■2話 紀霊怒る■ 真・恋姫†無双〜旅の始まり〜
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■2話 紀霊怒る

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ドドドッ

 

気づいてみれば曹操の軍に囲まれいたりする。というよりも気づいていたが一刀と俺でこの数をどうにか出来るわけもなく、せめて綾がいてくれればと何とかなったのかもしれないが賊を追わせてしまった以上後の祭りである。

 

「んー、なんで北郷殿は残ってしまったんだか……」

「いや、その、どこに行けばいいかもわからない状況で」

 

申し訳なさそうに言う一刀。正直に言わせてもらえば俺だってどうすればいいかわからない、足手纏いな事この上ないんだが、見捨てるのも忍びない。

 

「そりゃそうか」

 

当たり前だよなとばかりに受け答えをして話を流す。愚痴は後にして、とりあえずこの状況を打破する為に知恵を絞る事にした。

 

ドドドドドドドッ

 

キョドったり、ボーっとしてたりと傍から見ていてどこか緊張感のない時雨達の元へと曹操の軍勢を左右に割って3人の女の人が進み出てきた。

 

「華琳さま! こやつらは……」

「……どうやら違うようね。連中はもっと年かさの、中年男だと聞いたわ」

 

画面の中では曹操チビッ子だな?とか調子に乗っていたが実際目にしてみると圧巻と言うべきだろうか、さすがは曹操……チビっ子であっても他の者達とは一線を画する存在感が空気を張りつめさせ、ひしひしと伝わってくる。

 

「どうしましょう? 連中の一味という可能性もありますし、引っ立てましょうか?」

「そうね……。けれど、逃げる様子もないと言うことは………連中とは関係ないのかしら?」

 

ドドドドドドドドドドドッ

 

「我々に怯えているのでしょう。そうにきまっています!」

「怯えているというよりは、面食らっているだけのようにも見えるだけれど……」

 

なんだか雲行きが怪しくなりそうになってきた為、そろそろ口を挟もうかと思案する。本当は考えるまでもなく、このまま成り行きに任せていると曹操LOVEな夏候惇に賊という結論に押し切られてしまいそうなのだが、面倒そうだし口を挟みたくない。

 

俺の知っている夏候惇と言えばそれはもう、曹操と戦闘の分野以外には目を向けられないやつである。賊かどうかの判断を任せれば面倒だと言って全員賊扱いしてしまうのは目に見える。口を挟んでもそうなりそうだからなおさら嫌だ。

 

頭が若干痛くなってくるが我儘で黙っているわけにもいかない。

 

「すみません、突然発言する無礼をお許しください」

「……何?」

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドッ ドーン!

 

発言の許可を取ろうとした矢先に時雨達の後方を取り囲んでいたはずの兵が時雨の前方へと吹っ飛んで行った。何かが近づいてきている様な音はしていたものの、さほど重要じゃないと思って気にしていなかったのが裏目に出てしまった。

 

ああ、これは……終わったな。

 

「時雨! 大丈夫か!」

 

既に原因は何かわかってはいたが、その原因たる綾は悪びれもせず、紅い長髪を大剣と一緒に振り乱して敵陣をかき回していく。飛影に乗っていることも災いしているのだろう、巧みに攻撃を避けていく飛影、上で暴れる綾、もう収集がつかない。

 

 

今度こそ完全に、完膚なきまでに終わったかもしれない。

 

「貴様。何奴!」

「お前らこそ何だ! 私が名は荀正! 大勢で2人を囲むなど、お前らのようなやつは(ゴツ)……っつ????!」

 

終わったかもしれながいが何もしないよりはした方がいいに決まっている。

暴れる飛影を呼び寄せて、何か発言している綾を殴って飛影から降ろし、正座させた後自分もひざをつく。なにやら綾が涙目で訴えてくるがここはあえて無視だ。

 

「これはとんだ失礼を、俺の名は紀霊。荀正と義勇兵の招集に応じはせ参じようとした道中に賊に会い、こちらの御仁を助けていたところです」

「ほう、それで助けてもらったそちらは一体何者なのかしら?」

「えっと、北郷一刀。日本で、聖フランチェスカ学園の学生をしている。日本人だ」

「……はあ?」

 

今のその気持ちはわからんでもない。この時代で突然日本だの学園だのいったところで例え曹操であったとしてもわかりはしないだろうし、気がふれているとしか思えないよな、うん。

