英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 1 |
〜メンフィル王都・ミルス城内〜
新兵達の演習につきあったリウイはある部屋に向かい、ドアの前に立ちノックした。
コンコン
「はい、どちら様でしょう?」
「俺だ、入ってもいいか?」
「ご主人様!?どうぞ!」
ドアの中から慌てた声が返され、リウイは相変わらずだと苦笑し部屋に入った。
そこにはお茶の用意をしようとしているペテレーネの姿があった。
「あ、ご主人様。今、お茶の用意を致しますので少々お待ち下さい。」
その様子を見てリウイは呆れた。
「ペテレーネ……お前はもうすぐ子を産む身なのだから無理はするな。」
「ですが、折角ご主人様に来ていただいたのに何も御出ししない訳には……」
「構わん。これは命令だ。今はその身を大事にしろ。」
「ご主人様……ありがとうございます。」
リウイの言葉にペテレーネは顔を赤くし、椅子にすわり、リウイも椅子に座った。
そしてリウイはペテレーネを見、体の調子を尋ねた。
「どうだ、体の調子は。」
「はい、今は大丈夫です。でもときどき赤ちゃんがお腹を蹴るんですよ。ふふ、早く出してくれって言っているみたいです。」
「そうか……元気な子が生まれればいいな……」
「はい……」
ペテレーネはリウイの問いに答えた後、暗い顔をした。
「どうした、そのような暗い顔をして。」
「はい……リフィア様達を国に戻しこれからイリーナ様をお探しする矢先に私がこのようになってしまって、ご主人様の旅を中断してしまい申し訳ないんです。」
「そのことか……前にも言ったが気にするな。イリーナを探す旅はあてのない旅になるからな。数年中断した所で支障はでん。」
「ですが……」
「くどい。それともお前は俺の子を産みたくないのか?」
「そんな!私にとってご主人様の子供を授かるなんてこの上なく幸せなことです!」
リウイの言葉をペテレーネは慌てて否定した。
「ならばいいではないか。以前にも言ったが子供は多いほうがいい。それも信頼ある女性のなら尚更だ。」
「ご主人様………」
「それにイリーナがもし、これを知ったら間違いなくお前についてろと言うはずだ。だから今は安静にして
元気な子を産め。」
「ご主人様……はい、絶対に元気な子を産んでみせます!」
リウイの言葉にペテレーネは笑顔で答え、そんなペテレーネを見てリウイは笑みを浮かべた。そしてそこにほかの来客が現れた。
「は〜い、ペテレーネ!元気?」
「全くあなたときたらいつも騒々しい……少しはペテレーネの性格を見習えないのかしら?」
元気よく部屋に入って来たのはリフィアの祖母で、リウイの幼馴染であり側室の一人で、上位悪魔と睡魔族を両親に持つ闇剣士カーリアンと、その後から入って来たのはリウイの最も信頼する家臣の一人であり、飛天魔族のメンフィル大将軍ファーミシルスだった。
。
「なによ〜いちいち五月蠅いわね〜やるっていうの〜?」
「私は当然の事を言ったまでよ。あなたがかかって来るならいつでも相手になるわよ?」
二人はどんどん険悪になり武器を構え始めた。それを見たリウイはいつものように2人を叱りつけた。
「いい加減にしろ、お前達。腹の子に悪影響だろうが。」
「申し訳御座いません、リウイ様。」
「ふう、今日のところはお腹の子に免じて収めてあげるわ。」
リウイの言葉に2人は武器を収めたが相変わらずお互いを牽制していた。それを見たリウイは相変わらずの様子に
溜息をついた。
そしてカーリアンはペテレーネに話しかけた。
「よかったわね、ペテレーネ。あなたずっとリウイの子供が欲しかったんでしょ。私、ずっと傍にいたあなたを出しぬいてちょっと悪く思っていたのよね。」
「そんな!恐れ多いです!私はカーリアン様なら素晴らしいお子様を産むと思っていましたし、そのお陰でリフィア様がいるではないですか。」
「ありがとう、ペテレーネ。」
カーリアンの言葉にペテレーネは慌てて否定した。そしてファーミシルスの方へ顔を向け申し訳ないような顔をした。
