IS『に』転生ってふざけんな! 第10話 |
私はいつもと変わったことなど何も無く、時速にして2000キロ以上の速さで真っ青に晴れ渡った空の下を飛び回り、指示された通り《銀の鐘(シルバー・ベル)》を最大出力で撃ち放った。
その火力は、陸で行えばおそらく地図を書き換えなければならないだろう程の威力だった。
「(軍用IS……ここまでする必要があるのね………)」
ISのコアは、その数が限られている。
なので、1機で如何に多くの敵ISを撃墜できるか、如何に強大なISを倒せるかがそのISの価値とされている。
ISを倒せるのはISだけ。それが世界の条理である限り、世界はきっと―――より強いISを作り続ける。
そして、世界の抑止力であり続けなければならないアメリカが生みだしたのが、この子。
近い未来、ISを使った戦争が起こるかもしれない。もしそうなったらこの子は、望まない争いに投じられ、人の勝手で闘わされ、人の都合で人を殺す。
それが、【軍用IS】の辿る末路―――――。
不憫だと思う。ただ人を殺す道具として生まれたこの子が。
だからと言って、一介の操縦者でしかない私には何もしてやれない。
だから私にできるのは、祈ることくらいしかない。
この子が最期を迎えるまで、戦争が起こらない事を。
――――でも、その【最期】は呆気ない程にすぐ訪れる。
他でもない、私のせいで―――――――。
ISのハイパーセンサーで、どこまで遠くを見渡せるかを実験していた時だった。
アメリカ本土まで拡大して見えたと思ったら、またコア・ネットワークから束様によるメッセージが届いていた。
今度は開くのも面倒だったので、完全にスルーしていると……
「ああああああああッ!!!?!!?」
突然ナターシャさんが、頭をかきむしるようにして甲高い悲鳴を上げた。
(な、なんだ!? どうなってんだ!!?)
俺はわけがわからなかった。今まで何も問題はなかったのに、一体彼女に何が起こっているのだろうか。
が、その理由はすぐ明らかとなった。
『警告 血圧、心拍数が危険水準に達しました』
『警告 操縦者への生命維持が困難な状況にあります』
次々と浮かび上がる【警告】の文字。真っ赤に染まる周囲の映像。突然の事態に戸惑う研究員の声。
そしてなにより、見えない苦痛に悶え苦しむナターシャさんの叫び。
俺は、それらによって一気に追い詰められていった。
が、ナターシャさんの悲鳴がぷっつりと消えてしまった。しかし、ナターシャさんはピクリともしなかった。
それが逆に、俺の焦りを加速させる。
そして何を思ったのか、さっき来たメッセージを開く。
『やっほ〜、篠ノ之束だよ! 突然でなんだけど、束さん的には一刻も早くこっちに来てほしいんだよね。だから、こっちからちゃちゃっと操作して操縦者さんの脳を破壊する(・・・・・・)プログラムを始動させちゃいました! 早くしないと操縦者さん死んじゃうよ? 束さんの言う事を聞いてる間は停止させておくから、なるべく早くこっちに来てね〜。 ちなみに、このプログラムはシールドエネルギーとは別のエネルギー系統に接続されてるから、そっちのが無くなっちゃったら止まっちゃいま〜す。でも、今はまだウォーミング中だけど本気出したら大体5分で死んじゃうから気をつけてね! それと、そっちのエネルギーが切れるよりも先にシールドエネルギーの方が無くなっちゃったら操縦者さんも死にま〜す! 気をつけてね☆』
――――そのメッセージを見た瞬間、背筋が凍るようだった。
ナターシャさんが、死ぬ? 冗談じゃない。なんでそんな事にならなきゃいけないんだ。
そもそも、俺がちゃんと原作のエピソードを守って動いていたら、こんな事になりはしなかったんじゃないか?
そうだ。きっとそうに違いない。俺のせいで、ナターシャさんが死にかけてるんだ! 俺の……俺のせいで!!
(ちっくしょおおオォォぉぉ!!!!!)
俺はすぐさま、1通目に添付されていた自律行動プログラムを起動させ、福音のコントロールを得る。
そろそろ5分が経つ。ウォーミングとやらももうそろそろ終るはずだろう。つまり、タイム・リミットはあと5分。たったそれだけの時間で満タンにされた全てのエネルギーを放出するのは不可能だ。
(従うしかない……ナターシャさんを、救うためには)
俺は、決意を固めた。
一夏たちと闘い、凍結処分されることを――――!
俺はとにかく、指定された場所に向かって全速力で飛んだ。
時速2000キロ以上を遥かに超える速さで飛ぶ俺の身体には、ソニックブームにより信じられないほどの痛みを伴うが、そんなことは考えなかった。
【痛み】は耐えられる。特に俺の場合、痛いだけで死にはしない。死にさえしなければ何度でもまたこの空を飛べる。見れる。感動できる。
まぁ、五感はIS展開時だけ視覚、聴覚、触覚の3つ。おまけに触覚は痛覚しか残されてないって地獄だけどな。
これでかなり優遇されてるだろうから、普通に死んだらどうなるのかなんざ知りもしなければ知りたくもない。
俺は1度死んだ。人が死ぬ理由も知っている。下らねぇ理由で寿命が削られ、死神がどっかからやってきて、身勝手に命を狩り取っていく。
だが、俺はそんな悪魔のようなヤツらから4年も逃げてきたんだ! 死ぬことは、回避できるんだと証明されている!
だから、逃げ延びさせてみせる。死神が来ようが、あのクソ神が手を下そうが―――
(俺は、ナターシャさんを死なせたりしねぇッ!!)
これが自己満足だっていうのは百も承知だ。
死なせたくないと言うのはただの詭弁で、本当は他人の事なんてどうでもいいんじゃないのか? ただ単に流されてるだけなんじゃないのか?
――――そんなしみったれた理屈はどうだっていい!
理由なんざ二の次でいい! 終った後に考えろ! とにかく今は行動しろ! それこそが最善だ!! なんと言われようが関係ねぇ! 俺は絶対、救ってみせる!!
説明 | ||
これは、米国の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』に憑依転生してしまった少年と、その操縦者であるナターシャ・ファイルスの噺である。 | ||
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