垂水百済はマイナスである ――172回目の【僕】――  EXTRA―3 安心院不和という男
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 他人の目にどう映ろうが、それが自分と何の関係がある。

 

 ――148回目の【俺】――

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 CASE−1 飼育委員会一年生の証言

 

 えっ……と、不和先輩がどんな人に見えるかってことですよね?

 一言で言い表すのはちょっと難しいです。なんて言うか、見かけは怖い人ですけど、黒神さん――生徒会長とは別の意味で頼り甲斐があるっていうか、会長を止められるスゴイ人って感じですか?

 初めて不和先輩と会った時も色々と大変だったんです。

 あれはうちの委員長と会長が喧嘩してた時のことなんですけど……。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「はあぁ……」

 

 不和先輩は私の隣で盛大に溜め息を吐きました。

 私もつられて何十回目かもわからない溜め息を吐きます。

 いつもなら部活動とかで賑わう時間なんですけど、今は別の意味でグラウンドが騒がしいです。

 

「猫の愛らしさに敵うわけないだろ!!」

 

「ワンちゃんの方が可愛らしいに決まっておろうが!!」

 

 穴だらけになったグラウンドの中央で、土煙に紛れて二つの人影が取っ組み合いの喧嘩をしています。喧嘩というか、これはもう戦闘です。お互いの主張を譲らずにぶつけ合う小さな戦争です。私ゲームとかはあんまり詳しくない方なんですけど、二人とも必殺技とか繰り出しそうな勢いです。

 周りは野次馬で溢れ返っていて無責任に応援なんかしています。

 早く何とかしないと風紀委員がやってきて三つ巴の大戦争に発展してしまいそうです。

 私は飼育委員として、この場に居合わせた者として、二人を止めないといけないんですけど、正直近づきたくありません近づけません。だって地面を殴ると拳がめり込んで蜘蛛の巣状にヒビが入るんですよ?『あ、ゴメン間違った』とか言われて万が一にも私に当たっちゃったりなんかしたら怪我じゃすみませんよ? リアルに頭がぐしゃっと潰れたりぽーんと飛ぶイメージが脳裏に生まれてヒィイイイなんです。

 生徒会長の黒神さんも、その黒神さんと互角に殴りあっている上無津呂委員長も化け物です。

 

「――ったく、なんで僕が止めなきゃならねぇんだか」

 

 口から鮫のような牙を覗かせながら先輩は言いました。顔の上半分はフードの陰に隠れてよく見えません。やれやれと首を振りつつも、散歩でもするような軽い足取りで会長たちに向かっていきます。

 この学園の生徒会役員は個性的過ぎる人ばかりですけど、その中でも、役員でもないのに生徒会に入り浸ってる先輩は私達一年生の間で噂になってました。私も黒神さんに抱きつかれていたり、授業中でも屋上や廊下を歩いている姿を何度も見たことがあります。

 聞いた話だと登校義務も免除されていて、本当なら学校にも来なくていいらしいです。クラスメートのみんなは羨ましいって言ってますけど、来なくてもいい学校って何の意味があるんでしょうか。

 なんて考えていると、ゴギンッ!! と大きな岩をぶつけ合ったような音がしました。

 パーカーのポケットに手を入れて立つ先輩の足元で、黒神さんと委員長がオデコを押さえて蹲ってます。二人とも涙目だし、ぷるぷる震えてるし、とっても痛そうです。

 うわぁ、と野次馬のみんなの顏も引き攣ってます。

 

「はーいはい、めだかちゃんに杖ちゃん。ちょっくらお兄さんのハナシ聞いてくれると嬉しいんですがぁ。どうしてもまだ喧嘩したいっつーんなら今のもう一発いきますよー?」

 

 黒神さん達は無言のままコクコクと頷きました。

 

「で、喧嘩の理由は?」

 

 先輩は静かに尋ねます。

 よく考えたら、私も二人が喧嘩してた理由を知りませんでした。

 

「「ね、猫派か犬派かで意見が食い違って喧嘩になりました」」

 

「………………あぁ?」

 

