インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#11 |
[side:一夏]
「さて、今日は完全停止――」
「それよりもわたくしと実戦的な訓練を致しましょう。この国の言葉で『百聞は一見に如かず』という言葉が有りますでしょう?」
「…」
アリーナでいつも通り教師役をやってくれる空の言葉を遮ってセシリアが前にずいっ、と出てきた。
「実践の中で得られるものは少なくないハズですわ。なにせこのわたくし、代表候補生であるセシリア・オルコットとの戦闘訓練なのですから。」
押しのけられた空は憮然とした表情になる。
「接近戦対策はどうする気かな?」
「それはあちらの篠ノ之さんがやってくれますわ。」
セシリアが指さす方向には訓練機≪打鉄≫を着装した箒。
なんというか、『ザ・サムライ』と言わんばかりに似合っていた。
「だから安心してひっこんでらっしゃいませ。」
「なるほどね。それじゃあ、どっちが先に戦闘訓練の相手をするのかな?」
空の言葉に二人は『何、きまりきった事を聞くのだろう』と言わんばかりの顔で、
「それは当然――」
「私だ。」「わたくしですわ。」
見事なシンクロだ。
「………」
そして、二人の間に沈黙が横たわる。
「あら、篠ノ之さん。接近戦の訓練を幾らやっても接近出来なければ意味がないのではなくって?」
「ふん。接近戦とは自分の間合いに相手を入れるところからだ。問題は無い。」
「剣術稽古もやってらっしゃったんだから接近戦対策は十分なのではなくて?」
「ISと生身では勝手が違うだろう。生身での修練の成果をIS用に組み替える為の時間は必要だ。」
言い合いを始める箒とセシリア。
というか、箒の言い分の八割は空の受け売りじゃないのか?
「ならば、どちらが一夏さんの対戦相手にふさわしいか、勝負ですわ!」
「良かろう。その一滴、刀のさびにしてくれる!。」
「訓練機相手に負けるほど、わたくしはやさしくなくってよ!」
箒が斬りかかり、セシリアはそれをあらかじめ呼び出してあったショートソード≪インターセプター≫で受け止め、レーザーライフル《スターライトMk-III》を至近距離射。
それを箒はセシリアに体当たりをかけて回避し間合いをさらに詰める。
「さて、あの二人は放っておいて完全停止の訓練を始めようか。安定して出来るようになったら次に入るから心してかかるように。」
「お、おう。いいのか?あの二人を放っておいて。」
「構わないよ。いい実戦訓練だからね。」
にこりと笑う空。
その左腕にはスターライトMk-IIIといい勝負にでかい対IS用狙撃銃が展開されていて、その銃口はぴたりとある一点を捉え続けていた。
そう。箒と激しい戦闘を繰り広げるセシリアの頭に。
「さて、一夏。急加速して急停止。最終目標は((瞬時加速|イグニッション・ブースト))からの完全停止だよ。」
「お―「あぁっ!千凪さん、抜け駆けはゆr」たぁん、たぁん、たぁん
俺の返事と同時に気付いたセシリアが声を上げ、セリフを言いきる前に空の狙撃銃が火を吹いて黙らせた。
セシリアはISのシールドと絶対防御のおかげで傷一つないようだけど、三発も頭に叩き込まれたせいで絶対防御が発動、エネルギーが底をついたのかブルー・ティアーズは地に墜ちてゆく。
「オルコットぉぉおおおお!」
まるで戦友を目の前で殺された兵士みたいな反応だな、箒。
ほら、映画とかでよくありがちな。
まあ、その叫び声の残響が消えるよりも早く
たぁん、「ぐっ!?」たぁん、「がっ、」たぁん、「あっ。」
セシリアと全く同じ方法で撃墜される箒。
まったく同じように落下していって、脳震盪でも起こしてるのか中々起き上ってこない。二人とも。
「さて、それじゃあ実戦あるのみだよ。」
「お、おう。」
何事も無かったかのように朗らかに笑う空。
ただ、その左手にまだ銃口から湯気の上がる大型狙撃銃をもったままという姿で。
「それじゃあ、始めよう。」
その笑顔は、どこか某世界最強を彷彿とさせる物騒な笑みに感じられた。
* * *
「ぜぇ…ぜぇ…」
「ひー、ふー、」
「それじゃあ、今日はここまでにしようか。」
「お、おう…」
空の背後に復活したはいいけど、何度も撃墜されたセシリアと箒が疲労困憊していた。
ある意味では、空は俺と箒とセシリアの三人に訓練をつけていた事になるのか。
内容は俺は完全停止でセシリアは狙撃戦の、箒は弾幕による接近防御に対する戦闘法と言ったところか。
「な、なんなのだ、あの命中率は。サブマシンガンの仕事は弾をばら撒く事だろう……」
「うぅ、化け物ですわ。なんで回避運動を取っているのに当たるんですの?」
ぐったりとあせだくになった箒とやや虚ろな瞳になりつつあるセシリア。
…そういえば、こんどの授業で空対セシリアの模擬戦をやるんだっけ?
