悪魔に転生した彼は老衰を望む
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この堕天使は油断していたのか誘っているのかわからないが、俺の接近を許した。なので、まずは小手調べに俺はナイフを縦に一閃する。

 

 「ふっ」

 「ぐっ、おのれ貴様!俺の体に傷をつけたなぁ!」

 

 当たった?今のは追撃に対処するために軽く振ったのだが、堕天使は避ける気配がなかった。まるで反応できていないかのように…。まさか、こいつ…

 

 「弱い?」

 「ぐああああああああ!弱いって言うなぁぁぁぁ!」

 

 え、図星なの?

 

 「悪魔風情が馬鹿にしやがって!喰らえやっ!」

 「!?」

 

 俺の発言に怒った堕天使は光の槍を投擲してきた。相手の力量を知り少しだけ気を抜いてしまったので、一瞬反応が遅れたが何とか直撃は免れた。が、腕に少し掠ってしまった。

 

 「ぐぁ!くそが!」

 

 俺の体に走る激痛

 

 「(掠っただけでこの痛みか。直撃したら拙い…!)」

 

 しかし痛みに意識を割く余裕はなく、次から次へと光の槍を投擲してくる。俺は痛みに弱いわけではない。これまでの修行で痛みなんてものは幾度となく体験してきたからだ。だから腕に掠っただけでは、ここまで反応はしない。だが現に俺は痛みで反応が遅れてきている。それは何故かというと…

 

 「くはははは!痛いか?痛いだろうなぁ…。なんたって悪魔にとって“光は毒だからなぁ”」

 「うるせえ!」

 

 悪態を吐きながらも俺は避け続ける。光とは神や天使、そして堕天使等が使い、悪魔達にとっては弱点と言えるものである。悪魔が喰らえばひとたまりもなく、この光で滅された悪魔は無に返ると言われている。だから悪魔にとっては掠るだけでも拙い攻撃なのだ。それを喰らってしまった俺はかなりヤバい状態といえる。

 

 「(くそっ、油断した。目が霞んできやがった。…俺はここで死ぬのか?)」

 

 ネガティブな思考になるが避けるのは止めない。

 

 「(考えろ考えろ考えろ。この場を切り抜ける方法を、あの高笑いしてる馬鹿を倒す方法を!)」

 「はーっはっはっは!どうしたどうしたぁ?避けるだけじゃつまらないだろう?もっと楽しませろよ!」

 

 堕天使は笑いながらも槍を投げる手は止めない。しかし、ペースを考えずに投げていた性か光の槍の威力もスピードもなくなっている。とはいえ、光の槍が掠ってしまった俺も長時間戦闘を出来る体じゃない。魔力で応戦すればいいと思うかもしれないが、あれは集中力がいるし、使っている間に光の槍に貫かれたら終わりだ。全快の時ならまだしも、この状態で激しく動きながらの魔力行使が出来るほど熟練はしていない。

 

 「(ナイフじゃリーチが足りない。魔力は使えない。せめて剣があれば…あれは!)」

 

 俺が見つけた最後の希望。俺の右側にあるロングソード、避けるのに精いっぱいで見逃していたようだ。

 

 「(あれがあれば奴を倒せる。しかし取りに行くには少し遠い。どうにかして隙は作れないものか)」

 

 俺は自分の所持品を思い出す。

 

 

 

 ・そこらに落ちていたナイフ

 ・潰れると臭い木の実

 ・魔物を狩って手に入れた肉

 ・魔物の牙など

 

 

 「なんでこんなもんしか持ってねぇんだよ!って危ない!」

 

 使えないものしか持っていなかった。

 

 「これでも喰らえ!(こんなことならもっといいもの持っとけば良かったよ!)」

 

 苦し紛れに木の実を投げる。しかし奴の光の槍に潰されてそれが奴の顔に当たった。そう、木の実が潰れされて(・・・・・・)

 

 「ふはは!そんなもの効かぬyって臭ぁ!!」

 

 奴はあの臭い木の実の匂いを嗅いでしまい、大きな隙が出来た

 

 「うおおおおおおお!獲った!」

 

 その隙にロンングソードを獲る。それと同時に奴も立ち直ったようだ

 

 「貴様ぁ、貴様だけは絶対に殺す!」

 

 奴はまた光の槍の投擲を始める。俺は魔物の牙や肉を投げて相殺する。それが出来てしまう程に奴の光の槍の威力は下がっていた。焦りを見せ、必死に槍を投げ続ける。といっても此方も余裕がないのは確かだろう。後一度でも光の槍を喰らったら、俺は無に返るだろう。それでも俺は奴に近づく。

 

 「来るなぁ!来るなぁ!来るなあああああぁぁぁぁ!」

 

 奴にはさっきまでの余裕の欠片もなかった。そしてついに

 

 「うわぁぁぁ!……あれ?どうして、どうして槍が出ないんだよ!」

 

 弾切れ。

 

 ここまで打てたのが不思議なくらいに奴は打ち続けていた。多分この槍が無限に出せたなら俺は負けていただろう。

 

 「ひっ」

 

 奴は俺に小さく悲鳴を漏らした。そして命乞いをしてきた。

 

 「こ、殺さないでくれ!っは、はは。ちょっとしたジョークだったんだよ、ジョーク。だから見逃してくれよ。」

 「ジョークだと?俺を本気で殺そうとしてたのによく言うぜ。」

 

 俺は殺気を込めながら睨む。

 

 「しかも、俺じゃない誰かを狙っていたじゃないか。俺程度にやられているようじゃ、そこまでの力は持ってないんだろ。誰を殺そうとした?」

 

 そうなのだ。これが疑問だった。奴は俺との戦闘前に誰かを殺しに行くといった風に言っていた。しかし、俺にやられるようでは、子供くらいしか殺せないだろう。

 

 「は?あ、あぁそのことな。俺はな、堕天使の中でもエリートなんだよ。だからさ、怨敵である悪魔。しかも滅びの力で我らが同胞を屠ってきたバアル家の当主を殺そうと思ったのだ。」

 「はぁ?」

 

 何を言ってるんだこのバカは。こいつはただの自意識過剰だったんだな。

 

 「そ、それよりもさ。俺を見逃してくれよ。悪魔を襲わないって約束するからさ!本当だ!」

 

 俺はこの見え透いた嘘で心が冷めた。俺はどこかで迷っていた。前世の記憶で人型の生き物を殺すのに抵抗を感じていた。しかしどうだ?格下相手に少しの油断でここまで追い詰められた。この世界で殺しに迷ったり抵抗したりしていたら命がいくつあっても足りない。決めたじゃないか、生き残ると。

 

 「悪いけど。」

 

 俺の言葉にビクッっと体を反応させた。

 

 「お前を生かしておくわけにはいかない。」

 

 こいつは俺の為に殺す。

 

 「ありがとう。俺はまた成長出来た。」

 

 こいつは俺のエゴで殺す。

 

 「くそがぁ!恨んでやる、呪ってやる!」

 

 「さよならだ」

 

 こいつは俺が生き残るために殺す。

 

 『ザシュッ』

 

 

 

 その不愉快な音の後に残ったのは、血に塗れた少年だけだった。

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