英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 27 |
市長に会うために市長邸に向かったエステル達だったが、生憎市長は留守にしていて時間の効率などを考えてエステル達は自分たちで探して会いに行く事にし、市長がいつもつれているメイドーーリラを探し見つけたのだが肝心の市長はボースマーケットに視察に行ったのでリラをつれてマーケットの方に向かった。
〜ボース市・ボースマーケット〜
「はー、ずいぶん広いよね。市長さんはどこにいるのかな?」
「何しろ目立つ方ですから、すぐに見つかると思います……」
周りを珍しそうに見ているエステルが呟いた言葉にリラは答え、ある一角の喧騒を見て溜息をついた。
「……ああ、やっぱり思ったとおり。恥ずかしながらあそこの女性が市長です……」
リラは溜息をついた後、商人の男性2人に説教をしている身なりがいい女性が市長だとエステル達に言った。
「貴方たち、恥を知りなさい。この大変な時に食料を買い占めて、値をつり上げようとするとは……。ボース商人の風上にも置けなくてよ。」
「し、しかしお嬢さん……」
「僕たちはボースマーケットの売り上げアップを考えてですね……」
2人の商人は及び腰で言い返したが、その言葉は市長にとって火に油を注ぐ言葉で市長はさらに商人達に怒鳴った。
「お黙りなさい!他の品ならいざ知らず、必需品で暴利を貪ったとあっては、わがマーケットの悪評にも繋がります。それにもしこのことがメンフィル大使にでも伝わったら、ボースは利益だけを求めている薄汚い商人の集まりと思われて、生前のお父様の粘り強い交渉でようやく実現することができた異世界の国、メンフィル帝国との取引がなくなってしまうかもしれませんのよ!?それを防ぐため、またお客様の生活のためにも即刻、元の値段に戻しなさい!」
「は、はい……」
「わかりました……」
市長の一喝を受けた2人は肩を落として頷いた。市長はそれを見た後、市長に怒られて表情を暗くしている商人達を自分の意図を話した。
「……わたくし、貴方たちのボースマーケットにかける情熱を疑っているわけではありませんわ。ただ、判って欲しいのです。商売というものが、突き詰めれば、人と人の信頼関係で成立している事を。大丈夫、貴方たちだったら立派なボース商人になれますから。」
「お、お嬢さん……」
「はい、頑張ります!」
市長から励まされた2人は元気が戻り、自分の持ち場に戻った。
(ほう……あれが噂のボースの女傑か……なかなかの為政者じゃな。)
(ええ……政治家と商人、両方の考えを両立させれる方はそうそういませんものね……もしかしたら将来、かつて娼館の経営と同時に都市国家長を務めた”幻燐戦争”の英雄の一人、”母神賢者”レアイナ様のような為政者になるかもしれませんね。)
喧騒の一部始終を見ていたリフィアとプリネはエステル達には聞こえない小さな声で市長を評価していた。
「ふう……」
市長は2人を見送った後一息をついた。
「お嬢様……」
「リラ……来ていたの。恥ずかしい所を見せてしまったわね。」
リラに気付いた市長は照れながら答えた。
「いえ……相変わらず見事なお手並みです。それよりお嬢様。こちらの方々が用がおありだそうです。すぐにお屋敷にお戻りくださいませ。」
「あら、その紋章は……。ひょっとして依頼したブレイサーの方々かしら?」
エステルがつけているバッジに気付いた市長はエステルに確認した。
「うん、そうだけど……」
「ひょっとして貴女が……」
「ふふ、申し遅れました。わたくしの名は、メイベル。このマーケットのオーナーにしてボース地方の市長を務めています。」
エステルとヨシュアの疑問に答えたボース市長ーーメイベルはエステル達に依頼内容を話すため、ボース市の高級レストラン、アンテローゼに案内した。
〜レストラン・アンテローゼ〜
「た、高そうなお店……こんなところで打ち合わせするの?」
エステルは周りの風景を見て、肩身を狭そうにしていた。
「よく商談に使いますの。味の方も、なかなかのものですわ。ちなみに父がリウイ陛下とメンフィル帝国との取引の話でもここを使いましたわ。」
(ふむ……確かに悪くない雰囲気だな。そう言えばリウイもボースから帰って来た時言っておったな。『小さな都市ながらも中々いい店がある』と。ロレントの隣でもあるし旅が終わった後レンを連れて行ってやろう。)
(ふふ、それはいい考えですね。あの子もきっと喜びますね。)
(ん……あのお菓子、美味しそう……リフィア、頼んでいい……?)
