インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#15 |
[side:一夏]
「鈴。あとエネルギーはどれくらい残ってる?」
「一八〇ってとこ。…正直、ちょっと厳しいわね。」
鈴がそう言うのもエネルギー残量一八〇というのは純粋に残エネルギー総量であって、攻撃の為にも消費されるモノだからだ。
俺の場合は雪片弐型の仕様のせいで更に削れている。
「現在の火力でアイツのシールドを突破して((機能停止|ダウン))に追い込めるのは確率的に一桁台ってとこじゃない?」
「ゼロじゃなけりゃ十分だ。」
「あっきれた。あんたって、よく分からないところでジジくさいけど根本的には宝くじ買うタイプよね。」
「諦めが悪いだけだ。『諦めたらそこで試合終了だ』って、何処ぞの先生も言ってるぞ。」
ちなみに宝くじは買わない。
基本的に俺は賭けごとには弱いし、いざという時の為に運は取っておきたい。
「ま、いいわ。―――で、どうすんの?」
「逃げたきゃ逃げていいぜ。」
「なっ!?馬鹿にしないでくれる!?あたしはこれでも代表候補生よ。尻尾巻いて退散だなんて、笑い話にもならないわ。」
代表候補生の選定条件の一つに『プライド』ってあるんじゃないか?と思いたくなるような発言。
「そうか。それじゃあ、お前の背中くらいは守って見せる。」
「え?あ、う、うん。ありが――」
何故か紅くなった鈴の横をビームがかすめる。
油断してた訳じゃないが集中がちょっと甘くなってたようだな。
「………なぁ、鈴。あいつの動きって何かに似てないか?」
「何かって何よ。コマとか言ったら殴るわよ。」
「それは見たまんまだろ。あー、なんて言うかな。昔、自動車メーカー作った人型ロボットがいたろ?」
「――いたっけ?」
うーん、姿形は出てるんだけど名前が出てこない。
アから始まるってのは思い出せたんだけどな…
「で、それがどうしたのよ。」
「なんつーか、そいつと似てる気がするんだよ。動きが機械じみてるって言うか…」
「ISは機械よ。」
「そうじゃなくて……あれ、本当に人が乗ってるのか?」
「はぁ!?人が乗らないとISは動かな―――」
鈴が言い返そうとして、止まった。
どうやら鈴も気付いたらしい。
「…そういえばアレ、さっきからあたしたちが話してる時ってあんまり攻撃してこないわね。まるで興味があるみたいに聞いてるような……」
何時に無く真剣な顔になる鈴。
おそらく今までの戦闘を振り返っているんだろう。
「ううん、でも無人機なんてあり得ない。ISは人が乗らないと絶対に動かない。そう言うものだもの。」
だが、『あり得ないはあり得ない』。
たとえば、ISを世に送り出した張本人ならば裏道を知っているかもしれない。
俺の脳裏に千冬姉と一緒になってアキ兄と並ぶ『あの人』の姿が浮かんでくる。
「仮に、仮にだ。無人機だったらどうだ?」
「何?無人機なら勝てるっていうの?」
「ああ。人が乗って無いなら容赦なく攻撃しても大丈夫だしな。」
雪片弐型の攻撃力は全力解放されたら恐らく操縦者を殺傷してしまうほどの物の筈だ。
雪片使用時に発動している『零落白夜』が何なのかはまだよく分からないが。
…策も、一つある。
「全力もなにも、攻撃自体が当たらないじゃないの。」
「次は当てる。」
「言いきったわね。じゃあ、そんなこと絶対にあり得ないけど、アレが無人機だと仮定して攻めましょうか。」
鈴がにやり、と不敵に笑った。
「で、どうしたらいい?」
「俺が合図したらアイツにむかって衝撃砲を撃ってくれ。もちろん、最大出力だ。」
「――?…いいけど、当たらないわよ?」
「いいんだよ。当たらなくても。」
俺は突撃姿勢に入ろうとした瞬間、
『一夏ぁっ!』
ハウリングが尾を引く声は箒のものだった。
「な、なにしてるんだ、お前!」
音源を探した結果、中継室に箒はいた。
審判とナレーターが倒れ伏す部屋で一人、肩で息をしていた。
『男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!』
「………………」
マズイ。
あの((全身装甲|フルスキン))は今の館内放送、その発信者に興味を持ったらしい。
至近にいる高脅威である俺たちからセンサーレンズをそらし、中継室―そこにいる箒をじっと見ている。
「箒、逃げ―――」
言って間に合う筈がない。
俺は突撃姿勢に移行し、瞬時に加速を開始する準備をする。
視線の先で敵ISが砲口のついた腕をいやにゆっくりと箒に向けようとしている。
「鈴、や―――」
その瞬間
バキィィィン!!
