トトリのアトリエ 〜若き双剣聖の冒険譚〜 第2章 ラインニア・ヘルモルトを知る者
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第7話 謎の襲撃者

 

アーランド防衛作戦から数ヶ月が経ったある日の事。

俺はアーランドの街の中をぶらぶらと散歩していた。

理由は、たまには無計画に街を散策するのも気分転換になっていいだろうと思ったからだ。

結果は上々で、露店など見かけては色々と覗いてみたり、既に名が知れ渡っている『若き((双剣聖|そうけんせい))』に握手を求めて来た人と対話したり、気分転換のついでに賞賛の言葉をもらえるというオマケまで付いて来て、実に有意義な暇つぶしとなった。

そんな俺がそろそろ散歩を切り上げて宿に戻ろうかな、思った時……

 

「ライナー」

「あっ、ステルクさん、こんにちは」

 

後ろから話しかけて来たのは、紛れも無い、何度もお世話になったステルクさんだった。

 

「何か用事でもあったのか?」

「あぁ、いえ。たまには街をぶらぶらするのもいいかな〜、と思いまして」

「ふむ、広い街だしな。どうだ?何か成果はあったか?」

「まぁ、街の人から褒められたりして、若干くすぐったかったですけど、誇りには思いましたね」

「そうか。ところで、昼食はもう取ったのか?」

「あっ、いえ、まだです」

「丁度よかったな。私も今から昼食を取りに行こうと思っていたのだ。よければ、一緒にどうかな?」

「はい、喜んでお付き合いさせてもらいます」

 

と言うわけで、俺とステルクさんは職人通りにある『サンライズ食堂』に向かい、昼食を取る事に。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

「ほらよ、イクセルコース、お待ち〜」

「す、ステルクさん……これ結構高いですよ?大丈夫なんですか?」

「無論だ。代金を支払うだけの金額は所持している」

「な、何かすみません。おごってもらっちゃって……」

「気にするな。これは私が言い出した事であって、君が気負いする必要はない」

「……じゃ、言い換えますね。おごって下さって、ありがとうございます」

「ああ。さっ、早く食べないと、折角の料理が冷めてしまうぞ」

「そうですね。いただきます」

 

俺とステルクさんは、カウンター席に並んで座ったまま、それぞれの料理を食べ始めた。

ってか、このイクセルコース……量多くないか?ステルクさんが勝手に頼んじゃったけど……食べ切れるかな……。

俺が決して小さくない葛藤に駆られていた、その時……

 

「きゃあぁぁぁぁっ!!!!」

「うわぁぁぁぁっ!!!!」

「っ!?何だっ!?」

 

突如、店の外から無数の悲鳴が挙がった。

本当に、男女問わず無数の声が外から聞こえる。

 

「……これは、ただごとではなさそうだな」

「ですね。イクセルさん、すみません。後でお金は払いに来るので、この場はツケといて下さい」

「おう、いいぜ。つっても、金払うのはステルクのおっさんだけどな」

「おっさんは余計だ。……行くぞ、ライナー」

「はい」

 

俺達は『サンライズ食堂』を飛び出し、悲鳴が聞こえる広場の方へ駆け出した。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

「な、何だあれは……!」

 

広場で俺達の目に映ったのは、かなり異常な光景だった。

何せ、見た事もないモンスターが、広場の中心で暴れているのだ。

翼や嘴がある事から鳥だと言うのはわかるのだが、それにしては大きすぎる。

確実に、グリフォンを凌ぐ大きさだ。強いて言うならば、グリフォンがおよそ3頭分ぐらいの大きさだ。

更に俺が疑問に思ったのは、両方の翼の先端にある石のような物。

何故あんな物が付いているのか不思議で仕方ないが、今は討伐を優先に考えなければ。

 

「まずは僕が牽制します!」

 

言いつつ、俺は巨大鳥に向かって飛び出す。

背中に吊った2本の剣を抜き出しながら、何処を狙うか考える。

目標は……右翼!

