たとえ、世界を滅ぼしても 〜第4次聖杯戦争物語〜 幕間編 〜Cherryblossom〜
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―――――――それは遠い夢のような、ほんの一瞬の幸福

 

 

温もりを愛しく思い、微笑みは花の如く、その声は鈴のよう

 

 

今尚薄れる事は無き、ただ愛しき人の、その笑顔の面影よ

 

 

赦されないと知りながらも、その姿を今一度と望むのは

 

 

この身が背負う、数多の罪が、永久に許す事はないのだろう―――――――

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<SIDE/ドラグーン>

 

「………困ったな。」

 

ぼそっ、とそう呟いて、蟲蔵から己が((主|マスター))を連れて出てきたドラグーンは、頬を掻いた。

その表情は些かバツが悪そうな苦笑になっているのは、決して気のせいではないだろう。

 

とりあえず啖呵を切って出てきたまでは良かったのだが、

今更になって、この家の何処に((主|マスター))の部屋があるのか分からなかったのだ。

多少頭に血が上っていたといえ、あそこで((主|マスター))の気を失わせるのは早計だったようだ。

しかし、それでもあの蟲爺に聞きに戻るのは絶対に腹が立つので、とりあえず勢いのまま玄関付近に来てしまった。

……もうこのまま外に出て、この家から逃亡してしまおうかと考えたのは、ドラグーンだけの秘密だ。

 

「何より…何でお前まで現界している…」

「……………………」

 

ちらり、と視線を横に向けると、そこには指輪の魔力を使っているらしいバーサーカーの姿があった。

相変わらず黒い魔力がその身を包んでおり、微妙にパスが混線してるドラグーンでも今一その姿は分からない。

まぁマスターの魔力を使えば、その負担になると【分かっている】ようだ、そこは良いのだが…

 

(この((英霊|バーサーカー))、明らかに((狂いきれてない|・・・・・・・))。

…召喚の不具合か、でなければ指輪の魔力だけ選んで現界なんて器用な真似は出来ないだろうしな。

魔力供給してくれる((主|マスター))が、他のサーヴァントに保持されてれば反応もするか…

というよりも、【私】が自分のマスターを抱えているのが嫌なんだろうがな、単純に。)

明らかに敵意らしきものを向けているバーサーカーに、ドラグーンは軽く溜息を吐いた。

どうした事か、このバーサーカーは確かに狂っているようなのだが、その狂気が微妙に薄い気がする。

召喚事故に異常が発生しているのは自分だけではなく、バーサーカーも同じようだ。

しかも、その原因が((【自分】|ドラグーン))にあると、少なからず気付いているらしい。

 

「お前、本当にバーサーカーか?まぁこんな質問何て【今は】構わないが…

今使っているその魔力は((主|マスター))の付けている【指輪】のモノだ。

ある程度なら戦っても平気だろうな、どうもこの町は霊脈からの((魔力|マナ))が溢れがちだしな。

もっとも、暴走すれば((主|マスター))を苦しめる事になるから、そこは承知しておけ。」

「………………………」

「どうせ、聞いているだけだろうがな……さて、((主|マスター))の部屋は何処何だか……」

 

だが、そんな事をいちいち気にしている場合でもないので、あっさりとその場は流しておいた。

正直バーサーカーが自分に切りかかってきたら、魔力供給ラインを狭めてるのを止めるつもりだし、

そうなればバーサーカーの現界もすぐに解けるだろうと分かっていた。

別にバーサーカーの為に、自身の魔力供給を減らしている訳ではない、

ただ単に、((主|マスター))の駒は大いに越した事はないだろうという、随分と単純な理由だった。

魔力なんて、それこそ【自分】でなんとかすればいい、故にドラグーンは困って等いなかった。

 

さて、それではまた部屋探しに戻るか、とエントランスだと思われる場所の階段を上っていると…

 

 

 

「誰…?」

 

 

――――――――――――小さな、幼い少女が、そこにいた。

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<SIDE/間桐桜>

数時間、桜は雁夜と話をした後、いつもは戻る部屋に戻らず、雁夜が戻ってくるのを待っていた。

蟲蔵に入ると、毎日雁夜が苦しそうな声をあげているのを桜は知っていたが、何も出来ないから、

ただ、黙って、何も考えず、時々こうして廊下に座って、待っていた。

どうして待っているのか、桜には分からない。

それでも、こうして待っていると、戻ってきた雁夜は、嬉しそうにしていた。

だから、【何故か】待っているのが良いような気がして、今日も桜はこうして待っていた。

 

いつもと違うことが起こったのは、その2時間程後の事だった。

桜が待っている階段の付近に、【誰か】がやってきたのだ。

 

「誰…?」

 

桜は、そう問いかけて少しだけ考えた。

 

(黒い人と、白い人……雁夜おじさんを何処に連れて行くんだろう?