 

「それより、出来れば教えて欲しいのだけれど、ここはどこ? 日本でも、中国でもないっていうし……」

 

おい、調子に乗らないでくれ、頼むから。そう視線で訴えかけた所で一刀は首を傾げるのみ。なんというのだろうか、かゆい所に手の届かない感覚、それに近い感覚を今得ている。

 

「貴様! なにわけのわからぬことを言っている! きちんと華琳様の質問に答えんかっ!」

 

ドンドン

 

夏候惇はイライラしている。武器を地面に何度もたたきつけるぐらいイライラしている。恐らく俺が刃向ったのと綾の乱入と一刀の意味不明な発言がそれぞれ最大限の効果を発揮したおかげだろう。

 

もしここに曹操がいなければ切りかかられている所だろう。

 

「い、いやだから! 日本人で、北郷一刀だってちゃんと答えてるじゃないか……」

 

一刀の答えは真実だとわかってはいるが通じない事を理解してほしい。いや本当に、さっきから夏候惇が怖いんです。

 

「姉者。そう威圧しては、答えられるものも答えられんぞ」

 

きました! 夏侯淵ナイスアシスト。これで状況が改善される。正直曹操か夏侯淵が夏候惇を御してくれないと話が進まないというか武力解決でOKみたいになってしまうので助かる。

 

「ぐぅう、し、しかしだな秋蘭!……」

 

ここでまた趙雲たちみたいに混乱するようなやり取りを続けさせる訳にもいかないので、ここでちょっとばかり口を挟む。

 

「それは俺が説明した方がいいかもしれませんね」

「……どういうことかしら?」

 

時雨の物言いに怪訝な表情になる曹操。視線が鋭すぎます、もう全部考えが読まれているようで怖い。

 

と言っても怪しまない方がおかしいというのはわかっている。先ほど助けた御仁の事をなぜ説明できるのか? 普通なら説明できないのだから怪しまれても文句はない。

 

「実は信じがたいことに俺らがこの御仁を助ける前に星が落ちてきたんです。もしかするとこちらの御仁は天の国より使わされた御使いなのかもしれません」

 

でもこういう言い方をすると、苦しい様な気もするが、一刀についての説明が出来てしまう。状況証拠とばかりに衣服を見れば普通ではないことは誰の目にも明らだし、だからこそ通じるかもしれないという淡い希望。

 

「紀霊……といったかしら?」

「ああ」

「すまないけれど、そこのものが天の御使いなんて信じられしない……。それに貴方達はどちらかといえば賊という可能性のほうがあるのだけれど?」

 

その返答は……予測済みだ。曹操たちが来た時の言葉を聞けば賊を追っていたのだとわかる。メンバー年齢をある程度把握しているのだからもう賊だとは疑われていないはずだ。ただ何者かということを聞きたいだけか、試したいだけなのだろう。

 

とまあ予想の範囲内だったので俺は考えていた通りに慌てず答えることが出来た。本当頭の回転が速くなったと思うよ。

 

「ならばこの紀霊と荀正がその賊を二人で討伐してきましょうぞ」

「ほう……」

 

俺の答えを聞き若干目を細め興味深げに、そして面白そうにこちらを見やる曹操。一般人を震え上がらせる冷笑というのだろうか、何故かそこに魅力を感じてしまう。そしてあのギャップをもう一度見せてほしいと思ってしまうのはダメだろうか。

 

と俺がダメダメな思考をしていると、冷笑を向けられた綾が慌てて耳打ちしてくる。

 

(ちょ、ちょっと時雨! 何勝手なこと言ってるの、私が見てきた限り相手は10人や20人じゃないんだよ!)

 

格好よく言った傍からこういった現実を突きつけられると何故か悲しくなる。現実を直視したくないわけではないが、もうちょっと浸らせてくれたっていいじゃないか。

 

(わかってる、でも俺と綾なら出来ると思うんだ。それにこれは綾が言っていた武を見せる最大の好機じゃないのか?)

