篠ノ之束の妹』と名乗っていた。諦めていたのかもしれない。姉の名から逃れられない、その繋がりは何処までも付きまとうから、どうしようもないのだと…。

 

「私は、ミコト・オリヴィア。貴女は、誰?」

 

もう何度目か分からない自己紹介をオリヴィアはする。

 

「私は……私は、篠ノ之箒だ」

「ん。箒♪」

 

無表情だったその顔が少し嬉しそうに口元を綻ばせた。

私は初めて見せる彼女の笑顔を見て驚く。教室で初めて目にした時から彼女はずっと無表情のままでその表情を殆ど動かす事は無かったからだ。感情が希薄な奴なんだと、私はそう思っていたから…。

 

「私、ミコト。ミコトでいい」

「ミ、ミコト?」

「ん♪」

 

名を呼ばれてオリヴィア……いや、ミコトは満足げに頷く。

 

「箒は箒って呼ぶね?」

「もう呼んでいるだろう…」

 

名を名乗った時から許可もしていないのにもう呼び捨てだ。馴れ馴れしいのかそれとも天然なのか……後者だろうな。

 

「ねぇ、箒」

「な、何だ?」

「箒は、友達になってくれる?」

「………え?」

 

突然の要求に思わず間の抜けた声を返してしまう。今、彼女はなんと言った?友達?私と…? 

私はミコトを見る。ミコトは期待に満ちた眼差しで私も見つめている。姉と関係を持つためだけに私に取り入ろうとする物は多くいた。けれど、その瞳には邪な物は一切感じられない。ただ純粋に、本当に私に友達になりたいのだと言う事が伝わって来る。

 

「わ、私……私は………私は―――」

 

キーンコーンカーンコーン。

 

その時、私の言葉を遮るように2時限目の始まりを知らせるチャイムが鳴り響いた。なんというタイミングで…。空気を読まないと言うのはこういうのを言うのだろうか…。

 

「ぶぅー……教室、もどる」

「そ、そうだな」

 

大変不満そうなミコトに私は賛成して二人で教室に戻る。胸の内には安心したような、残念なような、そんなモヤモヤとした複雑な気持ちを秘めて…。

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑一夏

 

 

「………ぃ……なさぃ…!」

 

…んんっ?……なんだぁ…?

 

ゆさゆさを辛さを揺さぶられる感覚と、耳もとの近くで俺に呼び掛ける女性の声。その声にだんだんと意識がはっきりしていき、そして―――。

 

「―――――…………ハッ!?」

「……あ、起きた」

「きゃあっ!?き、急に起き上がらないで下さいます!?」

 

意識が途絶える寸前の出来事を思い出し、ガバッ!と勢い良く机から身を起こす。しかし、周りには千冬姉も箒の姿は無く、傍に立っていたのはロールのかかった綺麗な金髪で白人特有のブルーの瞳をした女子で、可愛らしい声を上げていた。何だか良く分からんが、起きろと言ったのはお前の方じゃないのか?

ややつり上がった状態の瞳で『私は偉いんですよ』的なオーラを全開に出して俺を見ているソレは、今時の女子をそのまんまに体現しているかのようだ。

今の世の中、ISを使えると理由だけで女性が優遇される。まぁ、優遇されるだけなら構わない。大昔の男が偉いという考えが逆になって再来しただけなのだから。しかし、その優遇の度が過ぎてしまったのが今の現状だ。女=偉いの構図が一般的な認識になり。男の立場が完全に奴隷、労働力になってしまっている。町中ですれ違っただけの女にパシリをさせられる男の姿も珍しくは無い。

まぁ、身に纏っている気品から察するに、実際に良いところの身分なのだろう。俺には関係の無い事だが。それよりも今はこの頭痛をなんとかしたい。冗談抜きで痛い…。

 

「訊いてます?お返事は?」

「訊いてるけど…どう言う用件だ?」

 

頭に痛みに耐えながら答えると、声を掛けて来た女子はかなりわざとらしい声を上げる。

 

「まぁ!なんですの、そのお返事。先程の事もそうですが、この国の方は紳士として全然なってないですわね!わたくしに話し掛けられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

