IS ラウラが夫!俺が嫁!? 〜第五話 臨海学校。青春…だよね?〜 |
幾度目かのバス。揺れにも慣れ、もう眠る事ができるほどだ。
今は臨海学校の宿泊先への移動。
「ぐー………」
「起きろー、竜也。もうすぐ着くぞ」
「ぐむ」
一夏の声に目を開くと、バスの奥の方からカメラを向ける女子達がいた。
「何、なに?俺?俺撮られてる?」
「バッチリ撮らせてもらったよ!」
「ヤバし!ラウラ、そのカメラ取り上げろ!」
カメラを持った女子の近くにいたラウラに声を掛ける。
が、ラウラは頬を赤らめて
「その写真、焼き増ししては貰えないだろうか」
「いいともさ!」
「ラウラーーーー!謀ったなぁああああ」
その後、俺の寝顔写真が学園女子内に出回ったと言うのはおいといて。
「五月蝿いぞ、お前達!もうすぐで到着だ、静かにしろ!!」
「「「「「はーーい」」」」」
千冬さんの言葉で騒ぎは収まったが、興奮は収まらないようだ。
ラウラは遠くで何かを念仏の如く唱えている。
隣の一夏には女子軍が集中して来るし。大丈夫かこれ。
「ふわぁ」
旅館への入館式は、余りに眠かったので覚えていない。
立ったまま寝ていたようだ。
「おい竜也、こっちみたいだぞ」
「む〜?…ん、今行く」
今は、一夏と一緒に千冬さんに連れられて部屋へ移動中だ。
フラフラした足取りで、一夏の背中を追う。
「お前らの部屋はここだ。」
「ここ?」
一瞬間違いだろうと思ったが、千冬さんがそんなことをするはずないか。
「あぁ、『教員室』と書かれているのは気にするな。他の先生方には伝えてある。…まあ、部屋を聞かれたら…私と同室だとでも伝えろ」
「…千冬さん、自分の事よく分かってますね」
「馬鹿にしてるのか?」
「まさか(笑)」
出席簿アタックが脳天に突き刺さる。
「ここからは自由時間だ。海にでもどこへでも行ってこい」
「…じゃ、荷物おいておくか」
「あ、あぁ、そうするか。さっさと泳ぎたいしな」
何時の間にやら千冬さんはいない。
…十中八九、仕事だろうな。
どうしても、形容できない美しさってのはあるが…目の前の海も、そのひとつだと思う。
「さて、それじゃあ何しようか?」
「ねーねーおりむー、かなやーん、ビーチバレーしよう!」
「お、のほほんさん。」
砂浜の上での会議に、布仏が加わる。
「よーし、いーねー。やろう」
「一夏さーん!」
と、思ったが、一夏はセシリアに借り出されてしまった。
俺が暇になっちゃったじゃないか。
「うーん、悪いな。のほほんさん。ちょっとだけ待っててくれ」
「べつにいいよ〜。」
優しい人で助かった。
そんなことを考えていると、突如。
「あ、そこの君!!」
「はい?」
俗に言う、『海の男』に声を掛けられた。
「…自由時間、なんだよね」
そう、確か俺は自由時間に海に泳ぎに来たはず。
なのに、何で…ヤキソバを焼いているし。
「悪いな、手伝ってもらっちゃって」
「あー、いいっすよ別に。」
何でも、海の家の人手が足りないらしく、バイトを募集していたらしい。
完全に拉致だったけど。
「ちゃんと御代は弾むからさ、頑張ってくれよ」
「了解です。」
料理は問題なくできるし、味の保証はできる。
…ならば、残りの問題は…
「客足、か」
うーん。どうしようか。
ちなみに、今は普通に人数はいるけど、もう一押し欲しいってところだ。
「んー…あ、そうか。」
女子を集めてみるというのはどうだろう。それだけでも相当な数になるはずだ。
「そうすると、情報の広め役が必要だな…俺はここを離れられないし…これ以上一人で話し続けるのも辛いし」
海の家の店長に任せようか?…いや、彼が女性に声を掛ければ唯のナンパになってしまう。
「竜也〜!」
「…ん?」
考えながらもヤキソバを炒めていると、遠くのほうから誰かの声が聞こえた。
高くはない視力を行使し、誰なのかを確認する。
「はぁ、はぁ…。ここに居たんだ。探したよ」
「ああ、シャルロットか。…うん、一つ聞いてもいいか」
「どうぞ」
「そこのミイラはエジプトから輸入したものか?お前にそんな趣味があるとは驚きだな」
シャルロットの隣には、そのものミイラのごとくタオルを巻いた何かがいた。
「いや、これは…ほら、出てきなって。大丈夫だから」
「だ、大丈夫かどうかは私が決める…」
「…へ?ラウラ?」
そう、その声はまさにラウラだった。ミイラで顔は確認できないが、背丈は丁度。
手元でピーナッツを砕きながら、シャルロットに聞く。
「何事?全身火傷でも負ったわけ?」
「いや、だから包帯じゃないってば。…ほら、折角着替えたんだから見てもらわないと」
「だ、だが…私にも心の準備というものがあってだな…」
「?」
シャルロットがラウラに説得を試みているようだが、内容は聞こえない。
唐辛子を輪切りにし始める。
「仕方ないな…竜也、耳貸して」
「ん?おk」
ひそひそ、と言付けられる。
「…って。よろしくね」
「ん、お安いご用だ。…ラウラ」
「な、なんだ」
「俺、ラウラの水着姿、見たいな。…この前の約束、守ってくれる?」
「う……ええいっ、脱げばいいのだろう、脱げば!!」
大したことは言っていないはずだが、こうも考え通りに行くとは。
