真恋姫†夢想 弓史に一生 第一章 第三話 正史と外史 |
〜聖side〜
…この少女は今、何と言った…。
「…ごめん、もう一回言ってもらって良い??」
「えっ!! あっ、はい。姓は徐、名は庶、字を元直と…」
「嘘だ〜!!!!」
「ひぅ!!!」
おいおいっ…。
俺の知っている徐庶元直は、ひげ面のおっさんだぞ…。
それが…今俺の目の前にいる美少女が…徐庶元直だと…そう言ったのか…。
でも、確かにあの撃剣なら、あれぐらいのことが出来ても…あ〜でも、女の子だぞ…。
しばらく硬直していた俺に、徐庶と名乗る少女は、困ったように尋ねてきた。
「あっ…あの〜…。何かございましたか??」
「はっ!! ごめんごめん。こっちの話だから気にしないで…。はははっ…。」
「そうですか…。 分かりました…。それで、よろしければ私の真名をお預けしたいのですが…。」
「真名??」
「やっぱり、ご存じなかったのですね…。真名とはその人の本当の名前。親からもらった大切なそして神聖なものです。もし知っていたとしても、その真名を許可なく呼んでしまったら、殺されても文句は言えないんです。」
「そっ…そうなんだ…。気をつけるよ…。 でも、良いの?? そんな大切な名前を俺に教えて。」
「えぇ。御使い様には急に襲い掛かってしまった負い目がありますから…。」
「…いや、もうそれは気にしなくて良いから。」
「そういう訳にはいきません。これは私なりの贖罪なのです。」
「はぁ〜…まぁそういうことなら。」
「はい!! 私の真名は芽衣って言います。」
「じゃあ、芽衣ちゃんでいいのかな??」
「あの…出来れば呼び捨てで…。その方が慣れてますから…。」
「…分かった!! じゃあ、芽衣!!よろしくな!!」
「はい!! 御使い様!!」
「…その御使い様っていうの、どうにかならない?? なんかこそばゆいんだけど…。」
「と、言われましても…。」
「う〜ん、俺の真名にあたるのが聖だから、聖でいいよ。」
「そんな!! 呼び捨てなんて出来ません!!」
「うおっ!! そっ…そうなの…?? じゃあ呼び易いように呼んで…。」
「はいっ!! …じゃあ聖様で!!」
「う〜ん、なんかやっぱりしっくりこないけど…。まぁ御使い様よりはマシか…。とにかくよろしく、芽衣!!」
「お願いします♪」
あどけない芽衣の笑顔は、無欲故にその純粋さがしかと感じられて、まるで一枚の完成した絵のように美しく、人々を魅了する様だった…。
その笑顔に少し見蕩れていると、
「聖様?? どうかなさいましたか??」
「あっ!! ごめんごめん。あまりにも芽衣の笑顔が綺麗で可愛くてさ…。思わず見とれてた。」
「っ!!( ///)」
顔を真っ赤にして俯く芽衣。
顔を赤くする程怒ってるのかな?? まぁそりゃそうだよな…あれだけ剣の腕が立つ人間が、可愛いなんて言われたら怒るよな…。
「ごめん、気を悪くしたんなら謝るよ…。」
「っ!! いえっ、そ…その…怒ってないですから…。」
「そう!? 良かった〜…。」
「むしろ嬉しいですし(ボソッ)」
「えっ!? 今なんていったの??」
「いえいえっ!!何も言ってないですよ。それよりも、これから聖様はいかがなさる予定なのですか??」
そう芽衣に言われて、答えに困る…。
実のところ、これからどうするも何も考えてないし…。
「とりあえず…町に行って今日の宿探しかな…。」
「…よろしければ私も同行してもよろしいでしょうか…??」
「えっ!! …俺は別にかまわないけど、またどうして?? 芽衣だって旅してたんだろ??」
「…はいっ。実は私の故郷は賊に襲われて廃墟となりました…。その時両親は私を逃がしてくれたんです。二人とも今どうなってるかは…分かりません…。」
俯きがちに話す芽衣は少し寂しそうだった。
「私は…私のような人をこれ以上増やしたくない…。宦匪の横行、太守の暴政。最早、漢王朝は崩壊したといっても過言ではないこの世界を、私は変えたかった。…私の勝手な希望であることは承知ですが、聖様なら…天の御使い様ならきっとこの世を救ってくださると思っておりました。もし…この世に御使い様が現れたなら、私はその人の傍でこの願いをかなえたいと思っておりました…。」
真剣な表情で語る芽衣。その瞳からは思いの深さが感じられた。
「ですから、私は御使い様の…聖様の傍で私の願いを叶えたいのです。確かに、急にこの世界に来て、急にこの世を救ってくれといわれたら困窮することは分かっています。でも、今このときも、私のような人が増えているかもしれない。そんな人たちを私は放っておけません…。私の願いの為に、お力をお貸しいただけないでしょうか??」
痛いほど胸に刺さってくる言葉…。
俺は…芽衣の願いを叶えてやることなんて出来るのか…。
そんなの…出来っこない…。だって、少し前まではただの大学生だぞ…。
それが世界を救う?? そんなのどう考えたって出来やしない…。
