異世界ゆるり旅 |
さて、諸君は「力」についてどう考える?
ある人は「正義」と答えるだろうし、ある人は「生存競争のために必要な物」と答えるだろう。他にも、「象徴」や「悪」と答える人もいるだろう。
それらはどれも正解であるだろう。「力」に感じる印象は、人それぞれだから。
では俺は?と尋ねられると、はっきりとこう答えるだろう。
力とは、麻薬であると。
なぜ?と訊かれる時がある。だが、俺はそれに答えることはしない。馬鹿にしていると思われるからだ。
まぁ今は心情を吐露する形だろうから、特別に俺の考えを教えるか。
俺が力を麻薬と考える理由。それは、溺れやすいからだ。
力を持っているものはそれを誇示するために揮い、力なきものはそれを求めるために何かをし、力を得る。
だが、それらは使い方を誤る、もしくは、そればかりを求めると、修羅や外道と呼ばれ、そのまま堕ちていくだろう。
つまり力とは、使い方を間違う、もしくは求め過ぎると、麻薬のような中毒症状に陥ってしまってそれしかできなくなり、やがては身を破滅させる。
俺はそんな考えを持っているので、自分の力をあまり使いたくない。出来るなら話し合いで済ませたい。
殺すのも嫌だ。後味が悪い。俺が俺でいる境界線が無くなりそうだ。だから力を使いたくない。それが今までの俺。
争うのも殺すのも嫌で、出来うる限り暴力を使いたくないという、ただのお人好しに思われやすい。
だが、今の俺はどうだ?
「今日もまたやっちまった。・・・・たく。この世界で殺しに慣れちまったのかもしれないな。だが、殺さなきゃ俺が殺される、か。もう殺すのは嫌だが、無理だな。これからも俺は、この世界で殺されそうになったら、反射的に殺してしまうのだろうか。・・・・・ハァ。」
そう呟きながら、俺は先程殺してしまった(・・・・・・・)熊みたいなデカぶつに座った。座ってから、さらに呟いた。
「たくっ。俺がもう殺しに慣れちまったのは、あいつのせい・・・とは言い難いな。俺が実際は殺してるのだし。・・・・・しかし、俺はここに来てどのくらい経っているんだ?腕時計は止まってるしケイタイは全くつかないし。おかげであいつと連絡も取れん。まぁ、あいつなら補正が掛かってるだろうから大丈夫だろうな。」
それから、この死体を分解するかと思い俺は手刀に何かを纏わせ(・・・・・・)、熊の死体を解体していった。
本当は肉など食べたくないのだが(自分で殺したとなると後ろめたい)、これも手向けとなるだろうと納得させ、いつもの場所で薪をくべて、焼いてから食べている。
解体しながら、ボロボロになった制服と壊れていない鞄を交互に見て、俺は呟くことにした。
「あいつは補正、俺は努力、か。いや、あいつも努力するのか。まぁいいが。それよりも、今俺はどのくらい経っているのかが気になる。」
かれこれ体感的には一ヶ月くらい経っているのだろうと推測するが、いかんせん解るわけがない。
俺は、解体したパーツを使える物だけ空間の中(・・・・)に入れ、拠点へ戻りながらこうなった経緯を思い出した。
☆☆☆
こんなことが起こる前、俺達は古びた工場の前にいた。
「じゃ、今回もやるよ、道定。」
「そんなにやりたいなら一人でやれ。俺はもう帰る。」
「どうしてさ!困ってる人を助けたいと思わないの!!?」
「だったら他人を巻き込むな。俺には関係のないことだ。」
「くっ!ああ言えばこう言う・・・・・・・」
「穴だらけの理論を平然と言ってのけるお前に対して、そっくりそのまま言葉を返そう。」
いつものように引っ張られた俺こと相模(さがみ)道(みち)定(さだ)は、未だに俺の事を巻き込む気満々な幼馴染である三(み)野坂(のさか)勇(ゆう)正(せい)と一緒にそんな会話をしていた。
俺はこいつと十五年ほど一緒にいるが、良く突き放した挙句友情を崩壊させなかったと自分で自分を褒めてやりたい。
なぜなら、あいつはものすごいお人好しな上に補正持ちという主人公気質だからだ。
俺はというと、ただのんびりと暮らす平々凡々・・・とはちょっと違うが、比較的一般人の人間である。そう。俺は基本的にこいつといる場合は空気となるのだ。
それは楽だ。誰も話しかけてこない。一人でいられる。
だが、一度あいつから離れると俺が的になる。女子とか、やられた人達に。
なので、あいつと何度絶交しようかと思ったことか。
ちなみにだが、主人公気質なので、モテる。とにかくモテる。まぁ顔が良いからな。
対照的に俺はというと、目つきが悪いくらいで特徴的なものは…ない。
話を戻そう。
「大体、帰り道に待ち伏せしてきた挙句『人助けしよう?』と言って連行してきたのは、どこの誰だ?」