(むぅ。確かにそうだけど……)

 

若干納得がいかないような顔をしつつも曹操へと顔を向ける綾、正直大変な事に付き合わせてしまうのですまないとは思う、けれど今はこれしか方法が思いつかないのだから仕方ない。

 

子供の頃に誓った誓は今でも有効だと豪語する綾である。遠慮なく初めて綾を倒した特権(リーダーは絶対権力)を行使させてもらおうじゃないか。

 

「わかったわ。ならばこの天の御使いとやらは貴方達が賊を討伐できるまで預かっていましょう。戻ってこなかった時はどうなってもしらないけれど……」

 

その言葉と共にゾクリと身の毛もよだつ様な凄惨な笑みを浮かべる曹操、この瞬間この人だけとは殺りあいたくないなと思ってしまった。

 

「わかりました。天の御使いが付いている俺らに敵はいません、すぐにけりをつけてきましょう」

 

すぐにそう返答するとポカンとしていた一刀があわてて口を挟んでくる。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は天の御使いなんかじゃ……」

「あなたは黙っていなさい」

 

曹操の言葉に一刀はうつむいてしまった。こうなってしまえばもう一刀の意志主張などさほど重要ではない。重要なのは俺たちが使えるかどうかに移り変わっているのだから。

 

けれどちょっと悪い事をしたなという想いはあるので、一刀に近づき安心させるように耳打ちする。

 

(まぁ、俺達にまかせとけ悪いようにはしない)

(わ、わかった)

 

助言してて思うのだが、一刀はまったくもってお人好しというか、自分で道を切り開こうとしない……というよりは出来ないと思い込んでいるのだろうか? こいつは本当にこの世界の主人公で、これからこの世界で生きて行けるのだろうかと不安に思ってしまうものの、右も左もわからない今はそれでもいいのかもしれないと思う自分もいる。

 

何でもどうにかなってしまう……北郷一刀はそういう男なのだとそう思う、思い込む。

 

「では、行ってまいります。すぐに戻りますのでその間天の御使い殿のことよろしくお願いいたします」

「わかったわ」

 

曹操の一声で周りを囲んでいた兵が囲いを解き、一刀を捕える。それを見た時雨と綾は飛影にまたがりすぐさま賊のいる山へと向かい始める。

 

溜息をつきながら今後の事を考える。見捨てない事にしたのは確かなのだがこれは主人公補正のせいだろうか、もしそうなら楽なのにと思ってしまうがそうではないだろう。まだこの世界の事を何も理解できてないから助けるだけであとはどうにでも……ってなんかしらんが綾がニヤニヤしている。

 

(時雨ってば優しいよね………にふふ)

 

殴りたいな衝動が沸き起こるもののそれをぐっと我慢する。あー、そういや今回は久々の不運と言える不運だな……。そんなどうでもいい事を考えて、お人よしとい言葉が思い浮かぶがあえて気にしないようにして一刀のために飛影に飛ばしてもらうのだった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

曹操と別れて一刻ぐらいだろうか、綾の情報をもとに賊がいるらしい山へと踏み入る。

 

「敵の規模と場所は把握してる?」

「もちろん! 敵の数は100程度かな、賊を取りまとめてるっぽいのは数人で奥の洞窟に引き籠ってるよ」

 

おいおい、賊にしては数が多すぎるだろ……なんて事を思っても既に後の祭か。

 

「綾の情報を信頼するなら、俺が敵の大将を殺しに行ってから名乗りを上げた方が決着が早いな」

「あたしの情報は確実だよ! なんたって嗅ぎましたから。それと簡単にいうけど、時雨って人殺したことあるの?」

 

綾の並外れた嗅覚は信頼に値する。村で恐れられている突撃訪問による暴飲暴食の限りを尽くす綾の行動にはすべてこの嗅覚が役立っているのだ。どんな料理を誰がどのように何を作っているのか嗅ぐだけでわかるという綾の嗅覚はもはや獣以上である。

 

「いや、殺しはないけど……。でもそうしないと被害が広がるんだったらそうしたほうがいいにきまってる」

「私がやるよ」

 

この言葉の真意はわからんでもないが、綾はどちらかと言えば平原で武器を振り回して一騎当千の働きをするタイプだ。こういった作戦には向いていない。

 

「綾がやるといらん犠牲がでる。もっと違う場で活躍しろ」

「な、なにさ。人が親切でいってるのに………」

 

拗ねる綾は普段の勝気でいる態度とはギャップがあって大変可愛らしい。なのでとりあえず撫でる。最近と動物たちのおかげで撫でるのが癖になってる。

 

「………な、なにするの!」

 

