魔法使いのToLOVEる プロローグ
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窓から差し込む日の光を受け、今まで眠りについていた俺は顔を顰めた。

 

「んっ、眩しい・・・・・・」

 

今日から高校生活が始まるという大切な日だとは理解しているのだが、身体は居心地のいい布団から出ようとはしない。

 

「まぁ、いいか・・・・・・」

 

始業式という行事よりも自分の欲求に素直に従うことにした俺は日の光を浴びないように布団を深くかぶる。

 

「トシ兄ぃ、早くしないと学校に遅れるよ?」

 

部屋の扉を開けて、そう言いながら入ってきたのは義妹の美柑。

 

現在、小学5年生で11歳の少女であるが、家事などを一切に引き受けてくれている良い子だ。

 

「・・・・・・サボる」

 

わざわざ起こしに来てくれた美柑には悪いが、今日はそんな気分ではない。

 

なにが悲しくてもう一度高校へと行かなければならないのか、そんなことを考えながら俺は一言だけ口にする。

 

「サボるって、そんなのダメに決まってるでしょ! ほら、早く起きる!!」

 

こちらの言い分を聞いてくれない美柑は俺が頭までかぶっていた布団を引きはがして、呆れた様子でため息を吐く。

 

「もう、いつもはしっかりしてるのに、たまにそういうこと言うよね、トシ兄ぃって」

 

布団を引きはがされた俺は身体を起こし、不機嫌な表情で美柑を無言で見つめる。

 

「・・・・・・」

 

「な、なに?」

 

不機嫌な表情をしている俺を見て怒られると思ったのか、怯えた様子でこちらの様子を窺う美柑。

 

「・・・・・・ぐぅ、ぐぅ」

 

「ね、寝るなぁ!!」

 

俺が美柑に怒鳴られて色々と準備をしているうちに自己紹介をしておこうと思う。

 

俺の本名は敷島トシアキ、現在18歳で異世界では王子をやっていたことがある人間だ。

 

ちなみに今の名前はわけがあって結城トシアキと名乗っている。

 

王子をやっていたということで俺は今、王子ではない。

 

詳しい内容は別の物語で語らせてもらうから省略するが、簡単に言うと世界はここだけではない。

 

別の世界で俺は王子で次期後継者となっていたが、ある日突然現れた鷹見ゲンジという青年に出会い、そして色々と教えて貰ったのだ。

 

【世界はここだけじゃないんだよ。 僕は別の世界から『歪み』を調整しに来たのさ】

 

その言葉に俺は興味を持ち、無理矢理付いていく形でゲンジと一緒に世界を渡り歩いてきた。

 

その途中でゲンジと生き別れになってしまい、気が付いたらここで寝ていたというわけである。

 

「ほら、パンは焼けてるから学校へ行きながら食べてね」

 

俺が着替えて、寝癖を直している間に美柑がパンを焼いていてくれたらしい。

 

「おう、サンキュー。 美柑はいいお嫁さんになれるな」

 

丁寧にバターを塗ってくれたパンを受け取り、リビングから出て行くときに美柑のあまりの手際の良さに思ったことを口に出てして言ってみた。

 

「なっ!?」

 

チラッとしか確認できなかったが、今頃顔を赤くしていることだろう。

 

こういう反応をしてくれるから、美柑は可愛いのだ。

 

学校へと向かいつつ、先ほどの『歪み』についても簡単に説明しておく。

 

『歪み』とはこの世界では本来、あり得ない現象によって現れるものなのだ。

 

世界はそれぞれ異なる秩序を持ち、世界の中に存在するものはその世界固有の秩序から作られている。

 

ある世界から別の世界へと物体が移動し、異なる秩序にさらされると一種の反応を起こす。

 

それは違う秩序で作られた存在を異なる秩序に対応させる。

 

つまり、周囲の秩序を歪ませるものなのだ。

 

それらを称して『歪み』と呼ぶ。

 

『歪み』の大きさは物体の大きさや常識によって異なり、大きな物体や非常識であるほどその世界の『歪み』も大きくなる。

 