「だって、ついさっき不良たちがカツアゲしてたところを目撃しちゃんたんだよ?僕としては見逃せるわけないじゃん。それに、一人より二人、でしょ?」
「ふざけた暴言をありがとう。・・・・・じゃぁな。」
「待ってよ!僕一人にやらすわけかい!?」
なんて会話を廃工場前でやっていた(大事なことなので二回言った)。この事が意味するものはただ一つ。
「うっせぇんだよ!・・・・・・ん?お前らが俺たちの事をぶっ倒すと息巻いてる奴らか?」
バレる、という事だ。
すると勇正は、いきなりそいつの鳩尾を殴って悶絶させた。容赦がないのは相変わらずだが、これで始まってしまったか。
そのまま中に入っていくのを見た俺は、悶絶している奴を踏んで中に入った。
それからは簡単な作業。
勇正が「カツアゲなんて馬鹿げたマネやるな!!」と言って突撃し、残った奴らは俺の事を囲んできた。
俺は殺生も争いも嫌いなので、自分からは手を出さないし手をかけようとも思わない。なぜなら、「力」が嫌いだからだ。
そんな俺の信条も知らずに、囲んできた奴らは俺の事を攻撃してきた。
それらを避け、防ぎながら、一撃で気絶させていった。そしたら、いつの間にか俺を囲んでいた奴らが全員気絶していた。
あ〜あ。またワイシャツがボロボロだ。なんて思いながら上着と鞄を拾い、勇正の方を見た。
あっちは、片方がボロボロで、片方がピンピンしていた。
もう帰るか。なんて思いそのまま廃工場を出ようとしたら、タッタッタッ、と軽快な足取りで戻ってきた。どうやら終わったようだ。
「確約させたのか?」
後ろを見ずに俺がそう訊くと、
「当たり前だよ。僕がいればそんなことくらい簡単さ。」
と胸を張って言ってきた。
だったら俺必要なくね?なんて思いながら、「ワイシャツ代払えよ。テメェが巻き込んだんだから。」「それは関係ないじゃん!!」という話をして、廃工場を去った。
それから家まであと半分というところで空を見上げていた俺は、何やら光がこちらへ向かっていることに気がついた。
とっさに勇正の手を引っ張って逃げようとしたのだが、勇正は「足が動かない。」と言って動けなくなっていた。
俺はこいつを何としても動かそうとしたのだが、全くビクともせず。
俺達はその光に呑み込まれた。
それからなんだかんだあって今のような状況に陥った。簡単に説明すると、気付いたら俺だけここにいて、二足歩行の熊(全長六メートル)と目が合って逃げることから、ここでの生活は始まった。
そして、俺が気付いたことと言えば、ここは異世界であるという事と、魔法らしきものが使えることくらいだ。
但し、俺が言う魔法とこの世界で言う魔法にも、隔たりがありそうだが。
俺の場合は、頭の中でイメージしたものを言葉にのせて発動させる。この場合の言葉とは、「雷撃」や「業火」でも発動し、身体強化などの場合はその部分に纏わせる感覚でやれば、その部分を強化できる。
全身を強化できるのだが、毒などを体内に入れた場合、強化を解除したら毒が回り始めて大変なことになったから、以降使っていない。
「とか復習していたらもう着いたか。・・・・・相変わらずギャーギャーうるさい。」
着いた先は、俺の拠点である小屋。しかも、少し歩けば湖があり、ほとんどの奴らがここに近寄らないという一種の安全地帯。
小屋は俺が作った。手刀に纏わせた状態で斬る練習のために切り続け、倒した木で簡易的な小屋を創った。薪とかも、練習のため。
小屋に戻った俺は、先程の空間からさっきの熊から解体した肉だけを取り出し、薪を重ねてから火を点けて(俺流の魔法で)、小分けにした肉を焼いていった。
焼けるまでの間、俺はいつの間にか真っ暗になっている空を見上げながら、誰にも聞かれないこと前提で呟いた。
「この森から俺はいつ出られるんだろうか?なんて思ったこともあるが、この際もういいや。どうせあいつは勇者として祭り上げられて勉強とかやっている最中だろうし、巻き添えくらった俺の事なんて探そうとしないだろう。・・・・・・・・会ったらどうするか、なんて考えたくない。一人で生きるか。」
そこまで呟いて、肉の半分ほどが焼きこげていたのに気付いた俺は、若干ブルーな気持ちになりながら、適当に放り投げて近くにいるであろう動物たちに分け与えた。
残った奴を全部食べた俺は、湖の水で体を洗い、軽い風で体を乾かしながら小屋に戻り、寝た。
これが、飛ばされて体感的に二週間ほど経った時からの、俺の生活サイクルだ。
説明 | ||
異世界に飛ばされるというテンプレに巻き込まれた主人公が、その世界で生きることを誓い旅をする物語。 | ||
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