「それより、ファーミシルス様より早く子供を授かって申し訳ないです………」
「あら、気にしなくていいわ。幼い頃よりずっとリウイ様の傍にいたあなたなら私より早く産んで当然だと思っているわ。」
「ですが、私のような力不足の者が………」
「ペテレーネ、私はあなたを弱者だと思ったことはないわ。リウイ様のためだけに神格者にまで登りつめたその忠誠心、
魔術の力は私を超えていると言っていいわ。もっと自分の力を誇りなさい。そしてリウイ様のためにも元気な子を産みなさい。」
「ファーミシルスの言うとおりだ。プリゾアもあの世できっとお前を誇りに思っているだろう。」
「ファーミシルス様、ご主人様……ありがとうございます!」
ファーミシルスからの思いがけない励ましにペテレーネは自信を持った。
そこにさらに来客が来た。
「元気であるか、ペテレーネよ!」
「……気持ちよく寝てたのに………」
一人はリウイとカーリアンの孫であり、次期メンフィル皇帝第一候補である第一皇女リフィアともう一人は
姫神フェミリンスと戦うために太古の魔術師ブレア―ドより召喚された魔神の一柱、深凌の楔魔第五位の
エヴリーヌだった。
「リフィア……もう少し静かに入室できないのか。それにエヴリーヌを無理やり起してくる必要はないだろう……」
リウイは相変わらずの孫の様子を見て呆れた。
「せっかく余の新たな妹か弟ができるのに大人しく入って来れるものか。それにエヴリーヌにとっても妹か弟になるのだから
連れて来て当然であろう!」
リウイの問いをリフィアは一蹴した。
「妹か弟って……カミ―リが産むわけじゃないんだから、正確にはあんたは叔母になるんじゃないの?」
カーリアンはリフィアから普段、婆と言われてた分、ついにリフィアが叔母と呼ばれるようになったのに気付き
ニヤついた。
「何を言っておる!生まれてくる子が伯父か叔母になるのじゃぞ?全くこれだからカーリアン婆は……」
「だ〜れが婆ですって〜!!」
「い、痛い、痛い!痛いのじゃ〜!!離すのじゃ〜〜!!」
婆と言われ怒ったカーリアンはすかさずリフィアの後ろにまわりリフィアの頭を拳でグリグリし、それをされた
リフィアは呻いた。
「そのぐらいにしてやれ、リフィアも新たな命に興奮してるだけだろう。」
「もう、リウイったら。相っ変わらずリフィアには甘いわね!」
リウイに諭されカーリアンは文句を言いつつリフィアを離した。
「ハアハア、死ぬかと思ったのじゃ。リウイ、大好き!」
「これに懲りたらもう少しカーリアンを親切にしてやれ……」
「うん、わかった!」
リウイの言葉にリフィアは笑顔で答えた。
そしてリフィアはエヴリーヌといっしょにペテレーネに近寄った。
「ここに余とエヴリーヌの新たな兄妹がおるのか……不思議じゃの。」
リフィアはペテレーネのお腹をマジマジと見、興味深そうに見た。
「お2人ともさわってみますか?」
「よいのか?」
「はい、お2人でしたら赤ちゃんも喜ぶでしょうし。」
珍しく恐る恐る聞いたリフィアにペテレーネは笑顔で答えた。
「そうか、では早速……おお!かすかだが動いておるぞ!エヴリーヌも触ってみるが良い!」
リフィアはペテレーネのお腹に触り驚いた。
「ん……わあ、動いている……生きているの?」
「ええ、生きていますよ。この子が生まれたらエヴリーヌ様も姉になりますね。」
ペテレーネのお腹に触って驚いているエヴリーヌに優しく言った。
「エヴリーヌがお姉ちゃん……ふふ、楽しみ………早く産んで元気になって……いつも作るお菓子も楽しみだから……」
「ええ、その時はまた作らせていただきます。」
さまざまな人から祝福されペテレーネは幸せを感じ、また仲間もそれぞれ新たな命が産まれる時を待っていた……
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第1話 | ||
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