真恋姫†夢想 弓史に一生 第一章 第七話 王たる器
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〜聖side〜

 

黄巾賊との一件に決着が付き、俺たちは、村長に結果を報告するために村を訪れた。

 

勿論、元黄巾賊の者たちを連れて。

 

村の入り口では、門が閉じ、門上には数人の村人の影が見える。あぁ、ちゃんと準備していてくれたんだなと思うと口元が綻ぶ。

 

俺たちは、それなりに村に近付いた後、皆を制止して自分一人だけ、村の門に近寄った。

 

そこには、あのときの男が居た。

 

「準備しっかり出来てるじゃん。お疲れ様、今帰ったよ。」

 

「あんた無事だったのか?? と言うか、あんたらは黄巾賊を退治に行ったはずだろ?? なんでその黄巾賊が村の外に居るんだ?? そして、何であの中からあんたが出てきたんだ??」

 

「そこら辺のことは、村長を交えて村人全員に話すよ。とにかく、まずはこの門を開けてくれないか??」

 

「…門を開けて、あいつらがこの村を襲わないか??」

 

「大丈夫だ。俺が保障する。」

 

「…分かった。今開ける。」

 

そう言って男は、他の村人に指示を出し、門が開いた。

 

俺は一度みんなの下に戻り、話をしてから村に入った。そして、その足で村長のところに、芽衣と奏と一緒に向かった。

 

「村長さん、無事に帰ってきましたよ〜。」

 

「おぉ!! …良くぞご無事で…。 はて?? そちらのお嬢さんは??」

 

「こっちは凌統。黄巾賊の大将だった人です。」

 

「なんと!! …一体どういうことか説明いただけるかな?」

 

「それは私の口から。 私たちは黄色い布こそ巻いていますが、各地を荒らしまわっている黄巾賊とは違います。私たちはこの悪政に苦しむ者達の集まりです。ですが、今はお頭に付いていくと誓いました。 今回は…村を襲うように見えてしまって、皆さんに不安な気持ちを抱かせてしまったこと、本当に申し訳ないと思っています。」

 

「…ジャッ○バウアー…。」

 

「「「??」」」

 

「…ごめん…。気にしないで続けてくれ。」

 

「?? はぁ…。とにかく、今回のこと頭領である自分の責任。申し訳ございません。」

 

「村長、こいつらのこと許してやって欲しい。特にこの村に被害が出たわけではないし、税に苦しみ、悪政を疎んだ結果の行動は、俺も非難は出来ないと思っている。」

 

「…許すも何も、あなたが今言ったとおり、この村には何の被害も無い。それこそ、村人の不安感などはあったかもしれんが、それもあなたの言葉でほとんど無かったですじゃ。」

 

「そうですか…。奏、とりあえず分かってくれたようだから頭を上げて。」

 

「恐縮です。」

 

「それにしても、あなた様は不思議なお方だ…。あなた様は一体…。」

 

「聖様は天の御使い様です〜。」

 

「天の御使い!! あの有名な噂の主か!?」

 

「何でもそういう噂があるらしいですね。」

 

「ふむ…その者は乱世を収め、平和をもたらすとか…。確かにあなた様は、この村を守ってくれた。あながち間違いではないのかもしれませんな。」

 

「そこまで褒められるようなことはしてないですよ。 ところで、村長。実はお願いがあるんですが…。」

 

「実は、私たち共でもお願いがございますのじゃ。悪い話ではないと思いますがの。」

 

「…先にお話しを伺っても?」

 

「先に話して良いのですかな?」

 

「勿論です。」

 

「では、御使い様。 実は、この辺りを治める県令が、此度の黄巾賊の襲来を受けて逃げ出しましてな…。治める者が実質いなくなってしまったのですのじゃ。そこで、あなた様に県令になってもらいたいのじゃが…。」

 

「そういうのを決めるのは、ここ広陵の太守さんじゃないんですか?? それか、もっと上の機関ですよね。」

 

「勿論そうなのですが、張超様の所も人手は足りていないご様子でして、このままでは放置もありえます。」

 

「成程〜。聖様を推挙すれば人手の面で太守が困ることはないし〜、自分たちの村を天の御使いが守ってくれるとなれば安心ですものね〜。」

 

「一石二鳥ってやつか。」

 

「御使い様。この話、この乱世を鎮める上ではいい機会だと存じ上げますが?」

 

「…確かに魅力的な話ではある…か…。分かった。その話、受けさせてもらいます。」

 

 

村長さんは居住まいを正し、拱手した。

 

 

「では、御使い様。この村をお願いいたします。」

 

「分かりました。では、次にこちらから一つ提案したいのですが?」

 

「どうぞ、申し上げてください。」

 

「実は、此度の黄巾賊、30名弱をこの村に移住させたい。その了承をもらえないだろうか?」

 