でも、芽衣のこの願いを叶えてもやりたい…。俺は…俺はどうしたいんだろう…。
「俺は…。」
「無理はなさらないでください。聖様は天の御使い様かもしれませんが、それより先に聖様であります。急にこの世の未来全てを背負って立てというのは少々酷ですよね…。」
その時、日々爺ちゃんに言われていた、徳種家の家訓を思い出した。
『憲法十七条』
日本人なら一度は聞いたことがある、聖徳太子が作り上げた憲法。この憲法が我が家の家訓となっている。
この中には、「和を以って貴しと為し、忤ふること無きを宗とせよ。…」
つまり、「和をなによりも大切なものとし、いさかいをおこさぬことを根本としなさい。人はグループをつくりたがり、悟りきった人格者は少ない。それだから、君主や父親のいうことにしたがわなかったり、近隣の人たちともうまくいかない。しかし上の者も下の者も協調・親睦の気持ちをもって論議するなら、おのずからものごとの道理にかない、どんなことも成就するものだ。」と言っている。
この世界は今まさにこの状態。
今、この世界に必要なのはこの考えなのではないか。誰かを頼るんじゃなく、自分たちの力で、周りの人たちを信じ、協調する。そうすれば、理想の世界を創ることだって叶うと思うこと。
…なんだ…。
「…ぷっ。」
「…どうなさいました??」
「いやっ、どうやら俺は、本当に天の御使いなのかなって思っただけだよ。 …俺の家の家訓って、今芽衣が言ったことそのまんまだったんだよ。ここまで深く考えたのは初めてだったけどね…。」
それから俺は、自分の家の家訓のことを芽衣に話した。
話を聞く芽衣の顔は、初めこそ困惑していたが、すぐに意味を読み取り、理解していった。
流石、徐元直って言ったところかな…。
「感服しました…。聖様のそのお考え、まさに私の願いそのもの…。そのようなお志を持っていれば、必ずやこの乱世を聖様のそのお力にてしずめることが出来るでしょう。」
「…違うよ芽衣。俺の力だけじゃ駄目なんだ。芽衣の、そして皆の力が無きゃ駄目なんだよ。」
そう言って遠くを見つめる。
そうだ、俺はこの世界を変えてみせる…。
皆が皆の力で協力し、協調し、安心して暮らせる世界を作り出すために…。
そのために、芽衣やこれから出会う人々と協力して、この乱世を鎮めてやる…。そう心に誓った。
〜芽衣side〜
私は、聖様のその寂しそうで、でも強いまなざしを持ったその横顔を見つめていた。
その顔を見てると、なんだか胸が痛い…。病的な痛みではないが、なんだか摘ままれているかのような、そんな気分になるのだった。
…聖様の理想を聞き、感服した。
その理想の気高きこと、深きこと、大きなること。
この御方はなんとも深く広くこの世を見ているのだろう…。そして、私の理想とも合っている。
…やはり私の目に狂いは無かった…。
「ん?? 俺の顔に何か付いてる??」
「っ!!なっ…なんでもないです。」
などと、少し思案していると、聖様の顔を見つめてたことがばれてしまった。
多分真っ赤になってるだろう顔を必死に隠して、なんとかごまかす。
はぁ〜まったく危なかった…。
…何が危なかったというのだろうか…。それはまだ分からない…。
「じゃあ芽衣、俺の理想の為に、これから力を貸してくれ。」
「はい!! 改めて、よろしくお願いします。」
「あぁ、頑張ろう。」
そう言って2人で笑いあった。
聖様はどうやら私の夢への道標となりそうだ…。
では、その道標、利用させてもらいますね。
〜聖side〜
「じゃあ、行こうか芽衣!! 近くにある町に行って、宿を探そう。もう辺りも暗いし、急がないと!!」
「はいっ。ではそう致しましょう。近くの町まで案内しますね。」
そう言って先に行こうとする芽衣だったが、急にその姿が消えた。
「あれ!? 芽衣!?どこ行った??」
「ここです〜…。」
声のする方を見ると、なんと芽衣は足元で転んでいた。
…こんな何も無い平坦なところで…。
「大丈夫か、芽衣?? ほらっ手を貸すから。」
「う〜すいません…。何故か、昔っからよく転ぶんですよね…。」
…所謂ドジっ子ってやつか…。
「何て多様な仕様を持ち合わせてるんだ…。」
「その…仕様とは何のことでしょうか??」
「気にしないで良いからね…。ハハハ…。」
まぁ嫌いじゃないけどね!! ドジっ子大いに結構!! 仕様なんて関係ないさ〜!!
などと思っていたら顔が惚けていたのだろう…。
芽衣に、「聖様?? 顔が緩んでますが??」と指摘されてしまった…。恥ずかしい!!
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どうも、作者のkikkomanです。 これから先なんですが、キャラの心情描写が苦手な作者ですので、顔文字『(///)』を使っている所もあります。もし苦手な人は読まないようにお願いします。 |
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