DIGIMON‐Bake 1章 5話 通信回線 |
「くそっ。通信が拒絶されてるだと!?」
ネットワーク管理局本部にて、デジタルゲートがリアルワールドで開きっぱなしになっていると情報が入った。
それはほん数分前の事。その地域やその他のデジモンに関する情報を調べようとデジタルワールド側へ電波を送ろうとした時だった。通信は拒否され、その上リアルワールドのデジタルゾーンに関する情報すらも読めなくなってしまったのだ。
「焦るな悠史。被害はそれほどまでに大きくない筈。誰か知らずのテイマーが戦ってくれているだろう」
事の状況を全部見透かしているかのように、平然と椅子に座りそう言ったタクティモン。
直樹の言葉を軽く流すと、タクティモンはデジタル反応を示す大画面の前に立つ。
「直にデジタルゲートは閉じる。戦況は優位だ」
デジモンの事はデジモンしか分からない。タクティモンが言ってる事のみが直樹に分かる事だった。
それから10分後にデジタルゲートは閉じ、通信回線は元に戻った。
「どうやらゲートが発生した事による通信拒否だったようだな」
「そうだな。はぁ……今日は不可思議な事が多すぎる。デジタルワールド側からも調べてもらわないと」
「うむ」
繋がった通信回線を使い、直樹はデジタルワールドへ電波を送る用意を始めたのだった。
▼▼▼▼▼
イグドラシルにて。
デュークモンとドゥフトモンがダークエリアへ捜索に向かい、消えた3体はまだ戻ってこない。
しかし仕事量は多く、見るからに人が足りない。
今ロイヤルナイツが行っている仕事はデータの整理。働き者のデュナスモンはいないし、データ整理が一番早いエグザモンもいない。その上仕事熱心なクレニアムモンには疲労の色が見える。
この人手が足りなさに、普段は極寒の地でそこに送られてきたデータを整理しているスレイプモンも、今は持ち場を離れイグドラシルで仕事をしている。
皆が仕事に集中している中、イグドラシルの衛星がこの世界でない電波を受信した。
せっせと仕事を進める重い雰囲気の中、それに気付いたのはマグナモンだった。
「何かデータが送られてきているぞ。読んでもいいか?」
「ああ、読んでくれマグナモン」
手が放せないのか、オメガモンは見ることもなく返答した。
「これは……オメガモン、送信された場所が不明だ。開くのは危険ではないだろうか?」
「何だって? もしや例のデジモンの企みか」
「だとしたらこれは削除するべきだな」
「しかし、ウィルスは仕込まれていなさそうだ」
休憩がしたくてか、ロードナイトモンは席を立ってマグナモンの傍まで移動した。そして受信したデータを手に取り、デジコードがぐるぐると固められたデータの表層を探っている。
「開いても問題ないと思うが」
ウィルスの量や性質をよく分析出来るのは彼がウィルス種だからだ。自分がウィルス種であることに不満を抱き、執着している分、ロードナイトモンはデュークモンよりもウィルスに敏感である。
「開くだけ開いてみるか?」
アルファモンがデータを見やりながらそう言って、ロードナイトモンに頷く。
「差出人は……」
デジコードを開くと帯状に分解され、ロードナイトモンはそれを読み上げていく。
「"D""I""B""R"本部……"ディブレ"、か?」
聞いたこともない名詞で早くもロードナイトモンは戸惑う。
「『〈捜索願い〉○○/××、17:20頃、リアルワールドにてデジタルゲートが開き大量のデジモン反応が見られた。ゲートが開いていた時間は10分程で、その間は通信不可。開いたゾーンとそのゲートに関する情報があれば連絡を頼む』」
「これはまさか……」
「リアルワールドからの通信か!?」
アルファモンに続きマグナモンも驚きの声を隠せない。
「DIBR本部? テイマーと呼ばれる人間は見かけた事はあるが、そんな組織的な名前は初耳だ」
「うむ。それにそのデータの内容だと只のテイマーの集まり、という訳ではなさそうだな」
スレイプモンにオメガモンがそう言うと益々イグドラシル内の空気が重くなる。
そんな部屋の隅っこで、疲れ果てたクレニアムモンが黙々とデータ整理をしていたのだった。
