サクラのバレンタイン奮闘記 |
Fortissimoexs短編小説 サクラのバレンタイン奮闘記
「う〜ん、どれにしようかなどれも美味しそうなんだよ」
時間帯的には昼休みといったところだろうか、既に教室には生徒たちの姿は疎らで教室に残っているのは1/3にも満たない程度だろう。
そんな教室の一角に座りながら手には一冊の雑誌とにらめっこしている少女の姿があった。
「どれも美味しそうで迷っちゃうんだよ」
と手にしていた雑誌をテーブルに置き、何だか悩んでいる少女―サクラ―の姿があった。
広げられた頁には茶色いお菓子、所謂チョコレートが載っており、その見開きには大きく“バレンタイン特集”と書かれており、有名なパティシエが作ったであろうチョコレートが彩りよく映し出されていた。
「サクラちゃん、どうしたの?」
と声がするので頭を上げるとそこには、腰まで伸びる黒髪を左右で結わえた、所謂ツーテールと呼ばれる髪型の少女―鈴白なぎさ―の姿があった。
なぎさは、テーブルへと視線を向けると彼女が悩んでいた理由を察した。
2月初旬が過ぎそろそろ中旬へと入ろうかという時期、この時期は乙女にとってはある意味聖戦とでも呼ぶにふさわしい一大イベントだろう。
親友である、“里村紅葉”や自身が所属する生徒会のトップである“雨宮綾音”もかなり気合を入れて選んでいたのを思い出した。
「バレンタイン、もう直ぐだもんね」
「………バレン、タイン?」
訊きなれない言葉にサクラは首を傾げる、そのあまりの行動になぎさは一瞬息を殺した。
「なぎさちゃん、このバレンタインって何するの?」
「う〜ん、そうだね………」
サクラの問いになぎさは人差し指を顎にあてながら言葉を探す。
「そうだね、大好きな男の子にチョコレートを上げて気持ちを伝えるんだよ」
「……気持ち……?」
「そうだよ、“大好き”の気持ちを伝える日なんだよ」
放課後、サクラは星見商店街に最近できたばかりの大型ショッピングセンター“ミルキーウェイ”へと足を運んでいた。
当初サクラは既成の者を送ろうと考えていたが、なぎさの「折角だし、手作りしてみたら?」という言葉に当初は渋い顔をしていた。
それというのも、サクラは料理が劇的に下手で、ここ最近ようやく簡単な料理ならまともに作れるようになってきた彼女にとって手作りのチョコレートはどうも敷居が高いようだったが、なぎさの「既製品よりも手作りの方が思いはちゃんと伝わるよ」という言葉にそれじゃあということで作ってみようと意気込んでショッピングセンターの一角にある製菓専門店へと足を運んだのだ。
そこにはもう既にバレンタインデーが近いのか“バレンタイン特設コーナー”が設置されており、賑わいを見せていた。
「えっと………」
サクラは制服のポケットから一枚のメモを取り出し書かれている内容に目を通す。
書かれている内容は、初心者でも簡単に作れるチョコレートのレシピの様で、サクラは書かれたとおりの材料を籠へと入れていく。
相良家にある調理道具を頭に描きながら、必要な機材も一緒に購入していく。
お金自体は、以前星見学園の購買部なる場所でアルバイトをしたときに得た資金と家に帰ってから家主である“相良苺”に相談し若干ではあるが資金を頂いたため少しばかりは余裕があるので、少し多めに材料を購入し会計を済ませる。
相良家へ帰るなり、サクラは台所へとその足を進める。
普段であれば、台所へ入るのは、紗雪か零二がいる時だけなのだがこの日だけは苺から台所へ立つ許可をもらっている。
「始めるんだよ」
と胸の前で小さくガッツポーズをとり早速調理へ入る。
まずは調理器具を取り出すところから始める、未だどこに何があるのか詳しく知らないが大体の場所は覚えている。
記憶を辿りながらサクラは必要な器具を取り出している。
「包丁にまな板、計量スプーンにそれからそれから………」
メモに書かれている調理器具がすべて出ていることを確認し、サクラは早速調理に入る。
まずは………
「チョコレートを細かく刻んで………」
不器用ながらも丁寧に刻んでいく、メモに書かれているとおりに均一には刻めず大きさが疎らだが初めてにしては上出来だろう。
「次は………」
一つ一つ手順を確認しながらサクラの作業は続く、そして作業を始めてから2時間後………
「出来たんだよ、後はこれを切って………」
幾つかに切り分けたチョコレートを先ほど買ってきたラッピング用の袋に入れて丁寧に包んでいく。
形は疎らで見た目はお世辞にもきれいとは言えない、紗雪や紅葉、なぎさのほうが上手に仕上げるのだろうが、そこに込められて想いは誰にも負けないと自負できる。
そしてチョコレートに添えるのはこれも定番であろうメッセージカードだ。二つ折りでおもて面にはシンプルなデザインがあしらわれたカードの中へと。自身の気持ちがちゃんと伝わりますように、そんな気持ちで一生懸命に綴られた言葉が書かれていた。
――レイジ、大好きだよ――……と、ただ一言深愛の気持ちが綴られていた。
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fortissimoEXS 短編小説です。時期外れではありますが愉しんでいただければ幸いです。 | ||
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