「………」

 

あ〜めんどくせぇ…。

殴られて痛む頭痛は違う頭の痛みにこめかみを押さえる。

ISが使えるからってそんなに偉いのか?確かに今現在、国の抑止力の要となっているのはISだ。だからIS操縦者は偉い。そしてISを使えるのは女性しか使えない。だからといって全ての女性が偉いというのは可笑しいだろう。偉いのはIS操縦者であって女性では無い。そして仮に操縦者であったとしてもだ。限度と言う物がある。

 

「悪いな。俺、君の事知らないし」

 

てか、気を失っていたんだから自己紹介なんて聞きようが無い。だから目の前の女子の名前も当然知らない。

しかしその答えがよろしく無かったらしい。それを聞いた途端、目の前の女子の目が更につり上がり目を細めると、男を見下したような口調で話を続ける。

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生にして、入試次席のわたくしを!?」

 

次席かよ。いや、次席も凄いけどさ。何か微妙だな…。

代表候補生と言う聞きなれぬ肩書がどんなものか気になったが次席の方に気がいってしまって訊ねる事はしなかった。あっ、そう言えばオリヴィアって子も代表候補生とか言ってたな…。

 

「……次席かよ」

 

そうぼそりと呟く。

 

「な、なんですって…?」

 

しかし、セシリアはそれが気に障ったらしく、低い声で呟きぷるぷると拳を震わせる。顔に影が落ちている所為で今どんな表情をしているかまったく把握出来ないが。まぁ、表情が見えなくても彼女から溢れ出る怒りオーラでお怒りなのは余裕で分かる。

 

「本来なら…本来なら!わたくしが主席になる筈でしたのに!それなのに!」

 

いや、悔しいのは分かるけどさ。認めようよ現実を。凄いと思うぞ?次席なんて大したもんだよまったく。頭の悪い俺には真似できない事だよ。

 

「貴女さえ居なければわたくしが主席でしたのに!」

「う?」

 

ずびしっ!と指をさされたのは、敢えて今までスルーしていたが、じ〜っと俺達の様子を興味津々に観察していたオリヴィア本人。オリヴィアは状況が把握できずにきょとんとして不思議そうに首を傾げた。そう言えば俺の前の席だったっけ…。

しかし、近くで見れば見る程に雰囲気に少し幼さは感じるものの千冬姉にそっくりだ。

 

「う?ではありませんわ!どうして貴女の様な奇妙な存在に…」

「……おい。そんな言い方は無いだろ。オリヴィアに謝れよ」

 

さっきまでの会話聞き流す程度に訊いていたが、今の台詞は聞き捨てできず、俺はセシリアは睨みつけた。幾ら悔しいからって、物にも限度と言う物がある。

 

「あら?何でわたくしが謝らなければなりませんの?他の皆さんだって同じことを思ってますわよ?」

 

睨みあう俺とセシリア。重苦しい空気が教室に流れ、原因となった本人はその間で不思議そうに俺とセシリアを交互に見て首を傾げていた…。

 

キーンコーンカーンコーン。

 

すると、そこに空気を呼んだかのように鳴り響く三時間目の開始を告げるチャイム。それを聞いてほっと胸を撫で下ろす教室に居た女子一同。

 

「ふんっ…」

 

鼻を鳴らして不機嫌な表情のまま自分の席に戻っていくセシリアに俺はやれやれと溜息を吐く。こりゃ、面倒な因縁を付けたれたかもな…。

 

「全員席に着け。授業を始めるぞ」

 

全員が席に座り終わった頃にタイミングを合わせたかのように千冬姉と山田先生が教室に入って来た。

 

 

 

 

「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 

一時限目は知らないが、二時間目とは違い三時間目は山田先生では無く千冬姉が教卓の前に立つ様にして授業を始まる。まぁ、担任は千冬姉何だし何ら不思議ではないか。一、二時間目を山田先生に任せたのは経験を積ませる為とかじゃないだろうか?だって色々とテンパる事が多いし…。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