(まあ、待て。この後、事件の事を聞くためにおそらくハーケン門へエステル達が行くだろうから、その時に一端別行動にするからそれまで我慢じゃ。)
(わかった……我慢した後のお菓子も美味しいからエヴリーヌ、今は我慢するね……)
アンテローゼの高級感溢れる雰囲気に戸惑っているエステル達とは違って、王城の生活で高級な雰囲気に慣れて堂々としているリフィア達は小声で会話をしていた。
「しかし、ボースの市長が女性なのは聞いていたけど……。ここまで若いとは思わなかったわね。」
「見たところ、あたしと4、5歳くらいしか違わなさそう。」
シェラザードとエステルはメイベルの容姿から年齢等を予想し、若いながらも市長を務めるメイベルに感心した。
「実際、まだ若輩者に過ぎません。亡くなった父が前市長で、ボースマーケットの事業権と共に政治基盤を引き継いだだけですわ。」
「何というか……ずいぶん率直な自己評価ですね。」
自分のことをあまり高くない評価をしているメイベルにヨシュアはそのことを指摘した。
「所詮は商人の娘ですし、気取っても仕方ありませんから。それでは改めて、依頼内容を確認してもよろしいでしょうか?」
「うん、オッケーよ。」
メイベルの依頼を聞くためにエステルは真面目に答え、小声で話していたリフィア達も話をやめてメイベルの依頼を聞く姿勢になった。
「お願いしたいのは言うまでもなく、定期船消失事件の調査と解決です。わたくし、今回のような事件では軍よりもブレイサーの皆さんの方が結果を出してくれると思うのです。戦争をするわけではなく、謎を解き、解決するわけですから。」
「あら、光栄ね。買いかぶってくれるじゃない?」
シェラザードがメイベル市長を見て目を少し細めた。
「商人としての目利きですわ。実際問題、消えた定期船にはボースの有力商人が乗っています。それにこのまま、王国軍によるボース上空の飛行制限が続いたら、こちらの商売が成り立ちません。せっかくメンフィルとの取引も本格的になって来て、女王生誕祭を前に景気もかなり好調でしたのに……」
「なるほど。経済的な要請という事ですね。」
「ええ、とても軍だけに任せておくわけにはいきません。どうか、お願いできないでしょうか?」
ヨシュアの言葉に頷いたメイベルはエステル達に依頼を受けてくれるか確かめた。
「こちらにも理由があるし、引き受けたい所ではあるけど……。今回の事件に関しては軍が、あたしたちブレイサーを締め出そうとしてるみたいなのよね。そのあたり、市長さんの立場から何とか働きかけられないものかしら?」
「モルガン将軍ですわね……。あの方、昔からブレイサーがお嫌いでいらっしゃるから。」
シェラザードの言葉にメイベルは溜息をついた。
「あれ、市長さん。その将軍のことを知ってるの?」
エステルはメイベルがモルガンのことを知っている風に話していたのでそのことを尋ねた。
「亡くなった父の友人ですの。一応、顔見知りではありますわ。ですから……何とかできるかもしれません。……リラ。」
「はい、お嬢様。」
「……………………………………………………………………こんなものですわね。では、これをお持ち下さい。」
リラにペンと便箋を渡してもらい、その場で書状を書き、それをエステルに渡した。
「なに、この手紙?」
エステルは渡された手紙がなんなのかわからなかったのでメイベルに尋ねた。
「モルガン将軍への依頼状です。ボース地方の責任者として今回の事件についての情報を請求する旨をしたためました。ある程度なら、軍が掴んだ情報を教えてくださると思いますわ。」
「なるほど……。でも、ブレイサー嫌いの将軍があたしたちに会ってくれるかな?」
「もちろん、皆さんの身分は伏せた方が無難だと思いますわ。ただ、市長からの使いだと名乗るだけでいいかと存じます。」
「う、ちょっとイヤかも。なんか騙しているみたいで……」
メイベルの提案にエステルはモルガンを騙すようなことに少しだけ顔を顰めた。
「騙してるわけじゃないよ。本当のことを言わないだけさ。一刻を争う状況なんだから、ここは割り切るべきだと思う。」
「うーん、確かにそうね。ところで、モルガン将軍ってどこに行けば会えるのかな?」
ヨシュアに諭されたエステルはモルガンがどこにいるのかメイベルに尋ねた。
「ボースの北、メンフィル・エレボニア帝国領方面の国境に『ハーケン門』という砦があります。そこに将軍はいらっしゃいますわ。」
「わかったわ。ありがとう、市長さん!」
「はい、くれぐれもお願いします。……そう言えばそちらの御三方はどちらさまでしょう?見た所遊撃士の紋章をつけていないようですし、それによく見るとそちらの方達が身につけている服の生地はメンフィルが取引で出している服の生地に似ていますね……?
