ストライクウィッチーズの世界へ〜(とある傭兵と戦闘機)第三話 |
・・・とは言ったものの
「ジェット燃料なんかこの時代にあるわけないし・・・」
整備士から航空機用燃料の成分表を借りてそれをジェット燃料の成分表と見比べている
一番近い成分の燃料を採用しようとしたわけだが・・・
「使えそうな燃料は・・・ないな」
なかなか見つからない・・・
「今の所、扶桑の航空機用の純度を高めたやつかな・・・」
だがこの時代、扶桑と呼ばれる国から燃料を持ってきてもらうには一月ほどかかる
主な物資輸送手段が船だから、それもそんなに頻繁に補給がある訳でもないので文句は言えない
「それまで燃料が持つわけないし・・・ボツだな・・・」
ため息を一つついて再び成分表に目を通していると
「サイファーさん、今届いた物資の中に新型燃料の試作品があるんだけど」
ミーナ中佐が何か封筒を持って私の方に歩いてきた
「・・・資料を見せてくれませんか?」
「ええ、いいわ」
封筒を開け、中にある資料を見る・・・どうやら試しに使ってくれというやつだ
そして、その資料と成分表を見て驚いた
「ほとんどジェット燃料と一緒だ・・・使える!!」
中佐・・・あなたは女神ですか・・・?
タイミングが良すぎるのが少し怖いが
「本当?。よかったわ」
聞いてみるとこの燃料はリベリオンの補給物資の中の一部で
レシプロ機で実験してくれと、送られてきたものらしいが
「でもいいんですか?・・・俺が使っても・・・」
そう、これはあくまでこの基地のレシプロエンジンの機体に使うものだ
それに試作品・・・大量にあるわけではない
「いいのよ、こっちのレシプロ機は今の燃料で十分なんだから。それにあなたが使った方が戦力の強化につながるわ」
そんなことを言ってくれた・・・全くこの人には頭が上がらない
「ありがとうございます・・・」
俺はこの補給一回分の燃料を大切に使うことにした
その後、基地を案内されてから午後は新人の訓練に付き合うことになったのだが・・・
「サイファーあと十週、気を抜くなっ!!」
滑走路往復二十週というハードなものだった
滑走路ってアレだ、だいたい2000mくらいある直線、阻む物は何も無し
「畜生っ、こんなの聞いてねぇぞっ!!」
訓練は飛ぶ訓練以外まともに参加してなかったため、私の体力は常人並みである
はるか後ろをついてきている新人二人はつい最近、この501に配属になったばかりらしいが
一人は俺がこの世界に来る少し前に配属になったリネット・ビショップ軍曹
もう一人は俺が守った艦隊に乗ってこちらに来た宮藤 芳佳軍曹である
「よし、サイファーラスト一周ッ!!」
「やっとかよちくしょーッ!!」
もう一生分走った気がしなくもないな・・・
そうしてようやく全員走り終わった後、新人の二人は俺の横に倒れこんできた
「サイファーさん・・・速いです・・・」
「私達と同じ年くらいなのに・・・」
息切れしながらそんなことを聞いてきた
「いや・・・基地では俺は最下位だったんだが」
短距離なら基地でも上位に入るのだが、持久力は最悪だった
馬鹿にされていた頃が懐かしい・・・嫌な思い出もあるけどな
そんなことを話していると
「新人」
誰かが二人に話しかけた
「ここは最前線だ・・・即戦力だけが必要になる。死にたくなければ、国へ帰れ」
「えぇと、あなたは?」
名前を聞こうとしたらその人はすぐに戻ってしまった
「なんだ?・・・あの人は」
なんか、俺の嫌いな堅物軍人のにおいがやばいくらいする
でも待てよ・・・あの声どこかで聞いたことあるような・・・?