思い出したように聞きなれない言葉を口にする千冬姉。クラス対抗?何だ?もう体育祭か何かか?随分と早いなIS学園。

 

「クラス代表者と言うのはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席…まぁ、クラス長だな。ちなみに対抗戦は、入学時点で各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間は変更は無いからそのつもりで」

 

…うん。何を言っているのかチンプンカンプンだ。事前知識0の俺はまったく会話の内容に理解出来ず置いてけぼり状態。教室中がざわざわと騒がしいが何か重要な事らしい。何だか責任重大そうだぞ?選ばれた奴はご愁傷さまである。

 

「はいっ!織斑君が良いと思います!」

 

…はい?

 

「では候補者は織斑一夏…他に居ないか?自薦他薦は問わないぞ」

 

いやいやいや!?何勝手に俺が候補者に上がってるんだ!?

 

「ちょっと待った!俺はやらな―――」

「自薦他薦は問わないと言った。他薦された者に拒否権など無い。選ばれた以上は覚悟しろ」

 

いやいやいやいや!?本人の意思も大事だろ!?何これ!?最近こんなのばっかなんですが!?

IS学園に強制入学させられて今度はクラス長?冗談じゃない。俺の自由と意思は何処へ消え―――。

 

「待って下さい!納得いきませんわ!」

 

バンッと机を叩いて立ち上がったのは、俺とオリヴィアに因縁を付けて来たセシリアなんとか?名字の方は忘れたがこの際なんでも良い。あいつの事はあまり好きにはなれないが今の状況を何とかしてくれるのならどんな奴でもどんとこいだ。

 

「その様な選出は認められません!大体、クラス代表が男なんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにその様な屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

またか……。

俺は疲れた様に溜息を吐く。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこの様な島国までISの修練来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ありませんわ!」

 

サーカスって…俺は猿扱いかよ。て言うかイギリスだって島国だろうが。

 

「いいですか!?クラス代表には実力があるものがなるべき、そして、それは国にも選ばれた代表候補生であるわたくしですわ!」

 

普通此処まで行ったら頭にのぼった血も下がるもんだが、どうやらアイツは違うらしい。それどころかますますヒートアップし始めている。クラス代表になんてなりたくは無いがここまで言われるとちょっと癪だ…。

 

「大体、文化として後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」

 

あ…駄目だ。堪えられそうにない。

何かプッチンと頭の中で切れた様な音がした。もう何て言うかオリヴィアの件もあって色々と我慢の限界だ。

 

「イギリスだって大してお国自慢はないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

「なっ…!?」

「何だよ?言い返せないのか?はっ他人の国の事笑えないじゃないか」

「あっ、あっ、あなたねぇ!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

顔を真っ赤にして何を言い出すかと思えばそんなことかよまったく…。

 

「先に侮辱してきたのはそっちだろ?」

「決闘ですわ!」

「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい。で?勝負の内容は?」

「此処はIS学園だと言う事をお忘れではなくて?」

 

成程…ISを使っての勝負か。セシリアの言う事は間違ってない。寧ろ道理と言っても良いだろう。

 

「わかった。じゃあ勝負はISで「少しお待ちなさいな」…何だよ?」

「イギリス代表候補生のわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会。なら、オリヴィアさんもこの決闘に参加して貰いましょう」

「ちょっと待てよ。オリヴィアは関係無いだろ」

「大ありですわ。同じクラスに専用機持ちが二人。どちらがISで優れているか証明させなければなりませんわ」

 

それはお前の都合だろ…。

 

どうやらまださっきの事で根に持っているらしい。まったく、これだからプライドの高い人間は…。それもセシリアは典型的な今時の女子だから更に手に負えない。

 

「別に誰が代表になろうとどうでも良いが。オリヴィアは誰にも推薦されていないぞ?」

 

そうだ。千冬姉の言う通りオリヴィアは誰にも推薦されていないし自ら立候補した訳でも無い。ならこの決闘に参加する義務なんてオリヴィアは無いんだ。

 

「あっ、じゃあ私がオリヴィアさんを推薦します!私としてはオリヴィアさんの方が気になってたし!」

「あ〜!わたしもわたしも〜!」

「………?」

 

ちょっ!?空気読んでくれそこの女子!?当の本人は全然理解して無いぞ〜!?

