魔法少女リリカルなのはStrikerS〜軍狼の生きる道〜第一話「狼は静寂を望む」 |
彼が睡眠を始めてから、丸一日が過ぎた。
そんな彼はというと……
「……チッ」
こめかみに青筋を浮かばせ、目を瞑りながらベンチに寝転がっているフェンリー。率直に言うと、彼は苛立っていた。
「(うるせえ…)」
公園ではしゃぐ子ども達の声に苛立っていた。砂場で山を作り、それが崩れると笑い。滑り台では、滑り落ちる度に笑い叫んだり。ブランコでは高くこげばこぐほど声量が上がったりと、公園での日常風景に彼は苛立っていた。
それもそのはず。彼は軍事レプリロイド『フェンリー・ルナエッジ』戦う為に造られ、戦う事を生き甲斐として過ごしてきた。このようなほのぼのとした日常は、戦いに身を投じてきた彼の日常と全くソリが合わないのだ。
「(餓鬼共……ぶっ殺してやろうか?)」
内面物騒な事を考えている彼。しかし勿論そんな事はするつもりはない。彼は元々好戦的な性格だが、不思議とそんな気分になれない。人は一度死ぬと、性格は変わるものだろうか?彼は元は人ではないのだが……。
「(あーあ……これといってやることがねえ……こんな姿(ナリ)じゃ暴れれねえし……どうしたもんかねえ……)」
彼はどうしようもない事を延々と考え、ただひたすらベンチの上で時間を過ごしていた。
「あのお兄ちゃん…まだ居る」
たまたま公園を通りかかったスバルは、未だベンチの上で寝転がっているフェンリー見て言う。
「何であそこに居るんだろう……もしかして…帰るお家がないのかな?」
彼女は考える。もし本当に帰る家が無かったら彼が可哀想だと、スバルは思う。いざ声を掛けようと近づこうとしても、彼の出す独特な雰囲気に圧され、中々近寄れない。
「スバル〜何してるの?おいてくよ〜」
「まって〜!お母さ〜ん!」
昨日と同じように、彼を横目でチラリと見る。やはり寝転がったままで、動き出す気配は全く感じられない。
「(よぉ〜し、次に公園通りかかったら、今度こそ声を掛けよう!)」
彼女は自身にそう言い聞かせ、走っていった。
「…………首が痛え」
長時間ベンチに寝転がっていたのだ、当たり前のことだ。気づくと太陽は沈みだし、空は夕焼けで赤く染まっている。彼にとって赤は嫌いな色である。何故なら、赤は炎の色。彼が氷の力を持っていたレプリロイドで、炎が天敵なのだ。
「そういや、ゼロにやられた時も炎喰らってたな……あ?」
何やら声が聞こえる。方や屈強そうな男。方や子供の声。
「なんだなんだ?餓鬼と大人の喧嘩か?……にしても」
片方の子供、何か違和感がある。人間だが、どこか人間とは違った感覚。
「……チッ」
気づけば彼はベンチを降り、その声のする方へ歩いていったのであった。
「オイオイ、俺にぶつかってタダですむと思ってんのか?嬢ちゃんよ?」
「ご、ごめんなさい……ちゃんと前見てなかったから……」
スバルは怯えながら、目の前の大男に謝る。
「そうだな…親呼んでこいや。慰謝料払わせてやる」
「えっ…?」
「ほら…さっさと呼んでこいやぁ!!」
男はスバルを蹴りつけようとした。
「は!下らねーな」
「なっ!?」
男の足は、突然介入してきたフェンリーに止められていた。フェンリーは掴んでいた足を離すと、男は離れる。
「てめぇ…誰だ?そこのガキの兄か何かか?」
「兄…?」
フェンリーはチラッとスバルを見る。スバルはビクッと体を動かす。
「ちげーよ……何かしらねーけど体が勝手に動いちまってたんだわ」
「ふざけんなよ!ガキが!」
男はフェンリーに殴りかかる。
「危ない!」
ガアンッ!!
「……」
「……ッぐあああ!」
フェンリーの顔面を殴った男は、腕を押さえ悶絶する。殴られたフェンリーはというと、何事もなかったかのように頬をさする。
「なんだコイツの体!?鉄みたいに固え!?」
「なに一人で盛り上がってんだ?」
嘲笑うかのようにフェンリーは男を見る。
「しっかしなってねえな……パンチってのは……」
フェンリーは振りかぶり
「こうやんだよ!!」
バキィイ!!
「ぐはぁああ!!!!」
フェンリーのパンチにより、勢いよく吹き飛んだ男。
「オイ、人間。さっさと消えねえと……やっちまうぞ?」
「ヒィ!!」
顔面蒼白にして、男は逃げていった。
「けっ…張り合いねーな」
「あ、あの…」
「あ?」
スバルはフェンリーの瞳を見ながら
「お兄ちゃんありがとう!」
と笑顔で言った。すると
「スバルー!」
一人の女性がやって来た。
「お母さん!」
「もう、どこいってたの?探したんだからね」
「ごめんなさい…」
「?そこの人は?」
スバルにお母さんと呼ばれた女性は、フェンリーを見てそう尋ねる。
「えっとね、わたしが男の人にぶつかっちゃって、それで蹴られそうになったところをお兄ちゃんが助けてくれたの!」
「そうなの!?……うちの娘がご迷惑をおかけしました」
女性は申し訳なさそうに頭を下げる。
「別に気にしちゃいねーさ」
「そ、そうですか……えっと、私はこの子の母親のクイント・ナカジマといいます」
「スバル・ナカジマです!」
「……俺はフェンリー。フェンリー・ルナエッジだ」
フェンリーはそう言うと、何処かへと歩き出す。行き先はベンチだ。彼は再び寝転がる。
「(俺が人間を助けるなんざーヤキが回ったもんだぜ……)」
そう考えていると、スバルが歩み寄ってくる。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「んだよ?」
「お兄ちゃん帰るお家ないの?」
率直過ぎる質問に、クイントは焦りながら
「スバル!しつれいd「ねーよ」え?」
「だから、帰る家なんざねーよ」
彼は普通に答えた出しただけなのだが、クイントがかなり驚いていることに少し疑問をもった。
「じゃ、じゃあ、ご飯とかどうしてるの?」
「飯なんざくってねーよ。ってか俺必要ねえし」
「……」
クイントは目を閉じ、数秒間考えた。そして
「ねえ、あなたこの後予定とかある?」
「……これといってねーな」
「じゃあうちに来ない?」
「は?」
「スバルを助けてくれたお礼したいし…どうかしら?」
「……」
フェンリーは考える。ただひたすら考える。するとスバルが彼の手を握って
「ね、いこ?」
「あー……」
あからさまにめんどくさそうなフェンリー。だが
「わかったよ、どうせ暇だし」
「そう!それじゃいきましょ?家は此処から近いから」
「こっちだよ!」
「オイ、ひっぱんな。自分で歩けるっての!」
フェンリーはスバルにぐいぐいと引っ張られていったのであった。
説明 | ||
ミッドチルダに来たフェンリー。彼は何処へ向かうというのだろう…? | ||
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