また、『歪み』は時間の経過と共にその度合いを大きくし、最終的には世界の崩壊が予測されている。

 

それを防ぐために俺とゲンジが世界を渡り歩き、『歪み』を調整していたのだ。

 

調整していた世界でのトラブルで気が付いたらここにいた俺だが、この世界での記憶が全くない。

 

目が覚めたら中学を卒業し、高校生になるための準備をしていたのであろう部屋のベッドで寝ていたのだ。

 

もともと存在していた人間と俺が入れ替わったのか、普通の生活をしていたこの世界の俺に意識だけ入り込んだのか全くわからない。

 

「まぁ、それで『歪み』が出来てるはずだからゲンジと会えると思うんだがなぁ」

 

「トシ兄ぃ、どうかしたの?」

 

俺の独り言に風呂から上がったのであろう、美柑が首を傾げながら反応した。

 

「いや、なんでもない。 というか美柑、髪を乾かせ。 そのままだと傷むだろ」

 

「後でするよ、先にアイス食べたい」

 

ちなみに今はタオルを首にかけ、濡れた髪でパジャマが濡れないようにしているようである。

 

俺の前を通過して冷蔵庫に向かおうとする美柑を俺はソファに座りながら力強く引き寄せた。

 

「きゃっ!? ちょ、ちょっと、トシ兄ぃ。 ビックリするじゃない」

 

少し驚いた表情を見せた美柑だが、特に抵抗することなく俺に背を向けた状態でペタンと床に座り込む。

 

「ほら、拭いてやるからジッとしてろ」

 

「もう、乱暴なんだから・・・・・・」

 

特に乱暴に扱った意識は無いのだが、18歳が11歳を力強く引き寄せると確かにそう感じるかもしれない。

 

「んっ、く、くすぐったいよぉ・・・・・・」

 

髪をタオルで優しく拭きながら、俺特有の方法で髪を乾かしていく。

 

その途中で、身をよじりながら微笑む美柑を見て、こんな世界も悪くないと感じてしまった。

 

「ほら、終わったぞ。 もうアイスを食べも良いぞ」

 

「うん、ありがと。 トシ兄ぃ」

 

笑顔を見せた美柑は俺からタオルを受け取って冷蔵庫へと向かって行った。

 

最初にこの世界に来て美柑に会ったときに思わず言ってしまった一言。

 

【お前、誰だ?】

 

その時の美柑の悲しそうな表情はもう二度と見たくないと思う。

 

あの時は寝ぼけていたということにして、一人になったときに持ち物を調べて美柑という名の妹がいると確認出来たのだ。

 

「しかし、俺の言葉遣いや性格はもともとこんな感じだったのか?」

 

俺の今の意識はゲンジと色々な世界を渡り歩いていた時の物だ。

 

しかし、もともとこの世界にいた今の俺のポジションの人間は本当にこんな性格だったのだろうかと疑問に思う。

 

「まぁ、『歪み』が原因で周りも影響されていると考えた方が無難だな」

 

とりあえずの結論を出した俺はさっさと風呂に入って寝ることに決めた。

 

ゲンジが迎えに来れば俺という『歪み』を調整して、また世界を渡り歩く。

 

それまでの休息と思ってこの世界を結城トシアキとして、せいぜい楽しんでおくとするかな。

説明
世界の『歪み』を修正するため敷島トシアキと鷹見ゲンジが色々な世界を渡り歩く。
その途中のトラブルによって二人はそれぞれ別世界へ。
そして、本作品の主人公である敷島トシアキは気が付くと別人へ!?
迎えが来るまで別世界をのんびりと楽しもうとするトシアキだが、
面倒事に巻き込まれていつもと同じく忙しい毎日になってしまう。
彼に平穏な日がくるのだろうか?

本作品の読み方は『まほうつかいのとらぶる』です。
主人公である魔法使いが色々なトラブルに巻き込まれてしまう、という意味でつけました。
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