 

「ふむ。これで問題は無くなったな。対戦は一週間後の月曜、第三アリーナでまとめて行う。各自それぞれ用意をしておくように」

「ちょっ!?待ってくれ千冬姉!」

 

パァンッ!

 

いっつ〜〜…。

 

「織斑先生と呼べ。自薦他薦は問わんと何度言わせるんだ。馬鹿者」

「で、でも!オリヴィアはどちらかと言えば巻き込まれただけで…ほら!オリヴィアも何か言ってやれ!」

「?………戦えばいいの?」

 

必死に訴えかける俺を見て、何をそんなに慌ててるのあろうと言いた気に不思議そうな顔をすると、オリヴィアは暫し考えてどんな考えに至ったのか、何ら問題無いと言った表情で千冬姉に質問すると、千冬姉もそれに頷いた。

 

「ああ、そうだ」

「ん。問題無い」

 

えええぇ〜……。

 

何それ?必死になった俺が馬鹿みたいじゃないか…。

 

「うむ。それでは授業を始める」

 

ぱんっと手を叩いて話を締める千冬姉。俺の反論の余地も無く。決闘は決まってしまった…。

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……」

 

初日の授業が終わり。誰も居なくなった放課後の教室で俺は机の上で一人ぐったりとうなだれていた。

箒も補習が終わり次第それぞれさっさと帰ってしまい。教室には俺一人が取り残され勉強に励んでいる。唯でさえ俺は皆とは遅れているんだ少しでも早く追いつかなければと言う思いで今此処に居るのだが…。

 

「駄目だぁ…全然わからねぇ!」

 

専門用語の羅列で辞書か何かでもなければ勉強にすらならない状況。しかし悲しい事ISの辞書なんて存在せず、手探りしながら自力でやっていくしか方法が無い。こ教えてくれそうな人材は沢山居るんだけどなぁ…。

ちらっと廊下に視線を向ければ、やはり廊下には休み時間同様に他の学年やクラスの女子が俺の事を見に押し掛けていた。あの中の誰か一人に教えてくれって頼めば教えてくれるんだろうが今の俺にそんな勇気と気力は無い。

 

でもまずいよなぁこの調子じゃあ。勝負まで一週間しか無いのに。

 

決闘を申し込まれた時は『まだ一週間ある』と言う考えが、今では『一週間しかない』と言う物に変わっていた。それだけ今の状況はピンチなのだ。さてどうしたもんか…。

 

「ああ、織斑君。まだ教室に居たんですね。良かったです」

「はい?」

 

俺が悩んでいる所に副担任の山田先生が書類を抱えて教室へとやって来る。今の口ぶりからするに俺に用事があるみたいだけど何だろう?

 

「えっとですね、寮の部屋が決まりました」

 

そう言って差し出されたのは部屋のキーと部屋の番号が書かれた紙きれ。

ここIS学園は全寮制で全ての生徒が寮での生活を義務付けられている。国防の要となるIS操縦者となると、学生とはいえ将来有望であれば学生の頃からあれこれ勧誘しようとする国がいてもおかしくない。最悪、誘拐されたり命を狙われたりする可能性だってある。この全寮制はそう言った危険から護るための物でもある。

しかしその寮も当然俺を除けば女子しか居ない。そして全員が相部屋。だから俺はそう言った関係で準備が整うまで一週間程は自宅からの通学という予定の筈だんたんだけど…。

 

「俺の部屋って決まってないんじゃなかったんですか?」

「それが色々と事情がありまして。一時的ですが部屋割を無理やり変更したらしいんです。それに、織斑君もいやでしょ?家に帰ってテレビ局の人に詰め寄られるのも」

 

ああ、確かに。多分今日は玄関の前で『入学初日はどうでしたか?』とか『IS学園に入学した今のお気持ちは?』とか質問されるんだろうなぁ。

 

そう思うと家に帰りたくなくなってきた…。

 