ラウラはタオルを全て剥ぎ取り、宙へ放る。
「…笑いたければ、笑え」
「………ほぉ」
ヤキソバを炒める手が、止まった。
黒の、レースがあしらわれた水着。…少々無理のある感じも受けるが、それ以上に…よく、似合っている。
「変なところなんて、一つもないよね?」
「…ぁあ。寧ろ…可愛いな」
「かわ…しゃ、社交辞令ならいらん」
「夫に向かってお世辞を言う嫁はいないと思うけどなぁ。少しは嫁の言葉を信じたらどうだ」
「う…そうだ、な」
「…竜也、完全に順応してるね」
「そうか?」
会話中にも、ラウラはもじもじしてる。何かそのあたりも含めて、可愛いの完成形の片鱗を見た気がするな。
「…やっぱり、海で見てよかったよ。あのときに見てたら、この感動とかわいさは味わえないな」
「そ、そんなに褒めるな…反応に困る」
「あはは、ラウラも照れちゃって。かわいー」
そういえば、この二人は同室になったらしい。
これまでの会話から分かるように、かなり仲良くなっている。
と、店長の声が奥のほうから聞こえてきた。
「おーい、ヤキソバ焦げるぞ」
「わっ!!そうだっ…そうだ!!」
「え?どうしたの?」
そもそも、俺の考えを元に戻そう。
ヤキソバを売るために、少し女子が必要だったんだ…。
「手伝ってくれ!お二人さん!」
「え?」
「わ、私たちが…か?」
「ヤキソバいかがですかーー!!」
「ラムネもカキ氷もありますよーー!!」
いやはや、さらに砂浜が盛り上がった。もちろん地形的な意味ではなく。
俺もどんどん忙しくなる。鉄板1枚では足りなくなり、現在3枚をフル稼働。
「うーん。やっぱり華があると客足も増えるねえ」
シャルル、ラウラは勿論、箒、鈴その他IS学園の女子数十名による呼び込み。
威力は絶大だった。
「いやあ、今日はすごい売り上げだな!!ありがとう金沢君!!」
「いえ、まあそれほどでも」
「竜也、そこのソースとってくれ」
「はいよ」
隣には一夏。呼び込みだけでなく調理にも人数がほしかったので、参加してもらった次第。
料理は上手いから、任せても大丈夫だ。
「すみませーん、塩ヤキソバ一つ」
「はいはーい、ちょっと待っててください」
会話をしている暇もないほどだ。時のたつのも早く感じる。
「…自由時間っていつまでだったっけ。」
「そういえば、時間の確認忘れてたな。」
「教師の指示があるまでだ」
「そうだったそうだった。…ってあれ!?織斑先生!?」
一夏と話をしていると、いつの間にやら目の前に。山田先生も一緒だ。
…並んでるってことは、客として来てくれたのかな?
「何をしているんだ、お前らは」
「実はかくかくしかじかというわけで」
「ふむ、なるほど」
「何で通じたし」
それにしても、二人ともすごく綺麗だ。海が似合うっていうか、映えるって言うか。
「なら、一つ貰おうか。山田先生もいかがです?」
「ええ、いいですね。種類は…」
「ああ、十種類くらいありますよ。好みで具の調整もしてます」
「ほう、手が込んでるな。…このタイ風というのは」
「パッタイみたいな奴です。スイートチリソースと唐辛子の微塵切りが入って、上に砕きピーナッツとパクチーが乗ってます」
「…つくづくお前の料理センスには感服させられる」
「近くにスーパーがあって助かったな」
「なー」
じつは、先ほど一夏と一緒にスーパーに買いだしに行っていました。
まさかパクチーがあるとは思わなんだが。
「…では、普通のを貰おうか」
「私は塩ヤキソバで」
「はいはい、少々お待ちくださーい」
教師二人が客としてきた事で、更に客足は増えた。
それは、自由時間ぎりぎりまで続き…。
「…あー、疲れた。」
「結局、お前はずっと鉄板前にいたからな」
「まーな。」
一夏たちには休憩を入れてもらったが、俺はぶっ通しで料理していた。
腕が吊りそう。
「本当にありがとう。これはお礼だよ」
「ありがとうございます。」
店長さんから封筒を渡される。
「…うわ、こんなに貰っていいんですか?」
「いいのいいの。今日はすごく頑張ってもらったからね。」
「さすが海の男!」
お札が1まーい、2まーい、3まーい…。束になっていた。
「帰ったらなんか飯食いに行くか」
「おっ、いいなそれ。」
「お前も頑張ってたからな。」
一夏と会話しながら、旅館へ戻った。
…でも、なんか、忘れてる気がする。
「…あ!!」
「どうした?」
「結局、あんまり泳げなかった…。」
「ああ…。ご愁傷様」
まあ、楽しかったからいいか。
「竜也」
「ん?」
旅館に入ったところで、ラウラに呼び止められた。
…うん。
「ごめんな、一緒に遊べなくて」
「…いい。お前の助けになれたなら、な」
「そうか。…そうだ、ちょっと空いてる?」
「時間か?ああ、まだ自由時間だからな」
「話しよう。世間話。」
「ふ、二人でか?」
「そう、二人っきりで。」
また、ラウラの顔は赤くなる。
「海、見に行こう。」
「…ぁあ。」
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第五話。臨海学校へ。 | ||
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