おじい様の知り合いなのかな、それとも、お義父さんの知り合いなのかな。

あの人達と一緒なら、雁夜おじさんに酷い事でもするのかな………桜にも、するのかな。)

 

初めて現れた二人の人間に、桜はすぐに目を伏せた。

この家の人間で、自分のような【いらない子】に優しくするような【物好き】は、白い人に背負われている雁夜以外に、桜は知らなかった。

 

驚くくらいに、その二人は違った。

黒い人は何だかよく見えなくて、冷たいような冷たくないような、ただこちらを見ているだけだ。

白い人は蒼い眼に銀色の髪の毛だ、女の人なのか男の人なのか分からないけど、ただ笑っている。

もし、真っ当な人間ならば、その異様な真っ黒なフルアーマーの男と、

一人の人間を背負って笑っている青年の姿に、明らかな不信感を抱いていただろう。

 

だが【桜】には―――――――どっちの人も普通とは違うな、と分かったのだが、肝心の感情がなかった。

 

だからぼんやり見つめていた、雁夜がどうなるのだろうと、自分も何かされるのだろうと、

それぐらいの考えで、ただ特に思う事もなく、空っぽの瞳でその二人を凝視していた。

―――――――その様子に、明らかに笑顔を曇らせていく・・・・・青年の様子に、気付かないまま。

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(……何だ、((コレ|・・))は?こんな子供初めて見たぞ。)

 

ドラグーンは、目の前に現れた少女に、少しばかり戸惑っていた。

バーサーカーの方はというと、こちらも何かを感じているのか、先程までの殺気が微妙に薄れている。

それだけ、二人のサーヴァントの前に現れた少女は、【異常】だった。

 

子供らしい表情等、何処にもない。

濁っている眼は、その輝きを何処にやったのか、冷たいだけで。

先程の声も、明らかに感情がなく、ただの確認の意志しか感じられなかった。

 

 

そうまるで、出来の良い【人形】でも見ているような

               (―――――――嫌な事を、思い出しそうになった)

 

「っ!」

 

ギリッ、とドラグーンは、思わず歯を喰いしばっていた。

忘れておきたい事を、わざわざ思い返すのは止めておくに限るから。

 

「ねぇ、雁夜おじさんを何処に連れてくの?」

ふと、聞き捨てならない声が、もう一度響いた。

今、この目の前の少女は、誰の名前を呼んだのか…?

 

「…((主|マスター))の家族かな?御嬢さん。」

「?…雁夜おじさんは、雁夜おじさんだよ?」

「…君は、雁夜おじさんの【お友達】かい?私達はおじさんのお友達でね、

 さっき倒れてしまった彼を、今から部屋に運んであげるんだ…よかったら、お部屋が何処かおしえてくれないかな。」

念の為に確認するが、どうも話が通じない。

とりあえず、部屋だけ聞いて早く立ち去ろう、とドラグーンが、考え始めたその時―――――――

 

 

    「そっか、雁夜おじさん、今日は早く【楽になれたんだね】、良かった。」

 

 

――――――――――――――そんな、言葉が、聞こえた。

 

「……今、何て言ったのかな?」

「え?」

「うん、今、何て言ったのか、教えてくれるかい…意味も込めて、な。」

スッ、と、いきなり目の前に現れたドラグーンに、少女が少し目を見開いた。

その様子を、【笑っていない】、静かな面持ちで見下ろすドラグーンの眼には、何の感情も宿ってはいなかった。

ただ、少女を、淡々とした眼で、見下ろしていた。

 

