真恋姫†夢想 弓史に一生 第一章 第五話 初陣 |
〜聖side〜
村を出て、西方の山との間にある丘の上で待機する。
手には蛇弓、隣には芽衣。
正直怖い…。
さっきはああ言ったが、俺も人を殺めたことなんて無い。
芽衣は…あるのかな…。希望としては無い方が良いな…。あっ、でも刀の錆とか言ってたっけ…。
芽衣を見ると、少し震えていた…。
「芽衣。今から殺し合いが始まるわけだけど、大丈夫??」
「…聖様は人を殺めたことがあるんですか?? 私はありません。 怖いんです…。聖様は怖くないんですか??」
「…俺だって怖いよ…。俺だって人を殺めるのはこれが初めてだし、さっきから震えが止まらない。でも、さっきも言ったけど、あの村の人たちを死なせるわけにはいかない。そのためにも…やらなきゃいけないんだ。」
そう言って遠方を見る。まだ黄巾賊の姿は見えない。
まずは、芽衣と策を考えることにする。
「50人とまともにやっても勝ち目は無いだろう…。何か策は無いかな??」
「策と言える物も、こう人数差があると…。」
「多兵に寡兵で勝つには…普通は一対一を作り出すとかそういうやつだよな…。」
「確かにそうですが、ここら辺一体には、そういう狭間はありません…。」
「じゃあ、逆に多兵に見せかけて、相手を混乱させてから攻勢を仕掛ければ?」
「う〜ん悪くはないですが、もう一押し欲しいですね〜。」
「じゃあ奇襲でもする?」
「どうやって?」
「俺が弓で遠射するよ。」
「そんなの駄目です!! 弓の距離まで近付いたらバレますし、向こうの弓の餌食じゃないですか!!」
「大丈夫。俺の弓の飛距離は最大で一キロメートルちょいだから。」
「一キロメートル??」
「あっ!! えっと…何で言えば分かるかな…。」
「距離の単位は里が一般的ですが…。」
「里か…。間って分かる?」
「分かりません…。」
「う〜ん、そうだな〜。」
辺りを見回す。大体一キロメートルくらい先に木が見える。
「そうだな。あの木位までならいけるかな。」
「なっ!! あの木まで!? 私の知ってる弓じゃあ、あの半分もいかないですよ。」
「まぁ、この弓は特殊でね…。トルコ弓っていう種類なんだが、こいつは普通の弓よりも射程が長いんだ。」
「土耳古??」
「…いきなり音だけで漢字を当てて、正解を導き出す芽衣の頭に吃驚したよ…。」
「じゃあ、その弓があれば、遠距離から奇襲はかけられそうですね…。」
「あぁ。しかも、この弓はそれだけじゃないんだ…。」
「というと??」
「まぁ、それは後で。じゃあ、とりあえずそれで強襲した後どうする??」
「多分、賊達は状況を確認するために偵察隊を出すと思います。その偵察隊は数が少ないでしょうから、これらを各個撃破すれば良いと思います。」
「よしっ!! じゃあそれでいこうか!!」
「はいっ!!」
そこから少し行ったところで遠くに野営の影が見受けられた。
「多分あれだろうね…。」
「野営の大きさなどからしてそうでしょうね…。」
「芽衣?? どうした、震えてるよ?? …やっぱり怖い??」
「…怖いです。でも、やらなきゃならないって思ってます。…死にたくない…。」
「芽衣…。」
それもそうだ。
たかだか、齢20歳程の少女なのだ。人を殺すのも怖いし殺されるのも怖いんだ…。
そう思い、震える芽衣を後ろから抱きしめた。
「っ!!!」
「芽衣、大丈夫だ。無事に帰れるよ!!」
手を解かれるかと思ったが、そうはならなかった。
でも、怒っているのだろうか? …顔を背けて首まで赤くなっている…。
「芽衣??」
「もっ…もう落ち着きましたから!! 大丈夫です!!」
「そっ…そう…。じゃあ行こうか!!」
「はいっ!!」
賊達の陣地を見やる。
火に照らされて何人かの影が見える。
「とりあえず見える三人くらいはいけるかな…。」
「三人もどうやって??」
「こうするのさ。」
そう言って弓を構えて狙いを定める…。
「あの…その方向だと全然別のところにいくのではないですか??」
「大丈夫だよ!! 今の気候と風向き、風速は計算済みさ!!」
よく引き、矢を放つ。
風を((劈|つんざ))くような轟音がして、矢は大きく曲がりながら、賊達の方へ飛んでいく。
「あん?? 何のお…ぐふっ!!」
「ごほっ!!」
「がはっ!!」
遠くで三人の男の姿が見えなくなった。
「これでとりあえず、奇襲完了かな…。」
「恐ろしい威力と腕ですね…。」
「まぁ、生まれてからほとんど弓と生活していたからね…。」
「…聖様と距離をとって勝負するのは愚の骨頂ですね…。 あっ!!見てください。 10人ずつ偵察隊が2手で出てきますよ。」
「じゃあ俺は、あっちをやってくる。終わったらここにまた集合で。」
「分かりました。聖様、ご武運を。」
「芽衣もな。」
そう言って俺と芽衣は別れた。俺は偵察隊の一部を追った。
「さぁ〜て、狩りの始まりだ。せいぜい楽しませてくれよ。」