「そう言う訳で、一ヶ月もすれば個室が用意されますから、しばらくは相部屋で我慢して下さい」

「そうですか。仕方ないですね。でも荷物とかの準備とかありますんで今日は帰っていいですか?」

 

流石に着替えも無しとかは辛い。それに色々と必要な物だってある。携帯電話とか、歯ブラシとか後ゴニョゴニョとか…。言わせんな恥ずかしい。

 

「あっ、荷物なら―――」

「私が手配しておいてやった。有り難く思え」

 

突然現れる千冬姉。今日は何発も叩かれた所為か声を聞くだけでビクリと身体が反応してしまう。

 

「ど、どうもありがとうございます…」

「まぁ、生活必需品だけだがな。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう」

 

なんて大雑把な。確かに学園内に不必要な物は持って来ちゃいけないしその通りだけど。俺もお年頃な訳で潤いや娯楽が必要だと思うのですよ…。

 

「じゃあ、時間を見て部屋に行って下さいね。夕食は6時から7時、寮の一年生用の食堂で取って下さい。ちなみに各部屋にシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど…えっと、その、織斑君は今の所使えません」

「え?なんでですか?」

 

俺も大浴場に入りたい。

 

「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒に入りたいのか?」

「あー…」

 

そうだった。ここ女子しか居ないんだった。なら男子用の大浴場なんて必要ないよな…。

 

「おっ、織斑くんっ。女子とお風呂に入りたいんですか!?だっ、駄目ですよっ!」

「い、いや入りたくないです」

 

どんな目に遭うか分かったものではない。そりゃ、男として興味は無いのかと聞かれれば当然あると答えるが、その代償が命となるとやはりNOと答える。一瞬の幸せのために今後の人生を使いきるなんて御免だ。

 

「ええっ?女の子に興味無いんですか!?そ、それはそれで問題の様な…」

 

どうしよう。この人結構他人の話を聞いてない。

ここは、俺は女の子が大好きだー!と大声で断言するべきか?…やめておこう。

 

「えっと、それじゃあ私たちは会議があるので、これで。織斑君。ちゃんと寮に帰るんですよ。道草くっちゃ駄目ですよ」

 

校舎から寮まで50メートル位しかないと言うのにどう道草をくえというのだこの人は。確かに各種部活動、ISアリーナ、IS開発室など様々な施設・設備があるこの学園だが、今はもう日が暮れるしそんな体力は残ってはいない。今は直ぐにでも休みたい気分だ。

 

「ああっ、それとですね。織斑君、一つ頼まれごとを頼まれてくれませんか?」

「えっ、頼まれごとですか?」

 

何だろう?面倒な事じゃなければいいんだが…。

 

「はい。実はですね。今朝のゴタゴタでオリヴィアさんに部屋のキーを渡しそびれてしまいまして、織斑君から渡しておいて貰いたいんです」

「オリヴィアに、ですか…」

 

千冬姉と瓜二つのあの顔が頭を過ぎる。

 

「はい。織斑君の部屋のお隣ですから鉢合わせするかもしれませんし、そう手間は掛からないと思うんですけど……だ、駄目ですか?」

 

不安そうにおずおずと訊ねてくる山田先生。そんな目で見られたら断ろうにも断れないじゃないか。

 

「わ、分かりました。オリヴィアには俺が渡しておきますから」

「ありがとうございます!あっ、寮で待つのも良いんですけど。出来るだけ探してあげて下さいね?困ってるかも知れませんから」

「ああ、はい。一応探してみます」

 

千冬姉と山田先生が出て行くのを見送ってから、俺も荷物をまとめて教室を出る。周囲から視線が纏わりついて来るが、それをスルーして廊下を早歩きで逃げるように突っ切る。

 

「とは言ったものの……」

 

俺にオリヴィアが居そうな場所の心当たりなんて一切無い。そもそも学園内の構造すら把握していないと言うのに。

 

「……屋上なら学園を見渡せるか?」

 

闇雲に探しても時間の無駄だと思い、そう無難な選択に辿り着くと、俺は屋上に続く階段を駆け登った。

 