 それを聞いた途端、先輩の雰囲気が変わりました。

 さっきまでの、どこかのんびりとしたマイペースな感じではなくて、『そんなくだらないことで喧嘩してたのか』と言わんばかりの表情です。先輩から真っ黒い『何か』が霧のように漂い始め、場の空気が二、三度下がったような気がします。叱られているのは私じゃないのに、足を地面に縫い付けられたかのように動くことができません。

 いつもは凛としている黒神さんも、野生児と呼ばれている上無津呂委員長も、今はそれこそ借りてきた猫みたいにおとなしく正座しています。

 場を完全に支配した先輩はそんな二人を見下ろしたまま、何も言おうとしません。

 先輩の顔を上目遣いでおっかなびっくり窺う黒神さん達を、私は不謹慎ながら可愛いと思ってしまいました。今の二人はとっても普通の女の子に見えます。

 十分ほど経って、沈黙に耐え切れなくなった上無津呂委員長が何かを言おうとしたとき、

 

「…………二人とも」

 

 先輩はゆっくり口を開きました。

 黒神さんの肩がびくりと震えて、出鼻をくじかれた上無津呂委員長も首を竦めます。

 

「喧嘩するなとは言わねぇけど、もーちっと周りの迷惑っつーもんを考えろ。さっさと仲直りしてこのタコヤキ機みてぇな穴を全部埋めろ。それとお前らも――」

 

 先輩の怒りの矛先は野次馬にも向きます。

 

「面白がって適当に煽ってんじゃねぇよ。今度僕が出張らなきゃならねぇよーな状況にしてみろ、んな真似しやがったら全員黒ひげ危機一髪みてぇな素敵オブジェに変えてやるからな」

 

 その後、二時間にわたる説教が終わるまで、誰も一歩も動けませんでした。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 今思い出すと、あれはまるでお父さんですね。

 黒神さんと上無津呂委員長――この学園でも屈指の武闘派二人を一撃で無力化した先輩に、誰も逆らおうとはしませんでした。生徒会で一番スゴイのは黒神さんですけど、一番怖いのは不和先輩だということを思い知らされた一件です。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 CASE−2 選挙管理委員会二年生の証言

 

 ん? あたしに不和くんのこと聞いてどうすんのよ。あたしより委員長の大刀洗さんや副委員長の長者原くんの方が仲良くやってるじゃない。

 ……起きてくれなかったり忙しかったりで話聞けない? 

 まったく。

 長者原くんはともかく、太刀洗さんも学校に来てるんだったら後輩の相手くらいしてやればいいのに。

 でも、あたしはあんまり不和くんと話したことないわよ? それでも構わないって? ならいいけど。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 やっぱりこの二人の関係って謎だわ。単純に、仲がいい友達って言うならそうなんだろうけど、そうじゃなくて何かもっと別の、あたしには理解できないようなところでつながっていそうな気がするのよ。

 でも、今はちょっと違うわね。

 

「不和くんガンバ〜」

 

「お前も少しは自分で動けっつーの」

 

 時計塔の屋上へ続く長い階段をひたすら上っていく不和くん。背中にだらけた大刀洗さんがおぶさっているその姿は…………強いて言うなら運送業者かしら?

 いつもの大刀洗さんなら、委員会にあてがわれた部屋でスヤスヤ眠ってるか、学校にすら来ないかのどちらかなんだけどね。

 あたしが昼休みを利用して仕事を片付けていたら、同じ委員の男子が数人、大刀洗さんを載せた布団を部屋に運び入れてきたの。あ、もちろん覆面はみんな外してたわよ? 選挙管理委員って仕事柄公平な立場に居なきゃならないから顔を隠さないといけないんだけど、さすがにあのままじゃ書類なんてよく見えなくて仕事にならないもん。隠すのは選挙期間中くらいね。普段から隠してたら逆に選挙管理委員だってバラしてるようなもんだし。