「…それは…。ちと困りますかな…。ただでさえ、この村はそれほど豊かなわけでもないですし、ましてや、他方の村からの人たちといきなり仲良くなれと言われても、無理ですわい…。」

 

「この者達の食料は、ちゃんと今年の収穫期まではあるから、直ぐにこの村に被害が出ることはないと思う。それに、この人たちも元は農民。畑仕事とかは、慣れていると思うからちゃんとした労働力になる。勿論、この村を守るための兵としても働いてもらう形になる。ここの村人たちとは…時間をかけないと仲良くはなれないと思うけど、決して無理ではないと思う。だから、村長。何とかならないかな?」

 

「…やれやれ、困った県令様じゃ…。確かに、あなた様には恩義がある。この恩義を返すにはちょうど良いかもしれませんな…。」

 

「ありがとう。あいつらも喜ぶと思うよ。」

 

「なに…私たちも利益があればこそですじゃ…。して、県令様。喋り方に変化がございますが?」

 

「ありゃ?? つい言葉使いに素が出ちゃったかな…。」

 

「ほっほっほ。裏表のない性格なのは良いことですじゃ。」

 

この後、村の人たちからの推挙状を張超の所に使いを出して送り、これが受理された。

 

こうして、俺は県令としてここ広陵のある一部を統治する立場になった…のだが…。

 

 

県令として就任して早三ヶ月ほど…。

 

「県令と言う役職は大変なものなのだねぇ…。」

 

「そうですね〜聖様…。ですが、こう言った事を放棄すれば、聖様の理想は霧散してしまいますよ〜?」

 

「分かってるよ。分かってるが、つい先日まで何も出来なかった人間に、今はこんなに仕事が来ているんだ…。少しくらいは愚痴らせてくれよ…。」

 

「はいはい。愚痴るのは良いですが、手は止めないでくださいね〜?」

 

「…は〜い…。」

 

俺は、会話こそ何とかなってるが、文字を読むことはほとんど出来なかった。

 

まぁ漢字なので、読むくらいは出来るが、意味の理解は出来ていないし、中には読めない漢字すらある。

 

「人の上に立つものとして、文字を知らなくてどうするんですか!!」

 

と言う芽衣の言葉により、俺は芽衣に教えてもらいつつ、内政の仕事をするのだった。

 

…え? 奏は?? って? 奏は文官と言うよりは武官の人間。

 

今は、俺が考えた自警団の隊長をやってもらってる。

 

この自警団は、元黄巾賊の者達と村の人間、それに他所から俺の噂を聞いて移住してきた者たちを合わせた計100名前後で結成されており、日々鍛錬をしながら、来るやも知れない敵に対処する準備をしている。また、警邏を行い、この地域での揉め事を収めている。

 

 

この自警団の訓練は、俺が弓と体術、奏が槍、芽衣が剣術を教えている。

 

俺が初めて訓練をした時は、皆が皆、俺の実力を知らなかったこともあり、ずいぶんと大きな態度を示していた。

 

しかし、俺が弓で800メートルほど先の木を射て見せると、皆が閉口して、俺に教えを請うような形となった。他の二人の時も大体同様だったらしい。後から聞いた話じゃあ、中でも一番怖かったのが芽衣だったそうな…。

 

うん…まぁ…あの二面性を考えればそうかもな…。

 

 

内政面では、人口が増えたことにより居住区の拡大や農耕地の開拓、市の拡張やら道の整備、燃料の確保や河川の治水に倉庫の建築、税制の調整など数え上げればきりがない…。

 

これらの案件を、俺と芽衣の二人で処理するのだから、てんやわんや間違いなし。せめてもう一人くらい優秀な文官が欲しいものだねぇ…。

 

まずは、この地域の豪族の人たちと話をつけ、財政面での融資をお願いし、その後で俺と芽衣は、そんな膨大な量の案件を遅いながらも一つずつ話し合いながら確実に進めていった。

 

すると、町はだんだんと活気に満ちて、豊かな町になりつつあり、人々の笑顔が見える様になってきた。そして、そんな噂を聞いてか、至る所から商人などが移住してきていて、より町は豊かになり、いい循環をしていると言えばしている。

 

 

そんなある日、今日は俺が訓練を見る係だった。

 

俺はちょうどいい機会なので、みんなの実力と行動力、統率力などを見せてもらうことにする。

 

「良いか!? 10人1組のチームになって俺に挑んでこい。お互いに武器は刃先や鏃を潰したものを使うから死にはしない。でも、それだからと油断すると痛い目を見るぞ。戦場ではその油断が命にかかわるからな。 お互いに向かい合う森に入ってから、戦闘開始の合図である煙を上げる。決着がつくまでは終わらない。何か質問があるものはいるか??」

 

「いくらなんでも、それじゃあ直ぐに、俺達が勝っちゃいますよ?」

 