 

 

 

「……居たよ」

 

屋上に辿り着くと、そこにはその白い髪を夕陽の茜色に染めて一人ポツンと空を眺めているオリヴィアの姿があった。まさか屋上に居るとは思わなんだ。

 

「…?」

 

俺の声に反応してオリヴィアが此方へと振り向く。振り向く際に揺れるその髪は夕陽の光できらきらと輝き、とても綺麗でついつい見惚れてしまい言葉を失う。

髪の色や細かな部分は異なるにしても、目の前に居る白い少女は俺の憧れる人とまるで鏡映しでもしたかのように瓜二つで…。そのうえ、こんな夕陽の演出までされたら見惚れても仕方が無いだろう。

 

「どうしたの?」

「………ぁ……っ!?あ、ああっ!悪い悪い!ちょっとぼーっとしてた!」

 

オリヴィアの声に、まるでのぼせている時に似た状態から目を覚ますと、慌ててポケットから山田先生から預かった部屋のキーをオリヴィアに渡した。

 

「ほら、オリヴィアの部屋のキー。渡されてなかっただろ?」

「……そういえば。ん、ありがとう」

 

礼を述べてからオリヴィアはキーを受け取ると。再び視線を空へと戻す。

 

「オリヴィアは空を眺めてるのが好きなのか?」

 

あまりに真剣に空を眺めているもんだからつい訊ねてしまう。

 

「ん。でも、飛んでる方が好き」

「飛んでる……ああ、ISの話か」

 

そういえばオリヴィアはセシリアと同じで代表候補生なんだっけな。セシリアとは性格が全然違うからすっかり忘れていた……と、言うよりも、容姿のせいでそっちにしか意識が向いて無かったからもあるんだけど。

 

「オリヴィアも代表候補生だからエリートなんだよな。凄いなぁ」

「……ミコト」

 

ぼそりと何かを呟く。

 

「うん?」

「ミコトで、いい」

「え?良いのか?」

「ん。オリヴィアだと、クリスもオリヴィアだから」

 

クリスが誰かは知らないが、本人が良いと言うんだからお言葉に甘えるとしよう。

 

「じゃあ、ミコトって呼ぶな。……あっ!そう言えば自己紹介がまだだったよな?俺は織斑一夏。俺も一夏って呼んでくれ」

「ん。よろしく、一夏」

「ああ、よろしくな!」

 

互いに自己紹介を済ませて二人で空を見上げる。茜色に染まる空とキラキラと夕陽の光に反射して輝く海がとても綺麗だ。

そして、暫くして未だ俺達は景色を眺めているのだが。ミコトが景色を楽しんでいるなか、俺はその隣で一緒に眺めながらどうしても気になっていた事を聞こうか聞くまいか真剣に悩んでいた。その聞こうとしている内容は勿論ミコトの容姿についてだ。ミコトはあまりにも千冬姉に似すぎている。他人の空似と呼ぶには片付かない程に…。

もしかしたら血縁者ではないか?有り得ない話ではない。俺の両親は千冬姉と俺を捨てて何処かへ行ってしまったのだから。もし、あの親がまた子を産んでたとしたらなら……と、俺は考えていた。そして、悩みに悩んで意を決して訊ねてみることにした。

 

「……なあ、ミコト」

「ん?」

 

空に向けていた視線を此方へ向ける。

 

「ミコトは……俺の両親と何か関係があるのか?」

「ううん。関係無い」

 

ミコトはふるふると首を振って俺の質問を否定する。

 

「私は、クリスの娘。ミコト・オリヴィア」

「………そうか」

 

安心したような、ガッカリなような……。いや、今更両親の行方なんて知っても仕方が無いんだけどな…。

というか、クリスと言うのはミコトの親だったのか。外国じゃあ兄弟同士呼び捨てで呼び合うらしいから親を名前で呼ぶのも珍しくは無いのかな?