 なんて思っていたら、太刀洗さんは誰かに電話をかけ始めて、五分もしないうちにやってきたのが不和くんだったって訳。

 不和くんは慣れた手つきで大刀洗さんを背負うと、あたしに布団を持ってついてくるよう頼んだ。あたしとしては雑務をさっさと終わらせたかったんだけど、『委員長命令だよ〜』なんて言われたら従わざるを得ないわよ。『後でやっておくよ〜』とも言ってくれたから別に良いんだけど。大刀洗さんは一日二時間しか起きない代わりに、あたしの何倍も有能だから。

 あたしも知らなかったけど、二人は昼寝仲間で、この日は時計塔の屋上で昼寝すると前から約束してたらしい。でも何だってそんな場所で寝たがるのかしら。確かに景色は良いだろうけど。

 

「おーい、置いてくぞー?」

 

 顔を上げると、不和くんは階段のかなり上のところであたしを待っていた。大刀洗さんは不和くんの肩に頭を載せて眠っちゃってる。運んでもらってるのに……。

 あたしが彼女を起こそうとすると、

 

「止めとけ。こーなったら自然に起きるのを待つしかねぇよ。もともと昼寝するために上ってんだから、丁度いいっちゃ丁度いいしな」

 

 ……それでいいのかしら。

 不和くんって意外と合理主義で甘やかすところがあるみたいね。

 まあ、本人達がそれでいいならあたしも何も言えないんだけどさ。

 

「面倒になったら、いっそここで寝るっつーのもアリかもなー」

 

 ケタケタ笑いながら、不和くんはまた階段を上り始めた。

 人一人背負って休みなく歩き続けているけど、疲れた様子はない。

 体力がある――というより疲れを疲れとして感じてないように見えるのは何故かしら。

 

「こいつが見た目以上に軽いからだよ。まったく何食って生きてんだか」

 

 もしかして光合成でもしてんじゃねーか、と前を向いたまま不和くんは言った。

 読心術でも使えるのかしらこの人は。

 

「まあ、食っちゃ寝してる割にゃ発育はよろしくねぇみてーだけどなグゲゲゲッ」

 

 …………女心には疎いようだけど。

 最後に奇声を上げたのは、別に不和くんが壊れたとかそういうことじゃなくて、いつのまにか起きていた大刀洗さんが後ろから両腕で首を絞めていたから。

 

「不和くん〜。女の子に身体ネタは軽くセクハラだよ〜?」

 

 やっぱり大刀洗さんも少しは気にしてたのかしら。

 同性の目から見ても、そのちっちゃくてスレンダーな体型はちょっと…………ねぇ? 

 あたしでももう少しあるもの。

 

「ちょいと斬子ちゃん、さすがの僕でもギブですギブ。御免なさい許してください」

 

「ダメ〜」

 

 あ。今なんとなくわかった。

 この二人、友達って言うより兄妹に近いんだ。

 相手の顔色を窺うように仲良くしてるんじゃなくて、家族みたいにお互い気兼ねなくものが言える羨ましい関係なんだ、とあたしは遅まきながらに理解した。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 結局屋上まで行ったんだけど、あたしが帰った後も長者原くんが迎えに行くまで二人して眠りこけてたそうよ。

 最近は天気が良いといつもあそこで寝てるらしいから、あなたも不和くんを探してるなら行ってみれば? あの時は階段を使ったけど、エレベーターに乗ればすぐだし。

 え? あの二人が付き合いそうな気配はあったかですって?

 うーん…………どーかしら?

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 CASE−3 図書委員会三年生の証言

 

 彼はけっこう頻繁に((図書館|うち))を利用してくれてるお得意様だよ。

 借りていく本はラノベだったり漫画だったり哲学書だったり学術書だったりと嗜好の統一性はないよ。委員長の十二町みたいなビブリオマニアとは違って、読める物であるなら何でも良い軽度の活字中毒のようだね。読んだ本を一字一句全て丸暗記している十二町と、よく本について対等に語り合っていたりもするから侮れないよ。最近だと『逆スフィンクスゲーム』とか作って対戦してるしね。

 そんなことより十二町とどれくらい仲が良いのかだって? 