「サイファーさん、基地へ戻りましょう〜」
「分かった」
まぁいいか、考えても仕方ないし
バルクホルン視点
「待てよ・・・あいつ・・・どこかで・・・」
紺色の髪を長く伸ばしたその少女は、初対面のはずなのになぜか頭に引っかかる
「トゥルーデ〜ご飯だよ〜」
エーリカが呼んでいる・・・まぁ覚えがないなら初対面だ。気にしないことにしよう
サイファー視点
晩御飯を食べたあと、俺はハンガーに行って機体のメンテナンスをしていた
「あ〜・・・やっぱりきついか」
工具が不足していて調べたいところまで整備ができない
本格的な整備をここでするのは無理みたいだ
「仕方ないからそのままにしておくか」
すると滑走路の方から
「初めから出来た宮藤さんとは違うのッ!!」
という怒鳴り声が聞こえた後、リネット軍曹は走って宿舎の方に行ってしまった
「リネットさん・・・」
それに宮藤軍曹が遅れて来る
「なんだ?どうしたんだ?」
心配になって宮藤軍曹に経緯を聞いてみた
「ふむ、そういうことか・・・」
宮藤軍曹から経緯を聞いてから考える
リネット軍曹が控え気味なのは分かっていたが、どうやらすぐに飛べるようになった宮藤軍曹に対して
少なからずコンプレックスを抱いていたようだ
「あの・・・リネットさんは・・・」
心配そうに聞いてきた
俺には痛い程分かる・・・リネット軍曹の気持ちが
「たぶん彼女は、”自分は役立たずだ”と思い込んでいたんだと思うよ」
実際、俺にもそういう時期があった
飛べても敵が撃てない・・・というような時期が
「・・・私にはどうすることも出来ないんでしょうか?」
だが・・・その時俺は
「いや・・・むしろ君にしか出来ないことだ・・・これは」
仲間に励まされてから克服できたんだ
「自信を与えてあげればいいんだ・・・俺もそうだったから」
そう、自信が無ければ何も出来ない・・・あの時と同じように
当時、俺は敵が撃てなかった・・・人殺しなんてしたくなかった
甘い所の問題ではない、軍に所属していた当時の情勢から所属不明機に対して無制限交戦許可が降りていた時代だ
だが仲間に「別に殺す必要は無い、無力化又は戦闘継続させないようにする力がお前にはあるんだよ」
と言われて自信がついた
殺す必要はない・・・戦闘不能にさせるだけでいいんだ
戦闘機には緊急射出装置が搭載されており、レバーを強く引くだけでコックピットから射出される
大抵の場合は機体がバラバラになって搭乗者は空に投げ出される形となるが、それでも生存確率は飛躍的に上がった
俺は、無駄な殺しはしないという理念を心に掲げている
今も、そしてこれからも
戦闘機に乗る者として、甘ったれた理念と言われる事も多々あるが、それでも俺は生きている
「・・・私、明日もう一度リネットさんとお話しますっ!!」
「そうだな・・・がんばってな!!」
俺が励ましの言葉を送ると、宮藤軍曹は宿舎の方に走って行った
「俺に出来ることはここまでだな。後は本人次第だ・・・さて、俺も寝るか」
F-15Cのメンテナンスを終えた俺はさっさと宿舎に戻った
次の日、朝起きてから基地の周りを散策していていつか見た夢を思い出す
「あのネウロイとかいうバケモノを倒した時のあの白い破片・・・」
考えてみればあの時少女を助けたとき少女の上に降りかかってきた破片に似ていた気がする
「いや、まさかな・・・」
前に見た夢がどうこう言ってられないしな
考え事をする暇があったら休んでおこう
「よし、これで燃料の給油はOKだな」
試作燃料の給油作業を終えた俺は汗をぬぐっていると、警報が基地中に鳴り響いた
「敵襲!?」
俺は急いでブリーフィングルームへ向かった
「敵ネウロイは当基地に接近中です、目標はおそらくブリタニア」
ブリーフィングルームでは中佐が作戦の概要を説明する
どうやら俺は夜間専従員と新人二人と共に基地待機ということらしい
「今、私達に出来ることってなんだろう・・・」
「役立たずの私に出来ることなんて・・・」
そういってリネット軍曹は部屋から出て行ってしまった
かなりマイナスな思考に入ってるな
「宮藤軍曹」
「は、はいっ」
「昨日言った通りだ・・・行ってやるといい」
「・・・!!。分かりましたっ」
そう言って彼女はリネット軍曹を追いかけて行った
「・・・ふふっ」
すると一連の会話を聞いていたミーナ指令は少し微笑んだ
「?」
「サイファーさんって意外と優しいんですね」
「いや、そんなことはないですよ・・・」