弓を引き、矢を射掛ける。
「うぎゃあぁぁ!!」
「ぐわぁあ!!」
2人を一矢で串刺しにする。
「何が起こった!!」
「ゆっ弓だ!! どこからか弓で射掛けてきてるぞ。」
「いったいどこから射掛けてやがる。」
「矢が飛んできた方向はこっちだったぞ!!」
そう言いながら賊たちは聖とは真逆の方向を見ている。
「馬鹿だな〜…。」
俺の弓『蛇弓』の最大の特徴はその名前どおり曲射。つまり、曲がった弾道で矢を射掛けることが出来る。ただし、その逆でまっすぐ打つこともできる。
今しがた俺が射掛けたのは、まるでブーメランの様に、射た後に自分の方に戻ってくる打ち方だ。
この打ち方をされると、位置の特定がやりづらくなり、相手は混乱する。
俺みたいな弓手にとっては願っても無い状況となる。
「さて、次だ。」
矢を打ち出す。矢は今度は大きく左に曲がり、賊たちが警戒している脇から矢が飛んでくるようにした。
「ぐふっ…。」
「ぎゃあぁぁあ!!」
「ごふっ!!」
「今ので五人か…。矢にも数があるし、残りの人数を考えるとあんまり使いたくないんだが…もう2人ほど削らないと肉弾戦はきついかな…。」
そう思いながら次の矢を射掛ける。
次はまっすぐに飛ばす。
まっすぐ飛ばすことで、その威力は曲者より強く、賊の男の首二つを吹き飛ばした。
「ははっ、流石の威力だね…。さて、じゃあ残りを片付けにいきながら、矢の回収といきますかね…。」
そう言って、闇夜に紛れ、静かに賊達の近くに寄る。
「おいっ!! 居るのは分かってんだ!! おとなしく出て来い!!」
賊の男の一人が怒りに声を荒げている…。
まぁ、なんというか…。死亡フラグをそんなに掲げなくても…と俺は思う。
「とりあえず、あのうるさいの黙らせてから残り2人と対峙しようか…。」
そう思い、うるさい男の後ろに回りこみ、とび蹴りをお見舞いする。
「ぐべぇ!!」
男が地面とキスしながら滑っていく。
「そんなに地面がお好きかい?? じゃあ一生そのままでいな!!」
「「なっなんだてめぇ!!」」
「てめぇらを狩るものだよ!!」
「ざけんな!!」
一人の男が切りかかってくる。
そこに芽衣のような剣捌きがあるわけでもなく、ただ単純に切りかかってきただけ…。避けるのは簡単である。
俺はそれを難なくかわして、男の腹部に拳をお見舞いしてやる。
「ぐふっ。」
「さて、ちょっと眠っててもらおうか。残り一人だね…。どうする? やる?」
「くそやろう!!」
男は乱暴に剣を振りながらやってきた。
「その根性は認めるよ…。」
でも、そんなんじゃあ蚊も殺せないよ…と心で思いながら、かわして足を振り上げ、かかと落としをお見舞いしてやる。
「ぎゃふん…。」
「ふうっ…。こっちは終わったか…。さて、芽衣はどうなったかな??」
賊3人をお互いの服で縛っておき、乱れた弓道衣を直して、約束の場所へ向けて移動する。
〜芽衣side〜
聖様と分かれて、私は偵察隊のもとへと向かう。
剣を手にすると、さっきまでの不安や恐怖が消えた。そしてそのまま、偵察隊の所までゆらゆらと歩いていった。
「あ〜!? なんだてめぇは??」
「…ぼそっ…。」
「なに言ってっかわかんねぇよ!! 嬢ちゃん、もっと近くで教えてよ。」
そう言って、男が一人下種な笑いをしながら歩いてくる。
「賊どもは大人しく、わが刀の錆となれ」
「あっ?? なんて言ったのかな??」
「賊どもは大人しくわが刀の錆となれ、って言ったのよ。」
そう言って男の首を飛ばした。
血を噴出し、ひざから崩れ落ちる死体を見て、賊どもは吃驚している。
その隙を見逃さず、近くにいるものから1人、2人と片付けていく。
気がつけば残るは2人。それ以外はもう口を開くことは無い姿となっていた。
「さて、残り2人ね。おとなしく私の刀の錆になってくれないかしら??」
「っざけんな!! 仲間たちをこんなんにしやがって!!」
「あらっ?? 私の実力分かってくれてないのかしら…。そういう感覚が無い男って不憫ねぇ…。」
すれ違いざまに首を落とす。一対一ならこんな賊に負けるはずは無い。
「ひっひぃ〜化け物だ…。」
そう言って最後の1人は逃げ始めた。
「あらっ!! 良い考えねぇ。でも、私の前で後姿を見せるのは危険よ。」
そう言って撃剣を揮い、残り1人の男の首を落とした。
「こっちは終わったわねぇ。聖様はどうなさったのかしら??」
剣に付いた血を振るい、鞘に収めた。
「とりあえず、集合場所に行きましょう。」
私は集合場所に向かうのだった。
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです。 村を襲う黄巾賊。その影は、村の直ぐ近くまで来ていた。 聖と芽衣はその報告を聞き、迎撃するために、二人で突撃を敢行するのだった。 |
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