 面白いことを聞くね、きみは。

 約束までして逢瀬を重ねるような関係じゃなくて、お互いに都合の良いときだけ気軽に話す、そんな関係のようにも見えたけど。まあ、あくまで私の主観だから断言は出来ないよ。恋愛なんてものは風邪と同じで罹る時には罹るものだからね。

 でも、あの二人も最初はそんなに仲良しだったわけじゃないよ。

 そもそもクラスが違うし、十二町は普通科といっても特待生だから中々の曲者で、不和くんに至ってはあの格好であの性格だろう? 水と油――とまではいかないにしても、友達になれるような二人ではなかったよ。

 きっかけになるような事と言えば、間違いなくあの事件だね。

 私は傍観してただけだけど、確かきみも協力してくれたんじゃなかったかな?

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ページが切り取られてる?」

 

 私が本を配架していると、本棚の向こうから男の声が聞こえてきた。その後すぐに知っている声も聞こえてくる。

 私の後輩であり図書委員長、十二町矢文のものだった。

 薄暗い書庫の中は、内緒話をするには格好の場所。

 二人きり、しかも男女でとなれば、何を話しているのか好奇心がむくむくと湧き上がってくる。けれど、会話の内容は高校生としては些か殺伐としていた。

 

「そう。『真理というものはたえず反復して取り上げられねばならないのだ』(エッカーマン『ゲーテとの対話』)――本は本であるから本なのであって、途切れて読み返せなくなってしまった本は価値を失ってしまうのよ。まったく嫌になるわねん。ぅ私が確認しただけで、もう十冊以上もやられちゃってる」

 

 十二町の声は静かではあったけれど決意に満ちていた。

 何も、彼女だけが怒っているわけではないんだけどね。私も、他の委員の子だって、本が好きだから図書委員になったんだ。だからこそ、皆が許せないと思っている。

 切り取られた本を最初に見つけたのは十二町だった。その時の彼女の顔はとても悲しそうで、見ている私も心が痛んだ。また一冊、もう一冊と見つかっていくうちに、悲しみは怒りに変わっていった。

 

「そいつぁまた、いただけねぇ話だなぁおい。どーりで僕が読もうと思った本ばかり『修理中』で借りられねぇわけだ」

 

 あ、この声思い出した。

 いつも借りにくる男子だ。名前はまだ思い出せないけど。

 会長さんに抱き着かれたり小っちゃい女の子を肩車したりして色々と凄く目立っちゃってる有名人さん。ぶっちゃけ私にはいっつもフードを被っている変人にしか見えないんだけど、話してみると意外に普通で逆に驚いた。

 

「『ただ自分の論理と理性を持つ真摯な心だけが自由なのだ』(シャガール『シャガール わが回想』)とは言うけれど、魔が差した本好きと考えるにはちょっと好き勝手にやり過ぎね。間違って破れてしまったのなら、素直に言ってくれればこっちだって怒ったりしないのに……」

 

「破れたんじゃなくて、カッターか何かで切り取ってる時点で確信犯だろ。一回目で味を占めてそのままズルズルと――ってとこか」

 

 本棚の陰から二人が出てきた。私には気付いていないらしい。……そんなに影が薄かったかな。

 十二町は眉間にしわを寄せていて険しい顔。男子の方はフードの陰に隠れていて表情はよく分からない。

 

「けど何だってこのことを僕に教えたんだ? それこそ目安箱に投書すりゃいい話だろーが。めだかちゃんは僕なんかより何倍もキレるぜ? 基本馬鹿だけど」

 

 それは私も提案した。

 下につけども従わず。

 それが箱庭学園における各委員会の基本方針ではあるけど、もう図書委員会だけの問題じゃあなくなってきてたし、何より早く止めさせないとこれ以上に取り返しのつかないことになってしまいそうだったから。

 

「『だからまず完璧というのはたくさんいますから、人びとはそれでは満足しないのです。 成功に必要なのは完全無欠です』(ショパン、アーサー・ヘドレイ『ショパンからの手紙』)――確かにあの黒神ちゃんならあっという間に犯人を見つけてくれそうだけど、それでもぅ私はきみに頼みたいのよ。本好きの気持ちは、本好きにしか分かってもらえないだろうし」