意外なことを言われた。優しいなんて言われたのは生まれて初めてだ
「でも大丈夫かしら・・・」
やはり心配してるようだ・・・だが
「大丈夫ですよ、きっと・・・心配するほど彼女達は弱くない」
俺は確信している。彼女なら大丈夫だと
出撃部隊視点
「・・・おかしい・・・手ごたえがない」
出撃して目の前のネウロイを攻撃しているが、コアが一向に姿を見せない
魔眼を発動させて、敵の体内を透視する
「コアは何処なんだ?」
「待て・・・なんだ・・・コアが見当たらない!!」
ネウロイなら必ずやそのコアを持つのだが、この個体内にはコアが存在していなかった
「まさか、陽動!?」
「だとすると基地が危ないっ!!」
身を翻してインカムより連絡を取る
「たった今撃墜した機体は囮だった。恐らく本体が既にそちらに向かっているはずだ!!」
「(こちらでもレーダーに新たなネウロイを確認したわ。あなた達も急いで戻ってきて)」
「了解。急いで基地に戻るぞ!!」
今基地には新人と魔法力を使い果たした夜間専従員しかいない
リーネ視点
「やっぱり私には・・・」
この基地は最前線で、各軍のエースが集められている部隊・・・
「何で私はこんな所にいるんだろう・・・」
この基地にいる皆は才能があって、先日来た宮藤さんなんか
訓練なしにストライカーで飛ぶことが出来たらしい・・・
「皆すごいなぁ・・・私なんて・・・」
この基地に来てからろくな戦果をあげれてない
お姉ちゃんは軍のエースだけど、私なんか・・・
そんな時、ドアがノックされた
「リネットさん、居る・・・?」
ドアの向こうから、声が聞こえた
「私は・・・リネットさんが羨ましい」
私は驚いた
「私は飛ぶことに精一杯だけど、リネットさんはあんなにうまく飛べて、しかも射撃も私よりすっごくうまくて・・・」
私は宮藤さんの話を静かに聴いていた
「だから・・・自分に自信を持って!!」
!!
「リネットさんにしか出来ないこともあるの!!」
私にしか出来ないこと・・・
考えていると基地に再び警報が鳴った
行かなきゃ・・・
サイファー視点
「新たな敵は高速で当基地に接近中です・・・出撃できる人は!?」
「サーニャは夜間哨戒で魔力を使い果たしテル・・・ムリダナ」
どうやら新人を除いて出撃できるのは俺を含む三人ということらしい
「サイファーさんは!?」
「いつでも出撃可能だ、問題ない」
「分かりました、すぐに出「私も行かせてくださいっ!!」・・えっ!?」
その時宮藤軍曹が部屋に駆け込んできた
「・・・だめよ、あなたはまだ引き金を引くのに躊躇いがあるの」
「撃てます、守るためならっ!!」
「とにかくあなたはまだ半人前なのよ・・・だから「待ってくださいっ」」
言葉をさえぎったのは、リネット軍曹だった
「半人前でも二人合わせたら一人分くらいにはなります!!」
彼女の様子だと宮藤軍曹は説得に成功したようで、彼女の目には迷いはなかった
「・・・九十秒で支度なさいっ」
ミーナ中佐は認めたようだ
よし、じゃあ俺も行きますか・・・行くべき場所に
「システムオールグリーン・・・ガルム1、テイクオフ!!」
俺は先に出撃したミーナ中佐達を追うようにして滑走路から飛び立った
「アフターバーナー点火、これより敵勢飛行物体の迎撃に向かう」
全速力で敵の迎撃に向かう。数分後すぐに敵が見え出した
「敵は高速型です・・・速度をあわせて!!」
「了解!!」
「了解」
飛行物体に速度をあわせて弾丸の雨を浴びせる二人
「エネミー・ガン・インレンジッ・・・ファイア!!」
俺も機銃を命中させるが、なかなか落ちない
白い破片が空を舞うが、それでもかなり硬いみたいですぐに元通りになる
だが敵は被害を受けた部分だけ切り離し、さらに加速した
「くっ・・・速い・・・」
「速すぎる・・・私達では無理ね」
二人とも速度が限界のようだ・・・だが
「俺が行きます!!」
アフターバーナーを再び点火して敵を追う
「頼んだわよ・・・」
二人を残して俺は全速力で敵を追った
リーネ視点
「こちらガルム1、敵が第二防衛班を突破」
今回のネウロイは他の皆を振り切ったらしい
そして最終防衛班である私達の方に接近している
エース部隊を振り切ってきた敵に、私は少し怖かった
「こっちに向かってきてるよ!!」
「えっ!?、あわわわっ」
慌てて銃を構え、ライフルを撃つが
「駄目っ、全然当たらない!!」
飛ぶのに力みすぎてコントロールできない
練習だったらうまくいくのに・・・どうして?