若干顔を赤くしつつ俺の手から頭を遠ざける綾、遠ざかってから物足りない顔をしているのだからおもしろい奴である。

 

「ははっ、すまんな。ついつい可愛くて」

 

俺の追い討ちに致命的ダメージを負い、真っ赤になってうずくまり(これだから無自覚は…)とかなんやら色々呟いている………まったくパッと見免疫があるようで全くない所が可愛い奴である。

 

「んじゃ、行ってくるな」

 

そういって今更綾に反論させる気もないのですぐさま気配を回りに溶け込ませ、行動に移る

 

「その、気をつけてね………」

 

先ほどの心理的ダメージから回復しきっていないのだろう、顔を真っ赤にしながら綾からの精一杯の激励を頂く。

頑張るしかないかな……これは。と既に戦場に足を踏み入れているのにも拘らず思わず苦笑してしまった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

山の奥へ奥へと進んでいく、途中で警戒している賊や休んでる集団を見かけたがこちらに気づいた様子はない、順調そのものだ。

 

時折同じような風景を見ながらしばらく進んでいるとちょっと開けた場所に出た、目の前の空洞を見てどうやらここが綾のいっていた洞窟だと見当をつける。

入り口に見張りが2人、中は良く見えないが明かりがともっているのがわかる。

 

(ふぅ……落ち着け。今までイメージのなかで何人も殺してきたし、俺が使っている技は元々そういった用途のものだ。)

 

失敗するはずがない。大丈夫だ、いけると自分に言い聞かせる。

手が震えてるのがわかる。初めて人を殺す……その事だけで俺は震えているのだ。正直こんな体験したくはなかった……でもこの世界に来たからには逃れられないだろう。

きっと遅いか早いかの違いだけ、嫌でも殺さないと殺されるものが出る。殺されるのが嫌なら殺すしかない……それがこの世界だ。

 

なら俺は……自分の助けたいものを助ける!

 

そう決意し木の枝から飛び、俺は見張りの二人の背後へと降り立ち早々とかたをつけていく。

 

「ッハ」

 

気合いを込めた短く小さい掛け声と共に一人目を小刀の柄で気絶させ、もう一人が声をあげる前にのどを切り裂き、血を飛び散らせながら絶命させる。

 

「っく……、これはなんとも……きついな」

 

正直気分が悪い、これが人を切る感触。今すぐこの場から逃げ出したい、でも逃げ出せないのはわかりきっている。せめて知り合いではないという事実がまだ俺を戦場にとどまらせてくれる。

 

出来るだけ躊躇せずに気絶させたほうにも手をかける。もし目が覚めてしまったらやっかいだから……ただそれだけの理由、でもこの世界ではこの上もなく当たり前な理由。

 

ズプリと食い込む刀の感触が嫌で仕方がない。

 

早く済ませよう……早く、早く。

血がこびり付いたように重い体を無理やり引っ張り洞窟の奥へと進んでいく。

 

そこには………想像だにしなかったゲスがいた

 

「グハハハッ! 馬鹿な官軍だ。あれだけの兵でワシを阻もうなどと、片腹痛い! ほんとワシに貢いでくれてどうもありがとうってな!」

 

喋る男に賛同するように周りの男よりひとつ頭のでた、がたいのいい男が下品に笑いながらリンゴをかじり、頷く。

 

「ギャハハハッ! お頭、食い物もいいですけど、今回は別嬪を連れてきたんだ。もっと堪能してくれよって言うまでもないか! ギャハッギャハハ!」

 

近くには攫って来たと思われる女が服をボロボロにし、目が虚ろにしている。しばらく女たちを眺めているとその中に幼い少女と幾つもの既に息絶えている女の体と首が転がっているがわかった。

 

息絶えている女は簡単に言えば賊に飽きられたのだ。

 

事態を正確にああくした時、生きてきた中で見たことのないほどの凄惨な光景を目の当たりにした為か、俺の世界は一瞬停止した。

今までのほほんと生きてきた俺自身に苛立つ、世界にはこれほどまでに醜い輩がいるのかと思い知らされると同時にこうまでも悲惨な死を遂げなければいけなかった女達がいるという事実に涙で目がかすむ。

 

不幸だと思ってた。誰よりも惨めだと思ってた。それがどうだ、実際は幸せな方ではないか……十分人生を謳歌しているではないか。

 

ゲスが。ゲスがゲスがゲスがぁぁぁああああああああああぁああああああ!!!