 

 そーですか、と呆れたように男子は言った。癖なのか照れ隠しなのか、しきりに首を擦っている。

 それにしても、十二町も本気かね? 私には彼が探偵志望には見えないんだけど。

 

「ま、僕もこのままじゃ腹に据えかねるし、腕のいい情報屋を雇うとしますか。とりあえず、被害に遭った本のタイトルをお兄さんに教えとくれ」

 

 取り出したケータイを指先でふらふら揺らす。

 頷いた十二町が本の題名を列挙していき、男子はカチカチカチと呟きながらメールを打つ。

 

「――これで全部よん」

 

「オッケ。んじゃ送信、と」

 

 メールを送ったあと、彼は本棚に背を預けた。そのまま五分、十分と時間が過ぎていくけど、特に行動を起こそうとはしない。

 

「『人間を知ることは、人を観察する者がまず確かな自主性を持ち、またなんらの欲望もいだかぬとき、つまり観察する者の側で一切の利己心をできるだけ完全に捨て去るときのみに可能である』(ヒルティ『幸福論』)ってこと。犯人の気持ちになって考えるのは推理の鉄則だぜ矢文ちゃん。人気がある本ばかり狙ってるってこたぁ、自分の犯行を他人に見せつけて楽しんでるってことだ。悪戯が成功したガキみてぇな奴なら、仲のいい奴の一人か二人くらいには自慢しちまうだろ。そうやって水面下で噂は広がっていく。僕の読み通りにそうなってんなら話は簡単だ」

 

 そこまで言ったとき、彼のケータイに着信があった。

 

「さっすが半袖。仕事が早いこと」

 

 彼はケータイの画面に目を走らせながら、十二町に説明を続ける。

 

「本の題名やら犯行推定時刻やら利用した生徒やら、その噂の一端――((らしい情報|・・・・・))の一つでも見つけることが出来りゃあ、あとは元を辿っていくだけで犯人がわかっちまうもんだ」

 

 こんな風にな、と画面から漏れる光に照らされた彼の笑顔は、獲物を見つけた獣のように荒々しく恐ろしいものだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 犯人はあっけなく見つかったよ。

 犯行動機はあまりにも馬鹿馬鹿しいものだったから忘れちゃったけどね。

 とにかく、あの一件で不和くんと十二町は今みたいな『友達』になったんだ。

 そう友達だよ、と・も・だ・ち。

 十二町が自分のことをときどき『おねーさん』て言うのも不和くんの真似のようだよ? 本人は否定してるけど。

 ああそれと、少なくとも不和くんは十二町を異性としては見ていないと思うね。

 大事なお兄ちゃんが取られなくて安心したかい?

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「――以上、不和兄ぃの女関係に関する半袖ちゃんレポートでした!」

 

 ない胸を張る不知火と彼女が作成した資料を交互に見て、不和はただ一言、

 

「半袖。お前退屈してんだろ」

 

 よくもまあここまで事細かに調べ上げたものだ。

 資料には不和が気にも留めなかった些細なことまで何ページにもわたって記載されている。

 怒るほどのものでもないので、とりあえず不知火の頭をぐりぐり弄り回していると、

 

「むっ!?」

 

 突然、不知火のアホ毛が反応を示した。

 

「どした?」

 

「人吉があたしに助けを求めている気配が!!」

 

 今日は確か、めだかと阿久根が案件処理で生徒会室にはおらず、善吉と喜界島の一年生組だけだったはず。善吉はあまり女子との会話が得意な方ではないし、喜界島も今までの立場から他人と接するのは苦手なように思える。

 

「……まずロクな事にはなってねぇだろーな。今日は生徒会室に行くのやめとくか」

 

 じゃーねー不和兄ぃー、ときゅぽきゅぽ変な音を立てて去っていく不知火に手を振りながら、不和は手元に残った資料を読み返して溜め息を吐いた。

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番外編 その3
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