耳も私達とは弱冠違うようですし、もしかして”闇夜の眷属”の方達でしょうか?」
メイベルはリフィア達が着ている服や容姿を見て、リフィア達の正体を尋ねた。
「え、えっとそれは……」
一方リフィア達のことをどう説明しようかエステルは困っていたが、ヨシュアがそれをフォローした。
「ええ、確かに彼女達は”闇夜の眷属”です。何か問題があるでしょうか?」
「いえ。”闇夜の眷属”はメンフィル大使ーーリウイ皇帝陛下に忠誠を誓っているそうなので、メンフィル軍に協力的なのは知っていますが遊撃士に協力的なのは聞いたことがないので、なぜ遊撃士であるエステルさん達と共にいるのかわからなかったので。」
探るように自分達を見て呟くメイベルにリフィアは堂々と答えた。
「フム、それは民の生活を知り余達の見識を広めるために余達はエステル達ーー遊撃士と行動を共にしているのじゃ。」
「……その物言いですと、もしかしてメンフィル帝国の貴族の方でいらっしゃるのですか?見た所服の生地もメンフィルの数ある生地の中でもかなり高価な生地を使っているようにも見えますし。」
メイベルはリフィアの言動やリフィアとプリネの服装からリフィア達は身分が高い者達であると予想し聞いた。
「まあ、その通りじゃ。……余の名はリフィア・ルーハンス。そしてこ奴はエヴリーヌ。我がルーハンス家の食客じゃ。」
「……よろしくね……」
「同じくルーハンス家の娘、プリネと申します。リフィアお姉様とは腹違いになりますが血の繋がった姉妹になります。」
「そうでしたか、これは失礼しました。……先ほどにもご紹介をしたと思いますがボース市長のメイベルと申します。(リフィアにプリネ……どこかで聞いたことのある名前ね……)……差し支えがなければルーハンス家とはどのような家系か教えていただいてもよろしいでしょうか?」
メイベルはリフィア達の名前が頭の片隅に引っ掛かり、それを解くためにもリフィアに尋ねた。
「ルーハンス家とは代々皇家ーーマーシルン家に仕える古参の貴族じゃ。騎士、文官、メイド等さまざまな形で活躍しておる。余やプリネは政治を司る文官を目指して居ての。
窮屈な家では学べない民の生活や他国の商売等を学ぶために民と密接な仕事をする遊撃士ーーエステル達の仕事を手伝っておるのじゃ。余やプリネも護身はできるが念のためを持ってエヴリーヌを護衛としている。もちろんこのことは陛下にも許可を頂いておる。」
「あら、そうするとルーハンス家とは名門貴族ではないですか?よく、ご両親方が他国での行動を許可しましたね。」
メイベルはリフィアが説明した偽の情報とは知らず驚き尋ねた。
「ルーハンス家の名を知らない他国だからこそ行動するのが安全なのだ。こう見えてもルーハンスの名はメンフィルでは有名じゃからな。それにリベールはゼムリア大陸では最も平和な国であると聞く。……まあ、旅を始めた矢先このような事件が起こるとは余達も少々驚いたがな。」
リフィアはメイベルを納得させるために弱冠真実を混ぜた事も説明した。
「……メンフィルにそのように評価されながらこのような事件が起こり、未だ解決できないことにはお恥ずかしい限りです。……世間話はここまでにして率直に聞きます。メンフィル帝国は今回の事件に関してどうお考えでしょうか?もしかして、軍や”闇夜の眷属”での調査の話も出ているのでしょうか?それでしたら私達も多少は安心できるのですが。」
「……中々大胆なことを言う市長ね。自国の軍が他国の軍に劣っているようなことを言ってしまっていいのかしら?」
シェラザードはメイベルの言動に驚きを隠せず尋ねた。
「………確かに私の言動はある意味、自国の軍を信用していない言い方になるかもしれませんが、実際に人の命がかかっているのかもしれないのです。今は自国のプライド等の問題ではないと考えています。それにメンフィルはリベールの同盟国でしょう?同盟国がリベールの一大事となる事件に協力してもどこもおかしいところはないと私は思っています。………最もこのことを将軍が聞けば怒り心頭になるでしょうけどね。」
「ふむ………民のために下らない誇りは捨て使える物は使おうとする考えは為政者としてよい考えと余は思うぞ。」
メイベルの考えを聞いてリフィアはメイベルの評価をさらに上げた。
「ありがとうございます……それで実際どうなのでしょうか?」
「……大使館を発つ時、リウイ陛下にそのことを聞いたが今の所は特に動くつもりはないそうじゃ。メンフィル領に住む民達が被害に遭ったりメンフィルの経済に影響が出ているわけでもないからな。ただ、リベールが要請をするのなら軍を動かす事や”闇夜の眷属”に協力を要請することも考えているそうだ。」
「そうですか。貴重な情報をありがとうございます。」
リフィアが答えたことをある程度予想していたメイベルは当然のことと思って、気持ちを切り替えた。
そしてエステル達はメイベル達と別れ、またリフィア達がモルガンと会うわけにもいかないので一端別行動にし、エステル、ヨシュア、シェラザードの3人でハーケン門に向かった……
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第27話 | ||
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