「ほう!! えらく自信があるようだが、俺の腕を忘れちゃいないよな?」

 

「…はい…。」

 

「じゃあ、必死になって挑んできな!!」

 

「でも、それで俺達になんか得でもあるのか?」

 

「まぁ、訓練の一環だが…そうだな。俺を見事に打ち取った暁には、褒美を出す。どうだ?これでやる気になったか?」

 

「褒美が出るならやってやらぁ、むしろ痛い目見ても知りませんよ、お頭!!(どうやら、自警団の皆は、奏がお頭と呼んでいるのでそう呼ぶことに決めたらしい)」

 

「いい度胸じゃねぇか。待ってるぜ!! じゃあまずは1組目から森に入ってくれ。それからは試合が終わるたびに俺がここに戻ってくるから、それから次の組に移るぞ。」

 

 

…それから二刻程して、

 

「さぁ、次の組!! 次で6組目か?? もう半分じゃねぇか!? もう少し俺を苦しませてくれよ…。」

 

「くっ…くそう…。今に見てろよ!!」

 

言葉から分かると思うが、今50人ほどの相手を終えて、俺に一太刀でも浴びせたものはいない。

 

多くの者は、俺が射た弓やテコンドーで気絶していた。

 

今回のこの訓練での味噌は、状況判断と結束力である…。

 

これらは普通なら分かりそうなものだが、俺の言った褒美の話によって、単身で俺を討ちに来るやつが多い。

 

このような奴らは、なんとも簡単に討ち取られる。これはもちろん戦場では特に…だ。

 

このような時、10人全員で連携してくるような奴らの方が、充分に手こずるのは当り前だろう。

 

このような判断ができるやつがいるなら、こいつら自警団の隊長にでもしようかと思っていたが…どうやらはずれかもな…。

 

そんな事を考えながら第6組目の訓練に移る。

 

開始の煙が上がり、俺は早速、少し高い丘から辺りを見回す。

 

辺りに人影は見えず、でも人の気配は漂っていた。

 

どうやら、このチームは全員が団結して、俺に向って来ているようだ。しかも、俺の武器の長所を消すように隠れながら…。なかなか頭の良いやつがいるように思われて少し嬉しかった。

 

 

とりあえず、相手の動きを確認するために、こっちも隠れながら移動する。

 

すると、100mくらい先に人が見える。

 

そいつは一人だけで、周りを警戒している。

 

とりあえずそいつに近づいて、後ろから襲いかかり気絶させる。

 

すると、

 

「お頭発見!!」

 

声がするやいなや、周りの草むらから次々と奴らは出てきた。

 

どうやら一人だけ置いていたのは罠だったらしく、俺はまんまと嵌ってしまったわけだ…。

 

とりあえず、一人一人捌きながら態勢を整える。

 

向こうも9人全員が集まってこちらに対峙している。

 

「良いか、お頭は一対一じゃあなかなか倒せねぇ。でも複数でいどみゃあ、俺達の方に分がある。いっちょやってやろうぜ!!」

 

「「「応ッ!!」」」

 

男たちは全員で挑んでくる。

 

勿論、多勢なだけあってあちらの有利は揺らがないが、もっと連携が出来ていれば俺を倒せたかもしれない。

 

俺は一人一人戦闘不能にしていって、残すは一人だけとなっていた。

 

 

「一つ聞くが、お前がこの組の大将なのか?」

 

「俺たちは大将なんか決めてねぇよ!!」

 

「…悪かった質問を変える。この組の行動を指示したのはお前か?」

 

「確かにそれは俺だが…それがどうした!?」

 

「…いやっ、なんでもない。さぁ!! かかってこないのか??」

 

「今いってやるぜぇ!!」

 

 

男は、他の人に比べれば太刀筋は良いように思える。

 

少しは剣の鍛錬を積んでいるのだろう…。今回の作戦と言い、多少は戦いのことも分かっているように思う。

 

…まぁ詰めは甘いけど…。

 

とにかく、この隊の隊長としては合格かな…。

 

そんなことを思ってふと男を見ると、男は気絶して倒れていた。何時の間に倒していたのか…。

 

 

残りの組にも、俺を討ち取るようなものは出なかった。

 

結局、大きな収穫とまではいかなかったものの、警備隊の隊長に適しそうな人物が発見出来たこと、連携力の強化をもっと進める必要があることなどが分かっただけでも、良かったとしよう。

 

こうして、警備隊隊長の就任が決まったのだった。

 

説明
どうも、作者のkikkomanです。

前回で初登場のオリキャラ、凌統公績、真名は奏(かなで)です。

作者のキャライメージは禁書目録の結締淡希を少し幼く、より女の子らしくした感じです。後は皆さんの脳内補正で好みのキャラに仕立て上げてください(笑)

第六話までは、

賊との争いが平和的に終わり、仲間になった奏と共に村に帰る聖と芽衣。

という所です。

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