 

「そろそろ寮に行こうぜ?もうすっかり暗くなっちまったし」

 

気付けばもう夕陽は完全に沈んで辺りはすっかり夜一色に染まっていた。夜の校舎は不気味だし早々に退出するとしよう。

 

「ん」

「いや〜、それにしても入学初日に決闘申し込まれたりするなんてなぁ」

「ん」

「ミコトもゴメンな。俺が口喧嘩なんかしたから関係無いミコトまで巻き込んで」

 

もし、あの時セシリアに反発せず適当に聞き流しておけばミコトも巻き込まれずに済んだ筈だ。だから決闘の件は全て俺が悪い。だからちゃんと謝っておきたかった。巻き込んでごめんって。

 

「問題無い」

 

俺の謝罪にミコトは小さく首を左右に振る。

 

「いや、だけどな」

 

ISは兵器だ。最強の。そんな物を使った模擬戦が絶対に安全だとは言い切れない。怪我だってするかもしれない。そんな物騒なことに巻きこんだりして気にするなと言うのは無理がある。

 

「大丈夫。ペルセウスは負けない。絶対」

 

ペルセウス。ミコトのISの名前だろうか?でも、その名を口にした時のミコトの声は自信に満ちていて、そのISに対してとてつもない信頼を抱いているのは分かる。だからこそ、自信を持って言えるのだろう。敗北なんて有り得ないと。

しかし、似たような内容の言葉でも、ミコトセシリアとでこんなに違うとはな…。自信と慢心って全然違うというのが二人を見ていれば分かる。

 

「そっか……じゃあ、お互い頑張ろうな!」

「ん。でも、一夏にも負けないよ?」

「上等!俺だって負けないからな?」

 

ニカリと笑みを浮かべてグッと親指を立てる。

それから俺とミコトは寮へと帰った。しかし俺はまだ事の時は知らなかった。俺が負けないと宣言した相手の実力を、対等と考えるにはあまりにもおこがましいと思えるほどの圧倒的な力の差を…。

 

 

 

 

 

 

―――そして、一週間が過ぎた…。

あれから、色々なことがあった。寮に戻って自分の部屋に向かったら相部屋の相手が箒だったり、箒と喧嘩?してミコトに仲を取り持つ貰ったり、箒にISの練習を見て貰う事になったり、まあ色々あった。その話は本編を参照してくれ。(メタ言うな)

そして、勝負の当日。俺の専用機がまだ届いていないと言うアクシデントが発生するもギリギリとの所で間に合いセシリアとの勝負は始まった。…結果は惜敗。あと一歩と言うところでシールドエネルギーが尽きて俺の敗北。

クラス代表を賭けた戦いは、セシリアとミコトという形で行われる事となった。

 

「…ミコトの奴、大丈夫かな?」

 

ピットから観客席へ移動した俺は不安そうにアリーナを眺めながら箒に訊ねる。つい先ほど負けたばかりだ。セシリアの実力は身をもって知っている。セシリアをギリギリの所まで追い詰める事が出来たのも、機体の相性とセシリアが油断してくれたからあそこまでの結果が出せたんだ。もし、もう一度勝負したらきっと俺は惨敗するだろう。それ程セシリアは強かった。

 

「さあな、少なくともお前のような無様は敗北はしないと思うがな」

「うぐっ…」

 

ジト目で睨んでキツイ事を言ってくる箒に俺は呻き声を上げる。負けて傷心中の人間になんと容赦のない幼馴染だ。

 

「……始まるぞ」

 

セシリアの機体の補給と整備が終わり、ブルー・ティアーズがピットから再びアリーナへと舞い戻って来る。そして、遅れて反対側のピットからもミコトの機体が飛び出してくる。その直後、わいわいと騒がしかった観客席がしんと静まり返り、ミコトの搭乗する機体に目を奪われた…。

 

「翼…?」

 

観客席の誰かが呟く。

そう、ミコトの機体には翼が生えていた。鳥…いや、あれは天使と言った方が正しいのかもしれない。ばっさばっさとその翼を羽ばたかせて宙を浮き、右手には槍、左手には鏡のように反射するバックラーが装備されていた。美しい…。まるで、その姿は神話に登場する戦乙女を連想させる。

 

『随分と忙しない機体ですのね?』

『ん。でも、この方が飛んでる気がするから』

 

…?どういう意味だ?