「?…だって、おじさんはいつも苦しそうにしてるから、今日はおじい様が、きっとすぐに気を失うのを許してくれたんだよね?」

「何故それが、【良かった】になる?」

「苦しくないよ?痛くないよ?何も見ないのが早いし、何も感じてなければそれが一番いいの、おじさんも桜も、それが【いつも通り】だから」

「…【桜】…」

 

ポツリ、と少女の名前を呟いて、ドラグーンは静かに目を伏せた。

その様子に、少女は不思議そうに首を傾げる、何故この人はそんな事を聞くのだろうと、言いたげに。

だが、その行動がいけなかったのか、そもそも何がいけなかったのかは少女には分からない、次の瞬間、彼女はその首に手をかけられていたのだから。

そのまま、静かに締め上げられていく。

少しずつ、何の気持ちも込めていない眼で、自分の首を絞めるドラグーンを、同じように濁った眼で見つめた。

 

「…っ!」

「怖いか?苦しいか?本当に何も思わないか?それで【お前】はいいんだな?」

「う、う…」

「生き人形の人生が好みか?腐った死体のような眼をして生きるのが【お前の幸せ】か?ちび娘。

 そんな【お前の為に】、これから殺し合いに行く【おじさん】が、死んでしまう・・・・・・かもしれないのが、【良かった】事なんだな、【お前】には」

「……っっ?こほっ…」

 

――――一瞬、少女の表情に苦しさ以外の【何か】が過った。

 

それに気付くと、ドラグーンはあっさりとその手を放した。

その場にしゃがみ込み、少し咳き込む少女を、ただ先程と同じように見下ろすと、静かに言葉を紡いでいく。

 

「お前のおじさんは、お前の為にこの家に来たと、あの蟲爺から聞いた。

お前をこの家から出すのが、おじさんの【願い】だと、私達は聞いた。

それを叶える為に呼ばれたんだ、この((主|マスター))の願いを叶える為だ。

それを、【叶えてもらう側の人間】が、どうでもよさそうにぼんやり見ているのは、どういうことだ?

お前はこの家から出たくないのか?ならそう言ってしまえ、此処にずっといるのが【楽だ】と言うなら、構わない。

お前がいう【おじさん】の、私達の((主|マスター))の生きている道筋を、食い潰すような真似だけはしないでもらおうか、

そして、望み通り―――一生この家で、その腐った心で死んで逝け、言いたい事も言わないで、それが【好き】なら、な。」

 

そう一気に吐き捨てて、少女をどうでもよさそうに見下ろすドラグーン。

言われた少女…【桜】は、ふと、その場に顔を伏せて、ピクリとも動こうとしない、言われた言葉が響いているのか、いないのか、

それとも、やはり何も感じないのか、それを見ているドラグーンは、おもむろに、肩に担いでいた【彼】を桜の前に横たえた。

 

「…かりや、おじさん…?」

「ああ、お前のおじさんだ、この家で一人だけの、【お前の味方】だ。

 お前を助けたいと言って、お前を助ける為にこうなって、お前の為に私達を呼んだ。

 確かに【全部】がお前の為じゃない、きっと色々思ってる事もあるだろうが、それでも、やっぱりお前の為に――――――この男は、生きている。」

急に視界に入ってきた知った顔に、桜が小さく反応する。

その声に、ドラグーンはまるで、問いかけるように。

 

「感情を殺すのが悪い事とは言わない、それをしなければ生きられないなら、だが【生きているからこそ意味がある】ものもある。

 …お前は、本当にこのまま、『心』が死んでも構わないんだな?」

「…」

 

桜が手を伸ばす、その手は、躊躇いがちに雁夜に触れた。

その表情は未だ虚ろだが、微かに震えている視線が、その感情の欠片を示している。

 

「私…おじさん…でもおじい様が…」

「知るか、お前は『おじい様』が好きなのか?違うだろう、お前はあの蟲爺は対して大事じゃない。

その胸の内を晒せ、本当に今のままでいいと感じていないなら、自分自身の考えで行動しろ、お前は【生きて】いるんだぞ。」

 

怒鳴りつけるのではなく、嘲笑うのでもなく、ただ静かに響く声は、桜の内に静かに降り積もっていく。

【それでいいのか】と【お前は満足か】と、否定するだけではなく肯定しながら、同時にただ問い掛けていた。

 