 

うっすらと涙の跡を残した悲しみにくれている幾つもの女の顔を見てよりいっそう頭に血が上って行くのがわかる。これがもし知り合いだったら俺はどうしただろうか、許せるはずもない。許したくはない。

 

だから殺す。殺す殺す殺す。

 

気配を消すことを忘れたように殺気が膨張し、小さな洞窟に充満していく……。

さすがに感じ取ったのだろう、驚いたような顔をする賊どもを俺は容赦のない一太刀で首をきりはなしていく。

賊から悲鳴があがるがそんなの気にしない、否、気にしたくもない。女たちが味わった責め苦に比べれば何と生ぬるい事か。

ただ淡々と殺せばいい! こいつらを心の赴くままに殺すのが俺の……今俺のやるべきことだ。

 

死ね……死ね死ね……死ね死ね死ね死ね死ねぇえええええええええ!!

 

「ッシ! ッハァァアアアアアアアアアアアアアア! ァ゛ァァアアアア゛アアァ゛アアアアア!」

 

ただただ殺していく、己を恥じながら、怒りに身を任せながら賊を原型も残らないただの肉片に変えていった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

ようやく冷静になって気づけばいくつもの元は人間の形をしていたと思われるものが無数に散らばって悪臭を放っていた。

そんな中で1人震えながらへたり込んでいる少女。その虚ろな瞳に返り血を浴びた己の姿が映る。

 

「…っう、うええ。ぅっうぇええ」

 

吐いて、吐いて、吐いた。

 

怒りで我を見失い、そして気づけば俺は血と付着物でどろどろに全身を濡らしていた。

不快感だけが全身を支配し、嘔吐を続け、涙を流し続ける……。

そうしていくばくかの時間が流れた時、不意に誰かが背をさすった。まさか綾が、そんな思いが頭をよぎり背中をさすった人物を見た。

 

「お、お前……」

 

心配になって駆け付けた綾かと思いって振り向いて驚ろかされるはめになった。そこには虚ろな瞳の少女が背中をさすってくれていただのだから。これだけの、背中をさするという行為だけで気分が幾分かましになるのがわかった。

 

「お……、おに…い…ちゃ……ん、なか…な…いで…」

 

哀しかった。悲しかった。これほどいい子をこの男達は攫い、自分たちのいいようにしようとしていたのだ。まだ手が付けられていなかったことがどれほどの救いか……。

 

気持ち悪さで嘔吐しながらも再び怒りが込み上げてきたが、既に奴らはいない。

 

俺は涙を拭き立ち上がる。俺が泣いててどうするんだ、この子のほうがもっと辛い思いをしているのだと自分に言い聞かせる。

 

「ありがとう、もう泣かないから」

 

そういって少女の頭を優しく、ゆっくりと労わる様に優しく、優しく撫でてやる。

少女は嬉しそうに微笑むと服の端をぎゅっと握り、俺を見上げてきて一言つぶやいた。

 

「つれ、つれ…てって……」

「わかったよ」

 

したったらずな喋り方で懇願する少女に俺は微笑みを向け、少女の手を握る。

 

辛うじて残っている賊の親玉の首を空いている方の手で拾い、洞窟の外へと向かう。

洞窟の外に出ると周りを囲まれていた。さっきの賊の悲鳴のせいだろう……。

 

「お前らの頭の首はもらった……投降しろ! さもなくばお前らの命、この紀霊がもらいうける!」

 

そういいながら片手に持っていた首を手に投げ、背中の太刀を鞘から出す。少女が手を強く握るのがわかる

 

「早く、投降しろ。今の俺は気が立っているのでな。早くせねばこの紀霊、修羅の道に入りお前らを地獄に落としてやろうぞ!」

 

太刀をわざと大きく振るい、風を起こす。予想以上の風圧に前にいた賊の何人かが腰を抜かし尻餅をつく。目の前に投げ捨てられた無残な生首と目の前で実力を見せつけられ、賊共は紀霊を畏れた。

 

「ぅ、ぅゎあぁあああああっ!」

 

一人の賊が悲鳴を上げながら逃げ去り、それを皮切りに賊がどんどん散ってゆく。

それに追い打ちをかけるでもなく、ただ黙って見届けた後太刀を収め、少女へと笑いかける。

 

「それじゃ行こうか」

「う…ん……」

 