「夕飯後にはいつも通り座学をやるから、授業で判らなかった処のピックアップは忘れないように。」
「了解、空先生。」
冗談めかして俺が言ったら
「馬鹿者。教師への返事は『はい』だけだ。」
なんて言ってきた。
なんというか、千冬姉っぽくなんだろうけど、物凄く背伸びしてる感がある。
「ぷっ、ははは。似合わないぞ、そのキャラは。」
「百も承知。」
空の方も完全に冗談だったらしく笑いながらそう返してきた。
「それじゃあ、そっちはよろしく。」
と空はぐったりしたままのセシリアを抱え上げて反対側のピットへと飛んでゆく。
ついでに、箒の使ってた打鉄も空が持っていった。
取り残される俺と箒。
箒の事を任されてしまった俺は恐る恐る箒に近づいてみた。
汗に濡れた箒の姿は独特の艶っぽさを持っていて、少しドキリと来た。
―――『少し』だからな。
「おーい、大丈夫か?」
「こ、この程度………」
なんとか立ち上がろうとするが打鉄のアシストがない状態ではかなりキツイらしい。
たちあがってすぐにふらついていた。
「箒。」
「な、なんだ。」
「ちょっと動くなよ。」
見ていられなかった俺は箒に無理に動こうとさせずに横抱きに持ち上げた。
白式のパワーアシストのおかげで全く重くない。
まあ、生身でも持てる程度だし。
「なっ!?ば、馬鹿!降ろせ!」
「はいはい。ピットに着いたらな。」
「い、今すぐにだ。」
「少しは自分の状態を考えてから言おうな。」
こんな口論(?)をしているうちにピットに到着。
そっと降ろしてやると何故か少し残念そうな顔になる。
降ろして欲しかったのか、欲しくなかったのかイマイチ判らない。
「ああ、セシリアたちと同じ側のピットの方が良かったか?」
「い、いや。こちらで構わない。」
ふと気付けば箒と二人きりだ。
まあ、今はお互いに疲れててそれどころじゃない訳だが。
ISを展開解除してから体が重い。
パワーアシストが切れて、疲労がしっかりと圧し掛かってくる。
「ふー、疲れた。」
ロッカーの一つを開けるとそこにはボトルが一つとタオルが数枚。
ボトルの中身はぬるめのスポーツドリンク。
運動後の熱を持った体に冷たいドリンクを流し込むなど自殺行為に等しい。
確かに気分爽快かもしれないが。
ここ最近、空にしごかれるときは死ぬ気でやらないといけないから自前のを用意してるのだ。
まあ、今日に限っては俺よりも箒の方が必要そうなので譲る事にするが。
今日は俺はとにかく『加速⇒急停止』の繰り返しだったから、それほどきつくは無かったんだよな。
「ほら、これでも飲んどけよ。」
「ああ、すまない。」
俺のボトルを受け取ってゆっくりと飲み始める箒。
途中、いきなり赤くなって咽たので『大丈夫か?』と聞いたところ『大丈夫だ』と帰って来た。
まあ、焦って気管に入ったんだろう。
「あと、汗は拭いとけよ。風邪ひくぞ。タオルはここに置いとくからな。」
それだけ言って、俺は着替えを持ってロッカーの影に移り制服に着替える。
汗は拭いてあるが、やっぱりシャワーは浴びたいものだ。
「それじゃ、先に部屋に戻ってるぞ。」
手荷物を確認。足りないのは箒に渡したボトルとタオルだけだな。
スライドドアが開いて俺が廊下に出ようとすると同時、小柄な影が突っ込んできた。
「おぅわっ!?」
「きゃぅっ!」
当然、俺とその飛び込んできた誰かはぶつかった。
「っと、大丈夫か?鈴。」
ぶつかったが、跳ね飛ばす前に掴まえて大事を避ける。
「あ、ありがと………って!突然出てくるんじゃないわよ。びっくりするじゃない。」
「それはこっちのセリフだ。」
「ま、いいわ。」
「立ち話もなんだ。食堂に行くか。箒、先に食堂に行ってるぞ。」
ピットの中に一声かけてから俺は鈴と食堂に向かって歩き始めた。
その道すがら、お互いに一年間の話をし、食堂が比較的近くなってきた頃
「一夏さぁ。」
鈴が俺の前に廻り込んできた。
「やっぱ私が居ないと寂しかった?」
やけににやにやとしている鈴は見透かすような目で俺を見てくる。
「まぁ、遊び相手が減るのは大なり小なり寂しいだろ。」
「そうじゃなくってさぁ。」
にこにこと上機嫌な鈴。
う−む、昔になにか訳の分からないい映画のチケットを掴まされた時に似た顔だな………
よし、とりあえず釘をさして置くとしよう。
「鈴。」
「ん?なになに?」
「何も買わないからな。」
ずるっ、という擬音と共に姿勢を崩す鈴。
「アンタねぇ……久しぶりにあった幼馴染なんだから色々と言う事があるでしょうが。」
言う事ねぇ………
「まあいいわ。そういえば一夏。アンタの部屋ってどこ?遊びに行くから。」
「ああ、1025号室だけど―――」
「1025号室ね。わかった。それじゃまた後でね。」
「――箒が同室だし、夜は空に座学を教えてもらってるから時間がとりにくいぞ?」
途端、鈴は目に見えて不機嫌になった。
「箒って、この間の子?」
「そうだ。」
「それって、寝食を共にしてるってこと?」
「まあ、そうなるか?」
「………………」
「まあ、同室が幼馴染でよかったよ。これが赤の他人だったら緊張で寝られそうにないからな。」
「…………ったらいいわけね?」
「?」
「幼馴染だったらいい訳ね!」
俯いたかと思ったら突然頭を上げる鈴。
危うく頭突きをくらうところだったぜ。
「わかった、判ったわ。ええ、よくわかりましたとも。」
何故か勝手に納得を始めた鈴。
何が判ったのか判り易く説明して欲しい。
「一夏っ!」
「お、おう。」
「幼馴染はあの子だけじゃないって事、覚えておきなさいよ!」
「別に言われなくても忘れていないが…」
「じゃあ、後でね!」
そう言って、鈴は駆け出して行った。
…今年の流行語大賞は『後で』に決まりだろうか。
まだ四月だけど。
「うーん、何を考えてるのか、良く分からん。」
最近、幼馴染たちが良く分からない。
とりあえず、一人取り残された俺は一度部屋に戻るべく歩きだす事にした。
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