「リネット軍曹、落ち着いて聞くんだ!!」
インカムから声が聞こえてきた
「サイファーさん!?」
「君が戦う理由は何だ!!」
いきなりの問いかけ・・・私の戦う理由・・・
思い出す・・・お母さんを、お父さんを、お姉ちゃんを、兄妹を・・・家族を・・・
「家族を・・・ブリタニアを守ることです!!」
これが私が軍に志願した理由
お姉ちゃんのように、家族を守りたい
「なら自分に自信を持て!!守りたいと思う気持ち、それそのものが力だ!!」
「そうだよ、リネットさんには守れる力があるんだよ!!」
「宮藤さん・・・サイファーさん・・・」
そうか・・・私にできる事・・・それはブリタニアを、大切な故郷守ること!!
ライフルを構え、その照準を敵に合わせる
「私はもう迷わないッ!!」
サイファー視点
「サイファーさん、敵から離れてください!!」
リーネから無線で指示が入った
自信のある声だ・・・大丈夫だなと考えた俺は、指示に従って敵から離れる
「了解、離れたぞ」
すると五個の光が飛んできて、それはすべて敵を貫き白い破片に変えた
「よくやった!!リネット軍曹!!」
彼女にとってこれが初の撃墜となったらしく、嬉しそうにはしゃいでいた
「はい、ありがとうございますっ!!」
「撃墜を確認・・・よくやった
と、先行出撃に出ていたメンバーと第二防衛班が戻ってきた
それから先行出撃メンバーと合流した後、全員で基地に帰還した
基地に帰還後、俺は機体の出撃後チェックをしていた
「よし、今回もがんばってくれたな」
イーグルの機首を撫でながら、俺はそう呟いた
するとリネット軍曹がこっちに歩いてきた
「サイファーさん、えぇと・・・あの・・・」
「なんだ?」
「さっきは、ありがとうございました!!」
そう言ってリネット軍曹は、頭を下げてきた
「いや、俺は感謝されるような事は何もしてないぞ?」
「芳佳ちゃんから話を聞きました・・・」
宮藤軍曹、なぜ話したんだ・・・って事は
「芳佳ちゃんって呼んでるって事は・・・友達になったのか?」
「はい、この基地でできた初めての友達ですっ」
「サイファーさ〜ん、リーネちゃ〜ん!!」
宮藤軍曹がこっちに駆けてくるのが見えた
「ともかく、親友はかけがえのない仲間なんだからな・・・大切にしろよ?」
失うと・・・二度とは戻ってこないからな・・・
「はいっ!!」
「リーネちゃんとサイファーさん、二人とも何を話してたんですか?」
「いや、何でもないよ宮藤軍曹」
「サイファーさん、私は芳佳でいいですよ」
「私も、リーネって呼んでください」
「分かった、芳佳、リーネ、これからよろしくな」
「はい、よろしくお願いしますっ!!」
こうして俺にもはなんだかんだで友達ができた
おまけ
廊下を歩く二人・・・シャーリーとルッキーニがなにやら話をしながら歩いていた
「そういえばサイファー、なんで男みたいな口調してんだ・・・?」
「本当は男だったりして〜?」
「それはないだろ・・・だって・・・」
「だって?」
「胸が少佐なみかそれ以上にあったからな」
「ホント!?」
「ああ、着替えてる所をたまたま目撃してな」
「今度おふろに誘ってみぃ〜よぅっと♪」
「おい、あまり激しくするなよ?」
「分かってるって〜」
「何だ・・・風呂で俺は一体何をされるんだ?」
たまたま近くでそんな会話を聞いていたご本人が呟く
説明 | ||
とある傭兵はその日、基地に着陸しようとした時、急に意識を失ってしまい・・・管制塔もレーダーから傭兵を見失ってしまう。そして傭兵は人々が人ではない物と戦う世界へ?その最前線を守る少女達と出会い、その戦いは傭兵を否応なしに巻き込んでいく・・・はたして傭兵の運命は? にじファンからの転載になります H.25 2/27 改稿完了 |
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