深の部屋では今信じがたい事が起こっている。
人間以外に喋る生きものがいる。否、デジモンが自分達と話しているのだ。
「なぁ……俺、日ごろの行いが良かったのかな」
「ない。普段寝てるばっかのあんたにそれはあり得ない」
あまりの現実味の無さに呆けてしまった深に、澪は即ツッコミを入れた。冷たい視線とツッコミを入れた後、澪はデジモン達に視線を戻した。
「どこから来たの?」
「デジタルワールドだ」
「帰り方とか分かる?」
「いや……分からない」
「ここ……リアルワールドに来たのは初めて?」
「ああ、初めてだ」
澪の質問にはレオルモン、ドラコモンと順に答えている。
たった数回のやり取りだったが、澪はこのデジモンにはテイマーというような人間のパートナーがいる訳でない、ということを把握した。そしてデジモン達はデジタルワールドに帰りたいと思ってる事も。
「帰りたい、よね……」
澪は寂しげに微笑んで、彼らを撫でた。
見知らぬ土地に放り出されたのだ。誰だって帰りたいと思う。澪は自分がそんな状況になったら……と置き換えたのだ。
「少しの間、ウチ達と一緒に過ごそうよ。デジタルワールドへの帰り方だって探すからさ」
2体はきょとんとしている。澪の提案は決して好奇心や欲ではない、それだけは分かった2体は小さく頷いたのだった。
「頼りないけど……宜しくね」
「いや……こちらこそ宜しく」
「ほんとに、ありがとう」
デジモン達と一緒に暮らしていく事が決まり、澪、レオルモン、ドラコモンが挨拶をかわす中、深は半置き去り状態だ。そんな深の心の中と言えば、
(え、案外あっさり決まっちゃってるけど大丈夫か? ……というかデジタルワールドへ帰る道探すって……澪パソコンも詳しくないのにか!?)
まぁ帰る道はパソコンを弄れば分かる訳ではないだろうけど、なんて思っている深に澪は膝を叩く。
「いたっ」
「ほら、これから一緒に過ごすんだからあんたも挨拶」
「え、あー……宜しくな」
デジモン達と過ごすのは澪のはずなのに……と眉を潜めた深だが、澪は2体のデジモンをこちらに抱き抱えてきた。
「で、どっちを引き取る?」
ぬいぐるみのように前に抱えた澪。それは一枚の絵のようにポーズが決まっていて、ちょっと可愛げがある。
「え」
やっぱりそうくるのか、と深は染々考えた。
いくら彼女がデジモン好きでも、流石に2体のデジモンを世話するのは無いか、と。挨拶させられた時点でそんな予感はしたが、やっぱりそうだったのか、と。
「どっちって言われてもな……」
好みとかで決めていいものなのか、人権的に。なんて思うのは深の健気な所だ。そのため曖昧な返事しか出来ないのが、優柔不断と思われがちになってしまうのだが。
「澪は?」と聞こうとした瞬間、
ぐぅぅ――
とお腹が鳴る音が部屋に響く。
それもまた合唱するかのように混ざりあった2つの腹唱。
「深……と」
「レオルモンか……?」
鳴った本人達以外がその名前を呼んだ。つまり腹音の犯人は深とレオルモンだ。
「腹減った」
「……すまん……」
それなりにシリアスな雰囲気だったのが一気に崩れた気がした。
深は自分の家なのであっけらかんとしているが、レオルモンは気不味そうにしゅんとしている。
そんなレオルモンを深は澪から奪い取り、
「腹が減る、疲れる、考え込む、これイライラの三大要素だからな。覚えとけ澪!」
頭に乗せると逃げるようにして部屋を出、階段を降りていった。部屋に残された二人は開けっ放された扉の向こうを見ている。
そして、一つ間が空いてから、
「ウチらも降りようか」
「あぁ……」
澪がドラコモンをふわりと抱え、深とレオルモンがいる1階に降りたのだった。
これで引き取るデジモンは決まったな、と考えつつ。
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4話http://www.tinami.com/view/447322 5話 通信回線 6話http://www.tinami.com/view/449130 |
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