少女と山を下っていく。曹操を相手取るよりまだ簡単だと思っていた賊討伐でまさかこんな思いをするなんて思ってもみなかった……。

さっきのことを思い出し怒りそうになるのを抑える。

 

(このことは忘れん……)

 

この怒りは理不尽な横行を許す世界へと向けよう。そう決意を新たに綾と飛影の元へと山を下りていった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

降りてくる時雨を見て綾は悲しくなった。

いつも、どんなことがあっても笑顔を絶やさなかった時雨が今は辛そうで、怒りたくても怒れないような、そんな遣る瀬無い顔をしている。

 

人を殺すのはここまですさまじいものなのか……。

 

綾は戦慄した。いずれ私もあの道を通ることになる。時雨があんなふうになるのなら、私はどうなってしまうのだろうか……いや、時雨は優しいからこそああなってしまったのだ。ならば私はそんな優しい時雨を助けるだけ、ただそれだけだ。

 

「綾……」

 

時雨の苦笑い、綾はとりあえず思考をやめ。時雨の心を少しでも軽くしてあげるために笑いかけるのだった

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

綾が山から下りてきた俺を見て悲しそうな顔を一瞬したのを俺は見逃さなかった。

 

「綾……」

 

綾の笑顔には救われる。俺を励まそうと笑ってくれているのが痛いほどわかる…だから。

 

「ありがとな……」

 

想いを込めて礼を言った。そんな俺に綾は笑いながらお礼なんていわないでいいと放った。

 

「そういえばその隣の女の子は誰?」

 

今気づいたように改めて訪ねてくる綾、それもそうだと説明することにする。

 

「賊に捕まってた」

 

綾は俺でなければ気づかないような一瞬に悲しい色を瞳に宿らせる。恐らくこの一言だけですべてが伝わったのだろう。さすがは俺の幼馴染と行った所だろうか。

 

「そっか……」

 

綾はそういうと気分を即座に切り替え、少女に明るく、優しく笑いかける。

 

「私の名前は荀正、真名を綾っていいます。あなたは?」

 

少女は俺の背中へと隠れながらひょいと顔を出して必死に綾の問いへ答えようと口を動かす。

 

「ぇ…えっと……わ、わ…たしは………」

 

一生懸命な少女の頭を落ち着けるようにと優しく、優しく撫でてあげると、少し目を瞑り気持ちよさそうな顔をする。

落ち着いたのを確認し、撫でるのをやめると少女は改めて口を開いた。

 

「わた…しは、李福……字…を孫徳。ま……真名が、かご…めです」

「そっか、かごめちゃんだね! これからよろしく」

「よ、よろし…くです…。おにい…さんも」

「おう! よろしくな、かごめ。俺の事は時雨って呼んでくれていいからな」

 

頑張ったかごめを優しく撫でてやる。顔が可愛いからだろうか、和んでいるかごめの顔は見ているだけで癒される。

って癒されている場合じゃないか、そろそろ一刀のために戻りますか(実はさっき思い出したというのは内緒の話である)

 

「そろそろいこうか」

「そうだね」

「かごめと綾は飛影にのってくれ」

 

そういうと飛影が不満そうに抗議の嘶きを上げる。

 

「ブルルッ」

「ん? 俺も乗せられるのか?」

 

肯定するように頭を下げながら近づいてくる飛影。なんてハイスペックなやつだろうか……。

 

「そっか、すごいなお前は……」

 

そういってご褒美とばかりに撫でてやると満足そうに俺に乗る様にと体を横付けしてくる。

 

「ブルルッ」

 

まるで全員乗せられるのが当然だといわんばりである。もしこいつが人間だったらかなりのイケメンではなかろうか。

と考えながら3人で飛影にまたがった所で重大なことを思い出す。

 

(あ、首持ってくるのを忘れたが大丈夫だろうか……大丈夫? だよな……ちょっと一刀やばいかな……)

 

ほんの少しばかり不安に駆られながらも時間が惜しいと思い、結局首は持たずに曹操の元へと急ぐのだった。

 

 

 

―――――――――――――――――――

■後書き■

んー、グロイ描写が難しい。

説明
編集して再投稿している為以前と内容が違う場合がありますのでご了承お願いします。
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コメント
ご指摘感謝! 修正致しましたー。(竜胆 霧)
本郷一刀になっとる所があったよ。(フルー2)
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