 

俺はセシリアの忙しないと言う言葉の意味が理解出来ないでいると、隣に座っていた箒がその説明をしてくれる。

 

「……あれにはどうやらPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)が積まれていない様だな」

「PIC?」

 

なんだそれ?

 

「授業で習っただろう!浮遊・加減速などを行うことができるISの基本システムだ!」

「……ああっ!」

 

そう言えばそんなこと言ってたな!

 

「セシリアが言ってるのは、ああやって翼を羽ばたいて空中にいるのを維持しているミコトに対しての皮肉だろうな」

 

…成程。

 

『ふふっ…覚悟なさい!このセシリア・オルコットがその翼をもぎ取って地上に這い蹲らせてご覧にいれましょう!』

 

セシリアはライフル構え即座にミコトへ照準に合わせてトリガーを引く。キュインッと耳をつくエネルギー兵器独特の発砲音。そして、それが開幕の合図となった。

 

『――――――…ぁ……え?』

 

誰もが言葉を失う…。

 

代表候補生同士の戦い。観客席で観戦している生徒の誰もが激戦を予想していた。けれど、そんな事にはならなかった。誰が…誰がこんな結末を予想しただろう?開戦と同時に全てのビットが切り払われ、一瞬のうちにセシリアの喉元に槍を突き付けているミコトの姿を…。

そう、戦闘なんて起こりもしなかった。圧倒的力にセシリアは反応も出来ずに敗北したのだ。

 

『やったね。ペルセウス・カトプトロン』

 

無邪気に喜ぶミコトの声が聞こえてくる。

それと同時に戦闘終了のブザーが鳴った。アナウンスが告げる勝者の名は当然、ミコト・オリヴィアの名。

 

皆が唖然と眺める中、ミコトは悠々とアリーナの中心で勝ち誇る。その勝ち誇る姿に俺は千冬姉が重なって見えていた。

 

そう、あそこに居るのは戦乙女≪ブリュンヒルデ≫。

 

鏡映しの戦乙女だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペルセウス・カトプトロン≪ペルセウスの鏡≫

ミコトの第三世代型IS。イカロス・フテロのギリシャの手によって完成した姿。イカロス・フテロは搭乗できるパイロットが居なかった為にデータ収集が出来なかったが、ミコトという存在が現れた為に一気に開発が進み完成まで至った。『クローン計画』が正しかった事を証明する機体でもある。

 

イカロス・フテロ≪イカロスの翼≫

ペルセウス・カトプトロンの翼は、第三世代実験機のイカロス・フテロの翼をそのまま流用。構造はブルーティアーズの『BT兵器』に似たの技術を使用し、8枚の翼の先端に着いているスラスターを全て操作する事で複雑の機動を可能とする。しかし、これを使用するには高いBT適正が必要。

 

鏡楯

ペルセウス・カトプトロンの弱点とも言えるレーザー兵器。その対策に対レーザー特殊コーティングが施された鏡状のバックラーが装備された。しかし、対レーザー特化と重量を可能な限り減らしたために実弾兵器には意味をなさない。

 

戦乙女の槍

ペルセウス・カトプトロンの唯一の武装。特別記す程の特徴は無い。ミコトの身長くらいある大きな槍。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

本編のテキストを切り貼りやシーンカットを多様してます。だって、大人になってもミコトはミコトだからあんまり変化ないんだもん…。

 

まあ海イベントはとんでもないことになるだろうな。本当にとんでもないことになるだろうな!バ・ス・ト・的・に・考・え・て!書く予定無いけどね!虚しくなるから!

先生。俺もミコトの胸に顔を埋めたいです…。

説明
ただの切り貼りじゃないか…。
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コメント
ヤバイ。本編も面白いですが、これの続きも読みたいです!(朝区洋邦)
本編が落ち着いたら続き書いてください!!(メビウス1)
これ連載してくれ!!(ふじた)
ありがとうございますぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!クリス生存のif未来!!!一瞬画面がゆがみました!!!(D,)
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