轟音を立てて、何かが割れる音がした。
ターン、と続いて射撃音がして敵ISの腕を地面に向けさせられた。
地面に向かってビームを放つ敵IS。
「一夏っ!」
「応!鈴、やれっ!」
「判ったわ!」
俺に掛けられた声に俺は再度突撃姿勢を取り直して加速。
鈴は最大出力での砲撃を行うために補佐用の力場展開翼を展開する。
そして、俺はその射線上に踊り出る。
「ちょ、ちょっとバカ!何してんのよ!どきなさいよ!」
「いいから撃て!」
「ああもうっ…どうなっても知らないわよ!」
衝撃砲という『高エネルギー』を背中に受け、俺は((瞬時加速|イグニッション・ブースト))を発動させる。
足りないなら、外から持ってくればいい。
イグニッション・ブーストは後部スラスターから放出したエネルギーを再度取り込み、圧縮して再放出する。
それによって生まれた運動エネルギーを慣性エネルギーに変換して爆発的な加速を行う。
ならば、外部からのエネルギーをイグニッション・ブーストに使う事も可能だ。
ドンッ!
と、背中に巨大なエネルギーがぶつかるのを感じる。
みしみしと体がきしむ音を聞きながら俺は、一気に加速し最高速度に乗った。
牽制射撃が止み、道ができる。
「―――おぉぉぉぉ!!」
右手の雪片弐型が強く光を放つ。
中心の溝から外部に展開したそれは一回り大きなエネルギー刃を形成していた。
『――【零落白夜】を使用可能。エネルギー転換率九〇%オーバー』
その((情報|メッセージ))を俺は聞くのではなく理解していた。
俺は………千冬姉を、箒を、鈴を、空を……関わる人全てを―――守る!
俺の必殺の一撃は敵ISの右腕を斬り落とし、敵ISは俺に反撃の左拳を叩きこんだ。
さらに接触面から熱源反応。〇距離でビームを叩きこむつもりらしい
「一夏っ!」
箒と鈴の叫びが聞こえる。
けど、俺は慌てる事は無い。
俺の策は、俺が考えていたモノよりももっと凄い形で成立しているのだから。
「……狙いは?」
『完璧ですわ』
よく通る声。
「全機、攻撃開始!」
観客席から放たれたレーザーを皮切りに上空に展開した先生たちからの一斉射撃が敵ISに襲いかかった。
全員が狙撃銃タイプの武装で狙撃しているのは俺がすぐ近くにいるから巻き添えを食わせないためだろう。
セシリアもその事を理解してか、あえてブルー・ティアーズを使わずにスターライトMk-IIIでの攻撃に限定している。
ボン! と小さな爆発を起こして敵ISは地上に落下する。
シールドバリアが無くなったところに対IS用ライフルによる一斉射撃だ。
回避が難しいようにほんの少しずつだけ射点がずらされているのだ。銃弾の檻に閉じ込められたも同然。
これならばひとたまりもないだろう。
俺が破壊する予定だった遮断シールドを、それ以前に誰かが破壊してくれたおかげで、二対一が三対一になり、相手に気取られる事無く多数対一に持ち込めた。
人間なら予測が出来、機械にはできない、認識外からの攻撃。
発想の自由さが人間の最大の長所であると言った偉人がいるらしいが、その通りだ。
人間は狡猾に裏をかく。機械には真似できない、発想の自由さを生かして。
「織斑くん、鳳さん、無事ですか?」
と、ラファールを装着した山田先生が俺たちの居る高度まで降りてきた。
観客席から飛び出してきたセシリアも一緒のようだ。
「あ、はい。大丈夫です。見ての通り、ボロボロですけど。」
「無事でなによりです。けど、あんな危ない真似しちゃだめですよ。今回は千凪さんが遮断シールドの破壊に成功したから良かったものの…」
へぇ、シールドをぶちぬいたのは空だったのか。
ってことは、あの轟音は空の仕業なのか?
一体、どんな手段を使ったのか、興味があるが、なんだか怖い気もする。
「それじゃあ、二人はピットに戻ってください。あとは私たちが―――」「危ないっ!」
『―敵ISの再起動を確認!警告、ロックされています!』
警告が発せられた刹那、セシリアが誰かに突き飛ばされ、ぶつかられた山田先生が鈴を巻き添えにして転び、俺は鈴に押しのけられた。
「ぅあぁっ…」
結果として、それまで俺たちが立っていた場所をビームが通り過ぎる。
俺たちを突き飛ばして助けてくれた誰かを直撃して。
ISが強制的に解除されて落下していくのは………空。
「ッ、この野郎ッ!」
雪片を再展開し俺は敵ISに斬りかかる。
片方だけ残った左腕を最大出力形態に変形させた敵ISが再度俺に狙いを定めて砲口に光を収束させる。
迫りくるビーム。
俺はそれに跳び込む形になるが、真っ白な視界の中――確かに刃が装甲を切り裂く手応えを感じた。
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#15:決戦、クラス代表戦!(後編) | ||
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