 

「はぁっ!!」

 

左手の剣を振り抜いた瞬間に、刃は翼を深く抉った。

高く吼えながら後ろに下がった巨大鳥は、直後驚くべき行動に出た。

翼を大きく広げたまま、上空に向かって吼え始めたのだ。

もはや鳥のやる事じゃない、と思いながら、この隙を逃さず、俺は再び斬りかかった。

しかし、いくら斬っても傷が付かない。

いや、正確に言うと、斬った瞬間には傷が付くのだが、瞬く間に傷が塞がってしまうのだ。

 

「どう言う事だ……?」

 

よく見れば、先ほど付けた右翼の傷も既に消えている。

自己再生能力……そんな物を備えたモンスターなど聞いた事もない。

そうこうしている内に、巨大鳥はまたも奇怪な動きをし始めた。

両翼の石を強く打ち付け合っているのだ。激しく火花を散らしながら、今度は俺に向かって大きく跳躍して来る。

俺は横に回避したが、直後、信じられない物を見た。

巨大鳥が吹いた吐息が、石から発せられた火花に引火し、大爆発を起こしたのだ。

再び、向きを修正して俺に向けて跳躍して来る巨大鳥。

あれを喰らえばただでは済まない。木っ端微塵だ。

数回、巨大鳥の跳躍をかわし続けていると、諦めたのか、巨大鳥が俺と距離を取った。

勝てるのか、と俺が内心不安に思い始めた、その時……

 

「はっ!!」

 

ステルクさんが、巨大鳥に剣戟を浴びせたのだ。

右上から左下へ一直線、今度は左上から右下へ、最後に大きく跳んで、頭上から足元までを斬り裂いた。

流石にこの攻撃に巨大鳥も怯んだのか、大きく羽ばたいて大空に舞った。

どうやら逃げようとしているらしく、アーランドから北に向けて羽ばたき始めた。

 

「追いましょう!」

「無論だ!」

 

俺とステルクさんは、謎の襲撃者、巨大鳥を追う為、アーランドを出た。

……それにしてもあのモンスター、どこかで見た事があるような気がする……。

いや、戦った事はないはずだ。実際、あんな攻撃をして来るなんて思ってなかったし……。

……考えていても、仕方ないか。

俺はステルクさんと共に、大空を((翔|かけ))る鮮やかな色の巨大鳥を追った。

 

 

 

 

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第8話 旧友

 

あれから進路を北西に傾けつつあった謎の巨大鳥を追って辿り着いたのは、アーランドの北西に位置する『約束の遺跡』と言う場所だった。

 

「どう言う事だ?あんな場所に逃げ込むとは……」

「けど、あそこに入ってしまったらもう袋の鼠です。一気に畳み掛けましょう」

「無論だ」

 

俺とステルクさんは、己の得物を握り締めながら、『約束の遺跡』に駆け込んだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

「はぁっ!!」

 

暗闇の中、巨大鳥の姿を視認するや否や、俺は跳躍しながら両手の剣を振り下ろした。

何度となく味わって来た肉を断ち切る感覚を感じながら、刃を深く深くへと沈めて行く。

 

「覚悟っ!!」

 

横から回り込んだステルクさんが、自慢の大剣を巨大鳥の脳天に叩き付けた。

喉が嗄れたような悲鳴を挙げながら、謎の巨大鳥は地に伏した。

そこで、俺とステルクさんは再び驚きのあまり目を見開く事となる。

息絶えた謎の巨大鳥は、地に伏した格好のまま、消えずに留まり続けているのだ。

本来ならモンスターは、命を落とした瞬間に光の粒子となり、そのまま霧散していくはず。

それが起きない、つまりこれは、他のモンスターとは一線を画す存在である、というわけだ。

 

「……どう言う事でしょうか」

「わからんな。私も、倒したモンスターの死骸が消えない、と言う事態には初めて遭遇した」

 

俺達2人が疑問に首を傾げている時……

 

「いやぁ、お見事お見事。まさかそんな簡単に倒しちゃうなんてね」

「っ!?誰だっ!?」

 

ステルクさんが、緊迫した声で謎の声の主に向けて((誰何|すいか))する。

声の主は、朗らかな笑い声と共に、すぐに姿を現した。

 

「初めまして、ステルケンブルク・クラナッハ殿。それに……ラインニア・ヘルモルト君」

「……何故、俺達の名を知っている?」

 

謎の男は、含み笑いしながら続く言葉を紡いだ。

 

「なぁに、簡単な事さ。僕は君達を『知っている』んでね。ちなみに、この世界に存在する誰よりも、僕は君の事を理解しているつもりだよ。ライン――いや、『((日高|ひだか)) ((俊平|しゅんぺい))君』」