ただ、選ばせていた。

【存続】か【前進】を、お前はどちらへ((行きたい|生きたい))のだと。

 

 

 

「分からない、分からないよ…でも、でも…」

「でも?」

「…………おじさんの、傍にいたい……」

 

―――――その瞬間、桜はドラグーンに小脇に抱えあげられていた。

 

「…?」

「それならいい、【今は】それで納得しておく、それでこの話は終わりだ。

 ああ、それと、お前のおじさんの部屋は何処だ?とりあえず場所を教えろ。」

「え?えっとね、あっち。」

「そうか、分かった。」

 

同時に抱えあげていたのか、雁夜の事も肩に担ぎあげて、ドラグーンは桜の指差した方向に歩き出していた。

その急な展開にオロオロと戸惑いがちにドラグーンと、

その隣にやって来るバーサーカーを見るが、二人とも何も言わないので黙ったおいた。

そして手が使えないからか、とりあえず部屋のドアを蹴りあけて中に入る。

そうして、そのまま。

 

「よし」

「…何で?」

 

二人纏めて、ベッドに押し込まれてしまった。

 

「とりあえず寝ろ、もう子供は寝ている時間だろう。」

「…此処はおじさんのベッドだよ?」

「良いだろう別に、お前はおじさんの傍に居たいんだろうが、何の問題もない、ああそれと私達が寝ている間此処にいてやる。

誰にも邪魔はさせないから、気にせず眠ってしまえ。」

有無を言わさないその行動に、桜は数秒固まるが、もうどうでもよくなったのか、そのまま雁夜に張り付くことにした。

(あったかい…)

ふと、胸の奥に、むずむずとした感覚が、した。

苦しいようで、でも嫌じゃない【何か】。

とても懐かしいようで、当たり前のようなソレを。

(なんだっけ…?)

その温もりに、少しずつ意識を遠ざけながら、桜は雁夜と一緒に眠りについた。

 

 

『…………』

『おい、そんな殺気出すな、いいから霊体化するぞ?』

『………………』

『あのな、お前…;ああもういい、まったく、どいつもこいつも、言いたい事は言わないと分からないんだよ』

『……………………』

 

 

『………心を殺すのが、【幸せ】な訳ないのにな、それが普通なんておかしいんだよ、

 このちびも、お前も………『俺』、もな』

 

そんな会話が、聞こえたような気がしたけれど―――――きっと気のせいなんだろう。

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【あとがき】

 

はい、今回の幕間編は召喚後に蟲蔵を出て行った後のお話です。

別名、桜ちゃんとの遭遇編ですね。(出会い編ともいう)

ドラグーンは基本マスター主義ですが、実際に言うなら【自分が認めた】相手以外には少し冷たいです。

むしろ本来は敵対者に対してだけなので、動物や植物、子供とかには優しいのですよ。

だから闇雲に戦いを挑んで、巻き添えを出すのは好きません。

…最も、あくまでもそれは、戦闘が始まるまでの話ですが。

桜ちゃんに対しては、実は少し怒っていました。

桜ちゃんが、【受け入れて】しまっていた事が原因です。

理由は後々分かりますが、その時にまたこの話を読むと、納得できるかもしれません。

ああだから冷たかったんだな…と。

次回はアサシンを死んだと判断した陣営が動き出します。

暗躍が可能になったドラグーンと、雁夜おじさん&バーサーカーも行動を開始。

聖杯戦争、はじまります―――――――

次回、『戦争開戦』をお楽しみに・・・。

今回のBGMは、【THIS ILLUSION(piano ver.)】でした。

※感想・批評お待ちしております。

説明
※注意、こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、微妙な腐向け要素が見られますので、受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。

それでも見てやろう!という心優しい方のみ、どうぞ閲覧してくださいませ。

※注意!
今回は少し桜ちゃんが可哀そうです、作者は決して桜ちゃんが嫌いではありませんが、話の流れ上そうなってしまっています。
そんなの見たくない!等の意見をお持ちの方は、申し訳ありませんがUターンをお願いいたしますm(__)m
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間桐桜 英雄 戦争 原作改変 腐向け 間桐雁夜 オリサヴァ参戦 Fate/Zero 

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