残念美人な幼馴染が勇者として召喚された |
「・・・ですから、貴方に世界を救って貰いたいのです勇者様。」
「・・・話長い。飽きた。」
幼馴染の放った一言が、その空間に居た全ての人間を凍りつかせた。長々と訳の分からない事を喋っていた偉そうな小太りのオッサンも、目を丸くして口を噤んだ。どうでもいいけど、偉そうな奴のこういう反応って何か笑えるよな。
(ま、コイツに慣れていないとそういう反応になるわな)
俺は、隣に居る幼馴染の言葉で幾らか冷静さを取り戻し、今現在自分たちが置かれている状況を把握しようと務める。まず、俺と幼馴染は地面に座っている。そして、それを取り囲むように数十人の男たち。
(・・・鎧を着ているし、槍を持っているように見えるけど、現代の世界でこんな前時代的な装備をしている組織なんてないだろ。うんないない。だから、アレはダミーだ、レプリカだ。)
そう自分を納得させる。そうでもしないとやってられない。俺は、隣の幼馴染とは違って普通の男子高校生なんだ。
広い空間だ。恐らく、俺たちの学校の校庭位の広さはあるだろう。ローマのコロッセオのような建造物の中のようだ。屋根などは無く、そのまま空が見える。何気なく空を見上げてみると、まだ昼間だというのに月が三つも浮かんでいる。
(・・・・・・ん?月が三つ?)
俺は、自分の見た光景が信じられなくてもう一度見上げる。・・・だが、そこには変わらず同じくらいの大きさの月が、三角形を描くように三つ浮かんでいた。
「は・・・はぁあああああ!?」
思わず大声を上げてしまった俺は悪くない。誰だってこんな状況に陥れば、こうなるのは必然だろう?例外は隣の幼馴染みたいな((特別|スペシャル))だけだ。
「貴様、何を騒いでいる!」
だというのに、俺たちを取り囲んでいた人間たちが、持っていた槍を首元に突きつけてくる。それに俺は恐怖よりも先に怒りを覚えた。
「な、何なんだよテメェらは!道を歩いてたら光に包まれて、気がついたらこんな訳わからん場所でお前らみたいなムサイオッサンに囲まれていて、空には三つも月が浮かんでいれば誰だって叫びたくなるだろうが!アァ!?それとも何か?お前らは自分たちが俺達みたいな状況に陥ったとしても、全く取り乱さないで行動出来る自信があるんですか!?あるんですか!凄いですね、そりゃ凄い!でも、隣の馬鹿とは違って俺にはそんな事出来ないんだよ!」
一気に捲し立てたら、俺の剣幕にビビッたのか一歩引いた。
「龍騎・・・読者への説明GJ。」
「あァ・・・ありがとよ。」
何かメタイことを言われた気がしたが、それを気にしたら負けだと思う。兎に角、俺達がどうしてここにいるのかが分からない以上、コイツらに聞くしかない。さっきまでコイツらが喋っていた内容は全て忘れてしまったし、もう一度説明してもらおう。
「おいオッサン。」
「な、私を誰だと思って・・・。」
フリーズしていたオッサンがキレるが、睨みつけてやると黙った。
「オッサン、俺は兎も角、コイツは気が短いぞ。その気になれば、ここにいる有象無象殺し尽くすのなんて簡単なんだ。」
「オイ龍騎。いくらなんでもそこまではやらないぞ。・・・大体、面倒くさいし。」
小声で話しかけてくるが無視。こういうのは、相手を怯えさせたら勝ちなんだ。・・・大体、やる気が無いだけで、実際にその程度の実力を持っているんだからな。
「・・・もう一度言う。コレが最後のチャンスだ。俺たちが何故此処に居るのか、お前たちは何者で、何の目的があるのかを3行で話せ。」
「私達は、この世界クイラのハマン王国の人間だ。
私たちの世界が崩壊の危機に瀕している。
だから、別の世界で最も優れた人間を勇者として召喚した。
そしたらオマケが付いてきたんだが何だお前?」
「3行でって言っただろうが、っていうかオッサン喧嘩売ってんだな!?つうか、誘拐じゃねえか!」
「グホッ・・・!」
「リンドラ大臣!?」
売られた喧嘩は買う主義なので、即座に立ち上がってオッサンの顔面を殴りつけた。オッサンは錐揉みしながら飛んでいく。飛んで飛んで飛んで飛んで・・・何処まで行くんだ?
ドン!
という音を響かせながら、オッサンは壁にめり込んだ。
「・・・・・・お、可笑しいな。ここから彼処まで、ざっと100mはあるんだが・・・?」
「凄いな龍騎。私と同じくらい飛ぶじゃん。いつの間にそんなこと出来るようになったの?」
そんなこと言われても、やった本人が一番驚いている。
(落ち着け、冷静に考えろ。昨日ヤクザと殴り合った時は、2、3m飛ばすのが精々だったはずだ。・・・つまり、ここから導き出される結論は二つ。俺の力が強くなったか、あのオッサンの体重が野球ボール位しかないかのどっちかだ!)
「な、何しやがったコイツ!」
「全く見えなかったぞ!?」
我に帰った兵士達が慌てて武器を向けてくる。
(チッ・・・。ゆっくり考える時間もないのか!)
そして、俺が臨戦態勢に入ろうとしたそのとき・・・
「邪魔。」
という声と同時に、その中の二人が俺の視界から消し飛んだ。
ドン!!
俺の時よりも強い音がしたのでそちらを見てみると、壁にさっきの二人が埋まっている。・・・まだ生きてはいるみたいだ。
「・・・龍騎、お腹減った。何か食べに行こう。ここで座っているのにはもう飽きた。」
「・・・はぁ、了解。」
俺は溜息を吐きながら幼馴染の隣を歩く。兵士が取り囲んでくるが、今度は警戒すらしない。意味が無いからだ。
「グア・・・!」
「何故・・・・・・。」
「嘘・・・だろ?」
障害は、全てコイツが排除するからだ。だから、俺達の歩みを止められる人間なんて、もう何処にも居ない。
「自業自得だな。・・・あんたらは、もう少しマトモな人間を呼ぶべきだった。コイツを呼んだって、制御出来る訳が無いのに。」
小さく呟く。その呟きを聞き取ったのか、「ん?」と首を傾げてきた。
(可愛い・・・)
偶に見せるその仕草に癒されながら、「何でもない。」と誤魔化す。
(そう、コイツを呼ぶべきじゃ無かった。日本が世界に誇る最終兵器。『残念美人』、『世界で一番勿体ない女性』、『飽き女』など、様々な二つ名を付けられた世界で最も有名な人間(悪い意味で)である((天上凛音|てんじょうりんね))なんて怪物、呼ぶべきじゃなかったのさ)
俺達の通った後には、大量の屍(死んでないけど)しか残っていなかった。
説明 | ||
口癖は「飽きた。」熱しやすく飽きやすい幼馴染と俺が、異世界に勇者として召喚された。・・・俺はオマケだったらしいが。・・・だけどさぁ、この『残念美人』を制御出来ると思ってる訳?最悪の場合、コイツに色々されて世界滅ぶんじゃないの?しょうがない、俺が手綱を握ってやるかね。 | ||
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