「……ヒダカ……シュンペイ?」

 

その言葉は一体、何だと言うのか。

語尾に『君』とつけた事から、人名なのだろうが、名前にしては珍しすぎる。

それに奴は、俺に向けて『ヒダカ・シュンペイ』と言った。

何故だ?俺は『ラインニア・ヘルモルト』であって、『ヒダカ・シュンペイ』と言う名前ではない。

その事は、奴も重々承知のはずだ。

 

「おい、何言ってるんだ?お前、さっき俺の事を『ラインニア・ヘルモルト』と呼んだだろ。それが俺の本名だと、お前も知っているんだろ?」

「そうだね。確かに、『今の』君は『ラインニア・ヘルモルト』だ。だが、『本当の』君は、果たしてどうなんだろうね?」

「……?」

 

全く、意味が分からない。

『今の』?『本当の』?何だって言うんだ?俺は俺だ。『今』も『本当』も、どっちも俺だ。

言いようのない不安感に駆られ始めた俺は、ふと、ある事に気が付いた。

俺とステルクさんの横に転がっている巨大鳥の死骸。俺はさきほど、コイツを見た時に謎の((既視感|きしかん))を覚えた。

それは、数秒前の『ヒダカ・シュンペイ』の時も同じだった。

俺は、この名を知っている気がする。

それに、さっきの巨大鳥よりも、心の、もっと深い所に、それを感じる。

 

「……お前は一体、何を知っているんだ?」

「だから、さっき言っただろう?僕は『君』を知っているんだ」

「ふざけるなよ!今日初めて会ったばかりのお前に、俺の事を知られている筋合いはないっ!!」

 

無意識の内に、自分の声が未だかつてないほど震えている事に気づいた。

それは恐怖による震えなのか、それとも怒りによる震えなのかは、俺には分からない。

だが、そんな俺の様子など気にも留めず、謎の男は――

 

「まぁ、当然の反応だろうね。今の君は、自分を『ラインニア・ヘルモルト』だと信じきっている。いずれ、僕の言う事の意味が分かるはずだ。僕の名は、そうだな……君らの風習だと、『トーヤ・ミツダ』、と言う事になるのかな?憶えておいてくれ」

「……トーヤ・ミツダ?」

 

その名前にも、聞き覚えがある。

だが、当然のように、どこで聞いたのかは憶えていない。

 

「貴様、一体何者だ?ライナーに手出ししようと言うなら、問答無用、このステルケンブルクが斬り捨ててくれる!」

 

ステルクさんは明らかに敵意剥き出しの声音で喋りながら、大剣を下段に構えた。

 

「あなたには関係のない話なんですよ。元々、ライナー君は僕の友人……いわば僕達は、『旧友同士』、と言うわけですよ」

「旧友……だと?」

 

喉が急速に乾いていくのが分かった。

俺は奴と……友人関係にあった、と言う事か……?

 

「惑わされるな、ライナー!奴の言う事は((出鱈目|でたらめ))だ!」

「まっ、今はそう言う反応を取るだろうとは思ってたし、予想通りだね。それじゃ、僕は失礼するよ。色々と、余興の準備が必要なんでね」

 

それだけ言い残して、謎の男……『トーヤ・ミツダ』は去って行った。

しばらく周囲に気を配っていたステルクさんは、数秒後に振り返って俺に話しかけて来た。

 

「大丈夫か?」

「え、ええ……まぁ……」

 

正直、あまり大丈夫じゃないかもしれない。

何せ、1度に色々な事が起こり過ぎた。

謎の巨大鳥の襲撃、トーヤ・ミツダの登場、そして……俺が『ヒダカ・シュンペイ』と言う人間かもしれない事。

この状況に立たされて、平常でいろと言う方が無理だ。

 

「あまり深く考えるな。君は正真正銘、『ギゼラ・ヘルモルト』の息子、『ラインニア・ヘルモルト』だ」

「……はい、分かってます」

 

口ではそう言った物の、俺の心の中には、どす黒い暗雲が立ち込めているのは確かだった。

しかし、ステルクさんに心配をかけないよう、平静を装ったまま、俺は『約束の遺跡』を後にした。

説明
この小説は、『トトリのアトリエ 〜アーランドの錬金術士2』の二次創作作品です。
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